劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
54 / 61

孔明と龐統

しおりを挟む
 劉備は成都城から蜀郡の山々を眺めていた。
 益州は険しい山脈に囲まれた盆地で、守るのに適した天然の要害である。
 山を見ながら、彼は七年前に交わした約束のことを考えていた。

 龐統は毎日忙しく働いていた。
 彼は劉備から益州の行政を任されていた。州を富ませるのが仕事。
 人材を発掘し、人口を把握し、税を公平に集めるのが急務だ、と思っていた。やることはいくらでもあった。
 彼は行政家としての才能をめきめきと伸ばしていた。
 軍事では魏延におくれを取ったが、内治では益州で並ぶ者がなかった。
 
「殿、成都県は益州を治めるのに適した地ですが、江州県は長江に面しており、荊州と連絡を取るのに最適の地です。江州城を改修し、第二の居城となさってはいかがでしょうか」と龐統は劉備に提案した。
「よい考えだ。早速進めよ」
 龐統は江州城の工事に着手し、江州港を整備し、新しい船を多数建造した。

 劉備は龐統とともに江州城に入った。
「素晴らしい城だ。よくやってくれた。ありがとう」
「殿のために働けるのが喜びです」
「目に隈ができておる。きちんと眠っていないのではないか?」
「生きていける程度には寝ております。問題ありません」
「そうか、ご苦労。だが、身体にはくれぐれも気をつけろよ」
 龐統は微笑み、頭を下げた。
 江州城からは巴郡の山々が見えた。
 山を眺めながら、劉備はここのところ考えていたことを龐統に伝えた。
「龐統、荊州へ行き、関羽を助けてやってくれないか?」

 龐統は耳を疑った。
 荊州へ?
 関羽を助けるということは、劉備のもとから離れるということである。
「殿、私は必要ないのですか?」
「おまえは大切な家臣だ」
「ではなぜ益州から出なくてはならないのです?」
「孔明を呼ぼうと思っておる。孔明がいなくなった荊州を任せられるのは、龐統だけだ」
「私は殿のもとで働きたいのです」
 劉備は山から龐統へ視線を移した。
「七年前、新野で孔明と約束したのだ。ともに曹操を倒そうと。彼は徐州で曹操に母親を殺されている」
「徐州大虐殺……」
「約束を果たそうと思っている。龐統、荊州を頼む」
 龐統はしばらく表情を曇らせていたが、顔を上げて言った。
「わかりました。荊州で殿のために働きます」

 龐統は江州港から船に乗り、公安へ行った。
 公安港も拡充され、船が増えていた。孔明の仕事だろう、と龐統は思った。
 公安城に入り、孔明に会った。
「諸葛亮殿、殿があなたを必要としている。ともに曹操を倒そうとおっしゃっていた」
 孔明は城から長江を見下ろした。
「そうか。約束を憶えていてくださったのだな」
「私は荊州で働き、殿が曹操を倒す手伝いをしたいと思う。どこにいても、殿を助けることはできる。だが、お近くで働けるあなたをうらやましく思う」
 孔明はこくんとうなずいた。
「ふたりで殿をお助けしよう」

 龐統は一枚の紙を孔明に渡した。
「益州の人材の名が書いてある。彼らを活用すれば、州はもっと強くなる」
 孔明はその紙を受け取った。
 そして、別の紙に筆でさらさらと人名を書いていった。
「荊州の人材です」
「考えることは同じだな」
 龐統は笑った。

 孔明は江州へ行き、劉備と再会した。そこから成都へ向かった。
「孔明、約束を果たすときがきた。ともに曹操と戦おう」
「はい」
 孔明は万感をそのひと言に込めた。

 道々、ふたりは荊州と益州の人材についての話をした。
 荊州には廖化、楊儀、蔣琬、張南、馮習、傅彤、陳震らがいた。 
 益州では黄権、費詩、費禕、董和、董允、張翼、張嶷、呉懿、呉蘭、雷銅らが見い出されていた。

「廖化殿や楊儀殿は、関羽殿を慕い、あの方のもとで頭角を現しています。蔣琬には、政治の才があるようです」などと孔明は語った。
「益州も人材が豊富だ。彼らを活用すれば、曹操にも負けはせぬ」と劉備は言った。
「人事を整えねばなりませんね。新旧の人材をうまく使って、益州と荊州を治め、曹操と戦える軍隊をつくらねばなりません」
 孔明は成都城で多くの人に会い、劉備と相談しながら人事案を練った。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

曹操桜【曹操孟徳の伝記 彼はなぜ天下を統一できなかったのか】

みらいつりびと
歴史・時代
赤壁の戦いには謎があります。 曹操軍は、周瑜率いる孫権軍の火攻めにより、大敗北を喫したとされています。 しかし、曹操はおろか、主な武将は誰も死んでいません。どうして? これを解き明かす新釈三国志をめざして、筆を執りました。 曹操の徐州大虐殺、官渡の捕虜虐殺についても考察します。 劉備は流浪しつづけたのに、なぜ関羽と張飛は離れなかったのか。 呂布と孫堅はどちらの方が強かったのか。 荀彧、荀攸、陳宮、程昱、郭嘉、賈詡、司馬懿はどのような軍師だったのか。 そんな謎について考えながら描いた物語です。 主人公は曹操孟徳。全46話。

女神の太平洋戦争記(無職艦隊の原型没案)

中七七三
SF
女神がやってきて、日本を太平洋戦争に勝たせろと無理ゲーをいう女神と、ひねくれた研究者崩れの塾講師の話。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

張飛の花嫁

白羽鳥(扇つくも)
歴史・時代
夏侯家の令嬢・玉華はある日、薪を拾いに行った際に出会った張飛に攫われる。 いつ命を失ってもおかしくない状況の中、玉華は何をしてでも生き延びなければならなかった。 彼女には、「罪」があったのだから――― 正史「三国志」の表記を元に、張飛の妻を考察、捏造した小説です。 作中、夏侯淵の姪の名前をオリジナルで「玉華」と設定しています。 ※「小説家になろう」にも投稿しています。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

劉備の嫁

みらいつりびと
歴史・時代
「策兄様のような方と結婚したい」  孫尚香はそう願いつづけてきた。  江東の小覇王、孫策の妹。  彼は揚州の英雄だった。華麗な容姿を持ち、電光石火の指揮官で、個人的な武勇も秀でていた。  尚香が13歳のときに暗殺された。  彼女が19歳のとき、孫策の後継者であるもうひとりの兄、孫権が縁談を持ってきた。 「劉備殿と結婚してくれないか」と言われて、尚香は驚いた。 「荊州牧の劉備様……。おいくつなんです?」 「50歳だ」  いくらなんでも年寄りすぎる。彼女は絶対に断ろうと決意した……。  歴史恋愛短編です。

処理中です...