悪魔少女狩り

みらいつりびと

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第32話 青竜の悪魔少女 リカリカ・ドーラン

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「グエーッ、全滅させてやる、第100悪魔少女狩り小隊!」
 変身した青竜の悪魔少女リカリカ・ドーランが絶叫した。
 ドスンッと脚爪をギギの体躯に落とす。小隊長はすんでのところで避けた。
「危険だわっ、リカリカを神聖少女騎士にするのは断念! 殺しなさい!」
 ギギは遠話の悪魔少女だ。戦闘力はふつうの騎士並みしかない。
 彼女は後方に逃避し、戦闘を部下の7人に任せた。

 第100小隊で最強の戦闘力を持つのは、ダリア・ゴーンだ。
 16歳の赤髪の美少女ダリアは「巨人の悪魔に変身」と唱えた。
 彼女は身長9メートルの巨人に変身した。青いドラゴンに突進していく。
 竜が口から青い炎を吹いた。
 巨人の赤い髪が灼熱の炎で焼かれて、燃えあがった。
 リカリカはさらに火を吐きつづけて、ダリアの全身を焼いた。
「ぎゃーっ、熱い熱い熱い熱い熱い、死ぬう!」
 巨人は広場をゴロゴロと転げ回って苦しんだ。
 竜は巨大な人間に向かって、止むことなく炎を吹きつける。
「あがーっ!」
 巨人ダリアは黒焦げになって死亡した。
「ダリアが真っ先に殺された……!」
 ギギは戦慄した。
「アハハハハ、ボクは無敵だよ。悪魔少女狩りなんて怖くない」
 リカリカが哄笑した。

「未来兵器の悪魔に変身ですっ」と9歳の可愛い少女アイ・グリーンが叫び、両手を銃に変化させた。
 竜に向かって弾丸を次々と放つ。
「痛っ!」
 青竜の身体にいくつかの穴が開き、そこから赤い血が流れた。しかし、致命傷ではない。
 リカリカは翼をはためかせて空を飛び、上空からアイに炎を浴びせた。
 彼女はあっという間に灰塵と化した。
「強すぎる……」
 ギギは呆然としてつぶやいた。

 教皇の姪は決断の早い人物だった。
「撤退する! 対策なしにドラゴンと対決するのは危険すぎる。全員街へ撤退せよ!」
 ギギは生き残った部下5人とともに広場から逃走した。
 青い竜の悪魔リカリカ・ドーランだけがそこに残された。
 竜の姿のまま、彼女は広場の中央に立ち、つぶやいた。
「賢いな、ギギは。逃げるが勝ちってね。ボクは罪のない人を巻き添えにはしたくない。市街地で戦うのは避けたい」
 広場には巨大なダリアと等身大のアイの焼死体がある。
「ふう、悪魔少女だってことがバレたから、もうここにはいられないな」
 リカリカは再び上空に浮かび、どこへともなく飛び去った。

「怖ろしいやつだった。竜の悪魔少女、最強かもね……」
 ギギはラパーム市役所のロビーにあるベンチに座り、うつむいて後悔していた。
 高い戦闘力を持つダリアとアイをたったの1戦で失った。戦闘時間は5分にも満たない。
 あたくしは驚きのあまり、あのとき指揮能力を失っていた。全員同時に変身させるべきだった。それでも勝てたかどうかわからないが……。
「ギギ様ぁ、元気を出してください。アタシが竜と戦いますぅ」
「いいのよ、ルンルン。リカリカとはいまは戦えない。どこかへ飛び去ったしね。もうこの街での仕事は終わりにするわ」
「それが賢明かと思います。あの青竜と戦うには、最低でも神聖少女騎士数人の同時攻撃と弩弓隊の援護が必要でしょう」とランが言った。
「それでもあっさりと逃げられて終わりかもしれませんが……」
「そうなのよ。戦闘力が非常に高く、飛翔能力も持つ悪魔少女。厄介な敵だわ」

 ギギは遠話の悪魔に変身し、バルデバラン教皇に話しかけた。
「教皇猊下、ギギです。報告がありますの。いまお話ししてよろしいでしょうか」
「よい。報告とはなんだ?」
「竜の悪魔少女と交戦し、部下の神聖少女騎士ふたりを失いました。強力な敵です。空を飛び、炎を吐くドラゴンです。あたくしが現在持っている戦力では抗しえないほどの大敵です」
「そうか。竜に変身できる悪魔少女がいたとは、余も初耳だ。仕方あるまい。気にするでないぞ」
「寛大なお言葉に感謝したします。竜の悪魔少女はどこかへ飛び去り、所在不明となりました」
「とりあえず放置しておけ。対策は今後、考えよ」
「御意。それでは、あたくしのラパーム市での狩りは終了としてよろしいですか」
「あらかたの悪魔少女は、殺すか味方にしたのだろうな?」
「はい。やれるだけのことはやりました。ごく少数の悪魔少女が残っている可能性はありますが、発見はかなり困難となっている状況です」
「もうよい。ラシーラ村へ立ち寄り、ダダと合流して、ひとまずマーロへ帰還せよ。おまえには首都で、ドラゴンとの決戦方法を考えてもらう。ご苦労だった」
「ありがとうございます。では、そのようにいたします」

