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Ⅱ‐回青の園
追加掌編 今際
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疲れ果てて意識が落ちるのではない、もっと心地よい眠りの気配に微睡んでいた。
思っていたより遥かに長かったけれど、それでももう少し、貴方の傍に居たかった。此処でずっと待っていたかった。まだ、橙花の香る寝床で。
見上げれば金の光が見える。鸞の加護の光と思っていたが、ちょっと違う。これは結局主人のものだ。加護を受けたこの人の魂が照る色。この世で一番美しい輝き。
主人の体温が分かる。手が熱い。でもそろそろ俺も冷たくなさそうだ。これからまた暑期が来るのになあと、申し訳なく思う。
今年も、来年も、そう、思っていたけど。
「長く、ご苦労だった。楽にしろ。……休むことを許す。愛している、お前を」
主人が命じる声が一つ、すっと光でも差すように届いた。いつも聞いていた声だ。答える為にもう一度、息をする。
遠く、微かな鈴の如き声。
そのときが来たとは、鸞の声より先に感じとった。予感して此処で過ごしたのだ。日頃そうしていたようにベッドの中でその身を抱えていた。手を握って姿を眺めた。軽く、冷たく、白い。私の白奴隷。
虫食い痕の並び方さえ覚えるほどに眺めた顔だ。顔つきはさすがに昔とは変わったがしかし、その変化も込みで日々見ていた顔だった。
「長く、ご苦労だった。楽にしろ。……休むことを許す。愛している、お前を」
間に合うよう少し急いで、けれどはっきり言ってやった。震えなかったのは大したものだ。鍛えてきた甲斐がある。これにそんな無様は見せない。
――はい、ご主人様。
そう応じた。長く瞬いて私を仰ぐ翡翠色。逸らされなかった瞳から、とうとう何かが消えるのを見た。
労いに撫でてやる。目を覆い、瞼を閉じさせる。これにさせていたように疲れただろう目を覆う。鼻梁や頬の、幾度も撫でた虫食い痕を辿り――指がかかる首輪を掴む。
亡骸は冷たいが、もうお前の温度ではない。氷が、雪が、薄く透きとおるようにいなくなる。だが居なかったのではない。確かに此処に居た。濡れたものがある。
抱くと温まるばかりの肌に限りをつけ、一人、身を起こした。
思っていたより遥かに長かったけれど、それでももう少し、貴方の傍に居たかった。此処でずっと待っていたかった。まだ、橙花の香る寝床で。
見上げれば金の光が見える。鸞の加護の光と思っていたが、ちょっと違う。これは結局主人のものだ。加護を受けたこの人の魂が照る色。この世で一番美しい輝き。
主人の体温が分かる。手が熱い。でもそろそろ俺も冷たくなさそうだ。これからまた暑期が来るのになあと、申し訳なく思う。
今年も、来年も、そう、思っていたけど。
「長く、ご苦労だった。楽にしろ。……休むことを許す。愛している、お前を」
主人が命じる声が一つ、すっと光でも差すように届いた。いつも聞いていた声だ。答える為にもう一度、息をする。
遠く、微かな鈴の如き声。
そのときが来たとは、鸞の声より先に感じとった。予感して此処で過ごしたのだ。日頃そうしていたようにベッドの中でその身を抱えていた。手を握って姿を眺めた。軽く、冷たく、白い。私の白奴隷。
虫食い痕の並び方さえ覚えるほどに眺めた顔だ。顔つきはさすがに昔とは変わったがしかし、その変化も込みで日々見ていた顔だった。
「長く、ご苦労だった。楽にしろ。……休むことを許す。愛している、お前を」
間に合うよう少し急いで、けれどはっきり言ってやった。震えなかったのは大したものだ。鍛えてきた甲斐がある。これにそんな無様は見せない。
――はい、ご主人様。
そう応じた。長く瞬いて私を仰ぐ翡翠色。逸らされなかった瞳から、とうとう何かが消えるのを見た。
労いに撫でてやる。目を覆い、瞼を閉じさせる。これにさせていたように疲れただろう目を覆う。鼻梁や頬の、幾度も撫でた虫食い痕を辿り――指がかかる首輪を掴む。
亡骸は冷たいが、もうお前の温度ではない。氷が、雪が、薄く透きとおるようにいなくなる。だが居なかったのではない。確かに此処に居た。濡れたものがある。
抱くと温まるばかりの肌に限りをつけ、一人、身を起こした。
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