2 / 47
作家をめざす理由
しおりを挟む
ボクは愛詩輝。
作家志望だ。本名だよ。ペンネームみたいとよく言われる。
性別は女性。
趣味は読書。
尊敬する作家は村上春樹様。
中学二年生の秋、春樹様の小説「1Q84」を読んで、衝撃を受けた。おもしろかったとか、感動したとかなんてもんじゃない。読んでいる間、ボクは「1Q84」の登場人物に同化し、作品世界で生きていたんだ。
こんな小説を書く人になりたい。そう思ったのが、作家志望の理由。
以来、小説を書くようになったが、まだ完結した作品がない。
長編小説を書き切ることができない。短編小説ですら、完結しない。
いつも途中で、つまらないな、ボクが書いてるこの小説、と思ってしまって、続かないんだ。
春樹様の小説と比べてしまう。
「風の歌を聴け」みたいに、いい書き出しじゃないと、だめだろ。
「羊をめぐる冒険」みたいに、きちんと構成したい。でも、できない。
「ダンス・ダンス・ダンス」のように魅力的なキャラクターを作らないと。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」はい、こんなすごいの書けません。
「海辺のカフカ」いいなぁ。これに比べたらボクの小説はごみだ。
「ねじまき鳥クロニクル」脱帽するしかない。
「ノルウェイの森」すげー。
春樹様は秘密の井戸を持っているらしい。そこから文章がコンコンと湧いてくるんだ。
ボクはどうやら砂漠に住んでいるらしい。いくら掘っても、何も湧いてこないのさ。
しかしボクは作家になる夢をあきらめられない。
第1話ですでに書いたけれど、私小説にチャレンジすることにした。それがこれ。
ボクには構成力がないのかも。
今ボクは第2話を書いているが、これが第1話だったんじゃないかって疑問がある。
だってそうでしょう。時系列的にもこっちが先だし、まず作家志望動機を述べて、「作家志望愛詩輝の私小説」という作品を始めるのが、真っ当だったんじゃないかと思う。
一方で、これでよかったんだという想いもある。
第1話では、ボクという人間がどういう人間か、紹介できていた気がする。赤裸々に恋愛体験を書いた。ボーイッシュな外見も描写した。あれでよかったんだ。そんな想いがあるから、変更できない。
第2話をつづけよう。
小説を書くようになってから、漢字に敏感になった。たとえば、「思い」と「想い」。ボクは心の表層を「思い」と書き、深層を「想い」と書くことにしている。
漢字で表現するか、ひらがなを選択するかにも、心を砕くようになった。
「たとえば」、「例えば」だ。語感が「ちがう」。全然「違う」。
そんな気づかいは、作家志望の人間にとっては当然のことだと思う。
一番の問題は、書くべき何かを持っているかどうかなんじゃないのか。
ボクにはない。からっぽなんだ。
口から尻までからっぽ。
鼻から肺までからっぽ。
頭蓋骨の中には脳細胞があるようだが、シナプスはろくにつながっていない。
目ん玉は眼前の風景を映しているようだが、実は何も見えていない。ボクは幼馴染で親友の涼宮ハルカの顔さえ思い出すことができない。
春樹様はその脳細胞に底知れない記憶を蓄えているはずだ。
春樹様はさまざまな問題意識を持って、目を見開いているはずだ。
春樹様の胃には歯で砕いたパスタが落ち、小腸にはサンドイッチを溶かしたドロドロの液体が流れ込んでいるはずだ。
ああ、ボクの胃腸にも食べ物ぐらいは流れているな。
ときどきボクの頭はおかしくなるんだ。気にしないでほしい。
とにかくボクには問題意識なんてものはなく、書くべき特別な体験もなく、テーマもモチーフもない。残念だけど、力量もない。
悔しい。
いつかすごい作品を書いて、作家になってみせるんだから。
書きたいという意欲だけは持っている。
作家志望だ。本名だよ。ペンネームみたいとよく言われる。
性別は女性。
趣味は読書。
尊敬する作家は村上春樹様。
中学二年生の秋、春樹様の小説「1Q84」を読んで、衝撃を受けた。おもしろかったとか、感動したとかなんてもんじゃない。読んでいる間、ボクは「1Q84」の登場人物に同化し、作品世界で生きていたんだ。
こんな小説を書く人になりたい。そう思ったのが、作家志望の理由。
以来、小説を書くようになったが、まだ完結した作品がない。
