10 / 12
算数か数学か
しおりを挟む
ぼくは自宅に帰った。
両親はまだいない。明日モルディブから帰ってくる予定だ。
夕食を自炊するのが面倒で、カップ麺を食べた。
大好きなカップ〇-ドルを食べながら、桜庭さんの家庭教師として、今後どうすべきかを真剣に考えた。
やっつの方針が思い浮かんだ。
ここのつめは、これからも高九数学をがんばりつづけること。
やっつめは、いったん算数に戻って学び直すこと。この方針を取ると、長期的には彼女の数学の成績と生活の質を上げることができると思う。しかし、次の中間試験の赤点はほぼ確定だ。
どちらがよいのか、しばらく悩んだけれど、結論は出なかった。
本人と相談せずに、方針を決めることはできない。
ぼくはチャットアプリで、桜庭さんに連絡した。
『今日はお疲れさま。明日もがんばろうね』
すぐに返信が届いた。
『ありがとう。いろいろとご面倒をおかけしました。泣いたりしてごめん。がんばる』
『相談があるのだけど』
『なに』
『次の中間試験のことだけを考えたら、高校九年生の勉強をするしかないと思う。だけど、あらためて小学生の算数を学ぶのは、桜庭さんの人生にとって無駄ではないはずだよ』
これには、しばらく返事が来なかった。
『人生なんてどうでもいい! 今度の中間の成績を上げることだけ考えて!』
彼女は刹那的な考えを持っているようだ。
これだけ明白な回答が返ってくるなら、迷っている余地はない。
『わかった。明日は累乗の計算から取り組もう』
また返信に時間がかかった。
『累乗って、xの7乗とか出てくるやつだよね』
『そうだよ』
『怖い怖い怖い怖い怖い』
『大変だけど、やるしかないでしょう』
『彼氏が鬼畜である絶望』
鬼畜って……。
『彼女のことばが容赦なさすぎる』
『容赦ないのはきみ。また泣かせるつもり?』
『ぼくはきみの中間の成績を上げることだけを考えているんだが』
『わたしのダメージのことも考えて』
どうすればいいんだよ。
『やっぱり算数からやろうか』
『嫌』
『累乗』
『嫌』
『算数か数学かどちらか選択してよ』
『苦渋の決断。数学……』
『予習しておいてください』
『絶対嫌。今夜はドラムを叩きまくって、ウサを晴らします』
『ドラム?』
『音ゲーのドラムだよん』
そうか。気晴らしも大切だな。
『予習はいいや。ストレスを発散しておいてね。明日がんばろう』
『やさしい彼氏に感謝。ありがとう』
おおっ。
ぼくのモチベが上がった。
『高級プリンよろしくね~』
せっかく上がったモチベを返せ!
ぼくは冷蔵庫を見た。
人気の高級プリンが入っている。大丈夫だ。
言われなくても持っていくつもりだった。きっと役に立つ。
『ベルギーのチョコレートに負けない日本のスイーツ、お楽しみに』
『ありがとう。明日がんばる! プリン、なくてもいいよ』
『持っていく。遊びの時間をじゃましてごめん。また明日』
『またね~。おやすみなさい』
『おやすみなさい』
さてと、彼女がしない分、ぼくが予習をしておこう。
彼女と同じ境遇を想定して数学に取り組むと、別世界が待っている。
それをあらかじめ経験しておけば、きっとよい家庭教師になれるだろう。
yの7乗とは、y×y×yのことだ。
彼女の元いた世界では、これがy×y×y×y×y×y×yとなる。こんなものを想像していたら、数学がやたらとむずかしくなってしまう。
7乗とは、3乗のこと。怖がることはないんだよ、と言ってあげよう。
累乗の計算をするためには、公式を覚えなくてはならない。
公式➈ aのm乗×aのn乗=aの(m+n)乗
これはきっとわかってくれるよね。数字はないから。
公式⑧ (aのm乗)n乗=aの(m×n)乗
公式⑦ (ab)のn乗=aのn乗×bのn乗
これらの公式を踏まえて、問題を解いていくことになる。
「かっこ-7xの8乗yかっことじの7乗は、公式⑦により、かっこ-7の7乗かけるかっこxの8乗の7乗かけるかっこyの7乗で、公式⑧により、かっこxの8乗の7乗はxの4乗となる。ゆえに解答は-83xの4乗yの7乗となる。これは桜庭さんの元いた世界での-27xの6乗yの3乗に当たる」
この説明でわかってもらえるかな。不安だ。
