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第16話 喫茶店マルガ リュウの処刑
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パンピーは当分の間、愛の悪魔には変身しない、と決意した。
ダダに見つかると処刑されてしまう。他の人に見られてもいけない。
恋人のふりをしている嫌な男リュウをさっさと殺してしまいたいが、いまはリスクが高い。ゴールド&シルバーの構成員を消すのは、しばらく我慢することにした。
悪魔少女狩り小隊はいつまでラシーラ村にいるつもりだろう。
半年ぐらいなのか、それとも1年か、あるいは2年か。
わからない。
悪魔少女狩りがつづく限り、心が平穏になることはないだろう。狩られるかもしれないという強い不安とともに過ごすことになる。
できれば、ダダを秘密裡に殺したい。あいつも男だ。ふたりきりになれれば、愛の魔力を使って自殺させることができるだろう、とパンピーは思った。
ダダを亡き者にし、あたしの狩りを再開したい。ゴルシバの男狩りを。
リュウはパンピーを喫茶店マルガに連れていった。
マルガはラシーラ村の中心市街地の商店街にある喫茶店で、コーヒーや紅茶のほか、サンドイッチやスパゲティなどの食事もメニューにあった。リュウは回る向日葵亭で食べそこなった昼食をここで取るつもりだった。
マスターの名前はミラ・マルガ。29歳の独身女性。リンナ・バンビーノほどではないが、村有数の美人として有名だ。彼女に会いたくて、喫茶店に通う男性も多い。
カウンター席が8席、4人掛けのテーブルが3つある。奥のテーブルが空いていたので、リュウとパンピーはそこに座った。
「いらっしゃい」とミラが言った。
この店ではマスターが接客を担当し、調理はミラの友人サッシャ・パールが担っている。
「ビールとカルボナーラをくれ」
「紅茶とサンドイッチをお願いします」
「はい。少々お待ちください」
注文を受け、ミラはニコッと笑った。
「いい女だな」
リュウがにやけていた。
「恋人の前でそんなこと言わないで」
「妬いているのか?」
「そりゃあ妬くわよ」
心にもないことをパンピーは言った。本当はリュウなんかどうでもいい。他の女とくっついてもまったく気にしない。いまは付き合っているふりをしているだけだ。うまく殺す機会を得るために。
だが、ダダがラシーラ村にいる間は殺害できない。別れようかな、とパンピーは考えた。さっさと殺すつもりだったが、状況が変わった。リュウなんかと一緒にいたくない。こいつは正真正銘のクズ男だ。
こんな男、付き合わなくても簡単に殺せるだろう。恋人になんかなるんじゃなかった。失敗した。
ビールと紅茶が運ばれてきた。
「お料理はもうしばらくお待ちください」
ミラが微笑み、リュウがニヤニヤと笑う。
「ああいう女を苦しめてやりたいぜ。ヤク中にしてやろうか」
「やめなよ」
「オレは売人なんだよ。麻薬密売で成功して、ゴルシバでのし上がってやる。おまえにも贅沢をさせてやるぜ」
パンピーは村長の娘だ。リュウに頼らなくても、贅沢はできる。彼にはそんなことも見えていなかった。自分の都合のいいことしか考えない男。
リュウは昼間からビールをぐびぐびと飲んだ。彼自身がヤク中でアル中だった。
カルボナーラとサンドイッチがテーブルに届いた。
パンピーがハムサンドを手に取ったとき、リュウがポケットから髪の毛を取り出し、スパゲティの上に乗せた。
またやる気、と思って、パンピーはあきれ果てた。
「こらあ、この店は客に髪の毛を食わせるのか」とリュウが怒鳴った。パンピーはうんざりした。
そのときのことだった。
ダダたちが喫茶店マルガに入ってきた。
偶然ではない。ノナが尾行し、パンピーたちが喫茶店に入ったことを報告したのだ。
ボクらも行ってみよう、とダダは判断した。超絶的美少女パンピーのことをもっと知りたい。悪魔少女だったらいたぶって殺したいし、そうでなかったら付き合いたい。
そして、リュウが怒鳴ったときに居合わせたのだ。
「またやっているのか。おまえはバカなのか? この村にいられなくなるぞ」
「バカとはなんだ! つきまとうんじゃねえよ!」
「もうこの村から消すか。つーか、この世から消そう」
ダダは真顔で言った。
リュウは急に不安になった。よく怒鳴る男だが、本当は肝が小さい。
「ボクはパンピーちゃんと付き合いたい。おまえは死んでくれ。喫茶店営業妨害の現行犯だ。再犯だから死刑」
「死刑? オレは悪魔少女じゃねえよ。殺したらだめだろ?」
「ボクはロッカー・アフリカンなんかより遥か上にいる権力者なの。おまえを消すくらいわけもない。この場で殺せる」
ミラは突然店内で巻き起こった騒動に唖然としていた。出て行ってくださいと言いたいが、不穏すぎる空気を感じて、口出しできない。
「ユウユウ、この男を処刑しろ。血で店を汚したら悪い。剣でなくていい。異能で殺せ」
「はい。こいつは人間のクズですよね。殺してかまわないですよね?」
