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第25話 野豚は悪性腫瘍

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 そうと決まればロンドンの動きは速い。彼は早速豚王に面会し、ラックスマンの話を伝えた。
 豚王は仏頂面であった。
「野豚が辺境を荒らしているのは余も知っておる。難民が発生してそれなりの事態であることもな」
 王は面倒なことを言い出すやつ、と苦々しくロンドンを見下ろした。
「それなりって陛下、そんな生易しいもんじゃないですよ! ついさっき私は遊子高原の惨状を見てきた男から聞いたんです。野豚は砂漠を大量生産しながら進んでいるんです。しかも、方向から推測するとかなり高い確率でブダペストへやってくるって言ってるんですよ。放置しておくわけにはいかないじゃないですか!」
 ロンドンも必死である。ラックスマンの期待に応えるためにも、中途半端に引き下がるわけにはいかない。それに、彼自身も野豚に荒らされた国を見たことがあり、危機感は強い。キャベツ姫と駆け落ちしようなんて想いがなければ、彼は何の躊躇もなくラックスマンに同意して豚王を説得しようとしただろう。
 しかし、豚王は筋金入りのわからず屋である。
「こっちに向かっているなら好都合だ。適当な地点で一網打尽にして家畜にしてしまえばよい」
「適当な地点ってどこですか? まさか投網で捕まえられると思っているわけじゃないでしょう? 陛下の軍を総動員して対決しなきゃならないって相手ですよ! 今この瞬間にもあなたの国民が豚に食い殺されているんです。なんとかしなきゃ犠牲者は増えるばかりです!」
 ロンドンは豚王の機嫌を損ねる覚悟で食い下がった。どうも豚王は事態を軽く考えているように思えてならない。危機感が足りないのではないか。
 が、それはやはり王の機嫌を損ねただけに終わった。
「しつこいぞ、ロンドン! 余には余の考えがある。前にも言っただろう。余は野豚よりも遥かに気に食わん問題を抱えているのだ。見よ、これを!」
 豚王は一枚のビラをロンドンに見せた。
 そこには、小指のない四本指の手のひらのマークがあり、〈指つめ法反対総決起集会明日敢行 於王城前広場 国民よ立ち上がれ!〉と書かれていた。
「今日ブダペスト中にこれが撒かれていたのだ」
 豚王が憎々しげに言った。
 また指なし党か……。
 ロンドンはがっかりした。
 それがなんだってんだ。豚王が指つめ法を廃止すればそれで済む問題じゃねーか。わがままもいいかげんにしろ!
 叫び出しそうになるのをぐっとこらえて、彼はさらに食い下がった。
「陛下、しかし陛下の力をもってすれば、指なし党に対処し、なおかつ野豚に備えて軍を招集することなど簡単ではありませんか。指なし党は皮膚病、しかし野豚は悪性腫瘍です。今すぐ対応せねば国が滅びます!」
 ロンドンは豚王に詰め寄って、語気鋭く言い放った。ここまで言ったからには、彼にも相当な覚悟がある。殺すなら殺せ、と本気で思った。
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