プリンセスプライド創業記

みらいつりびと

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第1話 プリンセスプライド創業の始まり

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「浅葱、社長命令だ。人間を愛し、人間から愛されるロボットを造れ」
 おじいさまから突然そんなことを言われて、私は絶句した。
「はあ? そんなの造れっこないよ」
 馬鹿言ってるんじゃないよ、と内心で憤慨して言い返した。
 
 私の名前は本田浅葱ほんだあさぎ。29歳、女性だ。
 本田ロボット工業株式会社の創業社長の孫娘。
 同社で企画開発部長を務めている。
 1月10日火曜日、午前10時、私は社長室に呼ばれて、本田蒼ほんだあお社長からそんな無茶振りをされたのだ。

 私は社長が発狂したのかと一瞬真剣に悩んだ。
 企画開発部長がそんな夢物語を追ったら、会社はまちがいなく倒産する。

「我が社は倒産しない。なぜなら、おまえが起業した会社がその事業を行うからだ」
「なにそれ? 私に起業しろって言うの? この会社を辞めて?」
「そのとおりだ。ロボット業界に革命を起こすような会社を創業しろ」
 私はまた絶句した。嫌だ。社長になんてなりたくない。そもそも部長にだってなりたくなかった。
 ずっとただのロボット研究者でいたかったのだ。

「ロボット業界の競争は激しい。我が社は世界第2位の売上高を誇る総合ロボットメーカーだが、安穏としていたら、たちまちその地位から転落し、倒産し、多くの社員を路頭に迷わせてしまうだろう」
「だから私が苦労して、介護、医療、秘書、経理なんかができるアンドロイドを開発しているんじゃないの。その私に仕事を辞めろと言うの? なんで? どうして?」
「仕事ができるだけのアンドロイドなんてつまらん。人間そのもののアンドロイドを造れ。愛情を持つアンドロイドを」
「はあ……。そんなの絶対に無理だけど、社長命令なら、社内でプロジェクトチームを作って取り組むわよ」

「そんな姿勢では失敗するのは目に見えている。背水の陣でやれ。失敗したら、破滅する覚悟で」
「いくら社長でも、会社を強制的に辞めさせて、そんな無茶苦茶な事業を始めさせる権利はないわよ。お断りします」
「おれのひとり娘、そしておまえの母親、本田深紅ほんだしんくは自我を持つAIを研究していた。意思と感情を持つAIを発明しようとしていた。優秀なAI研究家であり、AI哲学者だった」
「でもその仕事は棘の道だった。お母さまは研究の途上で深刻な精神障害を患い、自殺した。おじいさまは私にその轍を踏ませたいの?」
「成功しろ、浅葱。意思と感情を持つアンドロイドを造り、この世界に革命を起こせ。我が社など軽々と飛び越してくれ。世界第1位のロボットメーカーを創るんだ」

「無理よ」
「部長では無理だろうな。社長になり、優秀な人材を指揮して、10年以内に深紅の夢を実現させてくれ」
 私はおじいさまの目を冷ややかに見つめた。
「面白いじゃない。やってもいいわ。でも条件がある。本田ロボット工業株式会社の人材を10人、引き抜かせてほしい。それが誰であっても妨害せず、私の会社の社員にしてほしい」
「新会社は我が社の子会社だ。おまえが希望する人物を出向させることにしよう」
「子会社というのでは不満だわ。私の会社にしたい。そうね、関連会社で、第1位の株主が私個人、第2位の株主がおじいさま個人、というのが好ましいわ」
「わかった。おれ個人として出資しよう」
「私はお母さまから相続した全財産を注ぎ込むことにするわ」
「それはいい。それでこそ背水の陣だ」
 
「会社名はどうする? 名前ぐらいないと、出向しろとも言えん」
 私は脳をフル回転させて、その場で新会社の命名をした。
「株式会社プリンセスプライド」
「うん。いいんじゃないか。おまえは4月1日から、そのプリンセスプライドの代表取締役社長だ。創業メンバーの10名の人選を速やかに行え。人事は3月1日には決定しておきたい。急げ」
「創業メンバーは11名よ。私を含めて」
「細かいツッコミは聞きたくねえ。さっさと行動しろ」
 私は手振りで社長室から追い払われた。
 そのときから株式会社プリンセスプライドの創業準備が始まったのだ。
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