3 / 4
デパート炎上で絶対絶命のピンチ
しおりを挟む
またしても絶対絶命のピンチに陥った。
社長の娘と親しくなり、デパートの最上階の天ぷら屋で一緒に食事をしていたとき、火災報知器が鳴った。
「六階催事場で火災が発生しました。お客様は係員の誘導に従い、落ち着いて避難してください」と放送が流れた。
しかし、天ぷら屋の店員は係員ではないのか、誘導してくれない。
僕は彼女の手を引いて、店から出た。
階段からもうもうと煙が吹きあがっている。
その煙の中からデパートの店員が必死の形相で駆け出してきて、「火災が激しく、階下へは降りられません。ヘリコプターで避難しますので、屋上へ上がってください」と誘導された。
このデパートの屋上はふだんは解放されていない。
ヘリポートだったのか。
屋上へ行くと、救助のヘリコプターが接近しているところだった。無事に着地。すぐに飛び立てるようにするためか、唸りをあげるプロペラは回転したままだった。風が舞う。
デパートのレストラン街から避難してきた客や店員は、二十人以上いた。
ヘリの定員は五人で、無理をしても六人までしか乗れないとパイロットは言う。
屋上は騒然とした。我先にと乗り込む人、ぐっと我慢して、弱者を優先しようとする人。僕はヘリが空中に浮かぶのを見送った。
ヘリコプターは何往復かした。
僕と彼女、デパートやレストラン街の店員たちは、他の人が避難するのを見守っていた。
あとひとりだけ乗れる、とパイロットが叫んだ。
僕と店員は残り、彼女を乗せた。
離陸したヘリの窓に顔をつけて、泣きながらこちらを見ている。
あの子が助かってよかった。
地上には消防自動車が何台も到着して、消防署員が消火活動を行っていたが、火災は激しくなるばかりで、屋上も危険になってきた。
黒煙が立ち昇り、ヘリコプターが接近できない。
僕はまた死を覚悟した。
スマホで遺書を書き始めた。
あなたが読んでいるこの文章だ。
ちくしょう、人生が楽しくなってきたってのに、ここで終わりかよ。
まあいい、どうせ一度は死にかけた身だ。
僕が死んでも、悲しまないでほしい。
泣かないで、もっといい人を探してくれ。
この気持ち、意識を失うまで書き続けてやる。
またあの幻想的な光が見えた。煙の中に小さな光がいくつかちらちらと瞬いている。
蛍? 夜光虫? そんなものがここにいるはずがない。
やっぱり幻覚だったんだな。
死にかけると見える光景。あの世の入り口の景色なのかもしれない。
ヘリが決死の着地を試み、成功した。僕と店員たちは急いで乗り込んだ。
黒煙を突いてヘリが飛び、デパートの下の大通りに着陸した。
ヘリから降りたとき、スマホを強く握りしめているのに気づいた。
また生き残った。
この文章は遺書ではなく、メモになった。
路上で待っていてくれた彼女が僕に飛びついてきた。
ちょっとしたヒーローの気分で、悪くない。
社長の娘と親しくなり、デパートの最上階の天ぷら屋で一緒に食事をしていたとき、火災報知器が鳴った。
「六階催事場で火災が発生しました。お客様は係員の誘導に従い、落ち着いて避難してください」と放送が流れた。
しかし、天ぷら屋の店員は係員ではないのか、誘導してくれない。
僕は彼女の手を引いて、店から出た。
階段からもうもうと煙が吹きあがっている。
その煙の中からデパートの店員が必死の形相で駆け出してきて、「火災が激しく、階下へは降りられません。ヘリコプターで避難しますので、屋上へ上がってください」と誘導された。
このデパートの屋上はふだんは解放されていない。
ヘリポートだったのか。
屋上へ行くと、救助のヘリコプターが接近しているところだった。無事に着地。すぐに飛び立てるようにするためか、唸りをあげるプロペラは回転したままだった。風が舞う。
デパートのレストラン街から避難してきた客や店員は、二十人以上いた。
ヘリの定員は五人で、無理をしても六人までしか乗れないとパイロットは言う。
