白銀の君を待っている

綿入しずる

文字の大きさ
上 下
6 / 6

後日談 白銀の杭*

しおりを挟む
「な、いつになったらドラゴンの姿で抱いてくれるのさ」
 銀髪の流れる肩に寄りかかって言うとティアナンは驚いたように瞬いた。そうすると銀の目には多く光が入って特に輝きが増すから、俺は結構、彼を驚かせるのが好きだった。
「なんだ、愛され足りぬのか?」
「そういうわけじゃなく」
 ティアナンはたっぷり、それはもうたっっっぷりと、俺を愛して抱いてくれる。今日だって何度か意識が飛ぶほどに奥まで満たされていた。まだ体の中に彼の熱が残っている気がする。今はそんな幸福感に浸りながら、寄り添って過ごしているところだ。まだ全然、日が開くどころか時間が経ってもいない。
 発情期はより激しく、それ以外の時期はより長く。俺たちは抱き合う。
 物足りないとか不満とか、倦怠期とかじゃない。ただ――
「もう十年経ったし、俺もそこまで疲れなくなったじゃないか。だから、まだなのかなって」
 前のように本当に気絶したりは……あんまりしなくなった。すぐ回復する。体が慣れた。少し齧られたって全然傷もつかないし。
 最近、周りからは雰囲気が変わったとも言われる。隣人たちの雰囲気っぽい、と。どこが、ではなくなんとなく、だが俺にもそういう感覚はあった。人間っぽい、隣人っぽい、そういう雰囲気ってそれぞれある。結婚から歳をとらなくなった体は、着実にティアナンの番の体になっているのだ。
 じゃあ結婚当初に言っていたように、ドラゴンの相手をできるようになったんじゃないか。
 ティアナンはまたぱちんと瞬きして、俺の顔を覗き込む。そうされると見惚れてしまう。
「――お前は竜の姿は然程好まぬのかと思っていたが」
「そんなことないよ!」
 思いがけない言葉に、今度は俺が驚く。
 そんなことは微塵もない。ティアナンに好まない部分なんてない。
「最初はこっちの姿に一目惚れしたし、ドラゴンの大きな体は見慣れなくて、圧倒されたけど……どっちの姿もとても綺麗で、格好良くて好きだ。どっちも大好きだよ」
「そうか――」
 熱く伝えれば、ティアナンがはにかんで少し距離をとった。目を閉じ身を解く。今日はこっちの広い部屋で寛いでいたから彼がドラゴンの姿になれるだけ広さがあった。白銀の風が吹き――鬣が靡き翼が広がる。
「どうだ」
 鎮座するドラゴンは雄々しく美しい。でもそうやってちょっと低くなる声で俺に語りかけるとなんだか愛らしさもある。得意気な目元や顔つきがなんとなくティアナンのままなのだ。全部ティアナンだが。
 立てば仰ぐほど大きい。頭だけで抱きつけるくらいある。俺を鷲掴みできる手足とか、立派な翼やすらりと伸びた尻尾もこの姿の特別だ。触らせてもらったり乗せて飛んでもらったこともあるけど、だから彼が気にしていたなんて気づけなかった。不覚だ。
 改めて近くに行って抱きつく。これは変わらないさらさらの髪を撫でて、下りてきた頬のあたりにキスをする。
「うん、本当にいいよ、素敵だ。……早く言えばよかったな。この姿ももっと見たい。というか、貴方の好きな姿で居てくれていいんだよ、家なんだし……」
 もう結婚十年だし、そういう遠慮は不要だ。なんて言う間にキスのお返しがあった。顔を舐められる。――顔だけじゃなかった。
「っん、ちょっと、擽ったい――」
 べろりと舐め上げる舌が、戯れではなく愛撫だと気づく。外に近いから下着だけは着なおしていたけど、それを気にせず、腹から胸まで、ずっとティアナンに触られ続けて敏感になっているところを大きな舌で一遍に舐め上げられるのは知らない快感だった。身震いしてしまう。
「えっ、今?」
 さっきあれだけしたのに。
「お前が求めたのであろうが。角が育ちそうだ」
 発情期はこの前済んだばかりで、頭を飾る角も小さい。しかしティアナンはその気だ。さっきも今も、俺の為に無理してるとかじゃなくて、興奮してくれている。
 ――うれしい。
 尻のほうまで舐めて、吐息が吹きかかる。ああ、興奮しているのが人型のときより分かりやすい。喉が鳴るのも聞こえる。
 寄り添い触れて舐め返したりもするうちに、舌じゃない位置で、熱く濡れたものが足に触れる。出てきた彼の性器だ。見慣れたと思いきやいつもより太く大きい。
 どっと心拍が上がる。これが入る、今からまた貫かれる。慣れるの、まだまだだったかも。だけど欲しい。さっきしたばかりなのに。
「……ティアナン、来て」
 怖くない――こともないけど、嫌なんかじゃないと俺から誘う。濡れた下着を解き、床に仰向けになって足を開いて、尻を差し出す。
 興奮しきったドラゴンの体がのしかかってくる。杭のような彼の性器が体を貫く――
「っ、はっ……あぁ――! ぅんっ……っ……」
 苦しい。入るほど押し出されるように息が漏れた。繋がったところが見えて、それだけでイって視界が爆ぜた。ふうっと風か、ティアナンの呼吸が額を撫でる。ティ、と呼んで、応える声と腰を受け止める。目の前の大きな体に縋りしがみついた。
 いつも以上に力強く揺さぶられる。散々叩かれた体の奥を、また責められる。俺の体の中までが全部彼のものになる。そう思ってそれで再び達する。出るものなんてろくに残っていなくてつらい。けど狂いそうなほど気持ちよくて、泣きながら何度も彼を呼んだ。

 そんな風により仲良くなって一層の幸せに包まれていたある日。
 朝目覚め、何気なく髪を掻き上げ――え、何。硬い。指がこつんと何かに触れたのに、寝ぼけた気持ちが一気に吹き飛ぶ。頭に何かある。
 何か石みたいな……なんだか覚えがある感触だけど……皮膚に触ってる感触あるような……瘤……?
 ひらりと部屋に飛び込み、俺を起こしにきたアールが驚いて宙を跳ねる。
「わあ奥方様、角が生えておりますよ! アリアンティアナン様とお揃いです!」
「えっこれ角⁉」
 慌てて逆にも手をやってみれば、確かに対称に右にもある。ティアナンのと同じような位置に。大きさは全然違うが小さい丸い物が。
「鏡、鏡持ってきて!」
 慌てる俺に手鏡が差し出される。覗けば、寝癖で跳ねまわった頭にちょんと見慣れない――ティアナンの体としていつも見ている夕空色があった。改めて探ってみてもしっかり根元までくっついて、頭のほうでも触れているのが分かる。俺から生えている。ティアナンの角が落ちた物ではないだろう。あれは燃え尽きたみたいに白く、銀色になるし……
「最近なんか痒いような違和感がするって思ったんだよなー……これか……」
 驚いた。体が変わると聞いてはいたがこんなことまであるとは聞いていなかった。隣人と関わるというのは本当に、色んなことがあるものだ。
 でも人も、親子だけじゃなく、夫婦も似てくるって言うもんなあ。おそろいってやっぱり嬉しい。
「ドラゴンと一緒になるとこんな風に変わるんだね」
「いいえ、とても稀なことにございますよ」
 なんて、にやけて呟くとアールのほうは真剣な調子で答えた。きょとんとする俺に、いつも色々教えてくれるように丁寧な説明が続く。
「いかにドラゴンの力が強いとはいえ、よほど相性がよい相手でなければ、そのような変化にまでは及びません。アリアンティアナン様と奥方様の、愛の証です」
「え、ええ……ほんとうに?」
「ええ! とても素晴らしいことでございます」
 嬉しくってさらに変な笑い方をしてしまう。照れて顔が熱い。
 それなら、彼くらい立派に育つといいなあ。――それは発情期なのかな。そこまではさすがに変わらないか? 発情……欲情したら伸びる……ってことはないよな。それはかなり恥ずかしい。
「御髪に隠れないように、櫛など作ってもらうのはいかがでしょう?」
 嬉しい角と、ティアナンのまっすぐの髪とは違って角を埋もれさせてしまう癖毛を気にして弄っていると、アールがいい提案をしてくれる。
「いいかも。他の人はやってたりするの?」
「はい。色々と飾る方がいらっしゃいますよ。角の色形に合わせて趣向を凝らすのです」
 鏡を置いて立ち上がり、話を聞きながら外へと歩き出す。まずは何より、ティアナンに見せたい。驚くかな、喜ぶかな。楽しみだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

【完結】見ず知らずのイケメンが突然「すみません、この子の親になって下さい」と言ってきたのだが、見た目が好みだったので引き受けることにした。

愛早さくら
BL
タイトル通り 主人公、シーファはある日街を歩いていたらいきなり背後から声をかけられる。曰く、 「すみません、この子の親になって下さい」 驚きながら振り返るとそこにいたのは見ず知らずの物凄く好みの見た目をしたかっこいい男性。 見惚れながらシーファは気付けば頷いていた。 「は、い……俺でよければ……」 から始まる、特に何も起こらない話、にできました! 何も起こりません。 タイトルが全て。 ダイジェストというか、短く!終わらせられたかなと!(ようやく…… ・いつもの。 ・他の異世界話と同じ世界観。 ・今度の主人公はミスティの弟。 ・比較的雰囲気は軽めになると思います。 ・男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。 ・言い訳というか解説というかは近況ボード「突発短編」のコメントをどうぞ。

わざとおねしょする少年の話

こじらせた処女
BL
 甘え方が分からない少年が、おねしょすることで愛情を確認しようとする話。  

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

処理中です...