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独楽川戦

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 2回戦の相手は独楽川こまがわ高校。
 青十字は後攻で、先発投手はきみ。
 独楽川の1番バッター東西さんは好打者で、きみのストレートをセンター前に弾き返した。
 初のヒットを打たれたが、慌てず騒がず、きみは後続を連続三振に切った。
 相変わらずスプリットが冴えわたっている。どんどんスピードが上がって、ストレートの速度に近づいている。
 僕はきみのスプリットを打つ自信がない。魔球だと思う。
 相手ピッチャーは右サイドスローで投げる2年生の火鳥遥花ひとりはるかさん。
 胸がすごく大きい。ユニフォーム越しでも、投げるたびに胸が揺れるのがわかる。
 しかし、そんなものに惑わされる僕ではない。
 と思っていたのだが、セカンドゴロに打ち取られてしまった。
 火鳥さんはコントロールが良く、スライダーとチェンジアップのふたつの決め球を持つ好投手だった。
 青十字打線は打ちあぐねた。
 投手戦になった。
 4回裏、僕はレフトフライでアウト。
「胸なんかに負けないでよ」ときみに言われてしまった。
「そうだ時根! 煩悩を捨てろ!」と草壁先輩。
「時根くん、むっつりやったんやね」と志賀さん。
 次は打たねば。
 だが、6回裏に打順が回ってきたときは、ついに三振してしまった。
 僕は本当に胸に惑わされているのかもしれない。
「バカ、スケベ!」ときみに罵倒された。
「心の修行をしろ!」と草壁先輩。
「時根くん、見損なった!」と志賀さん。
「失望しました」と胡蝶さん。
「あのあの、この試合、時根くんに期待するのはやめましょう」と能々さん。
「やさしいわたくしでも怒るわよ」と方舟先輩。
「ダサいのじゃ」とネネさん。
「同情するよ。あれは打てねえわ」と雨宮先輩が言ったとき、ベンチの女性陣の目が氷点下以下の冷ややかさになった。
 高浜先生はずっと火鳥投手の胸を見ていた。
 きみはストレートをコーナーぎりぎりに投げつづけ、魔的なスプリットを決め、相手チームに得点させなかった。
 スコアボードにはひたすら0が並んでいた。
 7回裏、方舟先輩と志賀さんの連打で、とうとう均衡を破り、1点をもぎ取った。
 それが決勝点となった。
 きみは完封した。この試合、僕はノーヒットに終わった。
 1対0で薄氷の勝利。
 帰りの電車の中で、僕はきみに口をきいてもらえなかった。
 ちなみに草壁先輩はまたしても全打席三振だった。
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