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兄貴の異常な愛情
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ボクには兄貴がいる
愛詩方という名だ。
兄の愛し方は異常だ。
まず愛する対象がおかしい。
シスターコンプレックス。彼は妹を愛している。
彼には二人、妹がいる。ボクの姉、手世と、ボク、輝だ。
兄はボクにご執心だ。熱烈に愛されている。
兄がボクに恋愛感情を持っていることに気づいたのは、ボクが中学二年生のときだ。ボクは作家を志すようになり、世の中を意識して観察するようになっていた。そして気づいた。
兄貴が変だ。
いつもボクを熱っぽく見つめている。
ボクが動くと、彼の視線がボクを追う。
特別に親切にしてくれる。ボクが数学の問題で苦しんでいると、ていねいに教えてくれる。ボクが段ボール箱を持つと、おれが持つよと言って、代わってくれる。
姉の手世には、けっしてそんな態度は見せない。明らかにボクを特別扱いしているんだ。
ボクが中三のときに義理チョコをあげたら、踊り出して喜んだ。ホワイトデーには過剰なお返しが来た。フルーツがたくさん乗ったホールケーキ。一人では食べ切れないので、家族みんなで食べた。
兄は不満そうだった。ボク一人への贈り物だったようだ。
高一のとき、ボクに彼氏ができた。手世から聞いてそれを知ったとき、兄の顔面は蒼白になった。ボクは少し離れたところからその表情を見ていた。まるでこの世の終わりが来たかのような顔だった。
高二のとき、ボクは失恋した。兄は姉から聞いてそれを知り、踊り出したそうだ。表情は明るくぱあっと輝いたらしい。それを姉から聞いたとき、傷心のボクは少なからず兄を憎んだ。一晩寝たら怒りは消えていたけどね。
兄貴はイケメンだし、身長は180センチある。かっこいい男性だ。モテる。
ボクの同い年の幼馴染、篠崎佳奈は愛詩方に恋している。毎年バレンタインチョコレートを捧げているし、兄の誕生日には欠かさずプレゼントを贈っている。
佳奈は小柄で黒髪ボブの可愛い女の子だ。兄のお似合いの恋人になると思う。しかし彼はそっけない。チョコにもプレゼントにもお返しをしたことがない。
佳奈は自分の誕生日に兄をデートに誘ったことがあるが、忙しいと断られていた。実際には兄は暇だった。ボクは知っている。リビングでぼーっとテレビを見ていた。
誕生日に佳奈は泣いていた。ボクは怒っていた。しかし佳奈の恋のライバルがボクだとは、口が裂けても言えなかった。
ボクが高校に入学したとき、兄は調理師専門学校に入った。将来はラーメン屋を開業すると言う。
ラーメン業界の競争は厳しい。のほほんとした兄が成功できるとは思えない。やめた方がいいと思うが、それ以上に厳しそうな小説家をめざしているボクには言えない。
兄が作ったラーメンはまだ食べたことがない。めっちゃ旨い豚骨煮干し醤油ラーメンを作るんだ、とかほざいていたが、おかしな味になるんじゃないかな。
ボクが作家になれなくても、心配はいらないと兄は言う。おれが一生食べさせてやる。面倒を見てやると、ボクの目を見て真顔で言った。怖かったよ。
おれは結婚しない。ずっと輝と一緒にいるから、とソファで隣に座っていたときにつぶやいたこともある。戦慄した。
ボクは早く作家になって稼ぎ、自立したい。お兄ちゃんと一つ屋根の下で暮らしているのがマジで怖いんだ。家を出たい。
兄貴、キモいよ、と言いたいが、自殺しかねないので、言えないでいる。
兄の愛が重すぎる。
これ、私小説の脚色じゃないんだ。
100パーセント真実です。
愛詩方という名だ。
兄の愛し方は異常だ。
まず愛する対象がおかしい。
シスターコンプレックス。彼は妹を愛している。
彼には二人、妹がいる。ボクの姉、手世と、ボク、輝だ。
兄はボクにご執心だ。熱烈に愛されている。
兄がボクに恋愛感情を持っていることに気づいたのは、ボクが中学二年生のときだ。ボクは作家を志すようになり、世の中を意識して観察するようになっていた。そして気づいた。
兄貴が変だ。
いつもボクを熱っぽく見つめている。
ボクが動くと、彼の視線がボクを追う。
特別に親切にしてくれる。ボクが数学の問題で苦しんでいると、ていねいに教えてくれる。ボクが段ボール箱を持つと、おれが持つよと言って、代わってくれる。
姉の手世には、けっしてそんな態度は見せない。明らかにボクを特別扱いしているんだ。
ボクが中三のときに義理チョコをあげたら、踊り出して喜んだ。ホワイトデーには過剰なお返しが来た。フルーツがたくさん乗ったホールケーキ。一人では食べ切れないので、家族みんなで食べた。
兄は不満そうだった。ボク一人への贈り物だったようだ。
高一のとき、ボクに彼氏ができた。手世から聞いてそれを知ったとき、兄の顔面は蒼白になった。ボクは少し離れたところからその表情を見ていた。まるでこの世の終わりが来たかのような顔だった。
高二のとき、ボクは失恋した。兄は姉から聞いてそれを知り、踊り出したそうだ。表情は明るくぱあっと輝いたらしい。それを姉から聞いたとき、傷心のボクは少なからず兄を憎んだ。一晩寝たら怒りは消えていたけどね。
兄貴はイケメンだし、身長は180センチある。かっこいい男性だ。モテる。
ボクの同い年の幼馴染、篠崎佳奈は愛詩方に恋している。毎年バレンタインチョコレートを捧げているし、兄の誕生日には欠かさずプレゼントを贈っている。
佳奈は小柄で黒髪ボブの可愛い女の子だ。兄のお似合いの恋人になると思う。しかし彼はそっけない。チョコにもプレゼントにもお返しをしたことがない。
佳奈は自分の誕生日に兄をデートに誘ったことがあるが、忙しいと断られていた。実際には兄は暇だった。ボクは知っている。リビングでぼーっとテレビを見ていた。
誕生日に佳奈は泣いていた。ボクは怒っていた。しかし佳奈の恋のライバルがボクだとは、口が裂けても言えなかった。
ボクが高校に入学したとき、兄は調理師専門学校に入った。将来はラーメン屋を開業すると言う。
ラーメン業界の競争は厳しい。のほほんとした兄が成功できるとは思えない。やめた方がいいと思うが、それ以上に厳しそうな小説家をめざしているボクには言えない。
兄が作ったラーメンはまだ食べたことがない。めっちゃ旨い豚骨煮干し醤油ラーメンを作るんだ、とかほざいていたが、おかしな味になるんじゃないかな。
ボクが作家になれなくても、心配はいらないと兄は言う。おれが一生食べさせてやる。面倒を見てやると、ボクの目を見て真顔で言った。怖かったよ。
おれは結婚しない。ずっと輝と一緒にいるから、とソファで隣に座っていたときにつぶやいたこともある。戦慄した。
ボクは早く作家になって稼ぎ、自立したい。お兄ちゃんと一つ屋根の下で暮らしているのがマジで怖いんだ。家を出たい。
兄貴、キモいよ、と言いたいが、自殺しかねないので、言えないでいる。
兄の愛が重すぎる。
これ、私小説の脚色じゃないんだ。
100パーセント真実です。
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