劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
18 / 39

雒城総攻撃

しおりを挟む
 綿竹で降兵を加えた新たな軍の編成をして、調練を行った。
 葭萌城、梓潼城、涪城に兵を送り、補給路の安全対策も向上させた。

 綿竹に一か月ほど滞在してから、私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠は五万の兵を率い、雒県へ向かった。
 法正と李厳は一万の兵とともに綿竹城に残った。
 彼らは後方の安全と補給、占領地慰撫を担当する。

 雒県に侵攻。
 敵は雒城に籠っていた。堅城である。
 前世では、劉備軍はこの城の陥落に一年間も要した。龐統はここで矢に当たり、命を落とした。

 雒城を守っているのは、劉璋の長男の劉循である。
 他に呉懿、呉蘭、雷銅、綿竹から逃走した黄権といった将が城内にいることを、女忍隊の忍鶴が教えてくれた。
 忍鶴は、忍凜の妹である。
 城内の兵力は、およそ三万人らしい。

「文長、この城は簡単には落ちませんよ」
「わかっています。じっくりと攻撃します。まずは、投石車で城兵に圧力をかけます」

 魏延が攻城の指揮を執った。
 五万の兵で包囲し、補給線を断った。
 増産し、五十台になっている投石車で、毎日巨石による攻撃を行った。

 黄忠は不満そうだった。
 ときどき魏延と議論していた。
「なぜ総攻撃をかけんのだ、魏延」
「守りの堅い城です。無理な攻めをすると、味方に相当な犠牲者が出ます」
「投石だけでは、城は落ちんぞ」
「わかっています。しかし、敵兵を弱らせることはできます。弱り切ったときに攻撃します。それが科学的な戦争だと考えております」
「おまえは正しいのかもしれん。しかし、こんな戦いばかりをしていると、兵は強くはならん。死地で戦ってこそ、兵は強くなる。強兵を育てなければ、曹操のような強敵には勝てんぞ」
 黄忠にそう言われて、魏延は黙り込み、腕組みをした。

「黄忠殿の言葉は、重みがありました」と魏延は私に言った。
「総攻撃をする気になりましたか、文長」
「乾坤一擲の勝負。そういうものを経験する必要があるのかもしれません」
「では、やってみたらどうですか」
「準備を進めます」

 魏延は綿竹城にいる法正に伝令を出し、竹梯子五百台を送るよう要請した。
 竹梯子は、二本の太い竹に、木材を横の段として渡した梯子である。
 雒城の近辺に、竹林や森林があった。
 魏延は雒城包囲兵を三万に減らし、二万の兵に竹梯子の製造をさせた。
 一か月後、劉禅軍は二千台の竹梯子を所有していた。

 私と魏延、黄忠、孟達、王平、馬忠とで軍議を行った。
「明後日、夜明けとともに総攻撃をかけます。作戦は、魏延から説明させます」と私は言った。
「今回の作戦は単純です。私の隊と黄忠殿の隊のすべてを投入して、いっせいに突撃し、城壁に梯子をかけ、城内に突入します。衝車も投入し、城門を突き破ります」と魏延は説明した。
「それはよい。命がけで、雒城を陥落させてやろうぞ」と黄忠は言った。
「騎兵はどういたしましょうか」と孟達が魏延にたずねた。
「城門が開くまで待機してください。開門したら、突撃です」
「わかりました」
「魏延殿、親衛隊はどうすれば」と王平が言った。
「今回の戦い、苛烈にやります。もしかしたら、負けるかもしれません。万が一攻撃が失敗したら、王平殿は劉禅様を守って綿竹城へ退却してください」 
「承知しました。私の役目は劉禅様の守護。絶対にお守りします。魏延殿は、安心して、攻撃に専念してください」
「よろしく頼みます」

 魏延は総攻撃を決断したが、なにがあっても私の命は守ろうとしている。
 私は総大将だ。
 生きていれば、再起できる。私は兵とともに死ぬのが仕事ではなく、生き延びることが仕事なのかもしれない。
 父劉備のように、逃げるべきときは、迷わずに逃げるべきなのだ。
 だが、私の口からは、別の言葉が飛び出した。
「必要ならば、親衛隊も突撃させます。私は死を怖れてはいません」
 黄忠が私を睨みつけた。
「劉禅様、あなたはこんなところで死んではなりません」
 ものすごい気迫を向けられて、私は絶句した。
「あなたの命は、魏と総力戦をするときまで、必要なのです。我らが負けたら、かまわずに逃げてください」
 私は黙ってうなずくしかなかった。

