翡翠の環−ご主人様の枕ちゃん

綿入しずる

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Ⅰ‐翡翠の環

支度ⅱ*

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 服を脱ぎ四つん這いになって主人に向けた尻に手を伸ばす。とろりとした潤滑剤を掬った指でさっきも洗った場所に触れ、一本押し込んだ。主人が不在の間はこういうことはしていなかったが、洗ったそこは多少解れているのかも知れず、温く不快な異物感こそあるものの入った。
 初めて自分で触れる中は妙に柔らかく濡れていて、どこまで指を入れていいのか分からなくて怖い。でも自分の指なら入るはずだ。主人の指より細いのだから。
 主人は後ろで座って見ている。尻を見せる姿勢の恥ずかしさに追い詰められてどうしたらいいのか分からなくなってくるが、早く動かなければ終わらない。人差し指を押し込み――動かして、指を増やして広げる。主人の動きを思い起こし手順を辿って指を抜くと、ぞわぞわと背が震えた。
 もう一度入れて、抜いて。案外難なく出し入れできてしまうから、観念して指を増やす。
「っ……」
 性器の裏側、気持ちいいところに当たって声が出そうになる。視線を感じて居た堪れない。振り返れない。タイルを見つめて意識を逸らす。
 指先ですぐに届く、少し膨らんでいるような場所。主人はいつもよく触れるが解すだけなら触らなくてもいいだろうか。主人の――指が、入るようにすればいいのだから。なるべく触らないように、二本に増やした指を抜き差しする。
 圧迫感と抜くときの快感が交互にやってきて、指を増やしたせいでどうしても中を押してしまう。そろそろと動いても体が跳ねる。
「気持ちいいか?」
「っえ、いや……その、」
 不意に飛んできた声に驚くと指が締めつけられて下腹が疼いた。
 なんて答えたらいいだろうとうろたえて動きを止めてしまうと、また視線を感じる。見られている。こんなところを。自覚するほど体が熱くなる。
 気持ちいいと答えるのは恥ずかしいが、よくないと言うのも上手くできていないような感じがする。主人にされているときは気持ちよくなるのだから、なったほうがよいのではないか。ああでもそれは自慰を見せているのと同じなのでは。
「分かりません……」
 結局窮してそう言うしかなかった。早く終わらせたいが、終わりはどこだろう。指が三本入ったら? もう入れていいだろうか。
 主人はもっと中が柔らかくなるまで揉み解すけれど。激しく手を動かすのは恥ずかしいし気持ちよくなってしまいそうで不安だ。そう考えるとなかなか進まない。きっとあんまり時間をかけてもいけないのに焦るとさらに上手く動けなくなる。
 緩く単調に潤滑剤を擦りつけて揉んで、体が物足りないと訴え始めるのは無視して、指を増やして同じ動きをする。三本、ちゃんと奥まで入った。きつい感じが無くなるまで抜き差しして穴を広げる。
「……ご主人様、もう、よろしいでしょうか」
 もうこれ以上はどうしたらいいのか分からない。指を抜いて習ったとおりの丁寧な言葉づかいで問うと、主人が動く気配がした。
「解れたか見せてみろ」
 尻を掴んで開かれる。どろどろに濡らしてひくついたところを晒す恥ずかしさに体が熱くなる。それにまた穴がひくつくのが自分でも分かる。
「あ!」
 主人の指が入ってくる。一本だけでも太くて長く、押されると自然に声も出てきた。根元まですべて埋められて、ゆっくりと引き抜かれる。もう一度奥へ。繰り返し。
「んっ――んあっ、あ」
「ああ、偉いな、奥まで容易く入る」
 弱いところに擦りつけながら抜かれて、また押されて。さっきの俺の動きを真似るような単純な動きでも全然違う。主人の指とはこんなものだったか。
「う、ぁく――」
 姿勢を保つ膝が震えはじめた。容赦なく感じるところに触れる指が増やされる。穴を広げられて、潤滑剤を鳴らして音を立てる。
 ぐちゅぐちゅと聞こえるはしたない音と中への刺激が結びついて、体へと熱が広がっていく。体の中を掻き回されている。
「今度は気持ちいいか?」
「は、いっ……っあ」
 息が上がってきて声が上擦る。答えると中の気持ちいいところを撫でられた。何度も、執拗に。
 尻で達しろと言われるときの動き。懸命に締めつけると意識がじんと痺れた。逃げそうになる体を押さえつけて、広げて、当てられる。
「っく、あ」
 この姿勢だと縋るものが何もなく、俺は拳を握りしめて背を丸め堪えた。閉じた瞼の裏が白く弾ける。全身覆う快感に身震いして吐く息まで震えた。
 指が抜けて、崩れそうになる体を主人の手が引き上げる。腿を掴まれて足を閉じるように促される。尻ではなく足の間に熱い物が当たった。――今日も入れないで終わりそうだと、くらくらする中で気づく。
 せめて訊かないと。
「い、れないん、ですか」
 動き出す前にと問うと主人の手が緩んだ。
「……誰かに何か言われたのか」
 俺は首を振る。主人はやけにそれを気にするが、性奴隷の仕事について言われたのは昨日のあれくらいなものだ。誰も俺をそういう扱いはしなかった。暑いからと部屋は冷やしたけど、それ以外は奴隷らしい扱いもほとんど覚えが無い。主人の特別だからなのか、この家の慣習なのか、むしろ皆丁寧だったように思う。
「いえ、そうではなく……俺が思っただけ、です。ずっと解すだけなので……これでは俺を使う意味がないのではと」
 しかし買われてからもう一月以上尻を広げるだけというのは、やっぱり丁寧すぎるのではないか。俺は性奴隷の仕事なんてまともに知らないが――主人に益がない。白奴隷アラグラルの仕事はともかく、性奴隷としてはまったく役割を果たせている気がしない。
 などと述べて考えていたら首輪を掴んで引っ張られて、喉の締まる感覚に慌てて従い身を起こした。主人の胸へと引き寄せられる。熱くて、主人の匂いがする。
 腰の横に主人の陰茎があった。こんなもの入るのか。入ってしまうのも怖い。怖いけど。
「腹を括ったのか。……別にお前の恭順を得る為に学ばせてやったのではないぞ。報いようなどと考えんでいい」
 頬に口づけて囁く主人の声に胸が痛んだ。それは、そうなんだろうけど。でも。
「でも俺はとても嬉しくて――何か返したくても何もないけど、我慢ならできます、から」
 やっぱりそう思う。嫌なものは嫌だし怖いが、少しでも役に立ちたい。奴隷の俺にはそれしかないのだから。
「殊勝だな。磨きがいがある。だが覚えておけ、そういう態度はお前の為にならん。たがが外れる」
 主人が目を細めるのが見えた。綺麗なのにぞくぞくとする。
 膝の上へと抱えられ、開いた足の間へと押しつけられる。今日こそ。俺が言ったから。怖い。熱い。
「いいのか? 泣き叫ぶほど痛いかもしれんぞ」
 主人が意地悪く笑うが、俺は頷いた。
「使ってください」
 金の瞳が近づく。今度は向かい合った唇へと口づけられて、硬い物が尻の穴へと当てられた。熱い、主人の体温が擦りつけられるのではなく入ってくる。指より太く、穴を広げる。ぞわと背が粟立った。
「――っう、あ」
 呼吸を整えて受け入れる。散々指でやられていただけにどうしたらいいのかは分かっていた。それでも苦しいが――苦しさはあるが、身構えていたほど恐ろしい痛みはない。
 広げられ、広げられたところを満たされる、そういう感覚。俺の中に主人がある。ゆっくりと深くまで入ってくる。入ってしまう。腰を引き寄せられて押しつけられると尻に主人の体が触れた。
「やはり白奴隷だな、中もぬるい」
 入れているだけで熱くて、身震いしそうになる。頭を撫でられてもう一度接吻され、唇に噛みつかれた。ぐと腰を押しつけられて開いた口に舌が入ってくるのに驚いて、噛まないようにと歯をよけると一層に深く押し入られる。
 口も熱い。舐められ、舌を吸われてされるがまま。息が乱れると締めつけて、体の中の主人の陰茎を感じた。何度も揺すられ奥へと押しつけられる。
「んあ、あ、うぐ、あ」
 指では知らなかった奥まで突かれると鈍い痛みがあって、それと同時に、目一杯に広げられた中、性器の裏側が擦られて快感も込み上げてくる。声が抑えられない唇を啄まれて、その心地良さに意識が溶けてくる感じがした。
 主人はしばらくそうして俺の中を開いて接吻を繰り返した。俺は背に回した腕で必死にしがみついてそれを受け入れた。なるべく上手く苦痛を逃すくらいしかできることはなく、それも徐々に薄れてきた。馴染んだのか、麻痺してきたのかは分からない。
 不意に主人の顔が離れるのをぼんやりと眺めて――尻の中に収まっていた太い物が抜けていく感触に身が竦んだ。
「っあ、や……――っ!」
 ぞくぞくと快感が走って腹の中身が動いた感じがする。気づけば勃起していた性器から水気が垂れる。
 全部は抜かずに、打ちつけられる衝撃に体が揺れた。押し出されるように息が漏れる。
「あっ、ごしゅ、じんさ……! い、だっ……だめ、あ、あ」
 引き抜かれて、また奥まで。さっき以上の快感と苦しさに、俺は本当に泣き喚いていた。ろくな声にはならないが、止められない。
 熱くて気持ちよくて苦しくて、わけが分からなくなる。涙でよく見えない中、目の前の体に縋って、もう無理だ、堪らないと訴える。それでも止めてもらえない。
 揺すぶられて奥まで貫かれ、恥もなく声を上げて使われる。
「っは――」
 自分の声に混じって主人の荒い息遣いがすぐ近くでして――抱き締められると同時に中に出されたのが分かった。腹の中に広がる精液も熱くて、腹と頭がじんと痺れる感じがした。

 少し間を置いて震える体から主人の陰茎が抜き出され、ああ終わったんだ、どうにかできたんだと思ったのも束の間。
「腹の中の物を出せ」
 頭を撫でて口づけした主人に命じられてくらりとする。今までは塗りたくった潤滑剤をこそぎ落とすだけでよかったが、深いところで出された物は指では届かないのだろう。まさかやった後にもそんなことしなきゃいけないなんて、考えてなかった。
「自、分でやります、俺が世話されるんじゃいけないってヌハス様が仰ってました……」
 うろたえる間に手が両方とも尻に下りてきて慌てて主人の体をやんわりと押しやる。まだ体も重く上手く動きそうにないが、されるよりは自分でするほうがましだ。
「此処では構わん。お前が言わなければあれも気づかん。大体、お前は誰よりも私に従うべきだろうが」
「……それはそうですけど」
 と思ったのだが。案の定無下に言いきられてまた促されたので、俺は俯いて半泣きで息んだ。何度目かでようやく、まだ熱を持って開いた穴から精液が垂れてくる。久々に排泄を見られる感じに顔が熱くなったが、主人はそんな顔をじっと眺めていた。
 出しきって、温くなってきていた浴槽の湯を適温まで冷まして体を流す。膝に震えが残っていて手桶を取りに行くのも一苦労の俺の動きを見かねたのか、それともいつものことか、石鹸液をつけた主人の手が伸びてきた。
 さっきと同じことを言われそうなので拒否はしないで大人しく目を閉じて洗われたが。人を洗うのは自分を洗うより面倒だ。それを奴隷相手にわざわざやりたがるなんて、主人はやはり変わり者だと思う。
 主人が不在の間に浴室での仕事のやり方など教えてもらっていたから余計に居心地が悪い。髪を梳いて洗って、泡を作って体を洗って。全部、本当は俺がやらなければいけないのに。
「奴隷の世話を主人がするのは、やっぱり変ではないですか」
「別に他の奴隷をどうこうしたいとは思わんがな。お前を隅まで磨くのは楽しい」
 呟くといつものはっきりとした声が返ってきて――俺はなんと言ったらいいのか分からず、もう一度黙り込むしかなかった。
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