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六歩 並ぶ(前)
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ジンイ周辺での儀礼は概ね順調に進んだ。雨が降ったので見合わせた日もあったが、その程度は予定の範疇である。執筆のミズヒキが体調不良だと言うので出発を延ばしたのも一日くらいは誤差だった。
街らしい街なので文句も出ず、早めの夕食の席では元気な者は皆遊びに出る相談をしていた。酒や茶、食べ物は賓館に居れば満足がいくだけ用意されているが、人肌ばかりはそうはいかない。そろそろ行脚にも慣れ緊張も緩んで、溜まったものを発散させたくもなってくる。
マユミには、また自分が残るから俺も行ってくるといいと促された。その場では半端な返事をしたが――部屋に居ても持て余す感じがするのも確かだ。誰かと話をして誤魔化しているよりも、少しは大きい街にいる間にすっきりしておいたほうがいいかもしれない。今ならばまだ誰か案内できる者が残っているだろう。
外に出ようと決め、さすがに夜遊びの最中に将軍だとひけらかして歩く気にはならず、黒外套の代わりにと適当な上着を探して行李から引っ張り出したところで戸を叩く音がした。
開けると金の尾が立っていたから驚いた。
「こんばんは」
滞在中は食事の席で見かけるだけのススキは、行脚の装いではなく以前と同じ桑染めの上着を羽織っている。その裾の長さと多少の刺繍の分は飾り気があったが、朱色のほうを見慣れていると多少地味にも映る。簡素な装いだった。
「何か問題でもあったのか」
「あ、いえ。そういうのではなくて」
訊ねるとすぐに否定をし、その後に一つ息を置いて続ける。
「逗留していると話す機会がなくなってしまったので、……暇なら、どうかなと」
ただ遊びに来たのだと聞けばほっとした。確かにここ数日、長く話していることはなかった。人目を気にしてか儀礼で出る以外は大抵部屋に引っ込んでいるススキもそろそろ退屈になったのだろう。
「飲むか? それか茶を用意させるか――」
出かけるつもりではあったが用というわけでもなく、彼に請われてはそちらのほうが魅力的だった。悩まずに頷いて――イタドリは部屋に下がらせたので呼び寄せねばならない。それか自分で他の者に頼むほうが早いか。そう、視線を大部屋のほうへと向けたのを制すように、彼はまた口を開いた。
「今日は二人がいいです。駄目ですか?」
直入な申し入れには目を瞠った。
金の尾と二人で。横に控えた岩偶のことは勘定に入れてないだろうが。真正面に俺を捉えて見上げる視線は揺らぎがない。
「万一何か、不審なことを言うと思ったら部屋から出してくださって構いません」
一線を引くべきか、僅かに迷う間に言いきる。金の尾自身がそれを言う。周りがあれこれと疑い朝廷や人の目を気にすることを、他ならぬ彼らはよく分かっているのだろう。恐らくはいつも、ずっとそうなのだ。見張りをつけられるのと同じように、そう思われることも当たり前の暮らしをしている。
「お前を疑っているわけではない」
ただの体裁だと言うのもそれもまた心苦しかったが。顔を顰めた俺とは逆に、ススキは少し、唇を引くようにして笑みを浮かべた。今は覆いが無いお陰でよく見えた。
「ええ、存じております。アオギリ将軍。貴方も私も陛下の臣です。私は貴方の忠心を信じています。謀略なんてつまらないことはしません。……したいのはただの雑談です」
堂々と述べ、あの朝に請うたときのように足した。そこまで言われたのを拒んでは彼や俺自身の忠義を疑うことになる。
何より……こういう話になるのも見越して請うたのだと思うと無碍にはできなかった。今までの彼の振る舞い、やましいところなど一つも見当たらなかった、むしろ常にそれを気にしていたその誠実さに報いたい。
