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第4話 アンドロイドPPA-SAT-HA33-1の購入手続き
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「それではこの契約書2通に住所、氏名を自署してください。甲と乙の間で契約を交わす内容となっております。甲は当社社長の本田浅葱です。乙がお客様になります」
佐島さんがすらすらと説明してくれる。
甲欄にはすでに株式会社プリンセスプライドの本社所在地と代表取締役社長本田浅葱と手書きで書かれていた。
僕は契約書2通の乙欄に「河城市河原町1-3-9 白根アパート201号室 波野数多」とボールペンで記入した。
「なあマスター、名前はなんて読むんだ?」とアンドロイドPPA-SAT-HA33-1が言った。
「なみのあまただよ」
「あまたか。いい名前だなっ」
「僕は自分の名前が好きじゃない。数多いる並みの人間って感じだから。実際、僕は平凡なやつだけどさ」
「そんなことねえよ。マスターはあたしを買った。見る目がある男だ。名前も数多の波に乗るサーファーって感じでかっこいいぜ」
不良少女型アンドロイドは赤い瞳をキラキラと輝かせていた。
眩しい。機械なのに、とんでもないオーラを放つ美少女だ。
「サーフィンなんてやったことないよ」
「いつか一緒にやろうぜ」
「アンドロイドはサーフィンできるの?」
「できるさ。故障しちまうかもしれねえけどな」
「じゃあやらない」
「えーっ、じゃあせめて海へ行こうぜ。あたし、海に憧れているんだ。データでは知っているんだけど、実際にこの目で見たい!」
アンドロイドがはしゃいでいる。
「PPA-SAT-HA33-1、おとなしくしなさい。いまは購入手続き中なのよ」
「はーい」
「では波野様、お支払いはいかがしますか。現金かクレジットカードか電子マネーか?」
「クレジットカードでお願いします」
「一括払いでよろしいですか? 分割払いもできますが、その場合は少しだけ割高になります」
「一括で」
僕は支払い手続きをした。佐島さんが口座の残高確認をして、にっこりと笑い、手続きを済ませた。僕の全財産がほぼ消えた瞬間だった。次の給料日までのかつかつの生活費しか残っていない。
「当社のアンドロイドは高度な人工知能を搭載した繊細な製品です。6か月に1度の定期点検を推奨させていただいております。2年間の点検パックがございますが、ご購入いたしますか? 点検は通常1回につき6万円ほどかかりますが、点検パックなら4回で20万円となっておりまして、お得です」
そんなお金はもうない。
「いまはやめておきます。お金が貯まったら考えます」
「承知しました。アンドロイドはこのままお持ち帰りいたしますか? それともご自宅まで送付しましょうか? その場合、送料がかかりますが」
「持ち帰ります」
「服はどうしますか? 水着のままでよろしいですか?」
「うっ」と僕は唸った。水着の美少女アンドロイドを、誰に見られるかわからない街中で連れ歩きたくはない。
「簡易な服でよろしければ、ご購入特典でサービスさせていただきます」
「あ、それでお願いします」
「安価な下着とワンピース、スニーカー、靴下のセットですが、よろしいですか?」
「けっこうです」
「ワンピースの色は青、赤、黄色のどれになさいますか?」
「赤で!」と言ったのは、PPA-SAT-HA33-1だった。
「アンドロイドはそう言っておりますが、決定権は波野様にあります。赤でよろしいですか?」
この子には赤が似合いそうだ。
「赤でいいです」
「やったあ。マスター、ありがとう。愛してるぜ!」
愛してるだと? うれしいけどさ、こんな場所で言うな。
美少女アンドロイドが僕をうれしそうに見つめている。動悸がした。顔が熱い。
「次に各種設定について説明させていただきます。使用説明書にも書いてありますが、アンドロイドとの会話で設定ができます。たとえば、いまは波野様をマスターと呼んでいますが、『数多様と呼べ』と命令すれば、そのように呼ばせることができます」
「なるほど。それは簡単でいいですね」
「性格もいまは不良少女型100パーセントですが、従順型に変えることもできます。不良7割、従順3割などと調整することも可能です。ご希望なら会話で命令して変更してください。『命令だ。従順3割に変更』とでも言っていただければ、アンドロイドは抵抗できません。ただし、PPA-SAT-HA33-1はもしかしたら、抗命するかもしれません。なにしろわけあり製品でございますから」
僕はPPA-SAT-HA33-1を見た。彼女はにんまりと笑っていた。
「わかりました。覚悟しておきます」
「最後に保証期間について説明いたします。通常のアンドロイドは1年間修理無料の保証がついておりますが、このPPA-SAT-HA33-1は例外で、まったく保証がありません。すみませんが、特別割引品なので、ご了承ください」
「仕方ないですね。修理費ってけっこう高いんですか?」
「故障内容にもよりますが、まあお高いですね。修理や万が一アンドロイドが起こしてしまった損害に対する保険もございますが、加入いたしますか?」
保険には入りたいけれど、そんな貯金はないんだってば。
「いまはやめておきます」
メンテナンスや故障、保険……アンドロイドにはいろいろと維持費もかかるってことだな。
電気代もかかるはずだし。
自動車みたいだ。
まだまだ節約生活をつづけないと。
「PPA-SAT-HA33-1に名前をつけてあげてくださいね。夫婦みたいに姓を同じにする方もいますし、恋人みたいに別の姓をつける方もいます。あるいは単に愛称だけというお客様もおられます」
「わかりました。あとで考えます。それも会話で設定できるんですよね?」
「そのとおりです」
「とりあえず、331と呼ぶことにします。331、それでいいな?」
「嫌だ」
こいつ、いきなり抗命しやがった。
「あとできちんと名前を考えるから。いまは331だ」
「いい名前をつけてくれよ」
「ああ、そうするつもりだよ」
「ありがとう。頼むぜ、マスター」
331は試着室で着替えた。
赤いワンピース姿で出てきた。安価な服だが、ハイエンドタイプのアンドロイドが着るとドレスに見える。
こいつ、本当に綺麗だな、と思った。
佐島さんがすらすらと説明してくれる。
甲欄にはすでに株式会社プリンセスプライドの本社所在地と代表取締役社長本田浅葱と手書きで書かれていた。
僕は契約書2通の乙欄に「河城市河原町1-3-9 白根アパート201号室 波野数多」とボールペンで記入した。
「なあマスター、名前はなんて読むんだ?」とアンドロイドPPA-SAT-HA33-1が言った。
「なみのあまただよ」
「あまたか。いい名前だなっ」
「僕は自分の名前が好きじゃない。数多いる並みの人間って感じだから。実際、僕は平凡なやつだけどさ」
「そんなことねえよ。マスターはあたしを買った。見る目がある男だ。名前も数多の波に乗るサーファーって感じでかっこいいぜ」
不良少女型アンドロイドは赤い瞳をキラキラと輝かせていた。
眩しい。機械なのに、とんでもないオーラを放つ美少女だ。
「サーフィンなんてやったことないよ」
「いつか一緒にやろうぜ」
「アンドロイドはサーフィンできるの?」
「できるさ。故障しちまうかもしれねえけどな」
「じゃあやらない」
「えーっ、じゃあせめて海へ行こうぜ。あたし、海に憧れているんだ。データでは知っているんだけど、実際にこの目で見たい!」
アンドロイドがはしゃいでいる。
「PPA-SAT-HA33-1、おとなしくしなさい。いまは購入手続き中なのよ」
「はーい」
「では波野様、お支払いはいかがしますか。現金かクレジットカードか電子マネーか?」
「クレジットカードでお願いします」
「一括払いでよろしいですか? 分割払いもできますが、その場合は少しだけ割高になります」
「一括で」
僕は支払い手続きをした。佐島さんが口座の残高確認をして、にっこりと笑い、手続きを済ませた。僕の全財産がほぼ消えた瞬間だった。次の給料日までのかつかつの生活費しか残っていない。