長編小説を書き切ることができない。短編小説ですら、完結しない。
いつも途中で、つまらないな、ボクが書いてるこの小説、と思ってしまって、続かないんだ。
春樹様の小説と比べてしまう。
「風の歌を聴け」みたいに、いい書き出しじゃないと、だめだろ。
「羊をめぐる冒険」みたいに、きちんと構成したい。でも、できない。
「ダンス・ダンス・ダンス」のように魅力的なキャラクターを作らないと。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」はい、こんなすごいの書けません。
「海辺のカフカ」いいなぁ。これに比べたらボクの小説はごみだ。
「ねじまき鳥クロニクル」脱帽するしかない。
「ノルウェイの森」すげー。
春樹様は秘密の井戸を持っているらしい。そこから文章がコンコンと湧いてくるんだ。
ボクはどうやら砂漠に住んでいるらしい。いくら掘っても、何も湧いてこないのさ。
しかしボクは作家になる夢をあきらめられない。
第1話ですでに書いたけれど、私小説にチャレンジすることにした。それがこれ。
ボクには構成力がないのかも。
今ボクは第2話を書いているが、これが第1話だったんじゃないかって疑問がある。
だってそうでしょう。時系列的にもこっちが先だし、まず作家志望動機を述べて、「作家志望愛詩輝の私小説」という作品を始めるのが、真っ当だったんじゃないかと思う。
一方で、これでよかったんだという想いもある。
第1話では、ボクという人間がどういう人間か、紹介できていた気がする。赤裸々に恋愛体験を書いた。ボーイッシュな外見も描写した。あれでよかったんだ。そんな想いがあるから、変更できない。
第2話をつづけよう。
小説を書くようになってから、漢字に敏感になった。たとえば、「思い」と「想い」。ボクは心の表層を「思い」と書き、深層を「想い」と書くことにしている。
漢字で表現するか、ひらがなを選択するかにも、心を砕くようになった。
「たとえば」、「例えば」だ。語感が「ちがう」。全然「違う」。
そんな気づかいは、作家志望の人間にとっては当然のことだと思う。
一番の問題は、書くべき何かを持っているかどうかなんじゃないのか。
ボクにはない。からっぽなんだ。
口から尻までからっぽ。
鼻から肺までからっぽ。
頭蓋骨の中には脳細胞があるようだが、シナプスはろくにつながっていない。
目ん玉は眼前の風景を映しているようだが、実は何も見えていない。ボクは幼馴染で親友の涼宮ハルカの顔さえ思い出すことができない。
春樹様はその脳細胞に底知れない記憶を蓄えているはずだ。
春樹様はさまざまな問題意識を持って、目を見開いているはずだ。
春樹様の胃には歯で砕いたパスタが落ち、小腸にはサンドイッチを溶かしたドロドロの液体が流れ込んでいるはずだ。
ああ、ボクの胃腸にも食べ物ぐらいは流れているな。
ときどきボクの頭はおかしくなるんだ。気にしないでほしい。
とにかくボクには問題意識なんてものはなく、書くべき特別な体験もなく、テーマもモチーフもない。残念だけど、力量もない。
悔しい。
いつかすごい作品を書いて、作家になってみせるんだから。
書きたいという意欲だけは持っている。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
八奈結び商店街を歩いてみれば
世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい――
平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編!
=========
大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。
両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。
二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。
5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!

ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる