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雒城の戦い
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雒城は深い掘で囲まれていた。
城内からは各城門から橋を下ろせる仕組みになっていて、出入り自由だが、外からは城に近寄ることができない。
劉備軍は城を包囲したが、攻撃の糸口がつかめなかった。
劉備は幹部を集め、軍議を開いた。
「雒城をどうやって攻略すべきか、忌憚なく意見を言ってくれ」
「堀を埋めなくては、城壁に取り付けません。土木工事のような作業が必要です」と龐統が言った。
「敵前でそのような工事ができるか?」
「まず無理ですね。矢が雨のように降ってくるでしょう」
龐統は深いため息をついた。
「こちらからも弓矢で応戦できるようにしましょう」と言ったのは、魏延だった。
「敵は城壁の上にいる。我らは地面の上だ。矢の射ち合いでは、勝ち目がないが……」
「攻城やぐらをつくるのです」
攻城やぐらとは、移動式の木造やぐらである。車の上にやぐらを建築したもの。
「やぐらから城壁の上の弓兵を狙うのです。矢戦をしながら、掘を埋めましょう。犠牲を少なくすることができます」
劉備は刮目して魏延を見た。
このような提案ができる男だったのか……。
「攻城やぐらなど、我々は使ったことも、つくったこともない。できるのか?」
「できなければ勝てません。袁紹が、曹操や公孫瓚と戦ったときに使用したと聞いています。なんとかなるでしょう」
「やってみよう。全軍、魏延の協力をせよ。城攻めは、やぐらが完成してからとする」
魏延は攻城やぐらを五基つくることにした。
山から木材を切り出すところから始め、やぐらが完成するまで三か月かかった。
その間、劉備軍は雒城を包囲するだけで、まったく手出ししなかった。
やぐらが完成すると、魏延は作戦を披露した。
「五基のやぐらを集中的に運用し、矢戦を行います。その下で掘の埋め立て工事を同時に行います。まずは東西南北の門の前の堀を埋めてしまいましょう。東門から始めます」
龐統は呆然としていた。
作戦を立てるのが彼の役目だが、魏延にその仕事を完全に奪われている。
東門の前に五基の攻城やぐらが現れたとき、劉循は唖然とした。
敵兵がその下で掘の埋め立てを始めたとき、彼は劉備軍の目的を察知した。
「堀を埋めさせるな。弓兵、敵を射よ」
雒城の守備兵は、掘を埋めようとしている劉備軍の兵士を矢で攻撃した。
その弓兵を、やぐらの上の弓兵が射殺した。
「劉循様、やぐらを攻めねば、こちらがやられてしまいます」
東門の守備を担当している将校が叫んだ。
劉循はやぐらか掘かどちらの敵兵を先に攻撃すべきか迷った。
「やぐらを沈黙させれば、敵は作業を続行できません」と張任が助言した。
「よし、やぐらを攻めよ」
ひとつの攻城やぐらの上には、五人の敵兵がいた。
城壁から矢を集中させると、五人を排除することができた。
しかし、劉備軍は執拗にかわりの兵を送り、矢戦は終わることがなかった。
一日が過ぎると、東門の前の堀は埋められていた。
三日が過ぎ、東、北、南の門の前の堀がなくなり、敵地と地続きになった。
「明日は西門の前に攻城やぐらが来るだろう。なんとかあれを壊せないものか……」と劉循は悩んだ。
「すみません、工夫が足りませんでした。明日は、火矢を用いてみましょう」と張任が言った。
「火矢か。よいかもしれない」
翌日、西門の前に攻城やぐらが現れ、劉備軍は掘の埋め立てを始めた。
「あれを燃やせ!」
劉循が叫び、城兵は火矢を放った。
やぐらは木材でできている。
何発かの火矢が突き刺さると、やぐらは燃えあがり、その上に乗っていた兵は焼死した。
五基のやぐらがすべて焼失すると、劉備軍は埋め立て工事を中止し、引きあげた。
劉備はまた軍議を開いた。
「やぐらはもう使えぬぞ。魏延殿、どうする?」と龐統は言った。
魏延は少し考えてから答えた。