 早朝に鉦と太鼓が鳴り、総攻撃が始まった。
 歩兵たちが梯子をかかえて走る。
 二千台の梯子が城壁に立てかけられ、兵が登る。
 城壁の上からは矢が射かけられ、梯子から何人も兵が落ちた。
 次の兵が登っていく。
 何人かが城壁の上にたどり着き、血で血を洗う戦いが始まった。
 衝車が激しく城門に激突する。
 私はまばたきもできずに、総攻撃を見守っていた。
 黄忠が梯子を登り、城壁の上に立ち、たちまち数人の敵兵を斬り殺すのを見た。
 しばらく後、城門が内側から開けられた。
「突入せよ」と黄忠が叫んだ。彼が城門を開けたようだ。
 孟達率いる騎兵隊が、まっしぐらに突撃していった。

 その後一時間ほどの戦闘で、けりが付いた。
 劉循が白旗を掲げ、投降してきたのだ。
 呉懿、呉蘭、雷銅も降伏した。

 魏延が私のもとへ来て、戦勝の報告をした。
「勝ちました。雒城は我らのものとなりました」
「ご苦労でした、文長。殊勲者は、黄忠ですね。私は彼が城門を開けるのを見ました」
「はい。黄忠殿が最高の働きをされました」
「黄忠に感謝を伝えたい。呼んでください」
 魏延は涙を流しながら、首を振った。
 私は嫌な予感に襲われた。
「まさか……」

「黄忠殿は、黄権と戦い、相討ちとなって、戦死されました」
「黄忠が……死んだ?」
 私は呆然とした。
「あの方は、兵の先頭に立ち、敵兵をなぎ倒していました。その前に立ちふさがったのが、黄権でした。ふたりは刺し違え、ともに死にました。武人の最期として、見習いたいような死に方でした」
「うう……黄忠……」
 私も泣いた。
 やはり彼は、死に場所を求めていたのだ。
 雒城の戦いで私に勝利を贈り、見事に散った。
 
 黄忠漢升、雒城で死す。
 諡は、剛侯。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

劉備が勝つ三国志

みらいつりびと
歴史・時代
劉備とは楽団のような人である。 優秀な指揮者と演奏者たちがいるとき、素晴らしい音色を奏でた。 初期の劉備楽団には、指揮者がいなかった。 関羽と張飛という有能な演奏者はいたが、彼らだけではよい演奏にはならなかった。 諸葛亮という優秀なコンダクターを得て、中国史に残る名演を奏でることができた。 劉備楽団の演奏の数々と終演を描きたいと思う。史実とは異なる演奏を……。 劉備が主人公の架空戦記です。全61話。 前半は史実寄りですが、徐々に架空の物語へとシフトしていきます。

女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと
SF
 えいえいおう、えいえいおうと声をあげながら、私たちは竹槍を突く訓練をつづけています。  約2メートルほどの長さの竹槍をひたすら前へ振り出していると、握力と腕力がなくなってきます。とてもつらい。  訓練後、私たちは山腹に掘ったトンネル内で休憩します。 「竹槍で米軍相手になにができるというのでしょうか」と私が弱音を吐くと、かぐやさんに叱られました。 「みきさん、大和撫子たる者、けっしてあきらめてはなりません。なにがなんでも日本を守り抜くという強い意志を持って戦い抜くのです。私はアメリカの兵士のひとりと相討ちしてみせる所存です」  かぐやさんの目は彼女のことばどおり強い意志であふれていました……。  日米戦争の偽史SF短編です。全4話。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

曹操桜【曹操孟徳の伝記 彼はなぜ天下を統一できなかったのか】

みらいつりびと
歴史・時代
赤壁の戦いには謎があります。 曹操軍は、周瑜率いる孫権軍の火攻めにより、大敗北を喫したとされています。 しかし、曹操はおろか、主な武将は誰も死んでいません。どうして? これを解き明かす新釈三国志をめざして、筆を執りました。 曹操の徐州大虐殺、官渡の捕虜虐殺についても考察します。 劉備は流浪しつづけたのに、なぜ関羽と張飛は離れなかったのか。 呂布と孫堅はどちらの方が強かったのか。 荀彧、荀攸、陳宮、程昱、郭嘉、賈詡、司馬懿はどのような軍師だったのか。 そんな謎について考えながら描いた物語です。 主人公は曹操孟徳。全46話。

『帝国の破壊』−枢軸国の戦勝した世界−

皇徳❀twitter
歴史・時代
この世界の欧州は、支配者大ゲルマン帝国[戦勝国ナチスドイツ]が支配しており欧州は闇と包まれていた。 二人の特殊工作員[スパイ]は大ゲルマン帝国総統アドルフ・ヒトラーの暗殺を実行する。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

処理中です...