作家志望愛詩輝の私小説

みらいつりびと

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プラグスーツなんて絶対着ないよ!

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 火曜日、SF研のメンバー全員が集まる。
 ボクは日本文学史の受講を終えてから、会室に向かうべく教室を出た。
「愛詩さんはどこのサークルに入ったの?」男の子が追いすがって来て言う。
「SF研究会だよ」
「楽しいの? オタクの男ばっかりなんじゃないの? オレ、テニスサークルに入ったんだけど、一緒にやらない?」男の子はまくしたてて、ボクに顔を近づけてくる。
「楽しいよ。確かにSFマニアの人が多いけど、当然のことだよね。ボクもSFが好き」
 SF研を明らかに下に見ている彼を振り切って、部室棟へ向かった。不愉快だった。
 会室に入ると、「愛詩暗黒卿、ごきげんよう」と長髪髭面の藤原宇宙会長が満面の笑みを浮かべてボクをからかった。
「その呼び方、やめてください」
「フォースの暗黒面に囚われたか」吊り目の美青年、小牧和人さんは新しいライトセーバーを持っていた。
「定例会の後ひま? デートしようよ」ベビーフェイスの美少年、村上劉輝くんはチャラい中国人だ。大富豪の息子だそうだ。
 四年生の和歌一本さんはニコニコしながら、コンビニスイーツらしきショコラを頬張っている。
 会長と同じ三年生の尾瀬忍さんは、ノートパソコンのモニターを見ながら、一心不乱にキーボードを叩いていた。彼はボクと同じく小説家志望で、毎年熱心にSF新人賞に応募しているそうだ。お話してみたいけれど、ちょっとコミュ障みたいで、今のところあまり話せていない。
 二年生の土岐慶一郎さんは「NERV」というロゴが書かれたTシャツを着ている。ネルフはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に出てくる特務機関である。彼は深夜アニメを見まくっているアニメオタクだ。
「愛詩さん、悪の戦闘美少女になったのか。萌え~」と言う土岐さんを見ていると、さっきのテニスサークルの男の子があながちまちがっていないことを思い知らされて、ちょっと悲しい。
 ボクを含めたこの7人がSF研のメンバーだ。
「さて、俺たちが作る映画の話をしよう。俺は監督兼撮影兼編集をやる。誰かシナリオを書いてくれ」
「脚本、会長が書くんじゃないんですか。シンギュラリティAI美少女アンドロイドのイメージがあるって言ってたじゃないですか」
「イメージだけだ。ストーリーを作るのは苦手なんだよ」
「美少女アンドロイド、プラグスーツ着てもらおうよ。愛詩さん、プラグスーツ」
「却下です。絶対にあんな恥ずかしいスーツは着ません」
「えー、SFの美少女はセクシーな戦闘スーツを着るってお約束があるんだよ」
「ブレードランナーの女性型レプリカントはそんな格好してませんから」
「どんな服を着るかもシナリオしだいだ。まずはいい脚本が必要だ。尾瀬、なんかアイデアないか?」
「シンギュラリティの未来を描くには、特撮が必要だと思う・・・。それができるなら」
「無理だ。金がかかるし、俺にそこまでの技術はない。低予算映画のシナリオを書け」
「プラグスーツの美少女とイチャイチャしてるだけのストーリーでいいと思うな」
「だから、プラグスーツ着ませんって」ボクは小牧さんからライトセーバーを奪おうとしたが、彼は逃げた。
「小牧、書けないか」
「即答はしかねます」
「愛詩さんに書いてもらえばいいんじゃないかなぁ。昨日読ませてもらったシンギュラリティSFはなかなかよかったよ」
「あんなのを撮影しようとしたら、すごいお金がかかるんじゃないですか」
 藤原会長がボクを見た。
「試しに書いてくれ、愛詩暗黒卿。プラグスーツを着ないシナリオを書けばいい」
「暗黒卿やめてください」
「愛詩、書け」
「命令しないでほしいんですが」
「頼む、書いてください。作家志望なんだろ?」
 作家志望。そのとおりだよ。ボクは小説家になりたい。
「低予算で、シンギュラリティSFで、美少女アンドロイドがヒロイン、という縛りなんですよね」
「そうだ」
「書いてみます」
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