屋上は騒然とした。我先にと乗り込む人、ぐっと我慢して、弱者を優先しようとする人。僕はヘリが空中に浮かぶのを見送った。
ヘリコプターは何往復かした。
僕と彼女、デパートやレストラン街の店員たちは、他の人が避難するのを見守っていた。
あとひとりだけ乗れる、とパイロットが叫んだ。
僕と店員は残り、彼女を乗せた。
離陸したヘリの窓に顔をつけて、泣きながらこちらを見ている。
あの子が助かってよかった。
地上には消防自動車が何台も到着して、消防署員が消火活動を行っていたが、火災は激しくなるばかりで、屋上も危険になってきた。
黒煙が立ち昇り、ヘリコプターが接近できない。
僕はまた死を覚悟した。
スマホで遺書を書き始めた。
あなたが読んでいるこの文章だ。
ちくしょう、人生が楽しくなってきたってのに、ここで終わりかよ。
まあいい、どうせ一度は死にかけた身だ。
僕が死んでも、悲しまないでほしい。
泣かないで、もっといい人を探してくれ。
この気持ち、意識を失うまで書き続けてやる。
またあの幻想的な光が見えた。煙の中に小さな光がいくつかちらちらと瞬いている。
蛍? 夜光虫? そんなものがここにいるはずがない。
やっぱり幻覚だったんだな。
死にかけると見える光景。あの世の入り口の景色なのかもしれない。
ヘリが決死の着地を試み、成功した。僕と店員たちは急いで乗り込んだ。
黒煙を突いてヘリが飛び、デパートの下の大通りに着陸した。
ヘリから降りたとき、スマホを強く握りしめているのに気づいた。
また生き残った。
この文章は遺書ではなく、メモになった。
路上で待っていてくれた彼女が僕に飛びついてきた。
ちょっとしたヒーローの気分で、悪くない。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
棄民
深川さだお
恋愛
主人公が再会したのは、過去の出来事から“海外送り”にされ、現地で寄る辺ない生活を送る友人・秋ちゃん。彼女は、日本に戻ることを恐れつつ、期限のない異国生活に漂流しています。
物語は2人が日常を紡ぐ中で、日本に帰れない「棄民」としての不安や疎外感、しかし自由に過ごせる喜びも描かれています。舞台は美しい欧州の街角で、オペラや音楽、ワインに彩られた一瞬の優雅さが、2人の無常感を引き立てます。仕事と義務から解放された放浪の日々と、それに潜む不安が共存する世界が、都会で生きる若い世代に新たな視点を与えるでしょう。
雛牡丹を摘む
夢見里 龍
現代文学
「はよう、摘み」襦袢のすそから差しだされた素脚には梅が咲きこぼれていた……
それは、病というには美しすぎた。
幼くして日本舞踊の華と称えられた娘・雛牡丹は病に倒れ、日舞の道を閉ざされる。
それは、才能があるものだけが罹患する《才咲き》という奇病であった。この病に侵されると、身体の一部に植物が根づき、花を咲かせる。それは桜や梅であったり、芭蕉であったりする。だが花が咲けば咲くほどに患者は衰えていき、やがては命を落とすのだ。
故に患者は、その花が咲かぬうちに莟を摘まねばならない。
雛牡丹の邸の下働きだった《僕》は、彼女の花を摘むことになる。
脚から梅のこぼれるその病を「美しい」といったことから、《僕》は雛牡丹に気にいられ、側務めに択ばれるが――――
これは驕慢に華であり続けた娘と、華に惚れた《僕》の物語である。
谷崎潤一郎さまの《春琴抄》のオマージュです。著作権保護期間が2016年に終了しているため、二次創作のタグはつけておりません。
素晴らしい小説に敬意を捧げて。
《春琴抄》をご存知ではない御方にもお楽しみいただけるように書かせていただきました。なにとぞ、広い御心にてお読みいただけますよう、よろしくお願いいたします。
* こちらはカクヨムさまにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる