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雒城総攻撃
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綿竹で降兵を加えた新たな軍の編成をして、調練を行った。
葭萌城、梓潼城、涪城に兵を送り、補給路の安全対策も向上させた。
綿竹に一か月ほど滞在してから、私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠は五万の兵を率い、雒県へ向かった。
法正と李厳は一万の兵とともに綿竹城に残った。
彼らは後方の安全と補給、占領地慰撫を担当する。
雒県に侵攻。
敵は雒城に籠っていた。堅城である。
前世では、劉備軍はこの城の陥落に一年間も要した。龐統はここで矢に当たり、命を落とした。
雒城を守っているのは、劉璋の長男の劉循である。
他に呉懿、呉蘭、雷銅、綿竹から逃走した黄権といった将が城内にいることを、女忍隊の忍鶴が教えてくれた。
忍鶴は、忍凜の妹である。
城内の兵力は、およそ三万人らしい。
「文長、この城は簡単には落ちませんよ」
「わかっています。じっくりと攻撃します。まずは、投石車で城兵に圧力をかけます」
魏延が攻城の指揮を執った。
五万の兵で包囲し、補給線を断った。
増産し、五十台になっている投石車で、毎日巨石による攻撃を行った。
黄忠は不満そうだった。
ときどき魏延と議論していた。
「なぜ総攻撃をかけんのだ、魏延」
「守りの堅い城です。無理な攻めをすると、味方に相当な犠牲者が出ます」
「投石だけでは、城は落ちんぞ」
「わかっています。しかし、敵兵を弱らせることはできます。弱り切ったときに攻撃します。それが科学的な戦争だと考えております」
「おまえは正しいのかもしれん。しかし、こんな戦いばかりをしていると、兵は強くはならん。死地で戦ってこそ、兵は強くなる。強兵を育てなければ、曹操のような強敵には勝てんぞ」
黄忠にそう言われて、魏延は黙り込み、腕組みをした。
「黄忠殿の言葉は、重みがありました」と魏延は私に言った。
「総攻撃をする気になりましたか、文長」
「乾坤一擲の勝負。そういうものを経験する必要があるのかもしれません」
「では、やってみたらどうですか」
「準備を進めます」
魏延は綿竹城にいる法正に伝令を出し、竹梯子五百台を送るよう要請した。
竹梯子は、二本の太い竹に、木材を横の段として渡した梯子である。
雒城の近辺に、竹林や森林があった。
魏延は雒城包囲兵を三万に減らし、二万の兵に竹梯子の製造をさせた。
一か月後、劉禅軍は二千台の竹梯子を所有していた。
私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠とで軍議を行った。
「明後日、夜明けとともに総攻撃をかけます。作戦は、魏延から説明させます」と私は言った。
「今回の作戦は単純です。私の隊と黄忠殿の隊のすべてを投入して、いっせいに突撃し、城壁に梯子をかけ、城内に突入します。衝車も投入し、城門を突き破ります」と魏延は説明した。
「それはよい。命がけで、雒城を陥落させてやろうぞ」と黄忠は言った。
「騎兵はどういたしましょうか」と孟達が魏延にたずねた。
「城門が開くまで待機してください。開門したら、突撃です」
「わかりました」
「魏延殿、親衛隊はどうすれば」と王平が言った。
「今回の戦い、苛烈にやります。もしかしたら、負けるかもしれません。万が一攻撃が失敗したら、王平殿は劉禅様を守って綿竹城へ退却してください」
「承知しました。私の役目は劉禅様の守護。絶対にお守りします。魏延殿は、安心して、攻撃に専念してください」
「よろしく頼みます」
魏延は総攻撃を決断したが、なにがあっても私の命は守ろうとしている。
私は総大将だ。
生きていれば、再起できる。私は兵とともに死ぬのが仕事ではなく、生き延びることが仕事なのかもしれない。
父劉備のように、逃げるべきときは、迷わずに逃げるべきなのだ。
