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北伐開始
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魏延は対曹操軍の作戦を立案した。
劉備と魏延は江州城へ行き、関羽と会って、打ち合わせをした。連携して戦う必要があった。
「全力で曹操を討つ」と劉備は言った。
曹操は冀州魏郡の鄴にいる。
天下十三州のうち、司隷、豫州、冀州、兗州、徐州、青州、幷州、幽州、涼州を持つ圧倒的な強者である。
荊州と揚州と益州の一部すら支配している。
関羽と別れた後、劉備は伊籍を揚州に送り、孫権に共同戦線を呼びかけた。
まず行軍を開始したのは、関羽軍だった。
217年春、関羽は八万の兵を率いて、北伐を敢行した。
荊州北部の南郡の一部と南陽郡は曹操の版図。南郡の襄陽県が中心都市である。
かつて周瑜と江陵城で戦った名将曹仁が襄陽城を守っている。
関羽の副将は黄忠。趙雲は荊州南部にとどまり、その地の守備についた。
関羽は公安城に兵を集め、江陵を経由して、敵地に入った。
小城を揉みつぶして進軍し、たちまち襄陽城を包囲した。
曹仁は「関羽軍襲来、救援求む」と伝える使者を鄴へ送った。
曹操は于禁に二万の兵を与えて、急遽襄陽へ向かわせた。さらに徐晃に五万の兵を授けて、後詰めとした。
「于禁と徐晃の軍は離れている。于禁軍を急襲し、こなごなにしてやろう。黄忠殿は襄陽城の包囲をつづけてくれ」
関羽は南陽郡を進軍中の于禁軍を襲い、さんざんに蹴散らして、于禁を捕虜にした。
つづいて徐晃軍を迎撃し、撃ち破った。
徐晃は敗兵を連れて、襄陽城へ逃走した。
関羽の破竹の進撃は、曹操を震撼させた。
「私が出向かなければ、彼を破ることはできないか……」とつぶやいた。
「お待ちください。これは戦いの序章にすぎません」と言ったのは、軍師の賈詡だった。
「戦線はさらに拡大します。容易ならぬ戦いとなるでしょう。王はただちに大軍の動員をすべきです」
賈詡の言葉どおり、戦火は漢中郡でも燃えあがった。
劉備軍十万が成都から出陣して、漢中に入ったのである。定軍山で戦いが勃発し、曹操の宿将夏侯淵が戦死した。
張郃が敗兵をまとめて抵抗したが、劉備軍の勢いを止めることはできなかった。
彼は郡の守備をあきらめて、長安へ撤退した。
劉備軍は漢中郡を占領した後、兵を分けた。
主力の八万は張郃軍を追って長安へ向かい、馬超軍二万は涼州へ進撃した。馬超はかつて、涼州の英雄であった。
劉備軍と関羽軍の成功を見て、孫権も動いた。
彼は十万の兵を率いて、九江郡の合肥城を攻めた。
守将の張遼は、救援を求める使者を曹操に送った。
「賈詡、おまえが言ったとおり、容易ならぬ事態となった。私はどうすべきだろうか」と曹操は鄴城で言った。
「風雲急を告げていますが、これに勝てば、王は天下を統一することができるでしょう。乱は三か所で起きていますが、首魁は劉備です。関羽と孫権は、優秀な将軍を派遣して防ぎ、王は長安へ行って、劉備と対決すべきです。彼を叩きつぶせば、乱は終息するでしょう」と賈詡は答えた。
曹操は中原と華北の兵、四十万を鄴に集めた。
そこから五万の兵を満寵に与えて、襄陽へ派遣した。
楽進と李典にも五万の兵を授け、合肥へ行かせた。
「そなたらは負けない戦をせよ。敵を撃破できなくてもかまわぬ。私が劉備を倒すまで、時間を稼げばよい」と曹操は指示した。
魏王自らは、三十万の兵とともに長安へ進軍した。
漢中郡から長安へ向かうには、険しい秦嶺山脈を越えなければならない。
山脈の難路は、断崖絶壁にへばりつくようにして延びている木造の桟道になっている。危険な道。
劉備軍は子午道と駱谷道の二ルートに分かれて進み、桟道を踏み越え、長安へ到達した。
劉備と魏延が長安の城壁を見上げたとき、曹操はすでに長安城に入っていた。
三十万もの大軍が城内にいる。長安はかつて漢の都だったこともあり、大軍を悠々と収容できた。
「間に合わなかったか。曹操が来る前に長安を攻撃することはできなかった」
劉備は重苦しくつぶやいたが、魏延の表情は暗くはなかった。
「戦うのみです。私たちは攻城専門の部隊を持っています」
「だが、わが軍は八万だぞ。ふつう攻城には、守備側より多くの兵が必要なのに、ここでは守備兵の方が多い」
「曹操は主力を率いて長安へ来ました。我々が負けなければ、関羽様か孫権様が打開してくれるでしょう。それに、わが軍には秘策があります」
「うまくいけばよいが……」
劉備の隣には、孫尚香が立っていた。
彼女は初めて長安城を見て、微笑んでいた。
「玄徳様、すごく大きなお城ですね」
「おまえはついにこんなところまでついて来てしまったか」
「桟道を歩くのは楽しかったです。長安城は大きくて格好いい」
「遊びではないのだぞ」
「わかっています。わたしは玄徳様の戦いを見届けたいのです。英雄の戦いを見せてください」
「おれは英雄なんかじゃない。ずっと負けつづけ、逃げつづけてきた。孫策殿とはちがう」
「策兄さんは目覚ましい戦いをしましたが、志半ばで倒れました。でも玄徳様は死なず、とうとう荊州と益州を取りました」