二人きりがなんだ。その場に居る者が皆潔白ならば、二人でも三人でも大勢でも変わりない。
「……酒でいいのか」
引き入れるように身を引き問うと表情が緩んだ。すぐに部屋の内へと入って岩偶を手招き、笑う。今度は綺麗な微笑ではなく歯も覗く明るい笑みだった。それだけでこちらも一気に肩の力が抜けてしまう。
「酒豪の将軍の酌には不足かもしれませんけど、潰れたら介抱してもらえますか?」
「そんなに飲ませるつもりはない」
「でしょうとも。明日歩けなくなったら困りますものね」
夕餉の前に確認したところミズヒキの体調もよくなったという話だったので、明日には発つ予定になっていた。飲みすぎ遊びすぎは控えて夜のうちに戻るように、とは街に出る者たちとも話していたことだ。
ススキの場合は食事でも一杯二杯嗜み程度にしか飲んでいないし、酔ったところも見ていない。俺が勧めなければ心配は要らないように思えた。
「お、二間もある。こっちの部屋のほうが広いですね。――まあ体の分を考えれば妥当か。むしろ窮屈だったりします?」
室内を見渡して呟き、すぐに気軽な話の調子にしてくれるのもあの日と同じだった。遠慮なく進むまでは迷いなかったが、椅子に腰掛ける、座布団の位置を整えて上着の裾を気遣う所作がやけに丁寧なのは尾を落ち着ける為のようだった。服装の分か、外にいるときよりもはっきりと体の横にその膨らみが窺える。
「これだけあって文句は言うまいよ。寝床は小さいが……まあ出先ではいつものことだ。俺がでかいんだからな、仕方ない」
「セキボクの賓館はもっと広いですよ。寝台もちょっとは大きいでしょう」
部屋に備えられた酒甕の中身は、引率の好みを聞きつけていたか澄んだ清酒だった。蓋を開けると芳醇な香りがする。適当に酒器へととって、話し合いもできるよう卓を挟んで置かれた長椅子にそれぞれで座って向かい合う。
貴人が泊まることもある部屋の調度はなかなか見栄えのよいものが置かれていたが、そうして金の尾が座っているとまるで違う雰囲気で華やいで見えた。花の下で美しい者は部屋に座っていても美しい。隠されていない細い首が薄闇の中やけに白く印象的で、つい目が留まるのを瞬きで一度逸らした。
岩偶は壁際に立ってこちらを眺めていたが、やはり金の尾にとっては慣れた、当たり前のことなのだろう。気にすることも構うこともない彼に任せて、細身の盃に注いだ酒を差し出す。
「今日もご苦労様でした」
「ああ、お疲れ様。……今日は何をしていた? 俺は、暇があると鍛錬に充ててしまうが」
労い、盃を寄せて目礼し口に運ぶ。揃ってまず一口。飲みやすくて美味い酒だ。
「絵を描いたりしてました。頂いてきた梅の枝もまだ花がついていたのでそれを手本に。木のほうは雨で散ったかもしれませんが……丁度満開だったのを見れて運がよかったですね。晴れてたし、綺麗でした」
たしかにあれは綺麗だった。頷いて――目の前の相手と記憶の景色を重ねてしまうのを隠して、梅とは似つかぬ酒の香りを嗅いだ。
「花見以外でも、何処か行きたい場所があれば言ってくれ。少しくらいの寄り道は許可されている」
以前から伝えておこうと思っていたことだ。わざわざ説明しなくとも行脚の仕来りなどは彼のほうが詳しいだろうが、指揮官があらかじめ通達するのとしないのとでは気持ちに差が出る。あまり我儘を言われると参るが、折角の外出の機会で一つ二つの希望は叶えたい。何か思いついたときには躊躇わずに言いやすいようにしておきたかった。
ススキは少し考えるように視線を宙へと向けた。
「んー、イン州だと、そうですねえ……宮でも色々聞いた気がしたんですけど、色々聞きすぎてどれがそうだったか。湖、はボウのほうだし……またミツマタさんに聞いてみましょうか」
俺たちが遠征前にそうであるように、旅支度の中で行き先の話をしたのだろう。皆話好きだと聞いた尾の宮ではなお賑やかそうだ。他の州の地理と混ざってしまうのも、それぞれが別の場所に赴くのだから納得だった。
