翡翠の環−ご主人様の枕ちゃん

綿入しずる

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Ⅰ‐翡翠の環

定位置ⅱ*

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 柔らかく頭や体に触れる温もりが心地良い。
 あたたかい。いい匂い。ああそうだ、帰ってきたんだった。瞼を開けると覗きこむ主人と目が合ってどきりとする。ベッドの上、抱きこむ腕の中に居る。
「ああ起きたか。ではするか」
 額への接吻と第一声に、おはようございますとさえ言えない。腰に手が滑ってきて動揺する。するか、って。
「え、あ、朝からですか」
 肌触りのよい寝間着の裾を捲りあげられると後は下着だけだ。それも容易く主人の手が引っ張って剥いでいく。意図は明白だった。
 昨日はあれから無事帰ってきて、宣言どおり風呂に連れ込まれて隅々まで洗われて。――そう隅々まで。尻の中まで洗われて綺麗になったのをしっかりと確認され、使われる覚悟をしたけど、しなかった。
 主人は最初の日のように身構えた俺を抱えて眠ってしまった。俺もさすがに疲労に抗えずに眠ってそれで、目を覚ましたらこうだ。明るいから朝だろう。王宮に貸し出される前と変わった様子のない部屋には他に人の気配はないし、昼までは寝ていないと思う。
「時間など関係あるまいよ。何の為にする行為かは知っているだろう」
「性欲を発散する為の……」
 耳に触れながら問うくすぐったい唇に答える。男同士では子はできないだろう。
 いつもは風呂の後だから夕方頃だったが、言われてみれば性奴隷の仕事に昼夜はないのかもしれない。腿には主人の物が硬くなって当たっているし、朝はそういうものだろう。
 そう考える俺に、主人が笑う気配がした。
「これは愛を交える行為でもある。愛したいと思えばそのときでいい」
 耳慣れぬ言葉。改めて告げられてしまうと途端に居た堪れなくなって顔が熱くなる。そんなのはいけない。大した意味はないのかもしれないけれど、奴隷に愛なんて。今までの扱いを思えば冗談だと言いきれないのがまた困る。主人は主人で、俺が奴隷なのは変わらないのだろうけれど。変わらないからこそ。俺には返すものがなにひとつ無いのだから。
 その反論さえ、俺には許されない。
 ぐっと黙っているうちに手が尻を撫でて、指が穴を擽る。見えないところで掬いとったらしい油の濡れた感触がした。欲を引き出すように動く指先に、穴がひくつくのが恥ずかしい。
「躾の間は控えてやった。三日三晩貸して、今も起きるまで待ってやった。まあそれは別段苦でもないが。よく寝ていたから疲れもとれたろう」
 声は淡々と続けた。たしかに昨日は眠くて怠かったのに今はすっきりとして元気だ。何日ぶりかで、俺のほうもむずむずとしてくる。
 主人が言い聞かせるまでもなく、俺の選択肢は一つしかない。主人もそんなことは分かっているだろうに。
「……はい。どうぞ、使ってください、ご主人様」
 言葉にすると褒美のように頬に口づけられる。ぬるつく指が浅く出入りし始めた。
 腰を抱えられた姿勢は眠るときとも似ていて、俺は乱れ始める息を抑えて主人の胸元へと顔を寄せた。橙花の香り、王宮とは違う主人の香りが体温と共に伝わってくる。
 主人の指は欲しいところには当ててもらえない。むしろ性器の裏側は避けるように広げて、油を含ませる。ここを使う為の準備の手つき。幾度も口づけを受けながら、されるがままに解された。
 離れて起き上がる体。見上げると昨夜とは違う、俺とも似た寝間着を着た、緩く黒髪を広げた主人の姿が映る。金の目に見下ろされるとぞくぞくと体が芯から震えた。
 許しを請うような気分で仰向けになり、脱げかけの下着から抜いた足を開き抱えて、体を差し出す。持ち上げた腰に押しあてられる物の熱さに息が漏れた。
「ん、んうっ……っあ」
 主人の陰茎が体の内を広げる。その感覚に身悶えた直後、間を空けず引き抜く動きに中を擦られて声を抑えるのには失敗した。
 俺の物は柔らかいままだが、腹の奥から込み上げる快感は強い。俺が既に苦痛に喘いでいるわけではないことを知っている主人は、保つ姿勢を突き崩すかのように再び腰を打ちつけた。
 主人の思うままに揺すぶられるとすぐに息は荒れて、その間に声が混ざるのを止められない。
 熱くて苦しくて、でも気持ちよくて幸せで、膝を抱えていたはずの手はいつの間にか主人の腕に縋っていた。袖を握り柔らかい布に皺を作り爪を立てるのにも咎める言葉はなく、自分のものに紛れて主人の息遣いが聞こえるだけだ。
「ん――……少しは慣れてきたか?」
 熱い精液が奥に撒かれても、まだ終わりじゃない。呟きくしゃりと混ぜるように髪を撫でる手にほっとしたのも束の間、俺は中だけでは上手くイけなくて震える体を引っ張りあげられた。
「あ……や、いやです、それ――っ!」
 たしかに今俺の中に出したはずなのに、主人は本当に容赦がない。抜くこともなく今度は下から突き上げられる。
 上に乗る姿勢はより奥に入って苦しいが――抱き締められて、一層に体の奥が熱く痺れるとそれさえ気持ちいいように錯覚する。
 ああ――
「ごしゅじんさま、」
 苦痛の先にも快楽の先にも主人しかいない。止めてほしいのかもっとしてほしいのかはもう曖昧で、ただ懸命に腰を揺らしながらどうしようもなくなって呼ぶと笑みが見える。接吻されるとさらに息が乱れて苦しくて涙が出る。
 腰を掴んだ手が熱い。舌を吸う口が熱い。体の奥を打つ物も。もう溶けそうだ。でもそれも今なら悪くないのかもしれない。
 思いながら、体の奥から広がる熱に身を委ねた。
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