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昼寝
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「勉強しようぜ! とにかく中間試験を乗り切るんだ!」
「当然よ。未来人、涙を拭きなさい。テスト勉強に集中しましょう!」
「みらいちゃん、さっきはちょっとびびったけれど、もう大丈夫だよ。がんばろう!」
ヨイチ、樹子、良彦の士気は高かった。
「うん」とみらいはうなずき、勉強会が再開された。
日曜日はずっと勉強をしていた。昼食は樹子の母が差し入れてくれたサンドイッチで済ませた。ハムサンド、卵サンドはなかなかの美味だった。
試験科目は英語2、国語2、数学2、社会3、理科3の合計12科目。
5月の最終週の月曜日から木曜日まで、1日につき3科目のテストが行われた。
成績別クラス制度が実施されている桜園学院高校では、上のクラスへ上がるため、下のクラスへ落ちないため、生徒たちは真剣にテストを受ける。上がる気のないガンマ3のスポーツ特待生たちですら、赤点を取ると落第だぞと教師から脅されて、懸命になっている。
みらいは背水の陣だった。
絶対に昇級しなければならないというプレッシャーと戦った。
母が樹子の部屋に突然現れたことに対して怒りが消えなかったが、冷静になろうと努め、問題を解いていった。
自分のためにひと肌もふた肌も脱いでくれた友だちのためにも、負けられなかった。
木曜日、最後のテストが終わったとき、彼女は張りつめていた気持ちが切れて、机に突っ伏した。
「はうあ~っ」
大きく息をついた。
「どうだった?」
「上がれそうか?」
「みらいちゃん、お疲れさま」
樹子、ヨイチ、良彦がみらいの周りに集まってきた。
「全力は尽くした……。天命を待ちます……。良彦くん、たくさん勉強を教えてくれて、どうもありがとうございました」
「終わったわね~。カラオケ行かない?」
原田すみれが寄ってきて言った。
「ごめんなさい……。ひたすらに眠い……」
「未来人、あたしの部屋で昼寝する?」
「それいいな……。お昼寝したい……」
「おれも昼寝したい!」
「だめよ。女子の昼寝は男子禁制! 未来人、ふたりで昼寝しましょう」
「あ、私もお昼寝したい!」
「布団がふたり分しかないわ。また今度ね」
樹子はすみれに冷たかった。彼女は不服そうだったが、引き下がった。
樹子とみらいは下校し、田園地帯を歩いた。
5月下旬のよく晴れた昼。最高に気持ちのいい天気だった。
ふたりは途中にあった小さな個人商店で菓子パンを買い、畦道に座って、田んぼを見ながら食べた。
食べ終わると、みらいはこてんと倒れて、そのまま眠ってしまった。
やれやれ、と思って、樹子はみらいを見守った。
微風(そよかぜ)が吹いていた。
田んぼではオタマジャクシが泳ぎ、アマガエルがいずこかを見つめていた。
畦道の脇にはタンポポとハルジオンとシロツメクサが咲いていた。
雲はほんの少しずつ形を変えていく。樹子はそこに一瞬、みらいの横顔を見た。
いつのまにか樹子も寝落ちしてしまった。
ふたりはほぼ同時に目を覚ました。午後3時ごろだった。
「はあーっ、すっごく気持ちいい! 最高のお昼寝だったぁ」
「げっ、ヤバ! 女子高生ふたりが屋外で無防備に昼寝したなんて最悪」
樹子は焦っていたが、みらいは暢気だった。
「未来人、ふたりきりなのは久しぶりね。これからYMO聴かない?」
「聴く!」
ふたりは樹子の部屋へ行った。
彼女はYMOの第4アルバム『BGM』を棚から取り出し、レコードジャケットをみらいに見せた。歯ブラシを水で洗っている淡い色合いのイラスト。
「あれ、なんだかジャケットの雰囲気がちがっているね」
「ふふっ、聴いてみて。びっくりするかな? 失望するかな?」
樹子はオーディオセットで音楽を流した。
『BGM』でイエロー・マジック・オーケストラの音楽は大きく変貌していた。わかりやすい派手さやポップさが影を潜めている。
「え、これ、YMOなの?」
「実験してるよね~。あたしは大好きよ。聴いても聴いても飽きないわ。深いわ、イエロー・マジック・オーケストラ!」
「うん……。教授の『千のナイフ』はいい曲だよね……」
みらいの反応は鈍かった。「教授」というのは、坂本龍一のニックネームだ。
樹子は再び『BGM』をかけた。
「あれ、いいのかも、これ。癖になる……?」
みらいは身を乗り出した。
1回目より、2回目に聴いたときの方が良く聴こえる。
「『キュー』や『ユーティー』はいいわ! 他の曲も素敵! 知的な音楽って感じ。格好いい!」
「不思議な音色だね……」
みらいは目を閉じて、音楽に耳を傾けた。重層的に音が鳴っていて、どの音色も魅力的に思えてきた。
樹子がレコードに3回目の針を落とす。