ユウユウは自分に言い聞かせるように言った。
「やめてくれ。殺さないでくれ!」とリュウが叫んだ。
パンピーは呆然となりゆきを眺めていた。
あたしが殺すまでもなかった。悪魔少女狩り隊が殺してくれるならそれでいいか、などと思った。
「音符の悪魔に変身」
ユウユウがト音記号の姿になったのを見て、パンピーは驚いた。こんな悪魔少女がいるのか。
「人間のクズさん、全休符になってください。心音停止」
リュウがビクビクと身体を痙攣させた。
「うう……。死ぬのかよ、オレ……。いやだ、いやだあ……」
「全休符、心音停止、全休符、心音停止、蠅や髪の毛でお店を困らせる人は死んでください」
ドサッとリュウは倒れた。多くの男女を薬物中毒にした男の末路だった。
あたしが手を下すことなく殺された。リュウが死ぬのはかまわない。でも、この国はめちゃくちゃだ、とパンピーは思った。暴力的貨幣崇拝組織がのさばり、それを超える暴力的宗教組織が国家を支配している。
国から派遣されてきた悪魔少女狩りの小隊長ダダは、悪魔少女でない男を超法規的に殺した。たぶんこの村では誰もこの男を裁けないのだろう。
ダダはシャンとアモンに死体を運ばせ、パンピーの対面に座った。ノナとユウユウは近くで立っている。
「きみの恋人はいなくなった。今度はボクと付き合ってくれ」
「嫌よ」
「ボクはきみの顔が大好きなんだ。恋人になってくれよ」
「顔だけ?」
「スタイルも好きだ」
「どっちもルックスじゃないの。お断りよ」
「ボクと付き合ってくれないと、処刑しちゃうよ?」
「絶対に嫌。あんたなんて大嫌い。処刑したければしなさいよ」
ダダは歯を剥き出しにして笑った。
「ユウユウ、パンピーちゃんを殺してよ」
「今日はもう殺せません。1日分の魔力を使いきりました」
ユウユウはすでに音符の悪魔から少女の姿に戻っている。
「そうだったね。じゃあノナが殺して」
「はーい。自分が殺しまーす。やったーっ、人殺しの許可が出た」
冗談じゃないのか? 本気であたしを殺すつもりなの?
パンピーは死にたくなかった。
目の前で不気味に笑っているダダの本心がわからない。あたしは村長の娘なのよ? 簡単に殺せるわけがない。
「剣で殺しますか? それとも異能を使っていいっすか?」
「おまえの場合、異能を使っても血が出ちまうからな。剣で殺せ」
「はーい」
ダダはあたしを脅かしているだけかもしれない。でもこのノナという女には狂気を感じる。楽しんで殺人を実行しそうだ。
「待って、付き合うわ」とパンピーは言った。
ダダを殺そう。恋人のふりをして、良い機会を見つけて、確実に殺してやる。
ダダに見つかると処刑されてしまう。他の人に見られてもいけない。
恋人のふりをしている嫌な男リュウをさっさと殺してしまいたいが、いまはリスクが高い。ゴールド&シルバーの構成員を消すのは、しばらく我慢することにした。
悪魔少女狩り小隊はいつまでラシーラ村にいるつもりだろう。
半年ぐらいなのか、それとも1年か、あるいは2年か。
わからない。
悪魔少女狩りがつづく限り、心が平穏になることはないだろう。狩られるかもしれないという強い不安とともに過ごすことになる。
できれば、ダダを秘密裡に殺したい。あいつも男だ。ふたりきりになれれば、愛の魔力を使って自殺させることができるだろう、とパンピーは思った。
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リュウはパンピーを喫茶店マルガに連れていった。
マルガはラシーラ村の中心市街地の商店街にある喫茶店で、コーヒーや紅茶のほか、サンドイッチやスパゲティなどの食事もメニューにあった。リュウは回る向日葵亭で食べそこなった昼食をここで取るつもりだった。
マスターの名前はミラ・マルガ。29歳の独身女性。リンナ・バンビーノほどではないが、村有数の美人として有名だ。彼女に会いたくて、喫茶店に通う男性も多い。
カウンター席が8席、4人掛けのテーブルが3つある。奥のテーブルが空いていたので、リュウとパンピーはそこに座った。
「いらっしゃい」とミラが言った。
この店ではマスターが接客を担当し、調理はミラの友人サッシャ・パールが担っている。
「ビールとカルボナーラをくれ」
「紅茶とサンドイッチをお願いします」
「はい。少々お待ちください」
注文を受け、ミラはニコッと笑った。
「いい女だな」
リュウがにやけていた。
「恋人の前でそんなこと言わないで」
「妬いているのか?」
「そりゃあ妬くわよ」
心にもないことをパンピーは言った。本当はリュウなんかどうでもいい。他の女とくっついてもまったく気にしない。いまは付き合っているふりをしているだけだ。うまく殺す機会を得るために。
だが、ダダがラシーラ村にいる間は殺害できない。別れようかな、とパンピーは考えた。さっさと殺すつもりだったが、状況が変わった。リュウなんかと一緒にいたくない。こいつは正真正銘のクズ男だ。
こんな男、付き合わなくても簡単に殺せるだろう。恋人になんかなるんじゃなかった。失敗した。
