バンド若草物語の軌跡

みらいつりびと

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ライブ衣装

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 5人はあざみ原駅前にある蕎麦屋に入った。まあまあ美味しいけれど、あまりお客さんがいない店だ。
「おれはカレー南蛮うどん大盛りにするよ」
「ヨイチ、前にもそれ食べていたよね」
「ここのカレーうどんは旨いんだよ」
「あたしは天ぷらそばにするわ」
「おまえこそ、前と一緒じゃねえか」
「天ぷらそばが好きなのよ」
「仲がいいねえ、樹子とヨイチくん。わたしはもりそば大盛りにするよ」
「未来人もブレねえな!」
「僕は冷やしたぬきそばを頼もうかな」
「冷やしたぬきそば、美味しいの?」
「たぶん美味しいと思うよ、すみれちゃん」
 良彦はすみれちゃんと呼ぶようになっていた。
 それを聞くと、みらいの胸中はもやもやするのだが、彼女はそれを表情に出さないようにしていた。
 良彦くんとすみれちゃんは、ふたりとも素敵な人。お似合いだよね……。
「じゃあ私も冷やしたぬきそばにする!」とすみれは明るい声で言った。彼女は若草物語のベーシストに惚れている。
 店員に注文し、彼らは料理が届くのを待った。
「ライブのとき、何を着ようか?」と樹子が言った。
「え? 制服じゃだめなの?」
「うーん、制服はだめなんじゃないかな。何かお揃いの服をみんなで着たいよね」
「お揃いの服着たいね! 良彦くん、何を着ればいいと思う?」
 すみれが良彦に訊いた。
「同じ色のTシャツでも着ればいいんじゃないかな」
「それいいね! ねえ、今日はこれから、服を買いに行かない?」
「練習もしたいけれど、ライブ衣装も買わないといけないわね。双子玉川のイトーヨーク堂にでも行こうか?」
「わたしもみんなとお揃いの服が着たいな。でも7千円しか持っていないよ。あんまり散財すると、今月生きていけないし……」
 みらいが財布を見ながら言った。
「千円ぐらいでTシャツは買える。行こうぜ!」
 昼食を済ませ、5人は南急電鉄線に乗り、双子玉川へ行った。
 イトーヨーク堂に入り、Tシャツを物色する。
「ねえ、このモスグリーンのシャツがいいんじゃない? 若草物語って感じで!」
 すみれが1枚のTシャツを手に取って広げた。
「確かにいいわね」
「とってもいいと思う」
「賛成」
「決まりだな!」
 あっさりと購入するTシャツが決まった。
「ねえ、お揃いのスカートも買っちゃわない?」
 すみれは買い物好きだ。はしゃいでいた。
「そんなお金はないよ……」
 みらいは浮かない表情になった。
「お金なら貸すわよ。出世払いでいいわ。みらいちゃんが歌手としてブレイクしたら返してよ」
「わたしはブレイクなんてしないよ……」
「いや、するかもしれねえぜ。未来人の歌は本当に凄いからな」
「とにかくスカートを探してみようよ。このピンクのミニスカートはどう?」
「派手すぎる。却下」
「うーん、じゃあこの淡いグレーのミニスカートはどうかしら? モスグリーンのTシャツに合うと思うわ」
「悪くないわね。かわいいかも」
「ミニスカートなんて穿くの? 無理無理無理!」
「未来人にイメチェンさせるチャンスね。女の子はモスグリーンのTシャツと淡いグレーのミニスカートにしましょう」
「えーっ、本当にこれを着るの?」
「試着してみましょうか」
 樹子、みらい、すみれはその服を試着した。
「うん。いいんじゃないか」
「3人とも、とても似合うよ」
 樹子は当然と言った感じで表情を変えず、すみれは良彦に褒められて顔を紅潮させ、みらいはもじもじしていた。
 結局、彼女たちはそれを買った。みらいのスカート代はすみれが出した。
「男子は下はどうする?」
「おれはジーンズを穿くよ」
「僕もジーンズにしようかな」
「決まりね」
「なんか疲れた……。服を買うのは苦手……」
 みらいは少しぐったりしていた。
「今日は練習はなしにして、解散しましょうか。試験勉強で疲れているしね。土日にしっかりと曲を仕上げましょう」
「そうしよう。今日は帰ろうぜ」
 彼らは双子玉川駅に向かった。
 ミニスカートは恥ずかしいが、お揃いのTシャツを手に入れて、みらいはうれしかった。
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