女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと

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かぐやの秘密

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 ある夜のことでした。
 私はさやかさんの大きないびきで眠ることができず、やれやれと思っていました。
 そのとき、隣で布団にくるまっていたかぐやさんが起き出しました。
 最初は厠へ行くのだろうと思いましたが、彼女は竹槍を持ってトンネルを出て行ったのです。 
 私は首をかしげ、あとをつけました。
 かぐやさんはトンネルの出口付近にもうけられている厠を素通りしました。
 空には満月が光っていました。
 月明かりを頼りに、私はかぐやさんを追いました。
 彼女は訓練場に行き、竹槍を高く掲げ持ちました。
 こんな夜中になにをしているのだろう。
 私はかぐやさんに声をかけようとしましたが、彼女の真剣な面持ちに気づいて、ことばを出すことができませんでした。
 木陰からじっとかぐやさんを見つめました。
 かぐやさんが竹槍から手を離しました。
 しかし、不思議なことに竹槍は地面に落下せず、空中に浮かんでいるのです。
「えいっ」とかぐやさんが気迫を込めて叫ぶと、竹槍はものすごい勢いで宙を飛び、大木に突き刺さりました。
「やったわ、初めて突き刺さったわ」と彼女が歓声をあげました。
 私はびっくりして、かぐやさんにかけ寄りました。
「かぐやさん、いまのはなんなの。竹槍を投げたようには見えなかったけれど」
 彼女はいつものように力強い目で私を見つめました。
「見てしまったのね、みきさん」
「見たわ。竹槍が空中に浮かび、不思議な飛び方をしたところを。なにが起こったのかわからないわ」
 かぐやさんは言いました。
「みんなを怖がらせると思って秘密にしていたのだけど……」
 私はごくりとつばを飲みました。
「念動力を使ったのよ。実は私は超能力者なの。ときどき夜に秘密の特訓をしているの」
「かぐやさんが超能力者だったなんて」
 私は驚きましたが、怖がるどころか、千人もの力強い味方を得た思いがしました。
「怖がるなんてとんでもないわ。すごい、本当に米軍に目にもの見せられるかもしれないわ」
 かぐやさんは首を振りました。
「わたしの念動力はせいぜい竹槍を飛ばすくらいしかできない。機関銃を撃たれては、どうしようもない。みきさんやさやかさんが言うとおり、竹槍なんかでは、米軍を撃退することはできないわ。悔しいけれど……」
 私はかぐやさんの弱音を初めて聞きました。
 私は首を振り、彼女の手を握って、「奇襲攻撃をかけましょう」と言いました。
「私たちはゲリラなのよ。山中に隠れて、登ってくる米軍兵士を不思議な力で攻撃しましょう。きっと敵にはなにが起こっているのかわからないはずよ」 
「そうね。ひとりと言わず、十人と相討ちになってやるわ」
「相討ちになんてならないで、かぐやさん。真珠湾奇襲のように、勝って帰るのよ」
 私はかぐやさんに微笑みかけました。
「ありがとう、みきさん」
 そのとき、かぐやさんが私を抱きしめてくれました。
 なんて素敵なぬくもりなんだろう。
 この人とともに戦って死ぬのだ、と私はまた思いました。 

 翌朝、私は「念動力のことをみんなにも教えましょう」とかぐやさんに提案しました。
「みんなに怖がられるのが嫌なの。気味が悪いと思われるかもしれないし」
「そんなことはないと思う。みんな、頼もしいと感じるにちがいないわ。隠さなければ、念動力の訓練を昼間にできるし、かぐやさんの能力を使った作戦にみんなの協力を得ることもできるわ」
「私の能力を使った作戦?」
「そうよ。たとえば、かぐやさんに敵の注意を引いてもらって、他の隊員は背後から挟み撃ちにするとか、有効な作戦だと思わない?」
 かぐやさんがびっくりしたような顔で私を見ました。
「みきさん、あなた、なかなかの策士ね」
「かぐやさんが超能力を使い、私は頭を使う。秩父女子竹槍攻撃隊は精鋭になるのよ」
「わかったわ、みきさん。私の超能力をみんなにも伝えることにするわ」
 その日の訓練中に、かぐやさんは念動力で竹槍を飛ばし、大木の幹に突き刺してみせました。
 もみじ先生を含めた隊員たちは、あっけに取られていました。
「私は超能力者なのです。いままで隠していてごめんなさい」と言ったかぐやさんの周りに、みんながわっと歓声をあげて集まりました。
「すごいよ、かぐやさん」
「心強いわ」
「この力で米兵をやっつけてください。もちろん私もお手伝いいたします」
 さやかさんはとりわけ大きく喜んでいました。
「かぐやさんは人とはちがうと思っていたわ。わたくし、なにがあってもあなたについていくわ」
「ありがとう、さやかさん」
 かぐやさんは涙ぐんでいました。
 私はさやかさんとかぐやさんの仲が深まったのを喜びましたが、同時にもやもやするものも感じていました。
 これが嫉妬なのかな、と私はぼんやりと思っていました。

「1本の竹槍を飛ばすだけでは、敵を撃退することはできないわ。同時に複数の竹槍を飛ばしたり、連続で攻撃したりできないかしら」
 私はかぐやさんに多くを要求しました。彼女に策士と言われて、頭を使おう、と私は決意していたのです。そして、彼女の能力をどのように向上させるべきか考え、提案したのでした。
「わかったわ、訓練してみる」とかぐやさんは答えてくれました。
 彼女は3本の竹槍を同時に空中に浮かべ、発射する訓練を始めました。
 最初はとぼしい威力しかありませんでしたが、日を追って力強くなっていき、訓練開始から20日ほど経過した11月1日には、3本の竹槍が樹木に突き刺さるほどになりました。
「素晴らしいわ、かぐやさん。戦艦大和の3連装主砲みたいだわ」と私はたたえました。
「大袈裟ねえ、みきさんは。大和は46センチ砲、私のはただの竹槍よ」
「いいえ、かぐやさんは私たちの大和なのよ。希望の星なの」
「その大和も沈没したけれど……」
 かぐやさんは陰りのある表情で言いました。
「沈没してもなお、大和は私たち日本国民の誇りだわ。あの美しい戦艦のように、私たちも美しく散りましょう」
「そうね。私が意気消沈していてはいけないわね。がんばるわ、みきさん」
 かぐやさんは11月に入ってもなお特訓をつづけ、3本の竹槍を連続して発射しつづける能力を得るようになっていきました。
 私は武甲山中の竹林で竹を伐り、ナイフで鋭い切っ先を作り、たくさんの竹槍を作りました。隊員のみんなが竹槍製造を手伝ってくれました。かぐやさんの超能力が冴えわたるのを見て、私たち秩父女子竹槍攻撃隊の士気は高揚していました。
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