桐の本棚

遅刻【1人用】

カーテンからこぼれる陽射しで目を覚ます。

まだ目はまともに開けられず、寝返りを打って太陽に背を向ける。

もう一度眠りにつこうとした時、ふと一つの疑問が頭をよぎった。

今は何時だ？と。

頭の上にある時計を手に取り、時間を確認し…血の気が引いた…

なぜなら、既に家を出ていなければならない時間だったからである。

今月は既に二回遅刻している。
これ以上はまずい。本当にまずい。

大急ぎで身支度を済まし家を出る。

全速力で走り、近道を使い、なんとか遅刻ギリギリで学校に辿り着いた。

しかし、ここで窮地が訪れる。

正門に体育の熊田先生が立っていたのだ！

正直今一番会いたくない相手だった…

何故なら、熊田先生は生活指導の担当で、昨日遅刻した時こってり絞られたばかりなのだ。

まだ遅刻では無いとは言え、何を言われるか分かったもんじゃない。

どうしたものか…

熊田先生と顔を合わせたくは無いが、早くしないと本当に遅刻になってしまう。

頭を抱えていると、一人の生徒が正門へやって来た。あれは確か一年の野村だ。

いつも校則違反ギリギリの格好で先生達から注意されている。

今回も当然、熊田先生に呼び止められたようだ。

これはチャンスだ！

野村が熊田先生の注意を引いている間に駆け抜ければ最小限の挨拶で済むかもしれない。

最早迷っている時間は無い。意を決して駆け出す。

「おはようございます！」

すれ違いざまに、一瞬だけ熊田先生の顔を見て挨拶をする。

不意をつかれた熊田先生の「え？あ、おはよう…」
と言う返事が後ろから聞こえたが、振り返る事なく走り抜けた。

最大の危機を乗り越えようやく教室の前までたどり着いた。

扉の向こうからはいつものガヤガヤとした騒がしい声が聞こえる。

軽く息を整えてから教室に入ると同時に朝のチャイムが鳴る。

全員が席につき、私は教壇に立つ。

「おはよう。それではホームルームを始めます！」


　終わり