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第29話 回る回る 向日葵が回る
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翌日午前9時に、第99悪魔狩り小隊は10人の肉体労働者たちを連れて、回る向日葵亭にやってきた。
ダダが銀貨1枚を報酬として集めた筋骨隆々たる男たち。彼らは大きなシャベルを持っていた。
ラシーラ教区の司教はレストランの扉を開け、大声で言った。
「昨日買い取った向日葵畑の点検をさせてもらう。邪魔をするなよ!」
「売った憶えはない。金貨なら返す」とレジンは答えた。
「これはレンレンちゃんが悪魔少女かどうかを確かめるための仕事なんだよ。言わば公務だ。執行妨害は許さない」
「おれたちの先祖が開拓した私有地だぞ。手を出すな!」
「では強制執行だ。悪魔少女狩り小隊長の職権により、向日葵畑の発掘調査を行う。アンノン・ヴィンジーノの遺体もしくは遺骨が発見されたら、レンレンちゃんが悪魔少女である証拠と見なし、彼女を処刑する」
レジンはがくりと膝を折った。
レンレンは無表情になっていた。
カラリは怒りに震えていた。
「それともボクに忠誠を誓うか、レンレンちゃん? 正義の悪魔少女になり、神聖少女騎士として働くのなら、処刑したりはしないし、向日葵畑を荒らしもしない」
「お断りします。あなたの部下になるぐらいなら、死んだ方がましです」
レンレンは毅然として言った。
それを聞いて、ユウユウの胸が痛んだ。ワタシはまちがっているのだろうか……?
「向日葵を全部抜け! 更地になったら、土を掘り返せ」
屈強な労働者たちが大輪の花を咲かせている向日葵を抜き始めた。
太い幹を持つしっかりとした向日葵だが、男たちの手にかかれば、ひとたまりもなかった。
太陽の方を向いて笑うように咲いている黄色い向日葵の花。
それが抜かれるとき、泣いているようにレンレンには見えた。
曾おばあちゃんが見つけて、ここに住居兼食堂を建てましょうと言った向日葵畑。
レストラン回る向日葵亭の大切な裏庭。
そこが無惨に荒らされている。
レンレンは殺意を覚えた。悪魔少女の血が沸騰していた。
「やめなさい」とレンレンは言った。「ダダさん、いますぐにやめさせて!」
ダダはその言葉を無視した。
レンレンの方を向いた労働者たちに命令した。
「休むな、つづけろ!」
彼らは前金で報酬をもらっている。働きつづけた。向日葵を抜いていく。
レンレンは父と兄にささやいた。
「お父さん、お兄ちゃん、わたしは戦う」
「戦うだと? あの悪魔少女狩り小隊とか?」
「わたしは戦える。ふたりはお店の中に入っていて。わたしが終わったと言うまで、けっして出てこないでね」
「レンレン、いったいどうやって戦うんだ?」
カラリが不審そうに訊いた。
「レンレンの言うとおりにしろ」
レジンはカラリを引っ張って、回る向日葵亭の扉を開け、店内に閉じこもった。
「ダダさんに雇われた人たち。あなた方にチャンスを与えます。いますぐにここを去りなさい。でなければ、死ぬことになります」
レンレンが通達した。
労働者たちはギョッとして、彼女を見た。
「無視しろ。作業をつづけろ。すべて完了したら、さらに銀貨1枚ずつやるぞ」とダダが言った。
肉体労働者にとって、1日の労働の対価として銀貨2枚は破格だった。彼らは向日葵を抜きつづけた。
「わかりました。ではみんな死になさい。向日葵の悪魔に変身」
レンレンの顔が一瞬霧のように霞み、次の瞬間、大輪の向日葵の花になっていた。
「正体を現したな。向日葵の悪魔少女だったのか。ふはははは、シュールで不気味な姿だ」
ダダが高笑いをした。
「シャン、剣を抜け。ノナ、ユウユウ、変身しろ。全力でレンレンちゃんを殺せ!」
シャンが抜剣した。彼女は他人に変身できる悪魔少女だ。戦闘時に変身する意味はない。
「針の悪魔に変身」と唱え、ノナが変身した。両眼から大きな針が突き出した。両手に致死性の毒が入った注射器が出現する。
「音符の悪魔に変身」とユウユウは唱え、ト音記号の姿になった。彼女はレンレンを殺していいのか、激しく迷っていた。
「向日葵よ、回れ」とレンレンは命じた。
すると、向日葵の花たちがくるりくるりと独楽のように回り始めた。
異様な光景だった。
くるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるりくるり……。
くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる……。
ぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるりぐるり……。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。
ダダ、シャン、ノナ、ユウユウ、アモン、10人の労働者たちはあっけに取られて、回る向日葵の花を見た。
「回る向日葵の伝説は本当だったのか……」とアモンがつぶやいた。
「はは、面白い芸じゃないか。しかし、そんな滑稽なわざで、ボクたちを殺せるのか?」
「簡単に殺せますよ」
「言うじゃないか。神聖少女騎士たちよ、レンレンちゃんと戦い、殺せ。これがラシーラ村で最後の戦闘だ」
「ダダさん、牢屋に入れた少女たちはどうするつもりなのですか?」
「あの子たちか。もしかしたら本当に悪魔少女かもしれないからな。今日中に全員殺そうかな」
「悪魔少女だとの確信もなく地下牢に入れたんですね?」
「かわいい女の子が泣き叫ぶのを見るのは、最高に面白いからね。ちょっと遊んでやっただけさ」
「確信なく殺した子もいるんでしょうね?」
「ボクには処刑権がある。ボクの行動は、すべて教皇から託された任務なんだよ」
「ダダ・バルーンさん、あなたは絶対に許せない」
レンレンはそう言った。
向日葵の花に変身して、彼女には口がなくなっている。それでも不思議な力で声が出せるのだった。
悪魔の力。
ダダが銀貨1枚を報酬として集めた筋骨隆々たる男たち。彼らは大きなシャベルを持っていた。
ラシーラ教区の司教はレストランの扉を開け、大声で言った。
「昨日買い取った向日葵畑の点検をさせてもらう。邪魔をするなよ!」
「売った憶えはない。金貨なら返す」とレジンは答えた。
「これはレンレンちゃんが悪魔少女かどうかを確かめるための仕事なんだよ。言わば公務だ。執行妨害は許さない」
「おれたちの先祖が開拓した私有地だぞ。手を出すな!」
「では強制執行だ。悪魔少女狩り小隊長の職権により、向日葵畑の発掘調査を行う。アンノン・ヴィンジーノの遺体もしくは遺骨が発見されたら、レンレンちゃんが悪魔少女である証拠と見なし、彼女を処刑する」
レジンはがくりと膝を折った。
レンレンは無表情になっていた。
カラリは怒りに震えていた。
「それともボクに忠誠を誓うか、レンレンちゃん? 正義の悪魔少女になり、神聖少女騎士として働くのなら、処刑したりはしないし、向日葵畑を荒らしもしない」
「お断りします。あなたの部下になるぐらいなら、死んだ方がましです」
レンレンは毅然として言った。
それを聞いて、ユウユウの胸が痛んだ。ワタシはまちがっているのだろうか……?
