悪魔少女狩り

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
8 / 34

第8話 土塚のある草原 もぐらの串焼き

しおりを挟む
 ダダは草原に寝転んでいた。
 彼を守るように3人の神聖少女騎士が帯剣して背後に控えている。
 案内係のアモンは疲れた表情をして、少し離れて座っていた。悪魔少女狩りの案内係は、税金課長よりも遥かにストレスの高い仕事だった。少女を殺したり、牢屋にぶち込んだりする手助け。
「待っていたよ、ユウユウちゃん、ルナルちゃん」
 ダダは寝転んだまま、顔だけをバイオリン弾きの少女ともぐら食いの少女に向けて言った。
 ユウユウはダダの言葉を聞いて、家に帰りたくなった。声に底意地の悪さがにじみ出ている。
「ふたりの悪魔少女ちゃんたち」
「ユウユウもルナルも悪魔少女なんかじゃないわ。ふたりともいい子よ」
 ステラが言い返した。
「きみには興味がない。美しくない平凡ちゃん」
「やっぱり失礼きわまりない人ね」

 ダダは起き上がり、ルナルの正面に立った。
「まずはルナルちゃんから取り調べようか。もぐらを食べる変な子ちゃん」
「わたし、変な子じゃないもん」
「変な子だよ。もぐらを食べるんだろう?」
「焼いたもぐらは美味しいよ。もぐらを捕まえるのは楽しいし、もぐらたちが生きているのを見るのも面白いんだよ」
 ルナルたちがいる草原には、たくさんのもぐらの土塚があった。
「ここにはもぐらがいっぱい住んでいるんだ。草原の下にはもぐらたちのトンネルが張り巡らされているの。栄養があるミミズや幼虫をたっぷり食べているから、もぐらは美味しいんだよ」
「つまり、もぐらの肉を食べるのは、ミミズや幼虫を食べているのと同じだね?」
「そうとも言えるね」
「やはりきみは悪魔少女だ。ミミズを好んで食べる人間はいない」

「決めつけないで! ルナルは悪魔少女なんかじゃない」
 ユウユウが割って入った。
「では、悪魔少女ではない証拠を見せろ」
「そちらこそ、ルナルが悪魔少女である証拠を見せなさいよ」
「その必要はない。ルナルちゃんは可愛くて変な女の子だ。非常に悪魔少女っぽい。まちがいなく悪魔少女だね。ボクがそう判断したんだよ。それだけでルナルちゃんを処刑する理由になるんだ。ぼくには処刑権がある」
「処刑権?」
「拷問権もある。悪魔少女狩り小隊長に与えられた権利だ」
「そんな権利、人が持っていいわけがない。神様が許さないわ」
「悪魔少女が神を語るか。滑稽だね」
「ワタシは悪魔少女じゃない!」
 ユウユウは強く言い張った。本当は音符の悪魔少女だが、それを知られるわけにはいかなかった。
「わたし、人間だよ」
 ルナルは自分の左手の小指の先を嚙みちぎった。
「ほら、赤い血が流れているでしょう」
「それだけでは証明にならない。悪魔少女を斬れば、赤い血液が流れ出る」
 ルナルは途方に暮れて首を傾げた。
「どうすればいいの」
「もぐらをボクに食べさせてくれ。もし美味しかったら、きみは見逃してあげるよ。不味かったら、即刻死刑だ」

 ルナルは土塚のそばに仕掛けておいた罠を取り出した。バケツを使った落とし穴式の罠だ。
 そこに1匹のもぐらがいて、もぞもぞと動いていた。トンネルからバケツに落下してしまったもぐら。
「いたよ。かわいいよね、もぐら」
「異様な臭いがするぞ。悪臭だ」
「いい匂いだよ。土とミミズと幼虫の匂いだよ」
「これをいい匂いと言うのか。悪魔少女の感覚だ。人間の嗅覚じゃない」
 ワタシもその臭いは嫌い、とユウユウは思ったが、黙っていた。
 ルナルは枯れ草と枯れ枝を集め、マッチを使って火をつけた。
 金串をもぐらの胴体に刺した。
「キュッ、ギュルギュルッ」と鳴いて、もぐらは絶命した。
 ルナルは焚き火でもぐらを焼いた。もぐらの毛がチリチリと焦げた。煙が立ち、異臭がした。
「やっぱり臭いぞ」
「そうかなあ。良い匂いだと思うけど」
 ルナルの感覚はちょっと異常だ。嗅覚に関しては、ユウユウもダダに賛同するしかなかった。
 もぐらはあまり美味しくはない。このままではルナルは殺されてしまう。どうすればいいのだろう。
 ルナルがもぐらに塩を振った。
「焼けたよ。食べてみて」
 もぐらの串焼きをダダに渡す。彼は嫌そうな表情でかぶりついた。そして、すぐにぺっと吐き出した。
「不味い。決定した。おまえは悪魔少女だ」 

「ダダ様、自分に殺させてください」
「いいだろう。ノナ、ルナルちゃんを斬れ」
 ノナが剣を抜き放った。
 妹同然のルナルを殺させるわけにはいかない。音符の悪魔に変身して戦うしかない、とユウユウは決意した。
「あーあ、殺されるのは嫌だなあ」
 ルナルはさして緊張感のない声で言った。
「仕方ないなあ。びっくりしないでよ、お姉ちゃん、ユウユウ。もぐらの悪魔に変身」
 13歳の少女の姿が変化した。上半身が一瞬溶けたようにぐにゃりと崩れ、新たな形状を取った。上半身がもぐらで、下半身が人間という姿。
 もぐらの悪魔は猛烈な勢いで穴を掘り、土の中に潜ろうとした。
 ルナルはもぐらの悪魔少女だったのだ。ステラもユウユウも知らなかった事実だった。ふたりとも呆然としていた。
 あっけにとられているのはノナも同然だった。
「ノナ、逃がすな、斬れ」
「は、はい!」
 ノナが剣を振りかぶった。ルナルが敵に土をかけた。大量の土を浴び、ぺっぺっと口の中に入った土を吐き出しているうちに、ルナルは土の中に逃げ込んでいた。巨大な土塚ができていた。
「おまえの妹は正真正銘の悪魔少女だったぞ、平凡ちゃん」
「あたしもいま初めて知った」
 ステラは驚いて、目を見開いていた。ワタシも悪魔少女だと知ったら、ステラは引っくり返るだろうな、とユウユウは思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...