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65話 武闘会当日

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 武闘会当日。
 ふと目が覚めたので窓の方を見ると、日が登る前でまだ薄暗かった。
 再度寝ようとしても寝られなかったので、仕方なく暇潰しがてらに時間をかけてストレッチで身体を解していく。

「遂に当日か……」

 約1週間前、武闘会で腕試しをしてみては?と言われてここまでやってきた。
 そのお陰で全員強くなれたし、色んな出会いもあった。
 スタッチに襲われていたカリオン夫妻とサリーナさん、錬金術師であるミツキとその奴隷達5名。
 色々あったが、かなり濃厚な数日だったと思う。
 暫くストレッチをして、裏庭に出ようと思っていた所で。

「んっ……おはよう、ご主人様」
「あぁ、おはようカエデ」

 カエデが起きたようなので返事をしながらそちらを向くと、猫のようにぐぐっと背中を伸ばしていた。
 昨日の宣戦布告した時のような雰囲気はなく、いつも通りのカエデだった。
 ついでに言うと、伸びてる最中って耳と尻尾も何故かピンの伸びてるんだよな、少し力が入ってるのかプルプルしてるのもいつも通りで可愛い。

「ご主人様?そんなにじっと見られると恥ずかしいよ……」
「おっと悪い、可愛いなって思って眺めてしまった」
「もう!意地悪するご主人様にはこうしてやる!とうっ!」

 カエデがぴょんと跳ねたと思ったら俺の正面に着地してこちょこちょしてきた。

「ちょ、うひひひひ!や、やめっひひ!」

 俺はこしょこしょには弱かったようだ、何せこしょこしょなんて誰からもされる事がなかったからな……

「んんっ……?」

 こしょこしょから逃れようとじたばたした事により、メイランが起きてしまったようだ。
 メイランは寝ぼけながらもこちらを見た。

「……」
「「あっ」」

 メイランと目が合って俺達の動きが止まる、時間が止まったかのように静寂な時間が過ぎていく。
 こちらはカエデからこちょこちょされて俺が悶えてしまっている状況で、他人の目からしたらイチャイチャしているようにしか見えないだろう。

「あー……ごゆっくり?」

 メイランは再度布団を被って2度寝しようとする。

「ちょ!まて誤解だ!」
「わ、私は別に誤解されたままでも……」
「えっ?なんか言ったか?」
「なんでもない!!」

 武闘会当日だというのに緊張感ないなぁと思われるだろうが、逆に緊張するよりいつも通りでいる方が緊張しにくいのでこれでいい。
 そして狸寝入りしようとするメイランを起こして、こんなバタバタしている中熟睡していたソルトもそろそろ起きる予定の時間だったので起こして、朝食を食べてからバタバタと準備を整えた。



「おはようございます、コウガさん」

 宿の外に出ると、ミツキ達が宿から出てすぐの細路地近くに居た。

「おはようミツキ、みんなも」
「おはようコウガ殿、みんなで応援に来たぞ」

 ティナの後ろにはレイン、ツバキ、ヴィーネが居た。

「あれ、クロエは……?」

 クロエの姿がないと思い見渡すと、いつの間にかシェミィの背中に乗っていた。

「んふ、やっと気付いたね」
「「えっ!?」」

 メイランとソルトも気付いていなかったらしく、かなり驚いていた。
 カエデはたいして驚いていないようだ、2日間一緒に居たので慣れてしまったのかな?と、この時は思っていた。

「クロエの隠密が凄すぎるんだって」
「いやいや甘い、生クリームより甘い」
「言ってくれるなぁ……」
「あはは……すみませんコウガさん」
「いやいや、これがクロエとの基本的な会話だから気にしてないぞ、な?クロエ」
「ん!」

 自由奔放なクロエに苦笑いを浮かべるミツキだが、こういうクロエみたいな自由なのも良いなって思う。
 カエデも、メイランも、ソルトも、俺の元からはほとんど離れたがらないし、自由行動を基本的にしない。
 もう少し自由にしてくれても良いんだが……やはり奴隷っていう意識がまだ抜けてないのかもしれない。
 解放しても良いんだが、ソルトとメイランは奴隷から外さなくていい派らしく、カエデも多分だが外したがらないだろう。
 それならそれで、自分は自由なんだって思って欲しいのだが……

「どうしたの?ご主人様」

 少し考え事をしてしまっていたので、動かなくなった俺を心配してカエデが顔を覗き込んでいた。

「いや、なんでもない。まだ時間は早いが行こうか、遅刻したくないからな」
「うん!」

 俺達とミツキ達の集団移動しているので目立つ。
 しかも女性は全て奴隷なのでまた何か言われそう……と思っていたが、通りかかった食材屋や武器屋、土産物屋に道具屋の店主達の反応は全然違うものだった。

「お、ヴィーネじゃねぇか!こんな大所帯で、あれか?武闘会見に行くのか?」

 ヴィーネに話しかけてきたのは食材屋の店主だ。

「はい、こちらのコウガ様達御一行が出場なさるので応援に」
「そうかい!ならこれ持ってしっかり応援してやれ」
「あらあら、ありがとうございます」

 食材屋の店主から貰ったのはリンゴのような果実、ゴリンだった。
 どうやらヴィーネやミツキはこのノイシュで商売してる人達と仲がいいらしく、通り掛かるだけで声がかけられる。

「あら?ヴィーネちゃんじゃない!今日はどちらに買い物へ?」

 道具屋の前を過ぎようとした時も、女店主のおばさまに声を掛けられた。

「今日は買い物ではなく、こちらのコウガ様御一行が武闘会に出場なさるので応援に」
「あらそうだったの!貴方達、頑張ってね!」
「ありがとうございます!」

 女店主から激励まで貰った、この街自体は奴隷だとか気にせずに接してくれる人ばかりみたいだ。
 奴隷だからとあーだこーだ言う人間は大概冒険者だなって確かに思った。

「コウガさん、ついでですし魔法袋を買われては?」

 ミツキが魔法袋の購入を勧めてきた、昨日魔法袋を買ったらスマフォンを渡すって言ってたからな、道具屋に魔法袋小ならあるので来たついでに買っていこうか。

「そうだな、お姉さん魔法袋3つ貰えますか?」
「あらやだもう!お姉さんだなんて!」

 俗によく見る、あらやだーって言って手を前に出してくねくねするやつをやっていた。
 あれの正式名称とかあるのだろうか?俺は知らない。
 店主は魔法袋3つ用意してくれた。

「はい、魔法袋3つね!初めて見るお嬢ちゃん達が持つのかしら?」
「はい、そうです」
「そうかいそうかい!ならオマケにポーション1個入れとくよ、武闘会頑張るみんなに私からのプレゼントよ!」
「ありがとうございます!」

 ポーション入り魔法袋小を貰った俺はみんなに魔法袋を配り、少し移動した所でスマフォンを全員に手渡した。

「使い方はまた帰ってきたら教えるから、今は大事に仕舞っててくれな」
「はーい!これでクロエちゃんと連絡取れる!」
「ん!修行サボってないか確認する」
「もー!ちゃんとやるよー!」
「ん!ならいい」

 2人は特訓を境にかなり仲良くなったようだ、良きかな良きかな。

 そして俺達は会場に到着、例の受付嬢から出場確認を取ってから会場入りした。
 その際に大会形式の発表があった。

 初日と2日目に個人戦、その後に団体戦があるのは知っていたが、どのような対戦形式なのか知らなかったので、よく確認しておいた。
 すると個人戦の出場枠が少なく団体戦が定員オーバーの為、今日中に個人戦を終わらせて団体戦を明日に執り行う事になったらしい。

 初日は個人戦で、バトルロイヤル形式4試合、その4試合で16名選出して、今日の昼から16名によるトーナメントが執り行われる。
 そして団体戦は明日から20チーム予定が24チームのトーナメントになったのだという。

 会場入りして、まずは観客席に行って席を確保した。

「中もステージも広いね!」
「だな、開会式開始まで後30分あるし、少しのんびりするか」

 俺達4名+1匹とミツキ達6名でのんびりしていると、カリオン夫妻とサリーナさんが観客席に来たのを見付けたので挨拶に向かった。

「おはようございますカリオンさん、カリナさん、サリーナさん」
「おおコウガ君!おはよう」
「コウガさんおはようございます」
「お兄さんおはよう!」

 3人は普段の戦闘用衣服や装備ではなく、私服で会場に来ていた。
 団体戦は明日からなので、今日は団体戦に出る人を視察しに来たのだろう。

「コウガさん、個人戦頑張って」
「お兄さん優勝しちゃえ!」
「あぁ、行ける所まで頑張ってみるよ」

 そう言って俺は自分の席へ戻ってきた。
 すると会場内に響き渡る声が聞こえた。

「皆様!大変長らくお待たせ致しました!これより武闘会を始めさせて頂きます!」

 ウオォォォォォォォ!

 歓声が鳴り響く。
 司会?が持っているのはマイクか!

「なぁミツキ、このマイクって……」
「はい、俺が作りました!」
「やっぱり」

 マイクはやはりミツキが作った物だった。

「これより司会を努めさせて頂くのはこの私!ノイシュ冒険者ギルド受付嬢ミーサーです!よろしくおなしゃす!」

 ウオォォォォォォォ!!

「ん……?おなしゃす?」

 発言が気になり司会をよーく見てみると、黒髪で日本人っぽい成りをしていた。

「なぁミツキ、もしかしてあの司会……」
「ですね、俺は知っていますがあの人も日本人です。本名は実咲だそうですよ?」
「やっぱり」

 2回目のやっぱりを言ってしまった、だが2人目の日本人を発見出来た喜びがあった。

「さて、これより早速個人戦のバトルロイヤルに入りたいと思います!このスクリーンに映し出された30名は待機室へ移動お願いします!2試合目の人も名前出されますので、その方は待機室2へおなしゃーす!」

 俺は1試合目、カエデは2試合目だった。

「よし、行ってくる」
「ご主人様、絶対に勝ってね」
「あぁ、分かってるよ。俺もカエデと戦いたいしな」

 俺はカエデとグータッチを行ってから待機室へ向かった。

 待機室に向かうとゴツイ男からヒョロがり男、中には女性剣士らしき人もいた。
 中で待っていると誘導員に連れられて特大ステージに30名が並ぶ。

「みんな揃ってますね!?遅刻は失格ですよおぉぉ?……みんな居るようですね!それではこの中から4名になるまで戦って貰います!準備してください!」

 全員武器を構えて準備をしていく、俺も2本ナイフを取り出して構える。

「それでは第1試合始めます!」

「レディーーッ、GO!」

 俺達の武闘会が始まった。
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