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試験前は読書がはかどる。

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 月曜日の朝目覚めたとき、いよいよ来週は中間試験だ、とみらいは思った。
 文系と理系、両方ともガンマ3クラスで5位以内に入り、試験後はガンマ2へ昇級しなければならない。
 上のクラスに上がれなければ、学費を出すのをやめる、と母から言われている。
 お母さんなら本当にやりかねない。
 桜園学院に通えなくなってしまう。
 樹子やヨイチや良彦と会えなくなってしまう。
 それだけは絶対に嫌だ!
 今週はしっかりと試験勉強をしよう、とみらいは決意した。
 通学電車の中で教科書を開こうとしたが、せめて通学中ぐらいはいいよね、と思い直して、新井素子のSF小説『グリーン・レクイエム』を読んだ。切なくて素敵な小説だ。こんな物語が書けるようになりたいなあ……。
 夢中になって読んでいたら、いつのまにか南東京駅に到着していた。
 学校では、すべての授業を真剣に受けた。先生が「ここ試験に出るぞ」と言った箇所には黄色の蛍光ペンで線を引いた。
 放課後は樹子の部屋で勉強会だ。
「わたしがんばるよ。これからもみんなと一緒にいたいから!」
「みらいちゃんの実力を測るために、小テストをつくってきたよ。樹子もヨイチもやってみて」
 良彦が数学、物理、化学それぞれ10問ずつのテストをつくってくれていた。
 各教科30分ずつ。1時間半後、答え合わせをした。
 数学は樹子90点、ヨイチ80点、みらい60点。
 物理は樹子70点、ヨイチ90点、みらい50点。
 化学は樹子80点、ヨイチ70点、みらい60点。
 樹子とヨイチは同レベルで、みらいは全教科最下位だった。彼女は頭を抱えた。
「あれ~っ、かなりわかってきたと思っていたのに、わたしやっぱり全然だめ?」
「樹子とヨイチはふたりとも理系ベータ1クラスで、しかも実力を上げているから、かなわなくても心配はいらないよ。物理はちょっと低いけれど、この小テスト60点はたぶん桜園の全1年生の平均点ぐらいだと思う。中間試験でこの程度の成績を取れれば、ガンマ3からは上がれると思うよ」
「本当、良彦くん?」
「うん。油断せずにちゃんと実力を発揮しようね、みらいちゃん」
 ふたりは目を合わせて微笑んでいた。
 このふたり、かなり距離が縮まっているな、と樹子は感じた。みらいと良彦が仲よくなればいいな、と考えていたはずなのに、この状態をの当たりにしたら、胸がもやもやした。どうしてだろう?
 帰りの電車の中で、「文系科目も油断しないでね」と良彦はみらいに言った。
「うん。がんばるよ!」
 彼女の彼を見る目はキラキラしていた。
 樹子という恋人がいながら、ヨイチの胸が少し痛んだ。気にするな、良彦は最高にいいやつじゃないか……。
 みらいは自宅に帰り、相変わらず母とは話さずに、無言で夕ごはんを食べた。そして自室に籠り、勉強をした。英語を1時間やって、10分だけ息抜きと思って、『グリーン・レクイエム』を読んだ。
 いつのまにか1時間が経過していた。やば、この本は面白すぎる……。
 現代文には自信がある。古文と漢文を30分ずつ勉強した。そして10分だけと決めて、本を読んだ。
 いつのまにかまた1時間が経過し、みらいは新井素子の小説を読了してしまった。
 どうして試験前には勉強以外のことに集中力が増すのだろう?
 明日はがんばるぞ、と決意し、お風呂に入って就寝した。
 火曜日に起床したとき、今日こそはしっかり勉強しよう、とみらいは思った。
 電車内で英語の教科書を読もうとしたのだが、鞄の中を見ると、星新一のSF小説『声の網』が入っていた。みらいの鞄には常に文庫本があるのだ。彼女は無意識に手に取って読み始めてしまった。
 刺激的な本だった。未来はこんな情報社会になるのかなあ、などと思いながら読み耽り、気がついたら南東京駅に着いていた。
 授業を真面目に受け、良彦の指導もきちんと聞いて、自宅へ帰った。彼を見つめる自分を樹子とヨイチがなんとなく浮かない目で見ていたようにも感じたが、たぶん気のせいだろう。何はともあれ勉強に集中!
 夕食後、英文読解を集中的に2時間やった。英単語や英熟語をそれなりに覚え、長文の日本語訳も進歩したと思う。
 少しだけ休憩と思って、『声の網』を読み始めた。めちゃくちゃ面白い……。
 気がついたら水曜日の午前0時になり、本を読み終わっていた。
 本当にどうして試験前には勉強以外のことに集中力が増えるのだろう?
 みらいは意志薄弱な自分を呪った。
 このままではヤバい。しっかり勉強しないと……!
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