だが、私の口からは、別の言葉が飛び出した。
「必要ならば、親衛隊も突撃させます。私は死を怖れてはいません」
黄忠が私を睨みつけた。
「劉禅様、あなたはこんなところで死んではなりません」
ものすごい気迫を向けられて、私は絶句した。
「あなたの命は、魏と総力戦をするときまで、必要なのです。我らが負けたら、かまわずに逃げてください」
私は黙ってうなずくしかなかった。
早朝に鉦と太鼓が鳴り、総攻撃が始まった。
歩兵たちが梯子をかかえて走る。
二千台の梯子が城壁に立てかけられ、兵が登る。
城壁の上からは矢が射かけられ、梯子から何人も兵が落ちた。
次の兵が登っていく。
何人かが城壁の上にたどり着き、血で血を洗う戦いが始まった。
衝車が激しく城門に激突する。
私はまばたきもできずに、総攻撃を見守っていた。
黄忠が梯子を登り、城壁の上に立ち、たちまち数人の敵兵を斬り殺すのを見た。
しばらく後、城門が内側から開けられた。
「突入せよ」と黄忠が叫んだ。彼が城門を開けたようだ。
孟達率いる騎兵隊が、まっしぐらに突撃していった。
その後一時間ほどの戦闘で、けりが付いた。
劉循が白旗を掲げ、投降してきたのだ。
呉懿、呉蘭、雷銅も降伏した。
魏延が私のもとへ来て、戦勝の報告をした。
「勝ちました。雒城は我らのものとなりました」
「ご苦労でした、文長。殊勲者は、黄忠ですね。私は彼が城門を開けるのを見ました」
「はい。黄忠殿が最高の働きをされました」
「黄忠に感謝を伝えたい。呼んでください」
魏延は涙を流しながら、首を振った。
私は嫌な予感に襲われた。
「まさか……」
「黄忠殿は、黄権と戦い、相討ちとなって、戦死されました」
「黄忠が……死んだ?」
私は呆然とした。
「あの方は、兵の先頭に立ち、敵兵をなぎ倒していました。その前に立ちふさがったのが、黄権でした。ふたりは刺し違え、ともに死にました。武人の最期として、見習いたいような死に方でした」
「うう……黄忠……」
私も泣いた。
やはり彼は、死に場所を求めていたのだ。
雒城の戦いで私に勝利を贈り、見事に散った。
黄忠漢升、雒城で死す。
諡は、剛侯。
葭萌城、梓潼城、涪城に兵を送り、補給路の安全対策も向上させた。
綿竹に一か月ほど滞在してから、私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠は五万の兵を率い、雒県へ向かった。
法正と李厳は一万の兵とともに綿竹城に残った。
彼らは後方の安全と補給、占領地慰撫を担当する。
雒県に侵攻。
敵は雒城に籠っていた。堅城である。
前世では、劉備軍はこの城の陥落に一年間も要した。龐統はここで矢に当たり、命を落とした。
雒城を守っているのは、劉璋の長男の劉循である。
他に呉懿、呉蘭、雷銅、綿竹から逃走した黄権といった将が城内にいることを、女忍隊の忍鶴が教えてくれた。
忍鶴は、忍凜の妹である。
城内の兵力は、およそ三万人らしい。
「文長、この城は簡単には落ちませんよ」
「わかっています。じっくりと攻撃します。まずは、投石車で城兵に圧力をかけます」
魏延が攻城の指揮を執った。
五万の兵で包囲し、補給線を断った。
増産し、五十台になっている投石車で、毎日巨石による攻撃を行った。
黄忠は不満そうだった。
ときどき魏延と議論していた。
「なぜ総攻撃をかけんのだ、魏延」
「守りの堅い城です。無理な攻めをすると、味方に相当な犠牲者が出ます」
「投石だけでは、城は落ちんぞ」
「わかっています。しかし、敵兵を弱らせることはできます。弱り切ったときに攻撃します。それが科学的な戦争だと考えております」
「おまえは正しいのかもしれん。しかし、こんな戦いばかりをしていると、兵は強くはならん。死地で戦ってこそ、兵は強くなる。強兵を育てなければ、曹操のような強敵には勝てんぞ」
黄忠にそう言われて、魏延は黙り込み、腕組みをした。
「黄忠殿の言葉は、重みがありました」と魏延は私に言った。
「総攻撃をする気になりましたか、文長」
「乾坤一擲の勝負。そういうものを経験する必要があるのかもしれません」
「では、やってみたらどうですか」
「準備を進めます」
魏延は綿竹城にいる法正に伝令を出し、竹梯子五百台を送るよう要請した。
竹梯子は、二本の太い竹に、木材を横の段として渡した梯子である。
雒城の近辺に、竹林や森林があった。
魏延は雒城包囲兵を三万に減らし、二万の兵に竹梯子の製造をさせた。
一か月後、劉禅軍は二千台の竹梯子を所有していた。
私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠とで軍議を行った。
「明後日、夜明けとともに総攻撃をかけます。作戦は、魏延から説明させます」と私は言った。
「今回の作戦は単純です。私の隊と黄忠殿の隊のすべてを投入して、いっせいに突撃し、城壁に梯子をかけ、城内に突入します。衝車も投入し、城門を突き破ります」と魏延は説明した。
「それはよい。命がけで、雒城を陥落させてやろうぞ」と黄忠は言った。
「騎兵はどういたしましょうか」と孟達が魏延にたずねた。
「城門が開くまで待機してください。開門したら、突撃です」
「わかりました」
「魏延殿、親衛隊はどうすれば」と王平が言った。
「今回の戦い、苛烈にやります。もしかしたら、負けるかもしれません。万が一攻撃が失敗したら、王平殿は劉禅様を守って綿竹城へ退却してください」
「承知しました。私の役目は劉禅様の守護。絶対にお守りします。魏延殿は、安心して、攻撃に専念してください」
「よろしく頼みます」
魏延は総攻撃を決断したが、なにがあっても私の命は守ろうとしている。
私は総大将だ。
生きていれば、再起できる。私は兵とともに死ぬのが仕事ではなく、生き延びることが仕事なのかもしれない。
父劉備のように、逃げるべきときは、迷わずに逃げるべきなのだ。
だが、私の口からは、別の言葉が飛び出した。
「必要ならば、親衛隊も突撃させます。私は死を怖れてはいません」
黄忠が私を睨みつけた。
「劉禅様、あなたはこんなところで死んではなりません」
ものすごい気迫を向けられて、私は絶句した。
「あなたの命は、魏と総力戦をするときまで、必要なのです。我らが負けたら、かまわずに逃げてください」
私は黙ってうなずくしかなかった。
早朝に鉦と太鼓が鳴り、総攻撃が始まった。
歩兵たちが梯子をかかえて走る。
二千台の梯子が城壁に立てかけられ、兵が登る。
城壁の上からは矢が射かけられ、梯子から何人も兵が落ちた。
次の兵が登っていく。
何人かが城壁の上にたどり着き、血で血を洗う戦いが始まった。
衝車が激しく城門に激突する。
私はまばたきもできずに、総攻撃を見守っていた。
黄忠が梯子を登り、城壁の上に立ち、たちまち数人の敵兵を斬り殺すのを見た。
しばらく後、城門が内側から開けられた。
「突入せよ」と黄忠が叫んだ。彼が城門を開けたようだ。
孟達率いる騎兵隊が、まっしぐらに突撃していった。
その後一時間ほどの戦闘で、けりが付いた。
劉循が白旗を掲げ、投降してきたのだ。
呉懿、呉蘭、雷銅も降伏した。
魏延が私のもとへ来て、戦勝の報告をした。
「勝ちました。雒城は我らのものとなりました」
「ご苦労でした、文長。殊勲者は、黄忠ですね。私は彼が城門を開けるのを見ました」
「はい。黄忠殿が最高の働きをされました」
「黄忠に感謝を伝えたい。呼んでください」
魏延は涙を流しながら、首を振った。
私は嫌な予感に襲われた。
「まさか……」
「黄忠殿は、黄権と戦い、相討ちとなって、戦死されました」
「黄忠が……死んだ?」
私は呆然とした。
「あの方は、兵の先頭に立ち、敵兵をなぎ倒していました。その前に立ちふさがったのが、黄権でした。ふたりは刺し違え、ともに死にました。武人の最期として、見習いたいような死に方でした」
「うう……黄忠……」
私も泣いた。
やはり彼は、死に場所を求めていたのだ。
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