ビールと紅茶が運ばれてきた。
「お料理はもうしばらくお待ちください」
ミラが微笑み、リュウがニヤニヤと笑う。
「ああいう女を苦しめてやりたいぜ。ヤク中にしてやろうか」
「やめなよ」
「オレは売人なんだよ。麻薬密売で成功して、ゴルシバでのし上がってやる。おまえにも贅沢をさせてやるぜ」
パンピーは村長の娘だ。リュウに頼らなくても、贅沢はできる。彼にはそんなことも見えていなかった。自分の都合のいいことしか考えない男。
リュウは昼間からビールをぐびぐびと飲んだ。彼自身がヤク中でアル中だった。
カルボナーラとサンドイッチがテーブルに届いた。
パンピーがハムサンドを手に取ったとき、リュウがポケットから髪の毛を取り出し、スパゲティの上に乗せた。
またやる気、と思って、パンピーはあきれ果てた。
「こらあ、この店は客に髪の毛を食わせるのか」とリュウが怒鳴った。パンピーはうんざりした。
そのときのことだった。
ダダたちが喫茶店マルガに入ってきた。
偶然ではない。ノナが尾行し、パンピーたちが喫茶店に入ったことを報告したのだ。
ボクらも行ってみよう、とダダは判断した。超絶的美少女パンピーのことをもっと知りたい。悪魔少女だったらいたぶって殺したいし、そうでなかったら付き合いたい。
そして、リュウが怒鳴ったときに居合わせたのだ。
「またやっているのか。おまえはバカなのか? この村にいられなくなるぞ」
「バカとはなんだ! つきまとうんじゃねえよ!」
「もうこの村から消すか。つーか、この世から消そう」
ダダは真顔で言った。
リュウは急に不安になった。よく怒鳴る男だが、本当は肝が小さい。
「ボクはパンピーちゃんと付き合いたい。おまえは死んでくれ。喫茶店営業妨害の現行犯だ。再犯だから死刑」
「死刑? オレは悪魔少女じゃねえよ。殺したらだめだろ?」
「ボクはロッカー・アフリカンなんかより遥か上にいる権力者なの。おまえを消すくらいわけもない。この場で殺せる」
ミラは突然店内で巻き起こった騒動に唖然としていた。出て行ってくださいと言いたいが、不穏すぎる空気を感じて、口出しできない。
「ユウユウ、この男を処刑しろ。血で店を汚したら悪い。剣でなくていい。異能で殺せ」
「はい。こいつは人間のクズですよね。殺してかまわないですよね?」
ユウユウは自分に言い聞かせるように言った。
「やめてくれ。殺さないでくれ!」とリュウが叫んだ。
パンピーは呆然となりゆきを眺めていた。
あたしが殺すまでもなかった。悪魔少女狩り隊が殺してくれるならそれでいいか、などと思った。
「音符の悪魔に変身」
ユウユウがト音記号の姿になったのを見て、パンピーは驚いた。こんな悪魔少女がいるのか。
「人間のクズさん、全休符になってください。心音停止」
リュウがビクビクと身体を痙攣させた。
「うう……。死ぬのかよ、オレ……。いやだ、いやだあ……」
「全休符、心音停止、全休符、心音停止、蠅や髪の毛でお店を困らせる人は死んでください」
ドサッとリュウは倒れた。多くの男女を薬物中毒にした男の末路だった。
あたしが手を下すことなく殺された。リュウが死ぬのはかまわない。でも、この国はめちゃくちゃだ、とパンピーは思った。暴力的貨幣崇拝組織がのさばり、それを超える暴力的宗教組織が国家を支配している。
国から派遣されてきた悪魔少女狩りの小隊長ダダは、悪魔少女でない男を超法規的に殺した。たぶんこの村では誰もこの男を裁けないのだろう。
ダダはシャンとアモンに死体を運ばせ、パンピーの対面に座った。ノナとユウユウは近くで立っている。
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「スタイルも好きだ」
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「ボクと付き合ってくれないと、処刑しちゃうよ?」
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ダダは歯を剥き出しにして笑った。
「ユウユウ、パンピーちゃんを殺してよ」
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ユウユウはすでに音符の悪魔から少女の姿に戻っている。
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冗談じゃないのか? 本気であたしを殺すつもりなの?
パンピーは死にたくなかった。
目の前で不気味に笑っているダダの本心がわからない。あたしは村長の娘なのよ? 簡単に殺せるわけがない。
「剣で殺しますか? それとも異能を使っていいっすか?」
「おまえの場合、異能を使っても血が出ちまうからな。剣で殺せ」
「はーい」
ダダはあたしを脅かしているだけかもしれない。でもこのノナという女には狂気を感じる。楽しんで殺人を実行しそうだ。
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