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撃って、撃たれて。SS

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「バーン」
 桜吹雪の舞う通学路で、彼女は音になるかならないかギリギリの小さな声で叫んだ。
 10メートルほど前を談笑しながら歩くクラスで一番かわいいと評判の美少女に向かって、心の拳銃を撃った。仮想の弾丸は心臓に命中し、少女は赤い血の花を咲かせて倒れ伏す。
 そんな想像をして、薄く微笑む彼女の名前は篠忍しのしのぶ
 割と整った顔立ちをしているのだが、栄養不足で痩せていて、表情は乏しく、目はほの昏い。
 どうして自殺したらいけないの、なんで人を殺したらいけないの、といつも考えている。我ながら神経症的だと思うが、やめられない。
 教室に入る前に、忍は4人を心で殺害した。しあわせそうに並んで登校しているカップル、校門で仁王立ちしていた体育教師、それから自分自身だ。拳銃自殺。
 忍は高校2年生。昨日は1学期の始業式で校長を幻のナイフで刺した。心をまったく打たない長過ぎるあいさつに我慢できなかった。わざと急所をはずし、苦しめた。そんな想像をして自己嫌悪に陥るのだが、やめられなかった。
 2年C組の教室で、忍は一番後ろの席を与えられた。そのことを彼女は喜んだ。クラスメイトを観察し、気に入らないやつがいたら、すぐに心の拳銃を撃つことができる。
「バーン」
「バーン」
「バーン」
 担任の教師を、軽薄そうな男子を、自分より暗そうな女子を、忍は撃った。
 どうして自殺したらいけないんだろう。
 なんで人を殺したらいけないのだろう。
 早く核戦争がはじまらないかなあ。
 1学期2日目、忍は想像で合計12人を殺した。
 放課後のチャイムが鳴り、彼女はさっさと下校しようとして、校舎の2階にある教室から出て、昇降口に向かった。
 階段を降りていると、「バーン!」と大きな声がした。驚いて、転げ落ちそうになった。
 振り向くと、クラスメイトの男子が右手を拳銃の形にして、忍に向けていた。
「これでクラスメイト全員を殺した」
 確か、黒野騎士くろのないととかいうキラキラネームの子だ。
 光のない瞳が忍のほの昏い目に向けられていた。
 この人はわたしの同類だ、と一瞬でわかった。
 その刹那だけ、忍はどうして自殺したらいけないんだろう、という思考を忘れた。彼は長身で、折れてしまいそうなほど痩せている。
「バーン!」
 忍ははっきりと声に出して叫んだ。
「わたしは死の間際に撃ち返した……」
「おれは楽に死ねたかい?」
「わたしは狙いを微妙にはずした」
 忍は薄く笑い、騎士は「だろうと思った」と少しも表情を変えずに言った。
 恋がはじまっているのに、忍は気づいた。
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