「当社のアンドロイドは高度な人工知能を搭載した繊細な製品です。6か月に1度の定期点検を推奨させていただいております。2年間の点検パックがございますが、ご購入いたしますか? 点検は通常1回につき6万円ほどかかりますが、点検パックなら4回で20万円となっておりまして、お得です」
そんなお金はもうない。
「いまはやめておきます。お金が貯まったら考えます」
「承知しました。アンドロイドはこのままお持ち帰りいたしますか? それともご自宅まで送付しましょうか? その場合、送料がかかりますが」
「持ち帰ります」
「服はどうしますか? 水着のままでよろしいですか?」
「うっ」と僕は唸った。水着の美少女アンドロイドを、誰に見られるかわからない街中で連れ歩きたくはない。
「簡易な服でよろしければ、ご購入特典でサービスさせていただきます」
「あ、それでお願いします」
「安価な下着とワンピース、スニーカー、靴下のセットですが、よろしいですか?」
「けっこうです」
「ワンピースの色は青、赤、黄色のどれになさいますか?」
「赤で!」と言ったのは、PPA-SAT-HA33-1だった。
「アンドロイドはそう言っておりますが、決定権は波野様にあります。赤でよろしいですか?」
この子には赤が似合いそうだ。
「赤でいいです」
「やったあ。マスター、ありがとう。愛してるぜ!」
愛してるだと? うれしいけどさ、こんな場所で言うな。
美少女アンドロイドが僕をうれしそうに見つめている。動悸がした。顔が熱い。
「次に各種設定について説明させていただきます。使用説明書にも書いてありますが、アンドロイドとの会話で設定ができます。たとえば、いまは波野様をマスターと呼んでいますが、『数多様と呼べ』と命令すれば、そのように呼ばせることができます」
「なるほど。それは簡単でいいですね」
「性格もいまは不良少女型100パーセントですが、従順型に変えることもできます。不良7割、従順3割などと調整することも可能です。ご希望なら会話で命令して変更してください。『命令だ。従順3割に変更』とでも言っていただければ、アンドロイドは抵抗できません。ただし、PPA-SAT-HA33-1はもしかしたら、抗命するかもしれません。なにしろわけあり製品でございますから」
僕はPPA-SAT-HA33-1を見た。彼女はにんまりと笑っていた。
「わかりました。覚悟しておきます」
「最後に保証期間について説明いたします。通常のアンドロイドは1年間修理無料の保証がついておりますが、このPPA-SAT-HA33-1は例外で、まったく保証がありません。すみませんが、特別割引品なので、ご了承ください」
「仕方ないですね。修理費ってけっこう高いんですか?」
「故障内容にもよりますが、まあお高いですね。修理や万が一アンドロイドが起こしてしまった損害に対する保険もございますが、加入いたしますか?」
保険には入りたいけれど、そんな貯金はないんだってば。
「いまはやめておきます」
メンテナンスや故障、保険……アンドロイドにはいろいろと維持費もかかるってことだな。
電気代もかかるはずだし。
自動車みたいだ。
まだまだ節約生活をつづけないと。
「PPA-SAT-HA33-1に名前をつけてあげてくださいね。夫婦みたいに姓を同じにする方もいますし、恋人みたいに別の姓をつける方もいます。あるいは単に愛称だけというお客様もおられます」
「わかりました。あとで考えます。それも会話で設定できるんですよね?」
「そのとおりです」
「とりあえず、331と呼ぶことにします。331、それでいいな?」
「嫌だ」
こいつ、いきなり抗命しやがった。
「あとできちんと名前を考えるから。いまは331だ」
「いい名前をつけてくれよ」
「ああ、そうするつもりだよ」
「ありがとう。頼むぜ、マスター」
331は試着室で着替えた。
赤いワンピース姿で出てきた。安価な服だが、ハイエンドタイプのアンドロイドが着るとドレスに見える。
こいつ、本当に綺麗だな、と思った。
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