両親はまだいない。明日モルディブから帰ってくる予定だ。
夕食を自炊するのが面倒で、カップ麺を食べた。
大好きなカップ〇-ドルを食べながら、桜庭さんの家庭教師として、今後どうすべきかを真剣に考えた。
やっつの方針が思い浮かんだ。
ここのつめは、これからも高九数学をがんばりつづけること。
やっつめは、いったん算数に戻って学び直すこと。この方針を取ると、長期的には彼女の数学の成績と生活の質を上げることができると思う。しかし、次の中間試験の赤点はほぼ確定だ。
どちらがよいのか、しばらく悩んだけれど、結論は出なかった。
本人と相談せずに、方針を決めることはできない。
ぼくはチャットアプリで、桜庭さんに連絡した。
『今日はお疲れさま。明日もがんばろうね』
すぐに返信が届いた。
『ありがとう。いろいろとご面倒をおかけしました。泣いたりしてごめん。がんばる』
『相談があるのだけど』
『なに』
『次の中間試験のことだけを考えたら、高校九年生の勉強をするしかないと思う。だけど、あらためて小学生の算数を学ぶのは、桜庭さんの人生にとって無駄ではないはずだよ』
これには、しばらく返事が来なかった。
『人生なんてどうでもいい! 今度の中間の成績を上げることだけ考えて!』
彼女は刹那的な考えを持っているようだ。
これだけ明白な回答が返ってくるなら、迷っている余地はない。
『わかった。明日は累乗の計算から取り組もう』
また返信に時間がかかった。
『累乗って、xの7乗とか出てくるやつだよね』
『そうだよ』
『怖い怖い怖い怖い怖い』
『大変だけど、やるしかないでしょう』
『彼氏が鬼畜である絶望』
鬼畜って……。
『彼女のことばが容赦なさすぎる』
『容赦ないのはきみ。また泣かせるつもり?』
『ぼくはきみの中間の成績を上げることだけを考えているんだが』
『わたしのダメージのことも考えて』
どうすればいいんだよ。
『やっぱり算数からやろうか』
『嫌』
『累乗』
『嫌』
『算数か数学かどちらか選択してよ』
『苦渋の決断。数学……』
『予習しておいてください』
『絶対嫌。今夜はドラムを叩きまくって、ウサを晴らします』
『ドラム?』
『音ゲーのドラムだよん』
そうか。気晴らしも大切だな。
『予習はいいや。ストレスを発散しておいてね。明日がんばろう』
『やさしい彼氏に感謝。ありがとう』
おおっ。
ぼくのモチベが上がった。
『高級プリンよろしくね~』
せっかく上がったモチベを返せ!
ぼくは冷蔵庫を見た。
人気の高級プリンが入っている。大丈夫だ。
言われなくても持っていくつもりだった。きっと役に立つ。
『ベルギーのチョコレートに負けない日本のスイーツ、お楽しみに』
『ありがとう。明日がんばる! プリン、なくてもいいよ』
『持っていく。遊びの時間をじゃましてごめん。また明日』
『またね~。おやすみなさい』
『おやすみなさい』
さてと、彼女がしない分、ぼくが予習をしておこう。
彼女と同じ境遇を想定して数学に取り組むと、別世界が待っている。
それをあらかじめ経験しておけば、きっとよい家庭教師になれるだろう。
yの7乗とは、y×y×yのことだ。
彼女の元いた世界では、これがy×y×y×y×y×y×yとなる。こんなものを想像していたら、数学がやたらとむずかしくなってしまう。
7乗とは、3乗のこと。怖がることはないんだよ、と言ってあげよう。
累乗の計算をするためには、公式を覚えなくてはならない。
公式➈ aのm乗×aのn乗=aの(m+n)乗
これはきっとわかってくれるよね。数字はないから。
公式⑧ (aのm乗)n乗=aの(m×n)乗
公式⑦ (ab)のn乗=aのn乗×bのn乗
これらの公式を踏まえて、問題を解いていくことになる。
「かっこ-7xの8乗yかっことじの7乗は、公式⑦により、かっこ-7の7乗かけるかっこxの8乗の7乗かけるかっこyの7乗で、公式⑧により、かっこxの8乗の7乗はxの4乗となる。ゆえに解答は-83xの4乗yの7乗となる。これは桜庭さんの元いた世界での-27xの6乗yの3乗に当たる」
この説明でわかってもらえるかな。不安だ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる