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世界史の歌
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みらいは世界史の教科書を参照しながら、『世界史の歌』の詞を書いた。
樹子は『ポーの一族』の2巻を読み耽っていた。
ヨイチは興味深そうにみらいのようすを見つめていた。
良彦は缶紅茶を飲みながら、ウォークマンでピンク・フロイドの『ザ・ウォール』を聴いていた。彼はクラシックだけでなく、幅広くいろいろなジャンルの音楽を楽しんでいる。
友永は村上春樹の『羊をめぐる冒険』を読んでいた。
小島は虚空を見ながら詩想を練っていた。彼は練るだけで、いっこうに書こうとはしなかった。
1時間ほど経過して、「できた」とみらいが言った。
「見せて」と樹子が言い、「見せてくれ」とヨイチが言った。
「一緒に見ましょう」と樹子が提案し、ふたりは歌詞が書かれた原稿用紙を机の上に置いた。
『世界史の歌』
シュメール文明征服したアッカド人
ファラオの栄光記したパピルス
ゲルマン民族大移動
偽善と律法 パリサイ人
マヌの法典 カースト制度の維持をした
赤バラ白バラ 薔薇戦争
マウリヤ アショーカ ムガル アクバル
東突厥 西突厥 テュルク系遊牧国家
無制限潜水艦作戦 海底に立ち並ぶ墓
血の匂い 世界の歴史はまだ続く
インカの文明ぶっ壊したスペイン人
プロレタリアの解放めざしたマルクス
オスマン帝国大支配
差別と迫害 ユダヤ人
耶律阿保機は 契丹建国者
鉄血宰相 ビスマルク
清日戦争 露日戦争
ファシスト党ムッソリーニ ナチスドイツハイルヒトラー
第三次世界大戦 空中に立ち昇るキノコ雲
対立する超大国 世界の歴史はいつ終わる
読み終えて、ヨイチは困惑の表情になり、樹子はにんまりと笑った。
「これは、いい歌詞なのか?」
「あたしはいい歌詞だと思う。ヨイチ、曲をつくってよ」
「激しい曲にするぜ」
「激しくてもいいけれど、あくまでもキャッチーでメロディアスで明るい曲にしてね」
「おれのイメージだと暗い曲なんだが……」
「それを明るくするのよ。奇妙な歌詞に、ポップな曲。これをバンド若草物語の特徴にしましょう!」
「やってみるよ。土曜日には聴いてもらえるようにしよう」
みらいはふたりのやりとりを聞いていた。
「採用してくれるってことだよね?」
「ええ、採用よ。いい仕事をしてくれたわ、未来人」
午後5時30分に文芸部員たちは部室から帰った。
翌木曜日は平和に過ぎていった。お昼にみらいはまたカレーライスを食べ、樹子はかけそばを食べた。
次の金曜日も問題は何も起こらず、平和だった。お昼にみらいはカレーライスを食べ、樹子はまたかけそばを食べた。かけそばは一番安い料理だった。
「またかけそば?」
「うん」
「お腹減らないの?」
「夕方にはペコペコになっているわ」
「どうして定食をやめて、かけそばにしたの?」
「安いからよ。お小遣いをためて、シンセサイザーを買うことにしたの」
「シンセサイザー!」
「バンド若草物語の音楽のために必要な楽器よ」
「シンセサイザー! 樹子、わたしもかけそばにして、カンパするよ」
「未来人は気にしないでカレーを食べなさい」
樹子の赤みがかった瞳に曇りはなかった。
みらいはバンドマスターへの信頼が増すのを感じた。
土曜日の放課後、バンド若草物語のメンバーとヘルプの4人は『大臣』でラーメンを食べてから、樹子の部屋へ行った。2時間ほど良彦の指導のもとで数学の勉強をした。そして、ヨイチがフォークギターを持った。
「じゃあ聴いてくれ。『世界史の歌』だ」
ヨイチがギターを激しくかき鳴らし、低い声で歌った。激しく、メロディアスで、メジャーコードに少しだけマイナーコードが混ざった明るい曲だった。
彼が歌い終わると、樹子はにんまりと笑いながら拍手した。
「オッケーよ。いい曲をつくるじゃない、ヨイチ! うちには作詞の鬼才と作曲の天才がいる。若草物語の未来は明るいわ!」
「ヨイチくんは天才で、わたしは鬼才なの?」
「そうよ。未来人は鬼才」
「どうちがうの?」
「天才は天国から与えられた才能の持ち主で、鬼才は地獄から与えられた才能の持ち主よ。優劣はないわ」
「どう考えても天才が上だよ!」
「未来人、その鬼才に磨きをかけなさい」
「なんか釈然としない……」
「あはははは」
良彦が珍しく声をあげて笑った。
樹子は『ポーの一族』の2巻を読み耽っていた。
ヨイチは興味深そうにみらいのようすを見つめていた。
良彦は缶紅茶を飲みながら、ウォークマンでピンク・フロイドの『ザ・ウォール』を聴いていた。彼はクラシックだけでなく、幅広くいろいろなジャンルの音楽を楽しんでいる。
友永は村上春樹の『羊をめぐる冒険』を読んでいた。
小島は虚空を見ながら詩想を練っていた。彼は練るだけで、いっこうに書こうとはしなかった。
1時間ほど経過して、「できた」とみらいが言った。
「見せて」と樹子が言い、「見せてくれ」とヨイチが言った。
「一緒に見ましょう」と樹子が提案し、ふたりは歌詞が書かれた原稿用紙を机の上に置いた。
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「これは、いい歌詞なのか?」
「あたしはいい歌詞だと思う。ヨイチ、曲をつくってよ」
「激しい曲にするぜ」
「激しくてもいいけれど、あくまでもキャッチーでメロディアスで明るい曲にしてね」
「おれのイメージだと暗い曲なんだが……」
「それを明るくするのよ。奇妙な歌詞に、ポップな曲。これをバンド若草物語の特徴にしましょう!」
「やってみるよ。土曜日には聴いてもらえるようにしよう」
みらいはふたりのやりとりを聞いていた。
「採用してくれるってことだよね?」
「ええ、採用よ。いい仕事をしてくれたわ、未来人」
午後5時30分に文芸部員たちは部室から帰った。
翌木曜日は平和に過ぎていった。お昼にみらいはまたカレーライスを食べ、樹子はかけそばを食べた。
次の金曜日も問題は何も起こらず、平和だった。お昼にみらいはカレーライスを食べ、樹子はまたかけそばを食べた。かけそばは一番安い料理だった。
「またかけそば?」
「うん」
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「安いからよ。お小遣いをためて、シンセサイザーを買うことにしたの」
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「シンセサイザー! 樹子、わたしもかけそばにして、カンパするよ」
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「どうちがうの?」
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