劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
15 / 61

郯城の戦い

しおりを挟む
 曹操は徐州北部の琅邪国で大虐殺を行った。
 街は放置された死体であふれている。
 兵士より民間人の遺体の方が遥かに多い。
 父が殺された復讐とはいえ、許されざる蛮行である。
 南下し、東海郡へ侵攻しようとしている。
 
 劉備は陶謙から、曹操軍を迎撃するよう頼まれた。
 関羽、張飛、簡雍、麋竺に、麋竺の弟糜芳、友人孫乾を加えて軍議を開いた。
「曹操は五万の大軍で、徐州軍はわずか二万だ。どう戦うべきか」
 劉備は諸将にたずねた。

「郯城が東海郡でもっとも堅い城です。そこで籠城し、迎え撃つべきでしょう」
 麋竺が地図を広げながら言った。
「曹操軍は郯城へやってくると思うか?」
「それはわかりません」
「籠城は堅実な防衛手段だ。しかし、曹操軍は住民を虐殺しながら進んでいる。郯城にかまわず、他の地で殺戮されたら困る。我々は野戦をもいとわず、曹操軍を撃退しなければならん」
 劉備は地図に目を落としながら、首を振った。
 麋竺は、民を想う劉備の心に感動した。

「曹操は琅邪国即丘から東海郡に入ると思われます。郯城は即丘の南にあります。そこで待ちかまえるのは、悪くありません」
 情報通の孫乾が言った。
「では、急いで郯城へ行こう。曹操軍が城攻めをしたら、籠城しよう。もし通過するようなら、撃って出る」
「劉備兄貴、こういう作戦はどうです?」
 張飛が思いついた戦術を話した。
「おまえはなかなか賢いな。やってみるか」
 劉備はその作戦を採用することにした。張飛は不敵に笑った。

 曹操軍は即丘でも虐殺した。
 従軍している曹仁、夏侯淵、郭嘉らは内心では住民殺戮に反対なのだが、曹操の怒りが大きすぎて、諫言することができない。
 東海郡に入り、郯城に徐州軍が集結しているという情報を入手した。
「郯城などひと揉みで落としてしまえ」と曹操は言った。
「堅城だと聞いています。迂回すべきではないでしょうか」と郭嘉は提言した。
「郯城の徐州軍をつぶしてしまえば、陶謙のいる下邳城まで、敵はいないも同然だ。郯城を叩く。敵を皆殺しにしてやる」
 曹操は理性的な人物だが、このときは父を殺された恨みで、狂気を帯びていた。

 曹操軍は東海郡へ侵入し、目についた住民を殺し、家を焼きながら南下した。
 郯城に到着。
 包囲し、攻撃したが、確かに堅城で簡単には陥落しそうになかった。

 夜になって、伏兵が曹操軍を襲った。
 野に隠れていた張飛隊の攻撃。
 タイミングを合わせて、城からも兵が押し寄せてきた。
 連日の殺戮と行軍で疲れていた曹操軍は、いくらか損害をこうむった。
 しかし、曹操は戦いとなると冷静で、敵兵をはねのけた。
 徐州軍は城に撤退した。

「さすが曹操。崩せませんでした」
 張飛は悔しがった。
「おまえはよくやった。多少は敵を減らせたさ」
「曹操軍はこの郯城に張りつきました。ここに引きつけておけば、他で虐殺が起こることはありません。兄貴、じっくりと戦いましょう」
 曹操軍を郯城の前にとどめ、他へ行かせないことこそ、張飛の狙いだった。
「おう。琅邪国の民の恨み、ここで晴らしてやろう」

 劉備軍と曹操軍は、郯城で攻防戦を行った。
 徐州の兵はよく戦い、曹操に隙を見せなかった。
「長期戦で曹操軍を弱らせてやろう」
 劉備は城兵を励ました。

 ある朝、劉備が城壁から外を見ると、曹操軍が消えていた。
 包囲していた敵軍が、跡形もなくいなくなっている。
「どういうことだ。なにが起こった?」
 劉備は驚き、首をかしげた。
 麋竺と孫乾が情報収集に当たった。

「どうやら兗州で反逆が起こったようです。曹操の参謀のひとり陳宮が、呂布を引き込んで、兗州を乗っ取りました。曹操軍と呂布軍の戦いが勃発しています」
 孫乾が曹操軍撤退の理由を探り当てて、劉備に報告した。
「そうか。徐州はひとまず救われたな」
 劉備は深く息を吐いた。
「この機を逃してはならん。徐州軍を立て直し、琅邪国の復興を行おう。おれは半数の兵を率いて琅邪国へ行く。麋竺、おまえは残りの半数を連れて下邳へ戻り、陶謙殿とこれからのことを話し合え」
 麋竺は頼もしそうに劉備を仰ぎ見た。
「劉備様の仰せのままに」
 徐州の豪商は、すっかり劉備に魅せられていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと
歴史・時代
中国の三国時代、炎興元年(263年)、蜀の第二代皇帝、劉禅は魏の大軍に首府成都を攻められ、降伏する。 蜀は滅亡し、劉禅は幽州の安楽県で安楽公に封じられる。 私は道を誤ったのだろうか、と後悔しながら、泰始七年(271年)、劉禅は六十五歳で生涯を終える。 ところが、劉禅は前世の記憶を持ったまま、再び劉禅として誕生する。 ときは建安十二年(207年)。 蜀による三国統一をめざし、劉禅のやり直し三国志が始まる。 第1部は劉禅が魏滅の戦略を立てるまでです。全8回。 第2部は劉禅が成都を落とすまでです。全12回。 第3部は劉禅が夏候淵軍に勝つまでです。全11回。 第4部は劉禅が曹操を倒し、新秩序を打ち立てるまで。全8回。第39話が全4部の最終回です。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...