パルフェタムール

綿入しずる

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大人の今ⅰ*

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 ああ、大人になんてなりたくなかった。十五歳で時を止めたかった。でもそんな我侭、貴方は聞きたくないでしょう。だから言わない。絶対口にしない。俺は貴方を愛しているから。
 昔のことを思い出して、何度か繰り返した言葉をまた頭の中だけで反芻する。視界が体ごと揺れた。何故か天井が近く感じられた。
 汗臭く生臭い。押し付けられた掌が熱い。背で敷布がじっとりと湿っている。それでも萎えたモノが抜け出てく感覚には鳥肌が立った。
 なんでこんなことを考えながら抱かれてたんだっけ、と音を立ててキスした後に顔を背けたら、思い出した。椅子の背に祭服と、緑の肩帯がかけられている。あの時と同じ繁樹の色。夏の、この時期の帯の色だ。
 乱れて散らばった髪が煩わしい。暑い。水を浴びたい。なるべく早く。
「ん、」
 上に居た人がどいて体が少し軽く感じられたのはほんの僅かな間だけ。水差しを口に添えられて、傾けられるのを舐めるように飲んだ。零れてもお構いなしだった。飲む水は温いのに、頬が冷たい。
 だらだらと飲んで、次にはチンポが突きつけられる。身を起こしながら舌を這わせると、後ろでもう一人が腰を抱えて体勢を変えようとしてくる。こんな暑い日に二人をいっぺんにって言うのは、ほんとは疲れるから勘弁してほしかった。
 咥えてるほうが膨らんできて、口を塞いで喉を突いた。息苦しい。
「窓、……開けません?」
 息継ぎしながら言う。そうしたら少しはましだろう。多分、きっと。少しは息がしやすくなるはずだ。此処は聖堂の中でも奥まった所にあるから、空気の流れはそんなによくないけど。
「後でな」
 けど、二人はこの交わりに執着してるようだった。手を放したって逃げやしないのに、ずっとどこかに触れている。指がぐちぐちと奥に進んでくる。擦られてまた性欲が湧いてくる。まだ湧いてくる。さっき出された精液がだらりと流れて脚で滑る。
 あの時の油に比べても随分不愉快な感触だった。喉もぬるぬると粘ついた感じになっている。
 処女喪失は十一の時。それ以外は少し前から。咥えるのが上手くなったって褒めてもらったのはいつだっけ?
 聖堂の男の人たちは子供をそういう風にも扱った。他の聖堂ではどうか、ってことは、確かめたことがないから分からないけど――少なくとも俺に関しては、どこの聖堂でもこんなところだった。お勤めをして、男の相手をして、自分もいくらか気持ち良くなって、他のお勤めに戻る。
 これが子作りと同じ行為だと聞かされた時は、ぽかんとしてしまった。俺は父さんとひっそり暮らしていたせいで、他の子供に比べても……言うなれば初心で。友達の作り方も恋の仕方も、男女の営みなんていうのも、同列に知らないことだった。だから、自分も相手も男だなんてことを度忘れして、これで子供できるの? なんて聞いてしまったぐらい。
 チンポをつっこむところが違うなんて説明されて、その後女の人の相手もしたけれど、子供はできなかったらしい。何がどうなってるの、と子供ながらの好奇心で聞いたら、聖典の語りと娼館なんかの手ほどきを一緒くたに噛んで教えてくれた。聖典と手ほどき、っていうのは今になったから分かることで、当時はどっちも同じところにある話だ。
 ともかく自分もこんなことの果てに生まれてきたと思うとすごく不思議だった。俺は冗談でも聞かされていて、後でまた笑われるんじゃないかとも思ったけど、どうやら今のところ、本当のことらしいっていうのが結論だ。
 前髪を掴まれて頭を揺すって、苦しさに涙目になりながら精液を飲みこんだ。つっかえた感じがして、慌てて口を離して咳き込む。噛んだらさすがに、怒られるなんてもんじゃない。涎に混じって精液が落ちた。これが子供の元ってのは作り話みたいだ。こんなどろどろのものから、どうやって。
 ――骨は白いだろう。これも白い。そういうことだ。女の腹で固まって人の芯になる。
 ぬるつく俺の腹を撫でながら言った、楽しそうな声。思い出すと、頭の後ろと背骨がじんわり熱くなって痺れた。精液で出来た芯の部分が震えているのかも。指の抜かれた尻が物寂しく感じられた。
 まだ咳が出た。出てるのに太いのが押し込まれて息をし損ねる。
「痛、ぁ」
「痛いものかね、三回目だぞ」
 痛いのは喉だ。喉と鼻の奥がツンとしている。息が落ち着かなくてまだ咳が止まらない。それで締まるのが気持ちいいのか構わずに動き出す。ぞくっとする。
 髪を撫でる手つきが穏やかだった。こっちはもう満足しただろうか。三回は出したから。もう一人は、イくまでが長い。クソジジイ。湿って少し冷たい敷布に顔を擦りつけながら撫でる手にも甘えて、自分の内臓を制御した。それで得られる感覚は勝手に口が開くほどよかった。だらと零れた涎がまた敷布を湿らせる。
「あっ……あは、あっ」
 締め上げながら声を上げると、腰の動きが早くなる。こっちからは動かないのは、それがイイって言われたからだと思う。目を閉じて肉の形を感じた。下腹を撫でて自分でチンポに刺激を与えるとすぐに手がどろどろになった。口元が自分の息で熱い。
 だめ、いく、やだ、やめて、って子供のように喚いてどれぐらい腰を振らせたのか。息を整えて頭も落ち着いて、いくらかまともな話ができるようになった頃には、夜の祈りの支度が始まっていた。廊下を歩く人が増えて、人を呼ぶ子供の仕者の高い声。もしかしたら今までも聞こえていたのかもしれない。俺の意識がそこになかっただけで。
 俺は感じやすい敏感な体なんだっていう。それが良いのか悪いのかは、今でもよく分からない。言う人たちは嬉しそうで褒めているようでもあるけど、馬鹿にしているような気もしたし、女みたいだと言われたら愉快じゃない。でも、全然感じない子もいるんだと聞いたらやっぱり気持ちいい方が断然いいだろうって思う。他の人がどうだっていうのは別にして、俺が気持ちいいのは確かだし。
「祭司補様、窓を、開けてください」
 猫を相手するように頭を撫で続けている人を見上げて甘えた声で言うと、仕方ないなと嬉しそうに彼は笑った。やっと窓が開く。弱い風が熱い体に吹いた。このまま眠ってしまいたかった。でも水を浴びたかった。さっぱりしたかった。でもとても疲れていた。
 そろそろ祈りの時間なのに、と思ったが、お前は休んでいなさいと囁かれた。まともに座ってられるかも分からなかったので、素直に従うことにした。
 二人が体を拭いて服を着なおすのを手伝って、俺は体を拭かないまま、また寝台に寝転んだ。用意してあった水と布じゃ、体を洗うには足りない。浴室に行かないと――考えるうちにぼんやりしてきた。麻薬の臭いが風に乗って流れてきている気がする。此処は今日も、香と一緒に麻薬を焚いているらしい。俺も煙を吸うかって、ヤる前にはよく祭司補様が聞くけど、はいって言ったことは一度もない。麻薬の煙は苦手だった。
 また子供の声が聞こえた。あれは誰の仕者だろう。俺も本当は、祭司補様についてかなきゃいけないのにな。
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