確かに全然飽きない、とみらいは思った。
カセットテープに録音してもらって、また聴こう……。
「当然よ。未来人、涙を拭きなさい。テスト勉強に集中しましょう!」
「みらいちゃん、さっきはちょっとびびったけれど、もう大丈夫だよ。がんばろう!」
ヨイチ、樹子、良彦の士気は高かった。
「うん」とみらいはうなずき、勉強会が再開された。
日曜日はずっと勉強をしていた。昼食は樹子の母が差し入れてくれたサンドイッチで済ませた。ハムサンド、卵サンドはなかなかの美味だった。
試験科目は英語2、国語2、数学2、社会3、理科3の合計12科目。
5月の最終週の月曜日から木曜日まで、1日につき3科目のテストが行われた。
成績別クラス制度が実施されている桜園学院高校では、上のクラスへ上がるため、下のクラスへ落ちないため、生徒たちは真剣にテストを受ける。上がる気のないガンマ3のスポーツ特待生たちですら、赤点を取ると落第だぞと教師から脅されて、懸命になっている。
みらいは背水の陣だった。
絶対に昇級しなければならないというプレッシャーと戦った。
母が樹子の部屋に突然現れたことに対して怒りが消えなかったが、冷静になろうと努め、問題を解いていった。
自分のためにひと肌もふた肌も脱いでくれた友だちのためにも、負けられなかった。
木曜日、最後のテストが終わったとき、彼女は張りつめていた気持ちが切れて、机に突っ伏した。
「はうあ~っ」
大きく息をついた。
「どうだった?」
「上がれそうか?」
「みらいちゃん、お疲れさま」
樹子、ヨイチ、良彦がみらいの周りに集まってきた。
「全力は尽くした……。天命を待ちます……。良彦くん、たくさん勉強を教えてくれて、どうもありがとうございました」
「終わったわね~。カラオケ行かない?」
原田すみれが寄ってきて言った。
「ごめんなさい……。ひたすらに眠い……」
「未来人、あたしの部屋で昼寝する?」
「それいいな……。お昼寝したい……」
「おれも昼寝したい!」
「だめよ。女子の昼寝は男子禁制! 未来人、ふたりで昼寝しましょう」
「あ、私もお昼寝したい!」
「布団がふたり分しかないわ。また今度ね」
樹子はすみれに冷たかった。彼女は不服そうだったが、引き下がった。
樹子とみらいは下校し、田園地帯を歩いた。
5月下旬のよく晴れた昼。最高に気持ちのいい天気だった。
ふたりは途中にあった小さな個人商店で菓子パンを買い、畦道に座って、田んぼを見ながら食べた。
食べ終わると、みらいはこてんと倒れて、そのまま眠ってしまった。
やれやれ、と思って、樹子はみらいを見守った。
微風(そよかぜ)が吹いていた。
田んぼではオタマジャクシが泳ぎ、アマガエルがいずこかを見つめていた。
畦道の脇にはタンポポとハルジオンとシロツメクサが咲いていた。
雲はほんの少しずつ形を変えていく。樹子はそこに一瞬、みらいの横顔を見た。
いつのまにか樹子も寝落ちしてしまった。
ふたりはほぼ同時に目を覚ました。午後3時ごろだった。
「はあーっ、すっごく気持ちいい! 最高のお昼寝だったぁ」
「げっ、ヤバ! 女子高生ふたりが屋外で無防備に昼寝したなんて最悪」
樹子は焦っていたが、みらいは暢気だった。
「未来人、ふたりきりなのは久しぶりね。これからYMO聴かない?」
「聴く!」
ふたりは樹子の部屋へ行った。
彼女はYMOの第4アルバム『BGM』を棚から取り出し、レコードジャケットをみらいに見せた。歯ブラシを水で洗っている淡い色合いのイラスト。
「あれ、なんだかジャケットの雰囲気がちがっているね」
「ふふっ、聴いてみて。びっくりするかな? 失望するかな?」
樹子はオーディオセットで音楽を流した。
『BGM』でイエロー・マジック・オーケストラの音楽は大きく変貌していた。わかりやすい派手さやポップさが影を潜めている。
「え、これ、YMOなの?」
「実験してるよね~。あたしは大好きよ。聴いても聴いても飽きないわ。深いわ、イエロー・マジック・オーケストラ!」
「うん……。教授の『千のナイフ』はいい曲だよね……」
みらいの反応は鈍かった。「教授」というのは、坂本龍一のニックネームだ。
樹子は再び『BGM』をかけた。
「あれ、いいのかも、これ。癖になる……?」
みらいは身を乗り出した。
1回目より、2回目に聴いたときの方が良く聴こえる。
「『キュー』や『ユーティー』はいいわ! 他の曲も素敵! 知的な音楽って感じ。格好いい!」
「不思議な音色だね……」
みらいは目を閉じて、音楽に耳を傾けた。重層的に音が鳴っていて、どの音色も魅力的に思えてきた。
樹子がレコードに3回目の針を落とす。
確かに全然飽きない、とみらいは思った。
カセットテープに録音してもらって、また聴こう……。
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