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準決勝 花咲月光戦
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準決勝では、天上共栄と並んでS県の優勝候補になっている花咲月光と当たることになった。
青十字は大会開幕前は一般的知名度は皆無だったが、ここへ来てにわかに人気が高まっている。
エースのきみはまだ1点も取られていない。
僕はホームランを打ちまくっている。4試合で6本。
きみを筆頭として美人選手揃い。
野球初心者が(ソフトボール経験者の能々さんを含めて)4人もいて、がんばっている。
ナインのうち5人までが1年生。
これまで甲子園に出たことがない弱小校。しかも廃部寸前だった。
廃部の際まで追い込んだ張本人である草壁先輩が多彩な変化球を投げ、打席ではすべて三振している(先輩は妙に注目されている)。
話題性のある要素でいっぱい。奇跡のようなチームだ。
「物語になってきたのじゃ」とネネさんは言う。
しかし、試合前に問題が発生。
きみが右手中指の痛みを僕に訴えたのだ。
指から血がにじみ、爪がはがれかけている。
強い球を投げつづけてきたせいにちがいない。
「これじゃあ投げられないよ」
「投げられる。時根にだけ知っておいてもらいたい」
「だめだよ! 監督に伝えないと」
「やめて!」
「草壁先輩を信じるんだ!」
きみはうつむく。
監督に相談し、先発投手は草壁先輩に変更となった。
「空尾、安心しろ。あたしは勝つ」と先輩は言った。
きみは指に包帯を巻き、1塁手として出場した。
負傷してもベンチで休んでいられないのが、9人しかいないうちのつらいところだ。
準決勝戦、青十字は後攻になった。
草壁先輩は力投した。
1回表、先頭打者にヒットを打たれ、2番バッターにデッドボールでノーアウト1、2塁のピンチとなったが、花咲月光のクリーンナップを3人とも打ち取り、失点しなかった。
1回裏、僕は相手のエース、プロ球界も注目する速球投手、坂本幸一さんからホームランを放った。速い球だったが、きみほどではない。
2回以降も草壁さんは毎回ランナーを背負ったが、ここぞというときに踏ん張り、無失点をつづけた。
僕はもう勝負してもらえなかった。敬遠の四球で歩かされた。
1対0のまま、9回表を迎えた。
草壁先輩がつかまった。3連打され、ノーアウト満塁。
タイムを取り、マウンドにバッテリーと内野手が集まった。
「深呼吸してください、草壁先輩」と僕は言った。
「ああ……はぁー、すぅー、はぁー、すぅー」
「大丈夫ですか?」
「正直言うと、怖い……」
いつも強気な先輩が震えていた。疲労のせいで球のキレがなくなっている。そのことを誰よりも先輩自身が感じているのだろう。
「ワタシ、投げられるよ」ときみが言った。
「無理だろう?」方舟先輩は首を振った。
きみは包帯をほどいた。指の傷は癒え、血は消えていた。少なくともそう見えた。
「あれ? たいした傷じゃなかったか?」と雨宮先輩が言った。
そんなはずはない。爪がはがれかけていたんだ。だが、いまは治っている。
きみが変身生物だからじゃないのか。
不思議な再生能力でも発揮したんじゃないのか。
そう思ったが、僕は黙っていた。
ピッチャー交代。
一打逆転のピンチを、きみは三者連続三振で切り抜けた。華麗な投球だった。芸術的な映画のように、マウンド上のきみの姿は人々を酔わせた。
本当に薄氷の勝利。
「心臓にわりいぜ」と監督は試合後につぶやいた。
草壁先輩は大きく勝利に貢献したが、打撃では三振しつづけた。
きみの最終回のピッチングは、テレビで放送されるほどのニュースになった。
青十字は大会開幕前は一般的知名度は皆無だったが、ここへ来てにわかに人気が高まっている。
エースのきみはまだ1点も取られていない。
僕はホームランを打ちまくっている。4試合で6本。
きみを筆頭として美人選手揃い。
野球初心者が(ソフトボール経験者の能々さんを含めて)4人もいて、がんばっている。
ナインのうち5人までが1年生。
これまで甲子園に出たことがない弱小校。しかも廃部寸前だった。
廃部の際まで追い込んだ張本人である草壁先輩が多彩な変化球を投げ、打席ではすべて三振している(先輩は妙に注目されている)。
話題性のある要素でいっぱい。奇跡のようなチームだ。
「物語になってきたのじゃ」とネネさんは言う。
しかし、試合前に問題が発生。
きみが右手中指の痛みを僕に訴えたのだ。
指から血がにじみ、爪がはがれかけている。
強い球を投げつづけてきたせいにちがいない。
「これじゃあ投げられないよ」
「投げられる。時根にだけ知っておいてもらいたい」
「だめだよ! 監督に伝えないと」
「やめて!」
「草壁先輩を信じるんだ!」
きみはうつむく。
監督に相談し、先発投手は草壁先輩に変更となった。
「空尾、安心しろ。あたしは勝つ」と先輩は言った。
きみは指に包帯を巻き、1塁手として出場した。
負傷してもベンチで休んでいられないのが、9人しかいないうちのつらいところだ。
準決勝戦、青十字は後攻になった。
草壁先輩は力投した。
1回表、先頭打者にヒットを打たれ、2番バッターにデッドボールでノーアウト1、2塁のピンチとなったが、花咲月光のクリーンナップを3人とも打ち取り、失点しなかった。
1回裏、僕は相手のエース、プロ球界も注目する速球投手、坂本幸一さんからホームランを放った。速い球だったが、きみほどではない。
2回以降も草壁さんは毎回ランナーを背負ったが、ここぞというときに踏ん張り、無失点をつづけた。
僕はもう勝負してもらえなかった。敬遠の四球で歩かされた。
1対0のまま、9回表を迎えた。
草壁先輩がつかまった。3連打され、ノーアウト満塁。
タイムを取り、マウンドにバッテリーと内野手が集まった。
「深呼吸してください、草壁先輩」と僕は言った。
「ああ……はぁー、すぅー、はぁー、すぅー」
「大丈夫ですか?」
「正直言うと、怖い……」
いつも強気な先輩が震えていた。疲労のせいで球のキレがなくなっている。そのことを誰よりも先輩自身が感じているのだろう。
「ワタシ、投げられるよ」ときみが言った。
「無理だろう?」方舟先輩は首を振った。
きみは包帯をほどいた。指の傷は癒え、血は消えていた。少なくともそう見えた。
「あれ? たいした傷じゃなかったか?」と雨宮先輩が言った。
そんなはずはない。爪がはがれかけていたんだ。だが、いまは治っている。
きみが変身生物だからじゃないのか。
不思議な再生能力でも発揮したんじゃないのか。
そう思ったが、僕は黙っていた。
ピッチャー交代。
一打逆転のピンチを、きみは三者連続三振で切り抜けた。華麗な投球だった。芸術的な映画のように、マウンド上のきみの姿は人々を酔わせた。
本当に薄氷の勝利。
「心臓にわりいぜ」と監督は試合後につぶやいた。
草壁先輩は大きく勝利に貢献したが、打撃では三振しつづけた。
きみの最終回のピッチングは、テレビで放送されるほどのニュースになった。
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