1 / 4
過労死転生
しおりを挟む
町役場で過労死するとは思わなかった。
わたしは地方の公立大学を卒業し、故郷の町役場に就職した。
配属されたのは町おこし課。
その仕事が、まさかの異常な忙しさだった。
なんの変哲もない町。
取り柄と言えば、きれいな海があり、美味しい魚が獲れることくらい。
わたしが生まれたとき、町の人口は4万人だった。就職時は2万人。確実に過疎化が進んでいる。
県議会議員をつとめたことのある町長が異様なやる気を出して、町おこし課を新設した。
課の実状は、課長ひとり、係長ひとり、課員はわたしひとり。
町役場にマンパワーは乏しい。豊富な人材なんていない。
課長は役場のエリートだった。しかしその実態は、働く気がないくせに、パワハラ気質を持つ町長のイエスマン。
係長は生真面目なだけの人。町おこしには向かないアイデア皆無の事務屋だった。
必然的に、新人なのに、わたしがなにもかもやらなければならない流れができていった。
故郷のよいところは美しい海。これに尽きた。
遠い首都圏からも釣り人が来るほど、釣り場としての人気は高かった。
わたしはこれに目を付け、町営の釣り公園をつくろうと思った。
やらなければならない仕事は異常なほどあった。
町長や町議会議員への説明資料作成、漁協との交渉、立地選定、予算編成、設計委託、財政係や都市計画係、公園係などとの役場内折衝……。
課長や係長はほとんど役に立たなかった。
わたしひとりで仕事に立ち向かい、そして敗れた。
睡眠時間をほとんど取れず、精神を病み、それでも働きつづけ、結局、釣り公園建設の端緒にもつかないうちに、わたしは過労死した。
就職して1年後のことだった。
気がついたとき、目の前にかっこいい容姿の神様がいた。
ちょっとチャラそうだったけれど、後光で、神様だとわかった。
「いやあ、過酷な人生を送らせてしまってごめんね。おわびに過労死特典として、好みの異世界へ転生させてあげるよ」
「えっ、転生できるんですか?」
「もちろんできるさ。人間はみんな転生する。記憶は失ってしまうけれどね。だけどきみの場合、やっぱり過労死特典として、前世の記憶を持ち越しできるよ。同じ失敗をくり返さないように気をつけてね」
「過労死していいことがあったなんて……」
わたしは涙ぐんだ。でも、あんな体験は二度としたくない。のんびり生きたい。
「少しくらいなら特殊能力も付与してあげよう。きみは予定外に若くして亡くなってしまったからね」
わたしは故郷の海が好きだった。
だから町役場に就職したのだ。
美しい海のある土地がいい。
平和で平穏な田舎がいい。
あくせく働かなくても生きられる自然の恵み豊かな世界へ行きたい。
できれば美少女に生まれ変わりたい。
スローライフに役立つ特殊能力が欲しい。
そんなことを神様に要望した。
わたしが転生した土地は、海辺の辺境伯領だった。
物心ついたとき、前世の記憶を思い出した。
もう絶対にあくせく働かない、と心に決めた。
田舎のスローライフを楽しみたい。美味しいものを食べて暮らしたい。
父は漁師だった。前世の記憶にある物とはほど遠い粗末な漁具で、魚を獲っていた。しかしこの世界の海には、日本の海より遥かに濃い魚影があって、生きていくには困らない程度の収穫があった。
わたしは美味しい魚を食べて育った。
母は畑で野菜をつくっていた。日本の土より遥かに肥えた土があって、肥料なしでも実りは豊かだった。
わたしは美味しい野菜を食べて成長した。
魚と野菜は商人に買い取ってもらえて、衣食住に不自由はなかった。
そしてわたしは、神様への要望どおり、美少女に転生していた。前世では十人並みだったのに。
銀色の艶やかな髪。ぱっちりとしたアーモンド型の目。輝くような青い瞳。輪郭も目鼻立ちも整った小顔。
スラッとして長い手足。胸はまだそんなに大きくはないけれど、母のように成長すれば、スタイルも期待できる。
16歳のとき、特殊能力に気づいた。
抜け落ちた1本の自分の銀髪を指で持っていたら、それがキューンと伸びていったのだ。
いろいろと試してみたのだが、わたしの長く伸びた髪の強度は抜群だった。この世界にあるどんな糸よりも切れにくい。
父は亜麻糸でつくった網で魚を獲っていた。
わたしの毛髪を使えば、もっとずっとすぐれた網をつくれると直感した。
そしてこの世界ではあり得ないほど、細く強度のある釣り糸として使用できるはずだ。
わたしが転生した地域は、若くてイケメンで無類の釣り好きの辺境伯が治めていた。
この銀色の毛髪釣り糸を欲しがるだろうな、と容易に想像できた。
性格もよかったら、あげてもいいかなあ。
釣りをしてみようかな。
異世界の海で魚を釣り、美味しい料理をつくる。
スローライフを満喫するわよ!