「向日葵を全部抜け! 更地になったら、土を掘り返せ」
屈強な労働者たちが大輪の花を咲かせている向日葵を抜き始めた。
太い幹を持つしっかりとした向日葵だが、男たちの手にかかれば、ひとたまりもなかった。
太陽の方を向いて笑うように咲いている黄色い向日葵の花。
それが抜かれるとき、泣いているようにレンレンには見えた。
曾おばあちゃんが見つけて、ここに住居兼食堂を建てましょうと言った向日葵畑。
レストラン回る向日葵亭の大切な裏庭。
そこが無惨に荒らされている。
レンレンは殺意を覚えた。悪魔少女の血が沸騰していた。
「やめなさい」とレンレンは言った。「ダダさん、いますぐにやめさせて!」
ダダはその言葉を無視した。
レンレンの方を向いた労働者たちに命令した。
「休むな、つづけろ!」
彼らは前金で報酬をもらっている。働きつづけた。向日葵を抜いていく。
レンレンは父と兄にささやいた。
「お父さん、お兄ちゃん、わたしは戦う」
「戦うだと? あの悪魔少女狩り小隊とか?」
「わたしは戦える。ふたりはお店の中に入っていて。わたしが終わったと言うまで、けっして出てこないでね」
「レンレン、いったいどうやって戦うんだ?」
カラリが不審そうに訊いた。
「レンレンの言うとおりにしろ」
レジンはカラリを引っ張って、回る向日葵亭の扉を開け、店内に閉じこもった。
「ダダさんに雇われた人たち。あなた方にチャンスを与えます。いますぐにここを去りなさい。でなければ、死ぬことになります」
レンレンが通達した。
労働者たちはギョッとして、彼女を見た。
「無視しろ。作業をつづけろ。すべて完了したら、さらに銀貨1枚ずつやるぞ」とダダが言った。
肉体労働者にとって、1日の労働の対価として銀貨2枚は破格だった。彼らは向日葵を抜きつづけた。
「わかりました。ではみんな死になさい。向日葵の悪魔に変身」
レンレンの顔が一瞬霧のように霞み、次の瞬間、大輪の向日葵の花になっていた。
「正体を現したな。向日葵の悪魔少女だったのか。ふはははは、シュールで不気味な姿だ」
ダダが高笑いをした。
「シャン、剣を抜け。ノナ、ユウユウ、変身しろ。全力でレンレンちゃんを殺せ!」
シャンが抜剣した。彼女は他人に変身できる悪魔少女だ。戦闘時に変身する意味はない。
「針の悪魔に変身」と唱え、ノナが変身した。両眼から大きな針が突き出した。両手に致死性の毒が入った注射器が出現する。
「音符の悪魔に変身」とユウユウは唱え、ト音記号の姿になった。彼女はレンレンを殺していいのか、激しく迷っていた。
「向日葵よ、回れ」とレンレンは命じた。
すると、向日葵の花たちがくるりくるりと独楽のように回り始めた。
異様な光景だった。
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「回る向日葵の伝説は本当だったのか……」とアモンがつぶやいた。
「はは、面白い芸じゃないか。しかし、そんな滑稽なわざで、ボクたちを殺せるのか?」
「簡単に殺せますよ」
「言うじゃないか。神聖少女騎士たちよ、レンレンちゃんと戦い、殺せ。これがラシーラ村で最後の戦闘だ」
「ダダさん、牢屋に入れた少女たちはどうするつもりなのですか?」
「あの子たちか。もしかしたら本当に悪魔少女かもしれないからな。今日中に全員殺そうかな」
「悪魔少女だとの確信もなく地下牢に入れたんですね?」
「かわいい女の子が泣き叫ぶのを見るのは、最高に面白いからね。ちょっと遊んでやっただけさ」
「確信なく殺した子もいるんでしょうね?」
「ボクには処刑権がある。ボクの行動は、すべて教皇から託された任務なんだよ」
「ダダ・バルーンさん、あなたは絶対に許せない」
レンレンはそう言った。
向日葵の花に変身して、彼女には口がなくなっている。それでも不思議な力で声が出せるのだった。
悪魔の力。
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