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僕、遠くへ行くんだ、お別れだよ
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親友のジョン。
彼にアメリカへ行くと話したのは、出発のたった十日前だった。それまで寂しくてどうしても言い出せなかったのだ。
ジョンは怒りの表情を見せた。それから突如悲しそうな顔になって、嗚咽を漏らした。彼は涙を流した。僕も泣いた。
「本当に行くのか」と彼は震える声で言った。
淡々とした調子で彼と話すつもりだったが、無理だった。
「うん……」と僕は沈んだ声で答えた。
彼は僕をなじりたいようだったが、言わなかった。そういうやつだった。僕らは黙りこくってあてもなく、町の中を彷徨い歩いた。ひとつひとつの建物までが悲哀を込めているように見えた。夕陽はなおさらだった。寒いなぁとどちらかが言った。風が強く吹いて落ち葉が舞った。ふたりともそろそろ家に帰らなければならなかった。それで、別れた。ジョンとはそれっきりになった。
イギリスをもっと知りたくもあった。
僕の知っている所と言えば、ロンドンとオックスフォードくらいのもので、それもほんの一部分だけだった。そしてもっと多くの人と付き合うべきだった。残念だが、もう時間がない。
アメリカ……アメリカ……。いったいどんな所だろう。僕は想像してみる。父はそこで骨を埋めるつもりでいる。僕もそうなるのだろうか。それとも再びイギリスに舞い戻って来るのか。わからない。一切は霧の中だ。僕の人生は大きく針路を変えようとしている。
アメリカと言えば、この頃鮮やかに思い出される幼少時の小さな事件がある。僕と同い年の子との別れだった。
「僕、遠くへ行くんだ。お別れだよ」
「お別れって……」
「もう会えなくなることだよ」
鮮明な記憶はその会話だけ。
あの子は今どこでどうしているのだろう。彼の行った所が、アメリカだという気がしてならない。
彼にアメリカへ行くと話したのは、出発のたった十日前だった。それまで寂しくてどうしても言い出せなかったのだ。
ジョンは怒りの表情を見せた。それから突如悲しそうな顔になって、嗚咽を漏らした。彼は涙を流した。僕も泣いた。
「本当に行くのか」と彼は震える声で言った。
淡々とした調子で彼と話すつもりだったが、無理だった。
「うん……」と僕は沈んだ声で答えた。
彼は僕をなじりたいようだったが、言わなかった。そういうやつだった。僕らは黙りこくってあてもなく、町の中を彷徨い歩いた。ひとつひとつの建物までが悲哀を込めているように見えた。夕陽はなおさらだった。寒いなぁとどちらかが言った。風が強く吹いて落ち葉が舞った。ふたりともそろそろ家に帰らなければならなかった。それで、別れた。ジョンとはそれっきりになった。
イギリスをもっと知りたくもあった。
僕の知っている所と言えば、ロンドンとオックスフォードくらいのもので、それもほんの一部分だけだった。そしてもっと多くの人と付き合うべきだった。残念だが、もう時間がない。
アメリカ……アメリカ……。いったいどんな所だろう。僕は想像してみる。父はそこで骨を埋めるつもりでいる。僕もそうなるのだろうか。それとも再びイギリスに舞い戻って来るのか。わからない。一切は霧の中だ。僕の人生は大きく針路を変えようとしている。
アメリカと言えば、この頃鮮やかに思い出される幼少時の小さな事件がある。僕と同い年の子との別れだった。
「僕、遠くへ行くんだ。お別れだよ」
「お別れって……」
「もう会えなくなることだよ」
鮮明な記憶はその会話だけ。
あの子は今どこでどうしているのだろう。彼の行った所が、アメリカだという気がしてならない。
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