わたしは地方の公立大学を卒業し、故郷の町役場に就職した。
配属されたのは町おこし課。
その仕事が、まさかの異常な忙しさだった。
なんの変哲もない町。
取り柄と言えば、きれいな海があり、美味しい魚が獲れることくらい。
わたしが生まれたとき、町の人口は4万人だった。就職時は2万人。確実に過疎化が進んでいる。
県議会議員をつとめたことのある町長が異様なやる気を出して、町おこし課を新設した。
課の実状は、課長ひとり、係長ひとり、課員はわたしひとり。
町役場にマンパワーは乏しい。豊富な人材なんていない。
課長は役場のエリートだった。しかしその実態は、働く気がないくせに、パワハラ気質を持つ町長のイエスマン。
係長は生真面目なだけの人。町おこしには向かないアイデア皆無の事務屋だった。
必然的に、新人なのに、わたしがなにもかもやらなければならない流れができていった。
故郷のよいところは美しい海。これに尽きた。
遠い首都圏からも釣り人が来るほど、釣り場としての人気は高かった。
わたしはこれに目を付け、町営の釣り公園をつくろうと思った。
やらなければならない仕事は異常なほどあった。
町長や町議会議員への説明資料作成、漁協との交渉、立地選定、予算編成、設計委託、財政係や都市計画係、公園係などとの役場内折衝……。
課長や係長はほとんど役に立たなかった。
わたしひとりで仕事に立ち向かい、そして敗れた。
睡眠時間をほとんど取れず、精神を病み、それでも働きつづけ、結局、釣り公園建設の端緒にもつかないうちに、わたしは過労死した。
就職して1年後のことだった。
気がついたとき、目の前にかっこいい容姿の神様がいた。
ちょっとチャラそうだったけれど、後光で、神様だとわかった。
「いやあ、過酷な人生を送らせてしまってごめんね。おわびに過労死特典として、好みの異世界へ転生させてあげるよ」
「えっ、転生できるんですか?」
「もちろんできるさ。人間はみんな転生する。記憶は失ってしまうけれどね。だけどきみの場合、やっぱり過労死特典として、前世の記憶を持ち越しできるよ。同じ失敗をくり返さないように気をつけてね」
「過労死していいことがあったなんて……」
わたしは涙ぐんだ。でも、あんな体験は二度としたくない。のんびり生きたい。
「少しくらいなら特殊能力も付与してあげよう。きみは予定外に若くして亡くなってしまったからね」
わたしは故郷の海が好きだった。
だから町役場に就職したのだ。
美しい海のある土地がいい。
平和で平穏な田舎がいい。
あくせく働かなくても生きられる自然の恵み豊かな世界へ行きたい。
できれば美少女に生まれ変わりたい。
スローライフに役立つ特殊能力が欲しい。
そんなことを神様に要望した。
わたしが転生した土地は、海辺の辺境伯領だった。
物心ついたとき、前世の記憶を思い出した。
もう絶対にあくせく働かない、と心に決めた。
田舎のスローライフを楽しみたい。美味しいものを食べて暮らしたい。
父は漁師だった。前世の記憶にある物とはほど遠い粗末な漁具で、魚を獲っていた。しかしこの世界の海には、日本の海より遥かに濃い魚影があって、生きていくには困らない程度の収穫があった。
わたしは美味しい魚を食べて育った。
母は畑で野菜をつくっていた。日本の土より遥かに肥えた土があって、肥料なしでも実りは豊かだった。
わたしは美味しい野菜を食べて成長した。
魚と野菜は商人に買い取ってもらえて、衣食住に不自由はなかった。
そしてわたしは、神様への要望どおり、美少女に転生していた。前世では十人並みだったのに。
銀色の艶やかな髪。ぱっちりとしたアーモンド型の目。輝くような青い瞳。輪郭も目鼻立ちも整った小顔。
スラッとして長い手足。胸はまだそんなに大きくはないけれど、母のように成長すれば、スタイルも期待できる。
16歳のとき、特殊能力に気づいた。
抜け落ちた1本の自分の銀髪を指で持っていたら、それがキューンと伸びていったのだ。
いろいろと試してみたのだが、わたしの長く伸びた髪の強度は抜群だった。この世界にあるどんな糸よりも切れにくい。
父は亜麻糸でつくった網で魚を獲っていた。
わたしの毛髪を使えば、もっとずっとすぐれた網をつくれると直感した。
そしてこの世界ではあり得ないほど、細く強度のある釣り糸として使用できるはずだ。
わたしが転生した地域は、若くてイケメンで無類の釣り好きの辺境伯が治めていた。
この銀色の毛髪釣り糸を欲しがるだろうな、と容易に想像できた。
性格もよかったら、あげてもいいかなあ。
釣りをしてみようかな。
異世界の海で魚を釣り、美味しい料理をつくる。
スローライフを満喫するわよ!
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した王子・アンジェロは、隣国の陰謀によって追放される。しかし、その追放が、彼の真の才能を開花させた。彼は現代知識を活かして、内政で領地を発展させ、技術で戦争を制することを決意する。
アンジェロがまず手がけたのは、領地の開発だった。新しい技術を導入し、特産品を開発することで、領地の収入を飛躍的に向上させた。次にアンジェロは、現代の科学技術と異世界の魔法を組み合わせ、飛行機を開発する。飛行機の登場により、戦争は新たな局面を迎えることになった。
戦争が勃発すると、アンジェロは仲間たちと共に飛行機に乗って出撃する。追放された王子が突如参戦したことに驚嘆の声が上がる。同盟国であった隣国が裏切りピンチになるが、アンジェロの活躍によって勝利を収める。その後、陰謀の黒幕も明らかになり、アンジェロは新たな時代の幕開けを告げる。
アンジェロの歴史に残る勇姿が、異世界の人々の心に深く刻まれた。
※書籍化、コミカライズのご相談をいただけます。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています

『聖女』の覚醒
いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。
安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。
王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。
※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる