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盧植子幹
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劉備の家は貧しかったが、母は息子に勉強をさせようとした。
金銭的に余裕のある親戚の劉元起に相談した。
「玄徳に学問をさせたいのです」
「あいつにはおおらかなところがある。将来なにごとかをなすかもしれん。おれが学資を出してやるよ」
劉元起は快くお金を出してくれた。
劉備は15歳のとき、儒学者の盧植の門を叩いた。
盧植子幹は劉備と同郷。二十歳ほど年上だった。
すぐれた学者であるだけでなく、武にも才能があった。後に北中郎将となり、黄巾の乱で功績をあげる。
涿県にこのような人がいたことは、劉備にとって好運であった。
劉備は盧植に対面した。
「先生、よろしくお願いします」
盧植は新弟子を見て驚いた。
身長は七尺五寸とふつうだが、異相を持っていた。
目がきらきらとして異様に大きい。耳も尋常でないほど大きく、耳たぶが長く垂れていた。
貧乏なのか、気の毒なほど痩せていて、手足がひょろりと長い。
それなのに朝日のように明るい表情で、にこにこと笑っている。
盧植は大乱の時代が来ることを予感していた。
この男は時代の主役のひとりになるのではないか、と直感的に思った。
「劉備くんと言ったな」
「はい、劉備玄徳と申します」
「勉学に励みなさい。本は真理を教えてくれる」
「ありがとうございます。がんばります」
にっこりと勉励することを宣言した。
けれど、劉備は講義のとき、ぼんやりとして宙を眺めるばかりだった。
終わると、公孫瓚や牽招などと遊びに行く。
劉備と公孫瓚たちは非常に仲がよかった。
彼らを見て、刎頸の交わりのようだ、と盧植は思った。
学友と遊ぶのは悪いことではない。だが、もう少し勉強もしてほしいものだ……。
公孫瓚は後に奮武将軍となり、河北で大勢力を持つようになる。
牽招は袁紹や曹操などに仕え、長く武将として活躍する。
盧植は劉備を呼び出した。
「劉備くん、きみの勉強の態度はよいとは言えない」
そう叱られて、劉備はしゅんとした。
「すみません。むずかしくて、よくわからないのです」
「学問をやめるかね?」
「やめたくないです。先生の声が好きなのです。お声を聞いていると、鳥のさえずりのようだと思ってしまいます」
盧植は苦笑した。講義が鳥のさえずりと言われて、喜ぶ学者はいない。しかし、劉備に言われると、不思議と悪い気はしなかった。
放置することにした。
好きなようにしていればいい。
この子の人生とかかわれるだけでしあわせだ。
そんなふうに思わせる雰囲気が、劉備にはあった。
その明るい性格に惹かれて、公孫瓚たちは彼とつきあっているようだった。仲間がたくさんいる。彼といると、元気になれる。
盧植は劉備を弟子として愛した。
劉備が門下に入って一年後、盧植は後漢朝廷から首都洛陽へ来るよう命じられた。
涿県の塾は閉鎖せざるを得なかった。
優秀な学者である彼を、政府は放っておかなかった。議郎に任じられ、皇帝に意見を述べるようになった。
劉備が学問をしたのは、その一年間だけだった。
勉強をしたとは言えないかもしれない。講義中、ほとんど宙を見ていただけである。
しかし、盧植や公孫瓚と知り合ったことは、彼の人生を大きく変えていくことになる。
金銭的に余裕のある親戚の劉元起に相談した。
「玄徳に学問をさせたいのです」
「あいつにはおおらかなところがある。将来なにごとかをなすかもしれん。おれが学資を出してやるよ」
劉元起は快くお金を出してくれた。
劉備は15歳のとき、儒学者の盧植の門を叩いた。
盧植子幹は劉備と同郷。二十歳ほど年上だった。
すぐれた学者であるだけでなく、武にも才能があった。後に北中郎将となり、黄巾の乱で功績をあげる。
涿県にこのような人がいたことは、劉備にとって好運であった。
劉備は盧植に対面した。
「先生、よろしくお願いします」
盧植は新弟子を見て驚いた。
身長は七尺五寸とふつうだが、異相を持っていた。
目がきらきらとして異様に大きい。耳も尋常でないほど大きく、耳たぶが長く垂れていた。
貧乏なのか、気の毒なほど痩せていて、手足がひょろりと長い。
それなのに朝日のように明るい表情で、にこにこと笑っている。
盧植は大乱の時代が来ることを予感していた。
この男は時代の主役のひとりになるのではないか、と直感的に思った。
「劉備くんと言ったな」
「はい、劉備玄徳と申します」
「勉学に励みなさい。本は真理を教えてくれる」
「ありがとうございます。がんばります」
にっこりと勉励することを宣言した。
けれど、劉備は講義のとき、ぼんやりとして宙を眺めるばかりだった。
終わると、公孫瓚や牽招などと遊びに行く。
劉備と公孫瓚たちは非常に仲がよかった。
彼らを見て、刎頸の交わりのようだ、と盧植は思った。
学友と遊ぶのは悪いことではない。だが、もう少し勉強もしてほしいものだ……。
公孫瓚は後に奮武将軍となり、河北で大勢力を持つようになる。
牽招は袁紹や曹操などに仕え、長く武将として活躍する。
盧植は劉備を呼び出した。
「劉備くん、きみの勉強の態度はよいとは言えない」
そう叱られて、劉備はしゅんとした。
「すみません。むずかしくて、よくわからないのです」
「学問をやめるかね?」
「やめたくないです。先生の声が好きなのです。お声を聞いていると、鳥のさえずりのようだと思ってしまいます」
盧植は苦笑した。講義が鳥のさえずりと言われて、喜ぶ学者はいない。しかし、劉備に言われると、不思議と悪い気はしなかった。
放置することにした。
好きなようにしていればいい。
この子の人生とかかわれるだけでしあわせだ。
そんなふうに思わせる雰囲気が、劉備にはあった。
その明るい性格に惹かれて、公孫瓚たちは彼とつきあっているようだった。仲間がたくさんいる。彼といると、元気になれる。
盧植は劉備を弟子として愛した。
劉備が門下に入って一年後、盧植は後漢朝廷から首都洛陽へ来るよう命じられた。
涿県の塾は閉鎖せざるを得なかった。
優秀な学者である彼を、政府は放っておかなかった。議郎に任じられ、皇帝に意見を述べるようになった。
劉備が学問をしたのは、その一年間だけだった。
勉強をしたとは言えないかもしれない。講義中、ほとんど宙を見ていただけである。
しかし、盧植や公孫瓚と知り合ったことは、彼の人生を大きく変えていくことになる。
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