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益州攻略開始
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女忍隊が天下の情報を南鄭城に集めてくれている。
曹操軍は涼州で叛乱を起こした馬超や韓遂の軍と戦っている。
孫権軍は北伐に出て、揚州九江郡の合肥を攻めている。
魏軍は涼州と合肥の二方面で戦線を抱え、荊州や益州に軍旅を出す余力はない。
私が劉璋軍と戦う機は熟していた。
劉璋から手紙が届いた。
劉禅殿、漢中郡を平定してくれたこと、ありがたいと思っている。
しかし、戦は終わったので、貸し与えた法正と孟達、そして一万の兵を返していただきたい。
また、できるだけすみやかに荊州へ帰り、漢中郡を明け渡してもらいたい。
益州全土はこの劉璋のものである。
報酬は金銭でお支払いする。
以上、お願い申し上げる。
私はこの手紙を魏延、法正、孟達に見せた。
「あはははは、笑止千万です。劉璋様は劉禅様が血を流して獲った漢中郡を、金銭で買うと言っておられる。この漢中は劉禅様のものです。劉璋様は乱世を知らぬとしか言いようがありません」と孟達は嗤った。
法正は黙って首を振った。
「この要求は無視しましょう。荊州へ帰れと書かれたこと、ある種の宣戦布告と見ることもできます。やや強引ですが、劉璋様には乱世を生きる資格なしとして、益州を攻める口実といたしましょう」と魏延は言った。
「そうですね。父からも成都へゆけと命じられました。そろそろ、益州を攻める頃合いでしょう。法正、孟達、ご苦労さまでした」
私はふたりを去らせ、魏延だけを残した。
「文長、どのような指揮官と兵力で、益州を攻めますか。この漢中郡にも、守備を残しておかなければなりません」
「黄忠将軍ははずせませんね。あの方は、戦を求めてここに来られました」
「そうです。兵の調練も苛烈と思えるほどにやっておられる。黄忠には戦場に出てもらうしかありません」
「益州の地理に詳しい法正殿と孟達殿にも出陣してもらいたいですね」
「新参の王平にも活躍の場を与えたいと思っています」
「わかりました。それでは、劉禅様と自分、黄忠殿、法正殿、孟達殿、王平殿で益州を攻めましょう。張飛殿、趙雲殿、龐統殿を漢中に残せば、ここが乱れることはありますまい」
「漢中軍の兵力はどう分けますか。攻撃と守備」
漢中郡に駐屯する兵力は現在、八万になっていた。この兵力を維持できているのは、龐統と法正の内治の成功のおかげである。
「遠征兵力は半分ですね。四万の軍で攻めましょう」
「益州は豊かです。四万で勝てるでしょうか」
「劉禅軍は強く、劉璋軍は弱い。そう信じて戦うしかありません」
「油断大敵ですよ、文長。特に広漢郡の雒城と蜀郡の成都城は堅城です」
雒城は前世で龐統が戦死した地である。
「油断はしません。敵の準備が整っていないうちに、雷撃的に攻撃します。劉璋軍の迎撃態勢が整った後は、じっくりと腰を据えて、戦うことにいたします」
「わかりました。それでは幹部を集め、軍議を開催しましょう。魏延、説明は任せますよ」
私は劉禅軍の幹部を招集した。
武将は張飛、趙雲、黄忠、孟達、王平で、文官は龐統、法正である。
「劉璋様は弱腰で、魏と戦うことはできない人です。私は曹操を倒したい。そのための地盤として、益州を得る必要があります。劉璋軍と戦います。これは、父からの命令でもあります」と私は言った。
「戦略の説明は、軍師の魏延に任せます」
魏延が立った。
「四万の兵力で、雷撃的に成都へ進出します。劉璋軍には戦への備えはなく、うまくやれば、一気に成都城を落とすことができると考えております」
「それは楽観的すぎるのではないですか、文長」と龐統が言った。
「そうですね。敵の迎撃態勢が整ったら、そううまくはいかないでしょう。そのときは、臨機応変に戦います。孫氏は、兵をあらわすの極みは、無形に至る、と書いています。敵の態勢に無限に対応して戦います。必要があれば、漢中か荊州に援軍を乞います」
「それがわかっているのなら、いいのです」
「魏延、遠征軍の陣容を教えてくれ。俺は、先鋒でいいぞ」と張飛が言った。
魏延は苦笑した。
