劉備が勝つ三国志

みらいつりびと

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糜竺子仲

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 劉備たちは徐州の下邳城に到着した。公孫瓚から与えられた援軍一千を率いている。
 劉備は関羽を連れて、陶謙と面会した。
 侵攻してきた曹操軍は五万。それに比べると劉備軍は少なすぎるが、軍事が苦手な徐州牧の陶謙は、喜色を浮かべた。

「劉備玄徳です。微力ですが、陶謙殿をお助けしたいと思っています」
「微力などと……。劉備殿が指揮する兵は強いと聞いている。ふたりの豪傑がいるとも……」
「ああ、関羽と張飛のことですね。私にはもったいないほどの将です」
 背後で会話を聞いている関羽は、身が打ち震えるほどの感動を味わっている。劉備は謙虚で、自分を評価してくれている。この人のためなら命を捨ててもいいと思う。

「状況は深刻だ。曹操軍は残虐で、住民を殺戮しながら進んでいる。すでに琅邪国は蹂躙された。趙昱に兵を与えて押しとどめようとしたが、彼は戦死した」
「次の手は考えておられますか?」
 陶謙は劉備をじっと見た。
 劉備はその目を見つめ返した。
 大きな耳を持つ男は、穏やかに微笑み、落ち着いている。
 この人に賭けてみよう、と陶謙はふいに思った。

「糜竺に迎撃させようと考えていたが、あなたを主将とし、糜竺は副将にしよう。劉備殿、頼む」
 劉備は驚いた。自分は援軍の将にすぎない。
「頼むと言われましても……。私は少ない兵しか持っていません」
「二万の兵を貸す。私がいま動かせる全兵力だ。曹操を打ち払ってくれ」
 劉備はますます驚いた。徐州の命運が、にわかにのしかかってきた。
「陶謙殿、私は徐州のことを知りません。別の方を主将に指名してください」
「いや、曹操と戦えるのは、あなたしかいない気がする。劉備殿、心から頼む。徐州を救ってほしい」
 そんなふうに頼られてしまうと断れない。
「とにかく、麋竺という方に会わせてもらえますか」

 麋竺がやってきた。
「麋竺、幽州から援軍として来てくれた劉備殿だ。彼に曹操との戦いを任せようと思う。きみは副将として、劉備殿を助けてくれ」
 陶謙からそう言われて、麋竺は怪訝な顔をした。
 援軍に州の防衛を丸投げするなど、聞いたことがない。
 彼は劉備を見た。
 その瞬間、雷に打たれたような気分になった。
 麋竺には、観相の心得がある。
 劉備の容貌は、貴人の相だった。その大きな耳は、単なる福耳以上のものがある。皇帝になってもおかしくはない。

 糜竺子仲は156年生まれ。徐州東海郡出身。劉備より五歳年上である。
 先祖代々商人の家柄。一族は手広く商いをし、糜商会という巨大な企業を経営している。
 麋竺は当主で、使用人を一万人従え、億万の富を有していた。
 政治や軍事にも参画し、徐州の別駕従事の職についている。
 陶謙の右腕とでも言うべき存在。
 その麋竺が、ひとめで劉備に惚れ込んだ。
 この人は世界を救うかもしれない、と直感的に思った。

「わかりました。劉備様に従います」
 さらっと言った豪商に、劉備はまた驚いた。
「麋竺殿、初対面の私に従ってくれるのか?」
 麋竺は多くを語らず、うなずいた。
「呼び捨てにしてください、麋竺と。あなたが主将で、私は副将です」
「しかし、私は主将になるのにためらっているのだ。あなたが軍を率いた方がよいのではないか?」
 麋竺は劉備を見据えた。
「徐州を救えるのは劉備様しかいないでしょう。この麋竺、全力でお助けいたします」
 関羽は、麋竺をたいした男だと思った。劉備の大器をひとめで見抜いたようだ。
「わかった。麋竺、おれは徐州のことを知らん。助力を頼む」
「命を賭けて、劉備様を支えます」
 麋竺は、一生を劉備に捧げることになる。その生命と財産を、主のために使い尽くした。
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