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新三国時代
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新野の戦いの後、私は懐かしい新野城で父、劉備玄徳と会った。
入城し、城主室へ行くと、父は関羽、張飛と酒を飲んでいた。
「禅、ご苦労。おまえも座って、果汁でも飲め」
「父上もお疲れさまでした。ついに曹操を討ちましたね」
私がそう言うと、父は涙を浮かべた。
「三人で昔話をしておった。董卓と戦っていたときのことなどを。曹操は英傑であった。禅、彼は董卓と同じではない。檄文は檄文として許容したが、彼は董卓のように悪逆非道な人間ではなかった。天下を統一し、新たな秩序をつくることをめざしていたのじゃ。それは漢の劉王朝ではなく、魏の曹王朝であっただろうが、乱世を終結させようとしていたことにちがいはない。わしは、曹操を尊敬しておった」
私は驚いて、立ち尽くした。
「まことに見事な男でした」
関羽も泣いていた。
「ちっ、兄貴たちも涙もろくなっちまったな」
そういう張飛も涙を流していた。
私は果汁を飲み、三人が泣きやむのを待った。
父が酒杯を干し、厳しい顔付きになった。
「禅、まだ戦いはつづく」
「はい」
「天下の情勢分析はしておるか」
「はい。ある程度の情報は得ております。呉軍は予州、徐州、兗州を占領し、青洲を攻めています。呉はこの四州を新たに手に入れるでしょう」
「河北はいまだ魏のものじゃ。冀州、幷州、幽州。曹丕は三州の守備をかためておろう。ここは簡単には獲れんぞ」
曹丕の側近には、前世で諸葛亮孔明の宿敵だった司馬懿仲達がいる。確かにすぐには奪えそうにない。
「涼州は馬超が押さえつつあります。雍州は長安を獲った私が治めることができると思います」
「そうじゃのう。いま権力の空白地帯となっているのは司州じゃ。禅、おまえは明日にでも軍を率いて北上し、洛陽を落としておけ」
落とし物でも拾わせるような気軽さで、父は私に命じた。
司州は押さえておかなくてはならないと考えてはいた。それにしても、父は意外と人使いが荒い。
「はい」と答えるしかなかった。まだまだ戦いはつづく。
「天下三分時代は大きく様相を変えますが、まだつづきます」と関羽が言った。
「司州、雍州、荊州、益州、涼州を有する蜀。揚州、交州に予州、徐州、兗州、青洲を加えた呉。冀州、幷州、幽州を領する魏。新たな三分時代が始まります」
「もう三国時代と言ってもよかろう。曹操は魏公と称し、まもなく魏王になるつもりであった。わしは蜀王になるつもりはないが、蜀も実質的には国である。漢は蜀、魏、呉の三国に分かれたのじゃ」
「兄上が蜀王になられてもよいと私は思います」
「俺もそう思っているぞ、劉備兄貴」
「考えておこう」
義兄弟たちは酒を注ぎ合い、飲みつづけた。
「禅よ、これから漢王室をどうする?」
「鄴を攻め取り、献帝陛下には蜀漢の帝となっていただきたいと思います」
父は酒杯を眺めながら、苦い顔をしていた。
「本音を言ってみよ、禅」
私は口を割らなかった。まだ言ってはならないと思っていた。
「言わぬか。ではわしが言おう。蜀が天下統一を果たした暁には、献帝陛下から帝位を禅譲していただき、新たな劉王朝を開くべきだとわしは考えておる。名だけでなく、実力のある皇帝が新王朝を始めるのじゃ」
父は酒を飲んだ。
関羽と張飛も黙って飲んだ。
重苦しい空気が城主室を覆った。
「ははははは、気が早かったな。天下統一への道のりはまだ遠い。いま言ったことは忘れよ」
「私は眠くなりました。失礼します」と私は言った。
「おう、子どもは早く寝ろ」
私と入れちがいで趙雲が城主室に入ってきた。
劉備、関羽、張飛、趙雲が笑いさざめくのを聞きながら、私は扉を閉めた。
翌日、劉禅軍は新野から出発し、洛陽をめざした。
司州は本当に権力の空白地帯で、まったく抵抗する勢力はなく、簡単に洛陽に入城することができた。
入城し、城主室へ行くと、父は関羽、張飛と酒を飲んでいた。
「禅、ご苦労。おまえも座って、果汁でも飲め」
「父上もお疲れさまでした。ついに曹操を討ちましたね」
私がそう言うと、父は涙を浮かべた。
「三人で昔話をしておった。董卓と戦っていたときのことなどを。曹操は英傑であった。禅、彼は董卓と同じではない。檄文は檄文として許容したが、彼は董卓のように悪逆非道な人間ではなかった。天下を統一し、新たな秩序をつくることをめざしていたのじゃ。それは漢の劉王朝ではなく、魏の曹王朝であっただろうが、乱世を終結させようとしていたことにちがいはない。わしは、曹操を尊敬しておった」
私は驚いて、立ち尽くした。
「まことに見事な男でした」
関羽も泣いていた。
「ちっ、兄貴たちも涙もろくなっちまったな」
そういう張飛も涙を流していた。
私は果汁を飲み、三人が泣きやむのを待った。
父が酒杯を干し、厳しい顔付きになった。
「禅、まだ戦いはつづく」
「はい」
「天下の情勢分析はしておるか」
「はい。ある程度の情報は得ております。呉軍は予州、徐州、兗州を占領し、青洲を攻めています。呉はこの四州を新たに手に入れるでしょう」
「河北はいまだ魏のものじゃ。冀州、幷州、幽州。曹丕は三州の守備をかためておろう。ここは簡単には獲れんぞ」
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「涼州は馬超が押さえつつあります。雍州は長安を獲った私が治めることができると思います」
「そうじゃのう。いま権力の空白地帯となっているのは司州じゃ。禅、おまえは明日にでも軍を率いて北上し、洛陽を落としておけ」
落とし物でも拾わせるような気軽さで、父は私に命じた。
司州は押さえておかなくてはならないと考えてはいた。それにしても、父は意外と人使いが荒い。
「はい」と答えるしかなかった。まだまだ戦いはつづく。
「天下三分時代は大きく様相を変えますが、まだつづきます」と関羽が言った。
「司州、雍州、荊州、益州、涼州を有する蜀。揚州、交州に予州、徐州、兗州、青洲を加えた呉。冀州、幷州、幽州を領する魏。新たな三分時代が始まります」
「もう三国時代と言ってもよかろう。曹操は魏公と称し、まもなく魏王になるつもりであった。わしは蜀王になるつもりはないが、蜀も実質的には国である。漢は蜀、魏、呉の三国に分かれたのじゃ」
「兄上が蜀王になられてもよいと私は思います」
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「考えておこう」
義兄弟たちは酒を注ぎ合い、飲みつづけた。
「禅よ、これから漢王室をどうする?」
「鄴を攻め取り、献帝陛下には蜀漢の帝となっていただきたいと思います」
父は酒杯を眺めながら、苦い顔をしていた。
「本音を言ってみよ、禅」
私は口を割らなかった。まだ言ってはならないと思っていた。
「言わぬか。ではわしが言おう。蜀が天下統一を果たした暁には、献帝陛下から帝位を禅譲していただき、新たな劉王朝を開くべきだとわしは考えておる。名だけでなく、実力のある皇帝が新王朝を始めるのじゃ」
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