「そうだな。そしてこれから、曹操と生きるか死ぬかの戦いをする。もう逃げるつもりはない」
劉備と魏延は江州城へ行き、関羽と会って、打ち合わせをした。連携して戦う必要があった。
「全力で曹操を討つ」と劉備は言った。
曹操は冀州魏郡の鄴にいる。
天下十三州のうち、司隷、豫州、冀州、兗州、徐州、青州、幷州、幽州、涼州を持つ圧倒的な強者である。
荊州と揚州と益州の一部すら支配している。
関羽と別れた後、劉備は伊籍を揚州に送り、孫権に共同戦線を呼びかけた。
まず行軍を開始したのは、関羽軍だった。
217年春、関羽は八万の兵を率いて、北伐を敢行した。
荊州北部の南郡の一部と南陽郡は曹操の版図。南郡の襄陽県が中心都市である。
かつて周瑜と江陵城で戦った名将曹仁が襄陽城を守っている。
関羽の副将は黄忠。趙雲は荊州南部にとどまり、その地の守備についた。
関羽は公安城に兵を集め、江陵を経由して、敵地に入った。
小城を揉みつぶして進軍し、たちまち襄陽城を包囲した。
曹仁は「関羽軍襲来、救援求む」と伝える使者を鄴へ送った。
曹操は于禁に二万の兵を与えて、急遽襄陽へ向かわせた。さらに徐晃に五万の兵を授けて、後詰めとした。
「于禁と徐晃の軍は離れている。于禁軍を急襲し、こなごなにしてやろう。黄忠殿は襄陽城の包囲をつづけてくれ」
関羽は南陽郡を進軍中の于禁軍を襲い、さんざんに蹴散らして、于禁を捕虜にした。
つづいて徐晃軍を迎撃し、撃ち破った。
徐晃は敗兵を連れて、襄陽城へ逃走した。
関羽の破竹の進撃は、曹操を震撼させた。
「私が出向かなければ、彼を破ることはできないか……」とつぶやいた。
「お待ちください。これは戦いの序章にすぎません」と言ったのは、軍師の賈詡だった。
「戦線はさらに拡大します。容易ならぬ戦いとなるでしょう。王はただちに大軍の動員をすべきです」
賈詡の言葉どおり、戦火は漢中郡でも燃えあがった。
劉備軍十万が成都から出陣して、漢中に入ったのである。定軍山で戦いが勃発し、曹操の宿将夏侯淵が戦死した。
張郃が敗兵をまとめて抵抗したが、劉備軍の勢いを止めることはできなかった。
彼は郡の守備をあきらめて、長安へ撤退した。
劉備軍は漢中郡を占領した後、兵を分けた。
主力の八万は張郃軍を追って長安へ向かい、馬超軍二万は涼州へ進撃した。馬超はかつて、涼州の英雄であった。
劉備軍と関羽軍の成功を見て、孫権も動いた。
彼は十万の兵を率いて、九江郡の合肥城を攻めた。
守将の張遼は、救援を求める使者を曹操に送った。
「賈詡、おまえが言ったとおり、容易ならぬ事態となった。私はどうすべきだろうか」と曹操は鄴城で言った。
「風雲急を告げていますが、これに勝てば、王は天下を統一することができるでしょう。乱は三か所で起きていますが、首魁は劉備です。関羽と孫権は、優秀な将軍を派遣して防ぎ、王は長安へ行って、劉備と対決すべきです。彼を叩きつぶせば、乱は終息するでしょう」と賈詡は答えた。
曹操は中原と華北の兵、四十万を鄴に集めた。
そこから五万の兵を満寵に与えて、襄陽へ派遣した。
楽進と李典にも五万の兵を授け、合肥へ行かせた。
「そなたらは負けない戦をせよ。敵を撃破できなくてもかまわぬ。私が劉備を倒すまで、時間を稼げばよい」と曹操は指示した。
魏王自らは、三十万の兵とともに長安へ進軍した。
漢中郡から長安へ向かうには、険しい秦嶺山脈を越えなければならない。
山脈の難路は、断崖絶壁にへばりつくようにして延びている木造の桟道になっている。危険な道。
劉備軍は子午道と駱谷道の二ルートに分かれて進み、桟道を踏み越え、長安へ到達した。
劉備と魏延が長安の城壁を見上げたとき、曹操はすでに長安城に入っていた。
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「間に合わなかったか。曹操が来る前に長安を攻撃することはできなかった」
劉備は重苦しくつぶやいたが、魏延の表情は暗くはなかった。
「戦うのみです。私たちは攻城専門の部隊を持っています」
「だが、わが軍は八万だぞ。ふつう攻城には、守備側より多くの兵が必要なのに、ここでは守備兵の方が多い」
「曹操は主力を率いて長安へ来ました。我々が負けなければ、関羽様か孫権様が打開してくれるでしょう。それに、わが軍には秘策があります」
「うまくいけばよいが……」
劉備の隣には、孫尚香が立っていた。
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「玄徳様、すごく大きなお城ですね」
「おまえはついにこんなところまでついて来てしまったか」
「桟道を歩くのは楽しかったです。長安城は大きくて格好いい」
「遊びではないのだぞ」
「わかっています。わたしは玄徳様の戦いを見届けたいのです。英雄の戦いを見せてください」
「おれは英雄なんかじゃない。ずっと負けつづけ、逃げつづけてきた。孫策殿とはちがう」
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