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一章 邂逅編

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 気がつくとマンションに帰っていて、一賀課長にリビングのソファーに押し倒されていた。

 思わず目を瞬いて、一賀課長を見つめる。
 な、何事なにごと!?
 記憶が曖昧だけど、薬指を触られてから、ものすごいボーっとしていた気がする。

「残念、正気に戻ったか」

 クスクス笑いながら、押し倒された状態の私の背面に手を入れてワンピースのファスナーを器用にも下げる。

「しょ、正気って? 一体何が……」
対香ついこうが身体に馴染んできたんだよ。そうすると俺の性欲に呼応するんだ。だからね」
「ついこう? つがい?」

 あと性欲と言いましたかこの人?
 どうしよう言ってる事の半分も分からない。

対香ついこうはつがいにつける香り。……にしてあげただろう? 対香がついていれば見えないはずだ。つがいはそのままの意味。わかった?」

 ぜんぜん意味がわからない。そして勝手に服をスルスル脱がす一賀課長。ガードしているのに、ものともしない早業でまったくガードしきれない。

「本当に、ここまで来るのは色々大変だったよ」

 唐突に呟くように言われた言葉に、ビクっとする。
 な、何が!? 何が色々大変!?
 すごい気になるけど、聞いたら後悔しかない予感しかしない。

 下着だけの姿でジリジリとソファーの上で後退すると、足首を掴まれた。

「ね……気になるよね? 俺の首」

 目を合わせて言われ思わず肩が揺れた。
 まさか……気付かれてた。

「シャツを着ていて首が直接見えなくても、君が見ているのはわかってる」
「な……なんの事でしょう……?」

 ものすっごいバレてる。どうして気付いた。
 ひょっとして今着ている服って、まさか私に首を見せるために、わかって着ていた? な、なんてあざとい……!

「だって、つがいなら相手の首が気になるのは当然だから」
「当然?」
「俺は君のつがいだから」

 ……だからそのつがいというのが、よく分からないわけなんですけど……。

「だから、ね、佐保の首を噛ませて?」

じっと私を見て一賀課長が言う。
首を噛ませてなんておねだり、面と向かって言われるのは人生で初です。

「痛いの、は、イヤ……」
「痛くしない」

ちゅ、と私の首すじに口づけをする。
ぞく、と快感が背中を這い上がる。

「や……噛んだら、だめ……」
「なぜ?」

 なぜ?
 そう言われると……なんで噛んだらだめなんだろう?
 痛いから?
 でも痛くしないって言ってるし……いや、噛んだら痛いよ。それとも甘噛み程度なの?

「こ、怖いから」
「じゃあ試してみて。嫌だったやめるから」

 試す? どうやって?
 聞く間も無く、身体をひっくり返されて、髪の毛をまとめて横に流すと、うなじのあたりを舐められた。

「ひ、ぅ……っ!」

 稲妻のような刺激が尾骨から駆け上がってくる。快感とは少し違う、毛が逆立つような力が抜ける感覚。

「な、んで」

 昨日はうなじにキスされても、こんなんじゃなかった。

「だから対香ついこうが馴染んできたと言ったろう? ……これなら大丈夫そうだ」

 耳元で低く笑う声にも、身体が反応しはじめる。身体を支える腕がガクガクと震えた。
 結局両腕でソファーの背もたれにしがみつく形になり、腰は一賀課長の方に突き出すという恥ずかしい格好になってしまう。

「や……」
「ダメ、イヤって言われると、ぞくぞくする」

 たまらない、という風にのたまう変態を思わず睨みつける。

「そうやって睨まれると、誘ってるようにしか見えないよ」

 私のやることなすことが全部裏目に出てる。もはやどうしたらいいのかわからない。知ってたけど変態手強い。

 一賀課長はうなじにキスを落としながら、私のブラをずり下げると、背後から乳房を絞るような仕草で揉みだす。昨日の今日で、胸の先も妙に敏感になっていて、痛いのにむず痒いような感覚に鳥肌がたつ。

「ふ………っ、ん、ぁ、……強くしない、でッ………、ぁッ」

 我慢できなくて漏らした声が、いつもの自分の声とはまるで違う。こんな声は知らない。
 気がつくと片手は胸を弄ったままで、ショーツを脱がしたもう一方の片手が秘部に伸ばされる。ぬかるんだそこに浅く指を入れかきまわされて甲高い悲鳴のような声が出た。耳を塞ぎたい。