 次にギギは、弟のダダに遠話した。
「ダダ、聞こえる? ギギよ」
 いつもならすぐに答えがあるのだが、返答がなかった。
「ダダ、答えてちょうだい。眠っているの?」
 ギギの遠話は強力だ。睡眠中でも、相手を起こす力がある。
 少し待ったが、反応はなかった。彼女は胸騒ぎがした。
 死亡者には遠話も届かない。
 もしかしたら、弟は死んでいるのかもしれない。
「ダダ、答えなさい、ダダ!」
 遠話が宙に消えているようだった。
「ダダ様のお答えがないのですか?」とランが訊いた。
「ええ。今日は大厄日かもしれないわ……」

 ギギはラパーム市長のバッハ・ナムールに面会を求めた。
 秘書がすぐに市長室へとギギを案内した。
「ナムール市長、あたくしの仕事は終わりました。首都へ帰りますわ。このたびは大変お世話になりました」
 ダダとはちがい、ギギは慇懃だった。
「ギギ・バルーン司教、お疲れさまでした」
 市長もていねいに対応している。ギギが将来、教皇になるかもしれないことを知っている。
「ところで司教、ドラゴンが出現したと聞きましたが……」
「そうですの。青竜の悪魔少女がいたのですわ。ペットショップの娘、リカリカ・ドーランです。あの子には勝てませんでした。どこかへと飛んでいきました。もしリカリカが人間の姿で帰郷してきたら、問答無用で処刑してください。あれは危険すぎる。むざむざと帰ってくることはないと思いますが」
「承知しました」
「では、あたくしは失礼いたします。もし今後、ラパーム市で悪魔少女が現れるようなことがあれば、マーロの神聖少女騎士団本部へご連絡ください」
「わかっております」

 ギギは馬に乗り、5人に減った部下とともに、ラシーラ村へと急いだ。
 2日後に到着し、すぐに村役場の村長室へと向かった。
 ラシーラ村長ピピン・バンビーノはやつれていた。
「私の娘パンピーは悪魔少女でした。ダダ・バルーン様に処刑されました。そのダダ様も悪魔少女レンレン・ヴィンジーノに殺されました」
 ギギと会うなり、ピピンはそう言った。
「ダダはどのように殺されたのですか?」
「首がぐるりと回転していました。頸椎骨折が死因です。ダダ様だけでなく、同行していた神聖少女騎士ふたりと案内係ひとりと10人の肉体労働者たちも同様に首の骨が折られていました。頭部が回転していたんです」
 ギギは内心で震えた。不気味だ。竜の悪魔少女も怖ろしいが、同時に10人以上もの首の骨を折る悪魔少女なんて聞いたことがない。
「いったいどのような悪魔少女だったのでしょうか?」
「わかりません」
「どうしてダダは肉体労働者たちを連れていたのでしょうか?」
「それもわかりません。ダダ様は私になどなんの相談もなく、悪魔少女狩りを進めていたんです」
 ダダならそうするだろう、とギギは思った。自分勝手な弟だった。
「レンレン・ヴィンジーノという悪魔少女はいまどこにいるのか、手かがりはありますか?」
「まったくありません。どこにいるのやら……。ただ、いったんはダダ様の部下になった悪魔少女ユウユウ・ムジークの死体はありませんでした。レンレンはユウユウとともに逃亡したと考えられます。ふたりは知り合いだったんです」
「そうですか。ユウユウ・ムジークの異能については知っていますか」
「知りません。お伝えできる情報が乏しく、申し訳ありません。ダダ様になにも教えられていなかったものですから。そう言えば、ユウユウは音符の悪魔少女と呼ばれていました」
「バイオリンを弾く少女ですか?」
「はい。よくご存じですね」
「ダダから報告を受けていました。ではレンレンとは、レストランのウエイトレスではないですか?」
「そのとおりです。回る向日葵亭というレストランで働いていました」
 後でそのレストランに行ってみよう、とギギは思った。
「ところでギギ様、お願いがあるのですが……」
「なんでしょうか」
「ダダ様が牢屋に入れた少女が13人おりまして、いまも地下牢に幽閉しています。解放してよいのか、処刑しなければならないのか、私には判断できないのです。ギギ様に判定していただくわけにはいかないでしょうか?」
「わかりました。弟の仕事の残りはあたくしがします。明日、その13人と会わせてください。今夜の宿は用意していただけますか」
「村役場の隣にラシーラグランドホテルがあります。そこにお部屋を用意します。ひとり部屋を6室でよろしいですか?」
「よろしくお願いします」
 大量殺人の悪魔少女と音符の悪魔少女が一緒に逃げている。恐るべき情報だ、とギギは思った。
 ラパーム市とラシーラ村から逃げ出した3人の悪魔少女。
 見つけ出して、殺さなければならない。
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