劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

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水魚の交わり

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 劉備玄徳ならば、曹操に対抗できるかもしれない。
 だが、劉備軍団は小さすぎる。
 新野城には、一万しか兵力がない。
 孔明は悩んだ。
 荊州を乗っ取るくらいのことをやらなければ、曹操とは戦えない。

 劉備は、彼の幕僚たちに孔明を紹介した。
 関羽、張飛、趙雲、簡雍、麋竺、糜芳、孫乾がいまの劉備の重臣。そこに孔明が加わることになる。
「諸葛亮孔明。若く、聡明な男だ。彼に軍師になってもらう」
 劉備はにこにこしながら言った。

 簡雍は首をかしげた。
「諸葛亮殿、軍事の経験はあるのか?」
「ありません。私は農民でした」
 麋竺は腕組みをしていた。
「いきなり軍師なんてできるのですか?」
「わかりません」
 孫乾は顎に手を当てた。
「武術の心得は?」
「剣を持ったこともありません」
 
 劉備の家臣たちは不安になった。
 ただ劉備だけが孔明の才を信じ、微笑んでいた。
 ふたりはよく一緒にいて、長らく話し合った。

「孔明、おれはこれからどうすればよいのだろう」
「荊州を支配なさいませ」
「しかし、この州は劉表殿のものだ」
「劉表様は老い、しかも重病に罹っています。襄陽城を急襲すれば、奪うことができるでしょう。まもなく曹操が荊州に攻めてきます。殿が守らなくては、荊州は曹操のものになってしまいます」
「おれはかつて劉表殿に救われた。その恩を仇で返すようなことはできねえ」
「劉表様の息子はふたりとも凡庸です。殿にしか荊州を守ることはできないのです」
「うーん。悩むなあ……」

 劉備は息子の阿斗を孔明に抱かせたりもした。
「若君、この諸葛亮、あなたにも忠誠を誓います」
「孔明、こいつはまだ言葉もわからないのだ」
「可愛らしい顔立ちをされています」
 孔明の腕の中で、阿斗は笑った。

 劉備と孔明の仲があまりにも良いので、関羽と張飛が嫉妬した。
「兄者、ひとりの部下と親しくしすぎると、他の者が嫌がります」
「兄貴、おれとも遊んでください」
 劉備は苦笑した。
「おれが孔明を部下にできたのは、魚が水を得たようなものなのだ。おれはいま、新天地にいるような心地だ」
 義兄がそう言ったので、義弟たちはますます孔明をうらやましがった。

 孔明は、荊州の情勢に目を配っていた。
 荊州牧の劉表には、ふたりの息子がいた。
 長男の劉琦と次男の劉琮。彼らは異母兄弟だった。
 劉琦の母はすでに亡くなり、劉琮の母の蔡夫人が劉表の寵愛を受けている。
 蔡夫人の弟、蔡瑁は荊州の別駕従事となり、病床にいる劉表にかわって、実権を握っていた。
 蔡夫人と蔡瑁は、劉琮を劉表の跡継ぎにしようとして、陰謀をめぐらせていた。
 劉琦は、暗殺されるかもしれないと怖れた。

 劉表の長男は、劉備を尊敬していた。
「私は蔡瑁に殺されるかもしれません」と相談した。
「孔明に知恵を借りればよい」と劉備は答えた。

 新野城の一室で、劉琦は孔明に「助けてください」と頼んだ。
「あなたは劉琮様と争い、荊州牧になりたいのですか?」
「そんな地位に拘泥はしていません。ただ命を永らえたいだけです」
「それならば、手はあります」

 その頃、江夏郡太守の黄祖が孫権軍に討たれ、太守の座が空席となっていた。
「劉琦様は、江夏郡太守になりたいと言えばよいのです。蔡瑁様は、厄介払いができると喜び、賛成するでしょう。荊州牧になることはできなくなりますが、あなたは江夏郡で生きていくことができます」
 劉琦は「孔明殿は命の恩人です」と言って感謝した。
 彼は孔明の策に従って太守となり、南郡襄陽城から江夏郡西陵城へ移った。

 208年夏、劉表は病没し、劉琮が跡を継いで荊州牧となった。
 曹操が五十万もの大軍を率い、荊州を襲おうとしていた。
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