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『わかんない』のアレンジ
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樹子の部屋で2時間、数学、物理、化学の勉強をした。
それから4人で『大臣』へ行き、ラーメンを食べた。
食後にしばらくおしゃべりをした。
「未来人、最近、お母さんとはどんな感じなの?」
「まったく話していないよ。中間試験で結果さえ出せばいいよ。お母さんとは話したくない。東大へ行けって言われるだけだし……」
「未来人さん、きみが東大へ行きたいのなら、行けるよ」
「えっ、行けるの?」
「行けるとも。ただし、バンドをやっている暇はなくなる。余暇はすべて勉強に費やさなくてはならない」
「そんなのは嫌だよ。わたしはみんなと音楽をやりたい。高校生活を楽しみたい!」
「良彦、未来人に変なことを言わないでよ!」
「僕は選択肢を示しただけだよ」
「おれも未来人とバンドをやりたい。未来人なしの若草物語は考えられない」
「ヨイチくんなしの若草物語も考えられないよ。ここにいる誰かひとりでも欠けたら、それはもう若草じゃない! みんなでがんばろう!」
「僕はヘルプだけどね。まあそれなりにがんばるよ」
4人は樹子の部屋に戻った。
「麻雀やろうぜ!」
「『わかんない』の編曲をしましょう! 曲を仕上げて、練習できるようにしたい!」
「麻雀を覚えたい! 練習もしたい!」
樹子とヨイチは睨み合い、じゃんけんをした。
樹子がグーで、ヨイチはチョキだった。編曲をすることになった。
「『わかんない』はギターリフから入りましょう。ヨイチ、印象的なリフをつくって!」
ギターリフとは、ギターで演奏される曲のモチーフ、象徴、骨格となるフレーズのことだ。ロックではこれがくり返されることが多い。
「簡単に言いやがるぜ」
ヨイチはエレキギターを抱えて、コードを持参してきた小型アンプにつないだ。このアンプはコンセントでも電池でも鳴る優れものだ。
「あっ、フォークギターじゃない!」
「エレキだよ。バンドやるなら、こっちだろ」
「カッコいいよ、ヨイチくん!」
「ちゃんと弾けたらカッコいいんだけどな。練習しねえとだめだ」
そんなことを言いつつも、彼は耳に心地よいギターリフをつくり出し、演奏した。
「いいわね。それを4小節つづけて」
樹子が指示し、ヨイチが弾いた。
5小節目で樹子がエレクトーンを弾き始めた。ギターリフに彩りを添える見事なキーボードリフを一発で紡いでみせた。
「9小節目、ヴォーカル入って!」
「え? え?」
「スリー、ツー、ワン!」
戸惑いながらも、みらいは歌い出した。
途中で樹子が「次、間奏! ギターリフを8小節つづけて!」と叫んだ。
ヨイチは前奏と同じリフを弾いた。
樹子が前奏とは少し異なるキーボードリフを重ねた。
「ヴォーカル準備! スリー、ツー、ワン!」
みらいが歌を再開した。
歌が終わる直前、「終奏リフ8小節! 9小節目にCのコードを鳴らして終わる!」と樹子が指示した。
ヨイチはまた同じリフを弾いた。頭に残る印象的なギターリフだ。
樹子はそれにウラメロディを重ねた。
ギターとキーボードがCを鳴らし、曲が終わった。
良彦が拍手した。
「お見事! 聴き応えがあったよ! これが初演奏とは信じられないね。僕もベースを弾きたくなったよ」
「土曜日と日曜日にはベースを持ってきてよ」
「わかった」
「凄い! 歌っていて気持ちよかった!」
みらいは感動に打ち震えていた。
「やっぱり未来人の歌声はいい! おまえはスターになれる!」
ヨイチがみらいの目を見て言った。
「わたしがスター? そんな柄じゃないよ」
「いや、おまえは格好いいよ。胸を張れ! 未来はおまえのものだ、未来人!」
みらいは自然に胸を張った。
スターになれるかどうかはわからないけれど、堂々としていよう、と思った。
それから4人で『大臣』へ行き、ラーメンを食べた。
食後にしばらくおしゃべりをした。
「未来人、最近、お母さんとはどんな感じなの?」
「まったく話していないよ。中間試験で結果さえ出せばいいよ。お母さんとは話したくない。東大へ行けって言われるだけだし……」
「未来人さん、きみが東大へ行きたいのなら、行けるよ」
「えっ、行けるの?」
「行けるとも。ただし、バンドをやっている暇はなくなる。余暇はすべて勉強に費やさなくてはならない」
「そんなのは嫌だよ。わたしはみんなと音楽をやりたい。高校生活を楽しみたい!」
「良彦、未来人に変なことを言わないでよ!」
「僕は選択肢を示しただけだよ」
「おれも未来人とバンドをやりたい。未来人なしの若草物語は考えられない」
「ヨイチくんなしの若草物語も考えられないよ。ここにいる誰かひとりでも欠けたら、それはもう若草じゃない! みんなでがんばろう!」
「僕はヘルプだけどね。まあそれなりにがんばるよ」
4人は樹子の部屋に戻った。
「麻雀やろうぜ!」
「『わかんない』の編曲をしましょう! 曲を仕上げて、練習できるようにしたい!」
「麻雀を覚えたい! 練習もしたい!」
樹子とヨイチは睨み合い、じゃんけんをした。
樹子がグーで、ヨイチはチョキだった。編曲をすることになった。
「『わかんない』はギターリフから入りましょう。ヨイチ、印象的なリフをつくって!」
ギターリフとは、ギターで演奏される曲のモチーフ、象徴、骨格となるフレーズのことだ。ロックではこれがくり返されることが多い。
「簡単に言いやがるぜ」
ヨイチはエレキギターを抱えて、コードを持参してきた小型アンプにつないだ。このアンプはコンセントでも電池でも鳴る優れものだ。
「あっ、フォークギターじゃない!」
「エレキだよ。バンドやるなら、こっちだろ」
「カッコいいよ、ヨイチくん!」
「ちゃんと弾けたらカッコいいんだけどな。練習しねえとだめだ」
そんなことを言いつつも、彼は耳に心地よいギターリフをつくり出し、演奏した。
「いいわね。それを4小節つづけて」
樹子が指示し、ヨイチが弾いた。
5小節目で樹子がエレクトーンを弾き始めた。ギターリフに彩りを添える見事なキーボードリフを一発で紡いでみせた。
「9小節目、ヴォーカル入って!」
「え? え?」
「スリー、ツー、ワン!」
戸惑いながらも、みらいは歌い出した。
途中で樹子が「次、間奏! ギターリフを8小節つづけて!」と叫んだ。
ヨイチは前奏と同じリフを弾いた。
樹子が前奏とは少し異なるキーボードリフを重ねた。
「ヴォーカル準備! スリー、ツー、ワン!」
みらいが歌を再開した。
歌が終わる直前、「終奏リフ8小節! 9小節目にCのコードを鳴らして終わる!」と樹子が指示した。
ヨイチはまた同じリフを弾いた。頭に残る印象的なギターリフだ。
樹子はそれにウラメロディを重ねた。
ギターとキーボードがCを鳴らし、曲が終わった。
良彦が拍手した。
「お見事! 聴き応えがあったよ! これが初演奏とは信じられないね。僕もベースを弾きたくなったよ」
「土曜日と日曜日にはベースを持ってきてよ」
「わかった」
「凄い! 歌っていて気持ちよかった!」
みらいは感動に打ち震えていた。
「やっぱり未来人の歌声はいい! おまえはスターになれる!」
ヨイチがみらいの目を見て言った。
「わたしがスター? そんな柄じゃないよ」
「いや、おまえは格好いいよ。胸を張れ! 未来はおまえのものだ、未来人!」
みらいは自然に胸を張った。
スターになれるかどうかはわからないけれど、堂々としていよう、と思った。
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