「次は投石車をつくりましょう」
「投石車だと?」
「曹操が袁紹との戦いで使った例があります。石を城壁の上へ飛ばして、敵兵を殺傷します。攻撃と同時に埋め立てを行いましょう」
劉備は乗り気になった。
「投石車とは、攻城やぐら以上につくるのがむずかしそうだが、魏延、できるのか?」
「時間をいただくことになりますが、必ずやつくってみせます」
「よし、やってみよ」
また魏延の策が採用されることになった。
魏延の言葉ばかりが取り上げられる。龐統はいたたまれなくなった。
「殿、夜間工事をしてみてはいかがでしょうか」
「夜間に埋め立てを行うのか」
「昼間よりは、犠牲が少ないと思います」
「わかった。魏延は投石車をつくれ。龐統と黄忠は、夜間工事をせよ。犠牲者の数は、毎日おれに報告してくれ」
夜に掘が埋められていることに、城兵はすぐに気づいた。
「劉循様、敵は闇夜にまぎれて、埋め立てをすることにしたようです」と敵の動きに気づいた将校が報告した。
「張任、どう対応しようか?」
「篝火を増やし、敵を照らして、矢を射ましょう。石も落としてやりましょう」
「わかった。そうしよう」
夜間工事中、城壁の上から矢と石が降りそそいだ。
犠牲者を出しながら、埋め立て作業は進められた。
「昨夜は十三人死にました。怪我人は六十人です」
龐統は胃痛を感じながら報告した。
「埋め立ての進捗はどうだ?」
「東門と北門の間を埋めております。すべて埋めるまで、あと七日ほどかかりそうです」
劉備は表情を変えず、龐統の言葉を受け止めた。
「ご苦労。続行せよ」
毎夜、死者が出る。
「すまない、黄忠殿」と龐統は言った。
「これは戦だ。死人が出るのは当然だ」
黄忠は平然としていた。
東門と北門の間の埋め立てを終えたとき、死傷者は千人を超えた。
「申し訳ありません」と龐統は劉備に謝罪した。
「あやまることはない。よくやってくれた。しかし、工事はいったん中止しようか」
劉備は投石車の完成を待つことにした。
また三か月が過ぎた。
投石車が二台完成した。
魏延は投石車を東門と南門の中間地点の前に据えた。
城内からは各城門から橋を下ろせる仕組みになっていて、出入り自由だが、外からは城に近寄ることができない。
劉備軍は城を包囲したが、攻撃の糸口がつかめなかった。
劉備は幹部を集め、軍議を開いた。
「雒城をどうやって攻略すべきか、忌憚なく意見を言ってくれ」
「堀を埋めなくては、城壁に取り付けません。土木工事のような作業が必要です」と龐統が言った。
「敵前でそのような工事ができるか?」
「まず無理ですね。矢が雨のように降ってくるでしょう」
龐統は深いため息をついた。
「こちらからも弓矢で応戦できるようにしましょう」と言ったのは、魏延だった。
「敵は城壁の上にいる。我らは地面の上だ。矢の射ち合いでは、勝ち目がないが……」
「攻城やぐらをつくるのです」
攻城やぐらとは、移動式の木造やぐらである。車の上にやぐらを建築したもの。
「やぐらから城壁の上の弓兵を狙うのです。矢戦をしながら、掘を埋めましょう。犠牲を少なくすることができます」
劉備は刮目して魏延を見た。
このような提案ができる男だったのか……。
「攻城やぐらなど、我々は使ったことも、つくったこともない。できるのか?」
「できなければ勝てません。袁紹が、曹操や公孫瓚と戦ったときに使用したと聞いています。なんとかなるでしょう」
「やってみよう。全軍、魏延の協力をせよ。城攻めは、やぐらが完成してからとする」
魏延は攻城やぐらを五基つくることにした。
山から木材を切り出すところから始め、やぐらが完成するまで三か月かかった。
その間、劉備軍は雒城を包囲するだけで、まったく手出ししなかった。
やぐらが完成すると、魏延は作戦を披露した。
「五基のやぐらを集中的に運用し、矢戦を行います。その下で掘の埋め立て工事を同時に行います。まずは東西南北の門の前の堀を埋めてしまいましょう。東門から始めます」
龐統は呆然としていた。