「先鋒は、黄忠将軍にお願いします。歩兵一万を率いてもらいます」
「なにっ、俺は先鋒ではないのか。老将の黄忠殿には、荷が重いのではないか」
「なにを言われる、張飛殿。わしは一騎討ちでも、おぬしに負けはせぬぞ」
「黄忠殿、大言はせぬ方がよいぞ。俺の蛇矛の一撃で、あなたの首は胴から離れるであろう」
張飛と黄忠が睨み合った。
「張飛、今回はあなたには留守を命じます。漢中郡を守るために、張飛の魏軍への睨みが必要なのです」
「若君、俺が留守だと言われたのか」
「そうです。漢中を守ってください。これは命令です」
張飛の口から、魂が抜け出たように見えた。
「なんてこった。この俺が守備役とは……」
「張飛だけではありません。趙雲、龐統にも漢中守備を命じます。それだけ、漢中郡の守りは重要なのです」と私は言った。
趙雲と龐統は黙ってうなずいた。
「孟達殿、騎兵五千を率いてください。よい機会を見つけたら、敵兵を切り裂いてください」と魏延が言った。
「この私に騎兵将軍を任せてくださるのですか。必ず、武功を立ててみせます」
私は「よろしく頼みますよ、孟達」と言った。彼はいつか裏切る可能性があるが、きちんと使えば役に立つ男だ。処遇をまちがわなければ、私に生涯忠実でいてくれるかもしれない。総大将は、清濁あわせ飲まなければならないものであろう。
「中軍の歩兵二万は、自分が率います」
「魏延殿、軍師は若君のそばにいるべきではないのか」と趙雲が言った。
「益州攻略戦は、楽な戦いとはならないでしょう。自分は軍師であるとともに、将軍として前線にも立ちます」
「そうか。では、懸命に戦われよ」
「はい」
「法正殿は兵站を担ってください。南鄭城にとどまる龐統殿とよく連絡を取り合ってください」
「承知しました」
「王平殿には、親衛隊長をお願いします。兵は五千名です。劉禅様を守ってください」
「私がそんな大役を……」
王平は驚き、絶句した。
「頼みますよ、王平」
私がにこりと微笑むと、「命にかえてもお守りいたします」と王平は言った。
彼は任務に忠実な男だ。本当に命がけで私を守ってくれるだろう。
「私が留守の間の漢中郡の総指揮は、龐統に任せます。張飛、趙雲は龐統を輔弼してください」
建安十八年春、劉禅軍四万は、南鄭城から出陣した。
黄忠は溌剌として、先頭を歩いていた。
彼が死に急いでいるようで、心配だった。
曹操軍は涼州で叛乱を起こした馬超や韓遂の軍と戦っている。
孫権軍は北伐に出て、揚州九江郡の合肥を攻めている。
魏軍は涼州と合肥の二方面で戦線を抱え、荊州や益州に軍旅を出す余力はない。
私が劉璋軍と戦う機は熟していた。
劉璋から手紙が届いた。
劉禅殿、漢中郡を平定してくれたこと、ありがたいと思っている。
しかし、戦は終わったので、貸し与えた法正と孟達、そして一万の兵を返していただきたい。
また、できるだけすみやかに荊州へ帰り、漢中郡を明け渡してもらいたい。
益州全土はこの劉璋のものである。
報酬は金銭でお支払いする。
以上、お願い申し上げる。
私はこの手紙を魏延、法正、孟達に見せた。
「あはははは、笑止千万です。劉璋様は劉禅様が血を流して獲った漢中郡を、金銭で買うと言っておられる。この漢中は劉禅様のものです。劉璋様は乱世を知らぬとしか言いようがありません」と孟達は嗤った。
法正は黙って首を振った。
「この要求は無視しましょう。荊州へ帰れと書かれたこと、ある種の宣戦布告と見ることもできます。やや強引ですが、劉璋様には乱世を生きる資格なしとして、益州を攻める口実といたしましょう」と魏延は言った。
「そうですね。父からも成都へゆけと命じられました。そろそろ、益州を攻める頃合いでしょう。法正、孟達、ご苦労さまでした」
私はふたりを去らせ、魏延だけを残した。
「文長、どのような指揮官と兵力で、益州を攻めますか。この漢中郡にも、守備を残しておかなければなりません」
「黄忠将軍ははずせませんね。あの方は、戦を求めてここに来られました」
「そうです。兵の調練も苛烈と思えるほどにやっておられる。黄忠には戦場に出てもらうしかありません」
「益州の地理に詳しい法正殿と孟達殿にも出陣してもらいたいですね」
「新参の王平にも活躍の場を与えたいと思っています」
