劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

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魏王曹操

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「軍師府はすごいです。面白い兵器をつくっているし、活気があります」と孫尚香は劉備に話した。
「おまえなあ、女なんだから、軍事にはあまり首を突っ込むなよ」
「どうしてですか? 女が軍事に興味を持ったっていいじゃないですか」
「おまえみたいな女はいない」
「そんなことを言う玄徳様は嫌いです!」
 夫婦喧嘩になると、尚香は巴郡へ行ってしばらく戻らず、張飛と武術の鍛錬をしたりした。
 趙雲仕込みの彼女は相当に強く、張飛は面白がって尚香と手合わせをした。

「兄貴、尚香さんは本当に強いです。隊を指揮させてもいいくらいですよ」と張飛は言った。
「おまえまでそんなことを言うのか。妻を戦わせる州牧がどこにいる?」
「女が戦ったっていいと思うけどなあ。尚香さんは本当に優秀な戦士ですよ」

 劉禅は九歳になった。
 尚香は彼に武術の手ほどきをした。
 実の母親を亡くしてさびしがっている劉禅は尚香になつき、子どもながら懸命に剣の練習をした。
「えい、えい」と木刀で打ちかかる息子を、義母は軽くいなして、「禅、もっと強く打ち込んできなさい」などと言っている。
「尚香はこれでいいのかもしれんな……」
 木刀で打ち合うふたりを見て、劉備はそうつぶやいた。

 孔明は懸命に働いていた。
 法正、伊籍、李厳とともに蜀科という法律を制定し、公平公正に運用した。
 税は重く、兵役はきびしかったが、益州の民は孔明の公平さを知っていて、不満は少なかった。
 益州行政総督は十万の常備軍を備えることに成功した。

 魏延率いる軍師府は小型連弩を完成させた。
 魏延は孔明と相談して工場をつくり、連弩の量産体制を確立した。

 軍師府には、二万の直属部隊があった。
 魏延はこれをすべて特殊部隊にした。一万は小型連弩隊。五千を強弩隊にし、残り五千は攻城部隊。
 劉封は強弩隊隊長、劉循は攻城隊隊長、馬忠は連弩隊隊長になった。隊長は隊員に猛訓練を課した。
 攻城部隊は戦場で攻城やぐら、投石車、衝車、はしごを自作する能力を持った。地下道を掘ったり、仮設橋を架けたりする訓練も行った。

 張飛と馬超も二万の兵を持ち、熱心に調練をしていた。
 親衛隊長の張苞のもとには、精鋭三千がいた。
 その他、郡太守たちにも兵が預けられていた。簡雍は兵の訓練を副官の張翼に丸投げした。

「もっと多くの兵を」と魏延は孔明に要求した。
「現状ではこれで精一杯です。これ以上徴兵すると、反乱が起こりかねません」と孔明はつっぱねた。
 ふたりは微妙に対立したが、互いに職務に忠実であることは理解し合っていた。

 劉備はときどき江州城へ行き、関羽と龐統を呼び寄せて、情報交換をした。
「そちらの状況はどうだ?」
「荊州は豊かです。兵数は十二万になりました」と龐統は言った。
「騎兵の育成に力を注いでいます。趙雲が率いる騎兵隊は、五倍の歩兵を粉砕する力を秘めています」と関羽は自信を見せた。
「馬を買うのも大変なのですよ、関羽殿。これ以上、騎兵を増やさないでください」
「なにを言う、龐統殿。騎兵はもっと増やすぞ。一万にまで増強したい」
「それは無理です」
「貴公の力量なら、可能であろう」
 劉備はふたりの口論を微笑ましく思いながら見守った。

「わたしも兵を指揮したいです」
 ついに尚香がそんなことを言い出した。
「だめだ! おまえを戦場で死なせるわけにはいかん」
 劉備が一喝すると、彼女は拗ねて巴郡へ行き、張飛のもとで兵を指揮した。
 張飛と兵を分けて模擬戦をすると、いい勝負をした。
「尚香さんは天才かもしれません」と張飛は言った。
「おまえがそんなことを言うから、あいつが調子に乗るのだ!」と劉備は怒った。
 夫が怒れば怒るほど妻は軍事にのめり込み、馬超のもとにも出入りするようになった。
 馬超と馬岱は曹操との再戦に向かって燃えており、尚香と気が合って、ともに騎兵の訓練をしたりした。

 216年、曹操は魏王になった。
 その報が成都にもたらされると、衝撃が走り、曹操討つべしとの気運が高まった。

「魏王の次は皇帝になろうとするだろう。それは阻止せねばならん」と劉備は言った。
「まだ曹操と戦えるほどの実力は備わっていません」孔明は反対した。
「いや、戦えます」魏延は強気だった。益州軍は確実に強くなっているとの手応えがあった。
「いま立たなければ、わが軍の存在意義が問われる」
「殿、曹操と戦うのなら、絶対に勝ってください」
 孔明は暗い瞳を劉備に向けた。
「あの男は徐州で許されざることをしました。わが母は罪もないのに、斬り殺されました。無数の死体が河を堰き止めました。曹操をこの国の皇帝にしてはなりません。殿が負ければ、この国はおしまいです。戦うなら、必ず勝たなくてはならないのです」
「わかっておる」
 劉備は孔明と魏延の目を交互に見つめた。
「戦闘準備をせよ」
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