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第6話 お互いの自己紹介
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僕が借りているアパートの間取りは1DKだ。風呂とトイレもある。
ダイニングキッチンには冷蔵庫と椅子がふたつ付いたテーブルがある。
椅子をふたつ買ったのは、もちろん美少女アンドロイドとの生活を夢見ていたからだ。いまそれがようやく役に立つようになった。
居室は広めで8畳。テレビとパソコン机、本棚、エアコンがあり、布団を敷くスペースがある。
テレビは布団に寝転んで見ている。
あ、布団はひとり分しかない。どうしようかな。アンドロイドは眠るのだろうか。
「ガーネット、アンドロイドに睡眠は必要なのか?」
「眠るよ。1日に最低6時間の休眠をさせてもらえないと、故障のリスクが高まる。ちゃんと眠らせてくれよ? それともいやらしいことをして、眠らせないつもりか?」
彼女は、にひひ、と笑った。
「あ、いや、きちんと眠ってもらうよ」
僕はたじたじとなった。
「休眠中に充電する。自分で充電ケーブルを使ってやるから、基本的には数多は気にしなくてだいじょうぶだ。故障して、自分で充電できなくなったときは頼むぜ。うなじにUSBポートがあるから、ふつうにコンセントとつないでくれ」
「故障することは多いのか?」
「パソコンと同じだと考えてくれ。故障したら、プリンセスプライドに頼んで、なおしてくれよ。あと、スポーツとかをしたら、人間と同じように壊れるリスクがある」
僕は少し気鬱になった。修理費用を貯金しておかないと。
「パソコンと同じということは、完全に壊れてしまうこともあるのか?」
「そりゃあ当然あるね。人間だって死ぬだろう。あたしたちアンドロイドにも死がある。大切に使ってくれたら長く生きられるし、乱雑にされたら、早死にする」
僕はさらに気鬱になった。大金を投じて買ったからというのもあるが、すでにガーネットに愛着が湧いていたので、死別したくないと思ったのだ。パソコンと同じということは、人間より寿命はまちがいなく短いんだろう。
「大切にするよ、ガーネット」
「ありがとう、数多。やっぱりあんたはいい男じゃん? 超絶愛してるぜ!」
「お、おう。僕も……」
愛してると言おうとしたけれど、何回も言うのは恥ずかしかった。
こいつは臆面もなくよく言うなあ。
僕はインスタントコーヒーを飲もうと思った。コーヒーが好きなのだ。
「ガーネット、コーヒー飲むか?」
「飲んでみたいけれど、アンドロイドは飲食はできない。充電が必要なだけだ」
「じゃあ、悪いけど、僕だけで飲むぞ」
「ああ、遠慮しないでくれ」
お湯を沸かし、マグカップにコンビニで買った安価なコーヒーの粒たちを入れた。
高価なコーヒーと比べると、全然美味しくない。僕は秘かに泥水コーヒーと呼んでいる。しかし、節約生活をしているのだから仕方がない。
僕は泥水コーヒーを飲んだ。こんなものでも、飲むと落ち着く。
「ガーネット、僕の自己紹介をしておくよ。河城市役所に勤めている28歳の平凡な男だ。いまは管財課に配属されている」
「数多、あんたは自分のことを平凡と言い過ぎる。悪い癖だ。やめておけ。数多には素晴らしい美点がたくさんあるのに、本当に平凡になってしまうぞ?」
美点? そんなものはないが、逆らうのはやめておこう。
「わかった。気をつけるよ。誕生日は7月7日だ。七夕生まれ。見てのとおり、ひとり暮らしをしている。両親とは折り合いが悪くて、実家にはほとんど帰らない。僕が高校生のときに、親父が浮気して、おふくろと離婚した。僕は大学卒業まで父と一緒に暮らしていたんだけど、義母も好きにはなれなくて、就職と同時にひとり暮らしを始めたんだ」
「そっか。ちょっと不幸な過去があるってわけだな。理解した。数多は浮気するなよ?」
「ああ、僕は人間の恋人なんていらないと思っている。ガーネットを大切にして生きていくよ」
「うれしいよ、数多」
ガーネットの頬が赤くなり、目が潤んだ。本当に人間みたいだ。すごい高性能。
「趣味は深夜アニメの鑑賞。おたくだと笑うか?」
「いい趣味じゃないか、アニメ。あたしもこれからは一緒に見るぞ」
「お、そうか? じゃあ感想を話し合えるな」
「うん」
「あと、学生時代までは釣りが趣味だった。いまは節約生活をしているから、やってないけどな。釣りはけっこうお金がかかるんだ」
「どうして節約しているんだ?」
「おまえを買うためだよ。ずっとアンドロイドがほしかったんだ」
「あ、そうか。ごめん」
「謝らなくていいよ。ガーネットを買えてよかったんだから」
「すげえうれしい。ずっと節約して、あたしを買ってくれたんだな」
「まあ、そういうことだ」