「や………ッ、ぁ………ッ、あっ、ンン………ッ!」
「いい眺め。……失敗したな、ここに姿見を置いておけば良かった」

 とんでもない事を言って私を震え上がらせると、ソファーに乗っている私の両脚の間に、一賀課長の膝がぐいっと入り両脚の間を広げる。
 今度はお腹の方から手をまわし花芽をつまみ、背後から回した手で、秘裂に指を差し込むとゆっくり出し入れする。

「ひぁ………っ! ん、んん………ふっ、あッ………ぁふ、………やぁ、ッ! や………ぁっ」
「どうして欲しい? ……舐めようか? 奥まで」

 卑猥な事を耳元で囁かれながら、喘ぎと生理的に溢れてる涙が止まらない。

「………も、う………っ、いい……」

 結局私は、弄られて何分も経たずに降参した。

「何がいいの?」
「噛んで、いいから……っ!」

 クス、と笑う気配がした。
 私から離れて洋服を脱ぐ気配がし、わずかな安寧あんねいにぐったりとソファーに身を預けていると、しかしすぐに腰を引き寄せられる。四つん這いの姿勢にさせられた。
 まるで獣みたいなその姿勢に、羞恥で身体が強張る。
 いつもと違い性急に押し付けられた熱い剛直に、身体が震える。

「……んッ、ぁ……?」

 けれどすぐに入ってこないで、入り口に押し当てられたまま。

「ね……今日は直接感じたい」
「え……?」
「ゴム無しでもいい? 君、今日は排卵日じゃないから」
「は、はい、ら……?」

 なんだっけ、はいらん……排卵? ーーー排卵日!? というか生理周期把握してるの!?

「もちろん何かあったら必ず責任取る。でももう婚約してるし、もし妊娠したら結婚のタイミングを早めるくらいだけど」

 排卵からの妊娠結婚の話に飛び抜けて行くのを理解するのが大変だった。この人が何を言ってるのか、ようやく理解して焦る。

「だ……だめっ、絶対だめっ、ゴムはつけて。その……そういうのは結婚してから、だから」
「なら結婚するまで待てばいい?」
「うん、結婚まで待って……ん?」
「良かった、結婚してくれるんだね。待つよ」

 何か別の回答を与えてしまったらしい。
 でも、結婚っていうのは一般的な話ですよ……!?

「まったく、佐保はすぐに逃げようとするから困るな……」

 苦笑まじりの呟きが聞こえたと思ったら、そのまま、ぐぐっと入れられそうになって思わず腰を掴む手を押さえる。

「ま、待って……!」
「大丈夫だよ、ちゃんとから」

 背後から楽しそうに言う。
 ゴムをつけてるのに、こちらから見え無い事をいい事に生でしたいと言うとか、どんだけ人を試しているのか。抗議しようと振り返ろうとしたら、腰を手で完全に固定される。

