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 フィルマンはバジルと、そんな感じで仲よく過ごした。
 家事をしてくれるのは勿論助かる。イイことができるのも嬉しい。可愛くて、大満足だ。本の感想など言い合えるのも楽しかった。
 仕事は相変わらず忙しいが、フィルマンは前ほど疲れっぱなしではない。機嫌よく、買い物をして帰ってくる余裕があった。
「土産だ。いいヤツだぞ」
「おお?」
 そう言ってバジルに押しつけるのは幾らか上物のワインとチーズだ。夕食を食べてから開けた。居間での晩酌は二つコップを用意すれば、本を読むのではなく会話になった。
「お前、なんでこんなことやってるんだ。趣味か?」
 腰を据えればそろそろそんな話にもなる。フィルマンは無頓着なたちだから素性だの過去だの聞き出したいと思ったわけではなかったが、それでも一つ屋根の下の同居者である。互いへの関心があるのに口にしないのもなんだか不自然だった。
「まあまあ趣味かも。他のことやるコネもなかったし、簡単だったからかな」
「そうか。長いのか」
「外でやるようになったのは十三のときから」
「……お前いくつだ?」
「十八」
 やっと実年齢を知る。フィルマンの予想したとおりだ。
「五、六年か。ま、ベテランだな」
 十年のベテラン家政婦の貼り紙も思い出しつつ呟くと、察したようにバジルは笑った。
「家事するのはフィフィがあそこで立ってたからだよ? ただのきっかけ。ほんとにずっとやらせてくれるのは意外だったよ」
「その割にまめにやるな、片付けとか」
「元に戻すだけだって。フィフィが散らかしすぎ」
 軽口は容赦がない。疲れていなくてもずぼらなフィルマンが脱いだ服や使った物を放置するのをここ最近は全部バジルが回収しているのだ。特別綺麗好きというわけではなく、それが役割だからだが。
「まー、お陰で仕事があっていいのかも。やるからさ、ずっとここに置いてよ。行く場所ないんだ」
 ずっと。その言葉はなんの重みもない、いつもの調子で発された。
 フィルマンのほうは多少真剣に考えた。ずっと、この家事手伝いだか男娼だかを家に置くのは――まったく嫌ではないのだが、それはかなり嫁さんではないか? と。
 バジルより八歳年上の彼は、結婚も考える年齢だった。かといって誰か相手がいるとか、積極的に探そうとしたとか、そういうわけではない。単に人生の選択肢として挙がってくる時期という程度だ。
 しかし、今一度改めて考えると、結婚はかなりアリだ。家に誰かが居てくれるのはよい。バジルの存在でそれを思い知った。
 ――ならもうバジルでよくないか?
「ずっとか……」
 フィルマンは小さく呟いてワインを飲んだ。前向きに検討しようと頷いた。
 飲みながら適当に本の感想など言い合っていると、そのうち会話が続かなくなってくる。バジルの返答が明らかに減った。普段であれば彼のほうがよく話すのでその空白は目立った。加えて、様子もおかしい。
「……バジル?」
「ん」
 本を読んでいるわけでもないのに俯き加減に視線が落ちている。酔っているのだ。飲んだのは二杯未満、大した量ではなかったが。
 そういえば今まで酒は飲まなかったなとフィルマンは今更思い出す。フィルマンも特に勧めなかったが、まず飲みたがる様子もなかった。弱いのに、今日は土産だからと無理して飲んだのだ。
「水飲め」
 注いで持ってきてやるも引き続き反応は鈍い。ぽんやりとして、一応受け取ったが、飲もうとすると手も口元も覚束ずぼたぼたと服まで濡らした。
「おい、」
 慌てて取り上げるが大分こぼしていた。濡れた唇、水滴の滴る顎や喉、水を吸った服が張りつく肌が色気を発した。
 ほろ酔いの意識にはかなり効いた。フィルマンは暫し見入った。
 緩慢に動くブルーの瞳がその顔を見上げる。
 ――する?
 とは、今日のバジルは訊かなかった。だがそんな声が聞こえた気がした。
 飲めないバジルの代わりに水を一口含み、フィルマンはキスをする。飲み込ませてそのまま口を貪り、濡れた肌にも吸いついた。水滴を拭い喉の隆起を辿って、次は服を捲り現れた乳首を舐る。桃色の突起はぷっくりと膨らんでさらなる刺激をねだった。
「ぁ、んぁ……」
 きつく吸い上げると淡い声が上がる。バジルの手はのろりとフィルマンの髪を掻きまわして、頭を胸に押しつける。
「あ……っ、フィ――」
 鈍く呆けていたのに、軽く当てられる歯の気配には敏感だった。アルコールが入っていつもより熱い体が、気持ちのよいことを求めていた。
 フィルマンは何度も吸ってやった。腹も撫で下ろし股座を探ると硬くなったものが触れる。握りこむ。そこには初めてまともに触れるが、自分にもついているだけにやり方は分かった。女を抱くよりむしろ簡単だ。
 大きな掌が勃ちあがったものを扱く。先走りがぬるぬると溢れてきて、それがまた興奮を助長した。甘噛みしながら責め立てる。
「あっ、い、あ、――っああ……」
 連なる声がさらに上擦っていき、細い体が反った。白濁が腹を濡らす。
 埋めていた顔を上げ見下ろしたバジルの姿は先よりさらに色っぽく、もう見つめる暇もなく、フィルマンは唇を重ねる。また長く舌を絡めて果てに息継ぎをする。
「……フィフィ、もっと」
 求めに、荒くズボンを引き下げた。脱がせきりもしないうちに足を割って濡らす。性急な愛撫もベテランと言われた体は喜んで受け入れた。
 フィルマンの陰茎は触られなくても張り切っていた。ずっぷりと、バジルが好むように奥まで嵌めて、突き上げる。
 実に嬉しそうにバジルは喚いた。酔っぱらいで、服も絡んでままならない手足で宙を掻く。フィルマンはその手を握った。
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