「あたし、数多に尽くすから!」
「お、おお、頼むよ」
「大好きだ、数多」
こほん、と僕は咳払いをした。
「それから、読書も好きだ。お金がかかるから、ほとんど本は買っていないけどな。図書館をよく利用している」
「アニメ、釣り、読書が好きなんだな。数多の趣味はとてもいいぜ」
「あと、最後に告白しておく。僕はモテない。恥ずかしいけど、この歳で童貞だ」
「モテない? 数多はすごく素敵なのに、人間の女たちは見る目がないな」
「そう言ってくれるのはおまえだけだ」
「童貞は今夜卒業できるな。あたしで。うひひ。そうかあ、あたしたち、今夜、処女と童貞を捨てられるぜ!」
「あの、そういう機能はあるの?」
「あるよ! あたしはハイエンドモデルだからな」
「そうか……。それは、楽しみだな……」
僕の顔はまちがいなく赤くなっていたと思う。
「じゃあ、あたしも自己紹介をしておくぜ」
「アンドロイドの自己紹介か。聞かせてくれ」
「誕生日は2月14日。バレンタインデーに製造が完了した。あたしにもよくわからないんだが、欠陥品らしいぜ? 人間的すぎるとかなんとか、本田浅葱が言っていた。たぶんあたし、数多が浮気したら、嫉妬するよ。そういうところが製品としては欠陥なのかもしれないが、恋人が浮気したら、嫉妬するのは当然だろ?」
「そうだな」と僕は答えたが、嫉妬するなんて、アンドロイドとしては、かなりめずらしいタイプなのだろう。
「いちおう不良少女タイプってことになっているけれど、あたし自身にはそんなつもりはない。公序良俗は守るし、数多に尽くすぜ? 数多に意地悪するやつとはけんかするかもしれないけど」
「けんかは絶対にするな。僕が責任を取らなくちゃいけないんだ!」
保険に入ってないし。
「わかったよ。なるべく我慢する」
「なるべくじゃなくて、絶対な」
「努力する」
やっぱりこいつには欠陥がありそうだ。
「不良少女になった理由だけど、数多と似ている。あたしは中学時代に両親が離婚して、貧しい母と暮らしているうちにグレたという設定になっている。恋人に救われて、更生したという筋書きなんだ。実際、あたしは数多に買ってもらって、救われた気持ちになったしな」
それでこいつは、こんなに僕に懐いているんだな。なかなかいい設定かもしれない。やさしくしてやろう。
「最後に告白しておくけれど、ヤンデレ気質がある。本当に浮気するなよ?」
前言撤回。設定がいろいろとおかしい。どうして本田浅葱はこんなに面倒くさそうなアンドロイドを造ったんだ?
探求心が強すぎるだろ、プリンセスプライドの社長。
ダイニングキッチンには冷蔵庫と椅子がふたつ付いたテーブルがある。
椅子をふたつ買ったのは、もちろん美少女アンドロイドとの生活を夢見ていたからだ。いまそれがようやく役に立つようになった。
居室は広めで8畳。テレビとパソコン机、本棚、エアコンがあり、布団を敷くスペースがある。
テレビは布団に寝転んで見ている。
あ、布団はひとり分しかない。どうしようかな。アンドロイドは眠るのだろうか。
「ガーネット、アンドロイドに睡眠は必要なのか?」
「眠るよ。1日に最低6時間の休眠をさせてもらえないと、故障のリスクが高まる。ちゃんと眠らせてくれよ? それともいやらしいことをして、眠らせないつもりか?」
彼女は、にひひ、と笑った。
「あ、いや、きちんと眠ってもらうよ」
僕はたじたじとなった。
「休眠中に充電する。自分で充電ケーブルを使ってやるから、基本的には数多は気にしなくてだいじょうぶだ。故障して、自分で充電できなくなったときは頼むぜ。うなじにUSBポートがあるから、ふつうにコンセントとつないでくれ」
「故障することは多いのか?」
「パソコンと同じだと考えてくれ。故障したら、プリンセスプライドに頼んで、なおしてくれよ。あと、スポーツとかをしたら、人間と同じように壊れるリスクがある」
僕は少し気鬱になった。修理費用を貯金しておかないと。
「パソコンと同じということは、完全に壊れてしまうこともあるのか?」
「そりゃあ当然あるね。人間だって死ぬだろう。あたしたちアンドロイドにも死がある。大切に使ってくれたら長く生きられるし、乱雑にされたら、早死にする」
僕はさらに気鬱になった。大金を投じて買ったからというのもあるが、すでにガーネットに愛着が湧いていたので、死別したくないと思ったのだ。パソコンと同じということは、人間より寿命はまちがいなく短いんだろう。
「大切にするよ、ガーネット」
「ありがとう、数多。やっぱりあんたはいい男じゃん? 超絶愛してるぜ!」
「お、おう。僕も……」
愛してると言おうとしたけれど、何回も言うのは恥ずかしかった。
こいつは臆面もなくよく言うなあ。
僕はインスタントコーヒーを飲もうと思った。コーヒーが好きなのだ。
「ガーネット、コーヒー飲むか?」
「飲んでみたいけれど、アンドロイドは飲食はできない。充電が必要なだけだ」
「じゃあ、悪いけど、僕だけで飲むぞ」
「ああ、遠慮しないでくれ」
お湯を沸かし、マグカップにコンビニで買った安価なコーヒーの粒たちを入れた。
高価なコーヒーと比べると、全然美味しくない。僕は秘かに泥水コーヒーと呼んでいる。しかし、節約生活をしているのだから仕方がない。
僕は泥水コーヒーを飲んだ。こんなものでも、飲むと落ち着く。
「ガーネット、僕の自己紹介をしておくよ。河城市役所に勤めている28歳の平凡な男だ。いまは管財課に配属されている」
「数多、あんたは自分のことを平凡と言い過ぎる。悪い癖だ。やめておけ。数多には素晴らしい美点がたくさんあるのに、本当に平凡になってしまうぞ?」
美点? そんなものはないが、逆らうのはやめておこう。
「わかった。気をつけるよ。誕生日は7月7日だ。七夕生まれ。見てのとおり、ひとり暮らしをしている。両親とは折り合いが悪くて、実家にはほとんど帰らない。僕が高校生のときに、親父が浮気して、おふくろと離婚した。僕は大学卒業まで父と一緒に暮らしていたんだけど、義母も好きにはなれなくて、就職と同時にひとり暮らしを始めたんだ」
「そっか。ちょっと不幸な過去があるってわけだな。理解した。数多は浮気するなよ?」
「ああ、僕は人間の恋人なんていらないと思っている。ガーネットを大切にして生きていくよ」
「うれしいよ、数多」
ガーネットの頬が赤くなり、目が潤んだ。本当に人間みたいだ。すごい高性能。
「趣味は深夜アニメの鑑賞。おたくだと笑うか?」
「いい趣味じゃないか、アニメ。あたしもこれからは一緒に見るぞ」
「お、そうか? じゃあ感想を話し合えるな」
「うん」
「あと、学生時代までは釣りが趣味だった。いまは節約生活をしているから、やってないけどな。釣りはけっこうお金がかかるんだ」
「どうして節約しているんだ?」
「おまえを買うためだよ。ずっとアンドロイドがほしかったんだ」
「あ、そうか。ごめん」
「謝らなくていいよ。ガーネットを買えてよかったんだから」
「すげえうれしい。ずっと節約して、あたしを買ってくれたんだな」
「まあ、そういうことだ」
「あたし、数多に尽くすから!」
「お、おお、頼むよ」
「大好きだ、数多」
こほん、と僕は咳払いをした。
「それから、読書も好きだ。お金がかかるから、ほとんど本は買っていないけどな。図書館をよく利用している」
「アニメ、釣り、読書が好きなんだな。数多の趣味はとてもいいぜ」
「あと、最後に告白しておく。僕はモテない。恥ずかしいけど、この歳で童貞だ」
「モテない? 数多はすごく素敵なのに、人間の女たちは見る目がないな」
「そう言ってくれるのはおまえだけだ」
「童貞は今夜卒業できるな。あたしで。うひひ。そうかあ、あたしたち、今夜、処女と童貞を捨てられるぜ!」
「あの、そういう機能はあるの?」
「あるよ! あたしはハイエンドモデルだからな」
「そうか……。それは、楽しみだな……」
僕の顔はまちがいなく赤くなっていたと思う。
「じゃあ、あたしも自己紹介をしておくぜ」
「アンドロイドの自己紹介か。聞かせてくれ」
「誕生日は2月14日。バレンタインデーに製造が完了した。あたしにもよくわからないんだが、欠陥品らしいぜ? 人間的すぎるとかなんとか、本田浅葱が言っていた。たぶんあたし、数多が浮気したら、嫉妬するよ。そういうところが製品としては欠陥なのかもしれないが、恋人が浮気したら、嫉妬するのは当然だろ?」
「そうだな」と僕は答えたが、嫉妬するなんて、アンドロイドとしては、かなりめずらしいタイプなのだろう。
「いちおう不良少女タイプってことになっているけれど、あたし自身にはそんなつもりはない。公序良俗は守るし、数多に尽くすぜ? 数多に意地悪するやつとはけんかするかもしれないけど」
「けんかは絶対にするな。僕が責任を取らなくちゃいけないんだ!」
保険に入ってないし。
「わかったよ。なるべく我慢する」
「なるべくじゃなくて、絶対な」
「努力する」
やっぱりこいつには欠陥がありそうだ。
「不良少女になった理由だけど、数多と似ている。あたしは中学時代に両親が離婚して、貧しい母と暮らしているうちにグレたという設定になっている。恋人に救われて、更生したという筋書きなんだ。実際、あたしは数多に買ってもらって、救われた気持ちになったしな」
それでこいつは、こんなに僕に懐いているんだな。なかなかいい設定かもしれない。やさしくしてやろう。
「最後に告白しておくけれど、ヤンデレ気質がある。本当に浮気するなよ?」
前言撤回。設定がいろいろとおかしい。どうして本田浅葱はこんなに面倒くさそうなアンドロイドを造ったんだ?
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