「や………あッ、……ーーーっ!!」

 ぐっと入ってきた熱いものに、身体がわずかに仰け反る。

「……ッ、……ふッ、ぅ……んッ…」

 うなじにキスを落とされ、無意識に呼吸が浅くなる。
 最初から打ちつけるように腰を動かされて、両腕で身体を支えきれない。

「ッ、あ、ぁ……ッ! やッ、んあ、ッ……! あ、……ッ、ぁ、は……っ」

さすがに三日連続となると、圧迫感もすぐになくなり、中が慣れてすぐに快楽を追う。

「慣れたね」
「……ッ!」

 指摘されて、唇を噛む。
 もっとも、なすがままに腰を揺すられて、喋るどころじゃない。
 しかも鼻から抜ける声が出て、まるで発情期の動物のようで恥ずかしい。

「……ッ……ん、やッ、………ッ、……っ! ぁ、……やぁッ……!」
「声が昨日と違うね。……後ろ、イイ?」

 劣情に濡れた声に、指先まで痺れる。
 返事は出来ずに首を振るけど、信じてはもらえなかった。

「俺もイイ」

 すごく、と耳元で囁かれて羞恥で腰から力が抜けそうになった。けれどその腰は掴まれていて、完全にこの人のなすがままだ。

「あ……っ」

 ぺろ、とうなじを舐められた。
 まるでそこを噛むとでも予告でもするように。
 甘噛みして、舐められて、また甘噛みする。
 繰り返す仕草に、腰が揺れる。

「……ッ……は、んッ、やぁっ、…もう、……んッ、………ァッ」
「うん、何? 言って?」
「………やっ、ぁぁ………ッ!」

 うなじへの甘噛みで起こる背筋の痺れと、お腹の奥から来る深い快感に呼吸が出来ない。

「……は、っやく」

 頭が真っ白になる。

「佐保、なにを早く?」

 わざとゆっくりの動きになる。腰の動きが余計にいやらしく感じてゾクゾクした。

「お……ねがいッ、……んッ、……だか、ら、ぁ……っ、……ッ! ………七、緒……ッ」
「……しょうがない、な……今回だけだよ」

 荒い呼吸が耳元で囁く。
 よく分からなくなっている私は何度も頷いた。
 終わりが欲しいのか、噛まれたいのか、その両方なのか、自分でももうわからない。
 熱さを持て余した身体を今までより一層強く揺さぶられて、肌が打ちつけられる音がする。今までここまで激しく動かされた事はなくて、一賀課長の余裕の無さを感じた。深い愉悦に、掴まっているソファーに爪を立てた。

「あ……ッ、ぁはッ、ぁッ、……んッ、……ッ!」

 うなじに歯が立てられた。
 そこだけが感覚が鋭くなったように、皮膚が熱くなる。

 浅く噛まれて仰け反る。痛みよりも明らかに快楽に近い強い刺激に目の前がチカチカしだした。

「………んッ、ぁあッ、ーーーーーー!!」

 そのまま、ぐっと強く噛まれて、呼吸が止まるくらいの強烈な甘い痺れに目を見開く。
 全身が痙攣したように震えた。中のものを自分でもわかるくらいに締めつけた。

「……んッ、ぁ……ッ、あ、……は……、……っ!」

 締めつけられて中のものは一瞬だけ動きは止まったものの、すぐに動きを再開する。

「ーーーまだだよ、佐保」
「……え……?」
「今日は、もう少し付き合って」

 満足そうに笑った悪魔がそう言って、うなじの噛み傷を舐めた。











「……二回もするとか、も、無理……」 
「一般的な回数だよ」

 ソファーでぐったりしながら呟くと、腰に回した手をサワサワさせながら、一賀課長が言う。

 ……そうかもしれないけど、一回一回が濃厚で頭がおかしくなりそうだった。
 普通? ねえこれ普通?

 ソファー、後で掃除をしなくては。体液とか絶対色々付いてる。そんな事を考えていると、うなじの噛み傷にキスをされた。

「う……ふ、ンッ」

 身体が即座に反応する。ピリ、と電流が流れたみたいに。
 本当になにこれ。
 
「……つがい、って首を噛むんですか? そういうもの?」
「そうだよ」

 なら私が一賀課長の首に見惚れるのはその習性なのだろうか? 
 たしか、そんな事言ってたし。

「わかりました。課長、ちょっと後ろ向いて下さい」
「いいけど……何?」

 不可解、とでもいった珍しい顔をした一賀課長を後ろ向きにする。
 筋肉は付いてるけど付きすぎでもない、絶妙な鍛えた背面に見惚れながら肩に手を置いた。


「……ッ」


 一賀課長から、かすかに漏れた声にゾクゾクした。
 課長の綺麗な首に私の噛み跡が残る。

「……噛んだね」
「血は出て無いですよ。歯型がちょっとついたくらい」
「……」

 …………?
 何この沈黙。

「……普通、女性からは噛まない」
「え?」

  という事は、私がやったことは、たまにメスがオスにやるマウンティングみたいな状態でしょうか?

「ご、ごめんなさい」

 それに良く考えたら、私が噛んだ部分はスーツを着たら普通に見える部分だ。
 私は髪の毛を下ろせば見えないけど。

「いいよ。……いいになる」


 自分の首を撫でながら言う一賀課長は、なぜだか少し嬉しそうだった。

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