「楽しいことはしたいですね。何か考えてください、なんて言ったら怒ります?」
「難しいことを言う」
そんな漠然とした希望は本気だと困るが、もう楽しそうな声音で冗談の口振りだったので笑って応じた。くだらない軽口が混ざるのは気を許してくれた感じがして怒るよりむしろ嬉しい。
本当に何かと言うなら、いっそ行った先で現地の役人たちに聞いたほうがよい案を貰えるだろう。向こうもある程度そのつもりで準備をしているはずだ。
「将軍は寄りたい場所はないんですか」
「ん……俺もそれほど詳しく名所など調べたわけではないからな、距離や地形のほうの確認ばかりをして――生真面目に務めて巡るつもりでいたんだ。正直、もう少し畏まった旅になると思っていた」
出発の前は、まさか金の尾とこうして差しで酒を酌み交わす機会があるとは思ってもみなかった。その含みを持って盃を揺らし戯れに言い返すと、彼は緩く首を傾げて見せた。
「静かな金の尾でなくてお困りですか?」
「お陰で楽しい」
またおどけて返ってくるのには素直に言って笑い合い、話を戻す。
「セキボクの――ミハカシ山は戦神の神域だろう。やはり一度詣でておきたいとは皆で話していたんだが」
国土北東、イン州の周辺は概ね平坦な土地だが、遠くからでも臨める高さの有名な山が一つあった。
もっとも古い伝説、神話の時代、コンヨの礎を築いた英雄ミハカシが眠るという離れ山。参詣した者に武勇を授けると伝えられる神域は、軍人としては是非一度と思う場所だ。俺自身もそうだが、特にまだ若い小姓が行きたがっているのも見ていたからできれば連れて行ってやりたいと考えてはいた。
「皆さん軍人ですもんね。是非行きましょう。折角出てきたんですもの」
「問題なく進めばな」
「進みますよ。大丈夫。ちょっとくらい長引いたってそれも天の采配です。畑仕事には間に合うでしょう」
ススキは至って軽く、おおらかに言いきった。巫覡や金の尾にそういう言い方をされてしまうとまあそうかと思ってしまうからいけない。
街らしい街なので文句も出ず、早めの夕食の席では元気な者は皆遊びに出る相談をしていた。酒や茶、食べ物は賓館に居れば満足がいくだけ用意されているが、人肌ばかりはそうはいかない。そろそろ行脚にも慣れ緊張も緩んで、溜まったものを発散させたくもなってくる。
マユミには、また自分が残るから俺も行ってくるといいと促された。その場では半端な返事をしたが――部屋に居ても持て余す感じがするのも確かだ。誰かと話をして誤魔化しているよりも、少しは大きい街にいる間にすっきりしておいたほうがいいかもしれない。今ならばまだ誰か案内できる者が残っているだろう。
外に出ようと決め、さすがに夜遊びの最中に将軍だとひけらかして歩く気にはならず、黒外套の代わりにと適当な上着を探して行李から引っ張り出したところで戸を叩く音がした。
開けると金の尾が立っていたから驚いた。
「こんばんは」
滞在中は食事の席で見かけるだけのススキは、行脚の装いではなく以前と同じ桑染めの上着を羽織っている。その裾の長さと多少の刺繍の分は飾り気があったが、朱色のほうを見慣れていると多少地味にも映る。簡素な装いだった。
「何か問題でもあったのか」
「あ、いえ。そういうのではなくて」
訊ねるとすぐに否定をし、その後に一つ息を置いて続ける。
「逗留していると話す機会がなくなってしまったので、……暇なら、どうかなと」
ただ遊びに来たのだと聞けばほっとした。確かにここ数日、長く話していることはなかった。人目を気にしてか儀礼で出る以外は大抵部屋に引っ込んでいるススキもそろそろ退屈になったのだろう。
「飲むか? それか茶を用意させるか――」