「わかりました。それでは、劉禅様と自分、黄忠殿、法正殿、孟達殿、王平殿で益州を攻めましょう。張飛殿、趙雲殿、龐統殿を漢中に残せば、ここが乱れることはありますまい」
「漢中軍の兵力はどう分けますか。攻撃と守備」
漢中郡に駐屯する兵力は現在、八万になっていた。この兵力を維持できているのは、龐統と法正の内治の成功のおかげである。
「遠征兵力は半分ですね。四万の軍で攻めましょう」
「益州は豊かです。四万で勝てるでしょうか」
「劉禅軍は強く、劉璋軍は弱い。そう信じて戦うしかありません」
「油断大敵ですよ、文長。特に広漢郡の雒城と蜀郡の成都城は堅城です」
雒城は前世で龐統が戦死した地である。
「油断はしません。敵の準備が整っていないうちに、雷撃的に攻撃します。劉璋軍の迎撃態勢が整った後は、じっくりと腰を据えて、戦うことにいたします」
「わかりました。それでは幹部を集め、軍議を開催しましょう。魏延、説明は任せますよ」
私は劉禅軍の幹部を招集した。
武将は張飛、趙雲、黄忠、孟達、王平で、文官は龐統、法正である。
「劉璋様は弱腰で、魏と戦うことはできない人です。私は曹操を倒したい。そのための地盤として、益州を得る必要があります。劉璋軍と戦います。これは、父からの命令でもあります」と私は言った。
「戦略の説明は、軍師の魏延に任せます」
魏延が立った。
「四万の兵力で、雷撃的に成都へ進出します。劉璋軍には戦への備えはなく、うまくやれば、一気に成都城を落とすことができると考えております」
「それは楽観的すぎるのではないですか、文長」と龐統が言った。
「そうですね。敵の迎撃態勢が整ったら、そううまくはいかないでしょう。そのときは、臨機応変に戦います。孫氏は、兵をあらわすの極みは、無形に至る、と書いています。敵の態勢に無限に対応して戦います。必要があれば、漢中か荊州に援軍を乞います」
「それがわかっているのなら、いいのです」
「魏延、遠征軍の陣容を教えてくれ。俺は、先鋒でいいぞ」と張飛が言った。
魏延は苦笑した。
「先鋒は、黄忠将軍にお願いします。歩兵一万を率いてもらいます」
「なにっ、俺は先鋒ではないのか。老将の黄忠殿には、荷が重いのではないか」
「なにを言われる、張飛殿。わしは一騎討ちでも、おぬしに負けはせぬぞ」
「黄忠殿、大言はせぬ方がよいぞ。俺の蛇矛の一撃で、あなたの首は胴から離れるであろう」
張飛と黄忠が睨み合った。
「張飛、今回はあなたには留守を命じます。漢中郡を守るために、張飛の魏軍への睨みが必要なのです」
「若君、俺が留守だと言われたのか」
「そうです。漢中を守ってください。これは命令です」
張飛の口から、魂が抜け出たように見えた。
「なんてこった。この俺が守備役とは……」
「張飛だけではありません。趙雲、龐統にも漢中守備を命じます。それだけ、漢中郡の守りは重要なのです」と私は言った。
趙雲と龐統は黙ってうなずいた。
「孟達殿、騎兵五千を率いてください。よい機会を見つけたら、敵兵を切り裂いてください」と魏延が言った。
「この私に騎兵将軍を任せてくださるのですか。必ず、武功を立ててみせます」
私は「よろしく頼みますよ、孟達」と言った。彼はいつか裏切る可能性があるが、きちんと使えば役に立つ男だ。処遇をまちがわなければ、私に生涯忠実でいてくれるかもしれない。総大将は、清濁あわせ飲まなければならないものであろう。
「中軍の歩兵二万は、自分が率います」
「魏延殿、軍師は若君のそばにいるべきではないのか」と趙雲が言った。
「益州攻略戦は、楽な戦いとはならないでしょう。自分は軍師であるとともに、将軍として前線にも立ちます」
「そうか。では、懸命に戦われよ」
「はい」
「法正殿は兵站を担ってください。南鄭城にとどまる龐統殿とよく連絡を取り合ってください」
「承知しました」
「王平殿には、親衛隊長をお願いします。兵は五千名です。劉禅様を守ってください」
「私がそんな大役を……」
王平は驚き、絶句した。
「頼みますよ、王平」
私がにこりと微笑むと、「命にかえてもお守りいたします」と王平は言った。
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