作戦を立てるのが彼の役目だが、魏延にその仕事を完全に奪われている。
東門の前に五基の攻城やぐらが現れたとき、劉循は唖然とした。
敵兵がその下で掘の埋め立てを始めたとき、彼は劉備軍の目的を察知した。
「堀を埋めさせるな。弓兵、敵を射よ」
雒城の守備兵は、掘を埋めようとしている劉備軍の兵士を矢で攻撃した。
その弓兵を、やぐらの上の弓兵が射殺した。
「劉循様、やぐらを攻めねば、こちらがやられてしまいます」
東門の守備を担当している将校が叫んだ。
劉循はやぐらか掘かどちらの敵兵を先に攻撃すべきか迷った。
「やぐらを沈黙させれば、敵は作業を続行できません」と張任が助言した。
「よし、やぐらを攻めよ」
ひとつの攻城やぐらの上には、五人の敵兵がいた。
城壁から矢を集中させると、五人を排除することができた。
しかし、劉備軍は執拗にかわりの兵を送り、矢戦は終わることがなかった。
一日が過ぎると、東門の前の堀は埋められていた。
三日が過ぎ、東、北、南の門の前の堀がなくなり、敵地と地続きになった。
「明日は西門の前に攻城やぐらが来るだろう。なんとかあれを壊せないものか……」と劉循は悩んだ。
「すみません、工夫が足りませんでした。明日は、火矢を用いてみましょう」と張任が言った。
「火矢か。よいかもしれない」
翌日、西門の前に攻城やぐらが現れ、劉備軍は掘の埋め立てを始めた。
「あれを燃やせ!」
劉循が叫び、城兵は火矢を放った。
やぐらは木材でできている。
何発かの火矢が突き刺さると、やぐらは燃えあがり、その上に乗っていた兵は焼死した。
五基のやぐらがすべて焼失すると、劉備軍は埋め立て工事を中止し、引きあげた。
劉備はまた軍議を開いた。
「やぐらはもう使えぬぞ。魏延殿、どうする?」と龐統は言った。
魏延は少し考えてから答えた。
「次は投石車をつくりましょう」
「投石車だと?」
「曹操が袁紹との戦いで使った例があります。石を城壁の上へ飛ばして、敵兵を殺傷します。攻撃と同時に埋め立てを行いましょう」
劉備は乗り気になった。
「投石車とは、攻城やぐら以上につくるのがむずかしそうだが、魏延、できるのか?」
「時間をいただくことになりますが、必ずやつくってみせます」
「よし、やってみよ」
また魏延の策が採用されることになった。
魏延の言葉ばかりが取り上げられる。龐統はいたたまれなくなった。
「殿、夜間工事をしてみてはいかがでしょうか」
「夜間に埋め立てを行うのか」
「昼間よりは、犠牲が少ないと思います」
「わかった。魏延は投石車をつくれ。龐統と黄忠は、夜間工事をせよ。犠牲者の数は、毎日おれに報告してくれ」
夜に掘が埋められていることに、城兵はすぐに気づいた。
「劉循様、敵は闇夜にまぎれて、埋め立てをすることにしたようです」と敵の動きに気づいた将校が報告した。
「張任、どう対応しようか?」
「篝火を増やし、敵を照らして、矢を射ましょう。石も落としてやりましょう」
「わかった。そうしよう」
夜間工事中、城壁の上から矢と石が降りそそいだ。
犠牲者を出しながら、埋め立て作業は進められた。
「昨夜は十三人死にました。怪我人は六十人です」
龐統は胃痛を感じながら報告した。
「埋め立ての進捗はどうだ?」
「東門と北門の間を埋めております。すべて埋めるまで、あと七日ほどかかりそうです」
劉備は表情を変えず、龐統の言葉を受け止めた。
「ご苦労。続行せよ」
毎夜、死者が出る。
「すまない、黄忠殿」と龐統は言った。
「これは戦だ。死人が出るのは当然だ」
黄忠は平然としていた。
東門と北門の間の埋め立てを終えたとき、死傷者は千人を超えた。
「申し訳ありません」と龐統は劉備に謝罪した。
「あやまることはない。よくやってくれた。しかし、工事はいったん中止しようか」
劉備は投石車の完成を待つことにした。
また三か月が過ぎた。
投石車が二台完成した。
魏延は投石車を東門と南門の中間地点の前に据えた。
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