出かけるつもりではあったが用というわけでもなく、彼に請われてはそちらのほうが魅力的だった。悩まずに頷いて――イタドリは部屋に下がらせたので呼び寄せねばならない。それか自分で他の者に頼むほうが早いか。そう、視線を大部屋のほうへと向けたのを制すように、彼はまた口を開いた。
「今日は二人がいいです。駄目ですか?」
直入な申し入れには目を瞠った。
金の尾と二人で。横に控えた岩偶のことは勘定に入れてないだろうが。真正面に俺を捉えて見上げる視線は揺らぎがない。
「万一何か、不審なことを言うと思ったら部屋から出してくださって構いません」
一線を引くべきか、僅かに迷う間に言いきる。金の尾自身がそれを言う。周りがあれこれと疑い朝廷や人の目を気にすることを、他ならぬ彼らはよく分かっているのだろう。恐らくはいつも、ずっとそうなのだ。見張りをつけられるのと同じように、そう思われることも当たり前の暮らしをしている。
「お前を疑っているわけではない」
ただの体裁だと言うのもそれもまた心苦しかったが。顔を顰めた俺とは逆に、ススキは少し、唇を引くようにして笑みを浮かべた。今は覆いが無いお陰でよく見えた。
「ええ、存じております。アオギリ将軍。貴方も私も陛下の臣です。私は貴方の忠心を信じています。謀略なんてつまらないことはしません。……したいのはただの雑談です」
堂々と述べ、あの朝に請うたときのように足した。そこまで言われたのを拒んでは彼や俺自身の忠義を疑うことになる。
何より……こういう話になるのも見越して請うたのだと思うと無碍にはできなかった。今までの彼の振る舞い、やましいところなど一つも見当たらなかった、むしろ常にそれを気にしていたその誠実さに報いたい。
二人きりがなんだ。その場に居る者が皆潔白ならば、二人でも三人でも大勢でも変わりない。
「……酒でいいのか」
引き入れるように身を引き問うと表情が緩んだ。すぐに部屋の内へと入って岩偶を手招き、笑う。今度は綺麗な微笑ではなく歯も覗く明るい笑みだった。それだけでこちらも一気に肩の力が抜けてしまう。
「酒豪の将軍の酌には不足かもしれませんけど、潰れたら介抱してもらえますか?」
「そんなに飲ませるつもりはない」
「でしょうとも。明日歩けなくなったら困りますものね」
夕餉の前に確認したところミズヒキの体調もよくなったという話だったので、明日には発つ予定になっていた。飲みすぎ遊びすぎは控えて夜のうちに戻るように、とは街に出る者たちとも話していたことだ。
ススキの場合は食事でも一杯二杯嗜み程度にしか飲んでいないし、酔ったところも見ていない。俺が勧めなければ心配は要らないように思えた。
「お、二間もある。こっちの部屋のほうが広いですね。――まあ体の分を考えれば妥当か。むしろ窮屈だったりします?」
室内を見渡して呟き、すぐに気軽な話の調子にしてくれるのもあの日と同じだった。遠慮なく進むまでは迷いなかったが、椅子に腰掛ける、座布団の位置を整えて上着の裾を気遣う所作がやけに丁寧なのは尾を落ち着ける為のようだった。服装の分か、外にいるときよりもはっきりと体の横にその膨らみが窺える。
「これだけあって文句は言うまいよ。寝床は小さいが……まあ出先ではいつものことだ。俺がでかいんだからな、仕方ない」
「セキボクの賓館はもっと広いですよ。寝台もちょっとは大きいでしょう」
部屋に備えられた酒甕の中身は、引率の好みを聞きつけていたか澄んだ清酒だった。蓋を開けると芳醇な香りがする。適当に酒器へととって、話し合いもできるよう卓を挟んで置かれた長椅子にそれぞれで座って向かい合う。
貴人が泊まることもある部屋の調度はなかなか見栄えのよいものが置かれていたが、そうして金の尾が座っているとまるで違う雰囲気で華やいで見えた。花の下で美しい者は部屋に座っていても美しい。隠されていない細い首が薄闇の中やけに白く印象的で、つい目が留まるのを瞬きで一度逸らした。
岩偶は壁際に立ってこちらを眺めていたが、やはり金の尾にとっては慣れた、当たり前のことなのだろう。気にすることも構うこともない彼に任せて、細身の盃に注いだ酒を差し出す。
「今日もご苦労様でした」
「ああ、お疲れ様。……今日は何をしていた? 俺は、暇があると鍛錬に充ててしまうが」
労い、盃を寄せて目礼し口に運ぶ。揃ってまず一口。飲みやすくて美味い酒だ。
「絵を描いたりしてました。頂いてきた梅の枝もまだ花がついていたのでそれを手本に。木のほうは雨で散ったかもしれませんが……丁度満開だったのを見れて運がよかったですね。晴れてたし、綺麗でした」
たしかにあれは綺麗だった。頷いて――目の前の相手と記憶の景色を重ねてしまうのを隠して、梅とは似つかぬ酒の香りを嗅いだ。
「花見以外でも、何処か行きたい場所があれば言ってくれ。少しくらいの寄り道は許可されている」
以前から伝えておこうと思っていたことだ。わざわざ説明しなくとも行脚の仕来りなどは彼のほうが詳しいだろうが、指揮官があらかじめ通達するのとしないのとでは気持ちに差が出る。あまり我儘を言われると参るが、折角の外出の機会で一つ二つの希望は叶えたい。何か思いついたときには躊躇わずに言いやすいようにしておきたかった。
ススキは少し考えるように視線を宙へと向けた。
「んー、イン州だと、そうですねえ……宮でも色々聞いた気がしたんですけど、色々聞きすぎてどれがそうだったか。湖、はボウのほうだし……またミツマタさんに聞いてみましょうか」
俺たちが遠征前にそうであるように、旅支度の中で行き先の話をしたのだろう。皆話好きだと聞いた尾の宮ではなお賑やかそうだ。他の州の地理と混ざってしまうのも、それぞれが別の場所に赴くのだから納得だった。
「楽しいことはしたいですね。何か考えてください、なんて言ったら怒ります?」
「難しいことを言う」
そんな漠然とした希望は本気だと困るが、もう楽しそうな声音で冗談の口振りだったので笑って応じた。くだらない軽口が混ざるのは気を許してくれた感じがして怒るよりむしろ嬉しい。
本当に何かと言うなら、いっそ行った先で現地の役人たちに聞いたほうがよい案を貰えるだろう。向こうもある程度そのつもりで準備をしているはずだ。
「将軍は寄りたい場所はないんですか」
「ん……俺もそれほど詳しく名所など調べたわけではないからな、距離や地形のほうの確認ばかりをして――生真面目に務めて巡るつもりでいたんだ。正直、もう少し畏まった旅になると思っていた」
出発の前は、まさか金の尾とこうして差しで酒を酌み交わす機会があるとは思ってもみなかった。その含みを持って盃を揺らし戯れに言い返すと、彼は緩く首を傾げて見せた。
「静かな金の尾でなくてお困りですか?」
「お陰で楽しい」
またおどけて返ってくるのには素直に言って笑い合い、話を戻す。
「セキボクの――ミハカシ山は戦神の神域だろう。やはり一度詣でておきたいとは皆で話していたんだが」
国土北東、イン州の周辺は概ね平坦な土地だが、遠くからでも臨める高さの有名な山が一つあった。
もっとも古い伝説、神話の時代、コンヨの礎を築いた英雄ミハカシが眠るという離れ山。参詣した者に武勇を授けると伝えられる神域は、軍人としては是非一度と思う場所だ。俺自身もそうだが、特にまだ若い小姓が行きたがっているのも見ていたからできれば連れて行ってやりたいと考えてはいた。
「皆さん軍人ですもんね。是非行きましょう。折角出てきたんですもの」
「問題なく進めばな」
「進みますよ。大丈夫。ちょっとくらい長引いたってそれも天の采配です。畑仕事には間に合うでしょう」
ススキは至って軽く、おおらかに言いきった。巫覡や金の尾にそういう言い方をされてしまうとまあそうかと思ってしまうからいけない。
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