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60話 まだまだ未熟

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 メイランとソルトがやられた。
 俺とレインで一騎討ち中、2人が運ばれていくのがチラッと見えた。

「メイランとソルトがやられたか……」

 俺はレインの攻撃をアイスウォールで防ぎながら口に出した。
 すると、レインは攻撃を中断して構えを解く。
 レインの連撃でかなりの体力を消耗していたので、俺はその場に座り込む。

「そんな気はしてたけどね、私達を出し抜けるPTなんてなかなか居ないもの」
「だろうな、ってかそもそもAランクに勝てるとは思ってないぞ、この模擬戦で何か掴めたらなくらいは思ってたが、あの連携……凄く参考になった」
「そう?ならよかったわ、どうする?2人の回復を待つ?1対1まだやる?」

 今日は団体戦想定でやる予定だったので、2人の回復を待ちたい所だ。
 しかし、昨日の特訓でやり切れなかったバフ系魔法も覚えたくもある。

「今日は団体戦想定の特訓だから2人を待とうと思う。レイン、2人の回復を待ってる間にやりたい事あるんだが、良いか?」
「良いわよ、何するの?」

 何するの?と同時に身体をくの字に曲げて俺の顔を覗き込んでくる、レインの笑顔が眩しい。
 その仕草にぐっと来てしまう俺はちょろい人間なんだろうか……1つ言い訳するが、レインもカエデと同じ狼人族で凄く可愛い、更にもふもふそうな尻尾と耳が気になって仕方ない。
 まぁミツキのだから手を出したりしないけどな。
 だが1つ思うのは、こういう仕草や笑顔を見せてくるレインと、ツバキやティナが向ける俺への態度が少しばかり差があるように感じる。
 その差はなんだろう?と考えると、1つ考えられるのは俺の加護付きの称号だ。

『称号、動物愛好家』

 これは動物類から少しだけ好かれやすくなる加護で、俺を転生させたレアさんから貰った加護だ。
 カエデやソルトからの好感度が、それ程時間掛からずに高くなったのは、恐らくこの加護のお陰だろう。
 そしてレインも、この加護の効果により好感度が上がっている?と思われる。

「コウガさん?」
「あっ、悪い考え事してた」

 話が逸れたな、前世の時が主だったが、もふもふを意識するとたまにこうなってしまう、反省反省……話を戻そう。

「バフ魔法を覚えたくてな、バフ魔法使える人ってここに居るか?」
「バフ魔法ね、私も少し使えるけど、風の精霊の力を借りてる私は少し特殊なのよね……多分参考にならないかも」

 力になれないと思ったのか、レインの尻尾がへにょんと力なく垂れ下がってしまった。

「風の精霊か……」

 精霊、やっぱり存在するんだな。
 妖精の姿も見た事あるので驚きはしない。
 レインの戦いを見ていても、何かするまでもなく直ぐに風が纏い出す。
 精霊達も力を貸すのに躊躇いなく力を行使している、恐らく風の精霊からの信頼が厚いのだろう。

「ちょっと特殊な私を省いて、普通のサポート系魔法を多く覚えてて使えるのはヴィーネだけね、看病代わってこようか?」
「2人の様子もみたいから、俺も行くよ」
「分かったわ、それじゃ行きましょ!」

 2人並んでメイランとソルトが運ばれた部屋へと歩いていく。

 明日から武闘会だが、カエデはどれだけ強くなっただろうか?
 カエデが何かスキルを覚えていた場合、変身したらスキルが分かってしまうんじゃないか?と思ったのだが増えた様子はない。
 加護付き変身にも何か隠れた条件があるのか……?それとも、スキルは覚えずに技術を磨いているのか……?
 分からないが、カンニングしてしまうという事態を防ぐためにも、これから武闘会が終わるまでステータスは見ないでおこう。
 カンニングしたら正々堂々って訳にはいかなくなるからな。

 メイランとソルトが居る部屋に辿り着きドアをノックすると、ヴィーネがドアの隙間から顔を出す。

「あ、コウガ様。今お2人の汗を拭いているので、数分程お待ち頂けますか?」
「そうだったのか、2人はもう目覚めたのか?」
「はい、運んで回復魔法掛けたら直ぐに目を覚ましました、身体は大丈夫なので御安心ください」
「分かった、ここで待ってるから終わったら呼んでくれ」
「かしこまりました」

 ヴィーネが部屋の中へ戻っていった。
 少し待っていると、ミツキがこちらに向かって歩いてきた。

「あっ、コウガさん!丁度良かった」
「ん?どうした?」
「今日の昼食なんですが、ラーメンなんてどうですか!?」
「ら、ラーメン!?作れるのか!?」

 俺はミツキの両肩に手を置いて迫る。

「あ、はい!良い感じに再現は出来てますよ、コウガさんさえ良ければ今日はラーメンと餃子にしようかと思ってました!」
「ラーメンに餃子!素晴らしい!でも良いのか?こんなにご馳走になって」
「もちろんです!こうして故郷で食べてた物を共有して楽しみたいんですよ」

 俺も初めて地元料理のハンバーグ作った時にそう思った。
 やっぱり誰かと美味しいを共有しながら食べるのって特別に美味しく感じるよな。

「ふっ、嬉しい事言ってくれるじゃないか、楽しみにしてるよ」
「はい!作るのにまだ時間掛かるので、特訓頑張ってください」
「あぁ、ありがとう」

 ミツキは小走りでキッチンへと向かって行った。

「ほんと、コウガさんが来てから、主様が今まで以上に活き活きしだしたのよね」
「そうなのか?」
「えぇ、やっぱり同じ故郷の人が会いに来てくれたってのが1番大きいんじゃない?今までも故郷の料理だったり、故郷にあった物の錬金だったりをしてる時も活き活きしてたけどね」
「まぁ、そんなに流れ者が珍しい訳ではないみたいだが、会いに来るってのは確かに無さそうだよな」

 この世界にどれくらいの頻度で流れ者が現れるのかは分かっていないが、これまで旅をしてミツキ以外に流れ者と出会っていない事を考えると……この世界が広すぎる、もしくは数ヶ月~1年に1人の頻度なのかもしれない。
 ただ、くノ一の存在や、クナイや手裏剣がこの世界に存在している、更に食材に関しても米が何処かで作られている。
 そう考えると、日本からの流れ者が今も何処かで生活しているのは間違いないだろう。
 ミツキ以外の日本人……やっぱり会ってみたいよな。

「ありがとうコウガさん。主様に会いに来てくれて」
「礼を言うのはこっちの方だ、転生してまだ数週間で不安も多かったからな……ミツキやヴィーネ、レインにツバキにティナ、今は居ないがクロエにもいっぱい世話になった。本当にありがとう」

 レインが少し驚いた顔をしたが、直ぐに顔が笑顔に戻って微笑んでくれた。

「ふふ、どういたしまして。武闘会が終わった後にでも主様に言ってあげなさい、泣いて喜ぶわよ」
「あぁ、そうするさ」

 レインと話していると、2人が居る部屋のドアが開いてヴィーネが水の入った桶を持って出てきた。

「コウガ様、お待たせ致しました」
「ありがとうヴィーネ、ちょっとヴィーネに頼みがあるんだがいいか?」
「はい、何でしょう?」
「俺にバフ魔法を教えてくれないか?」
「バフ魔法ですか?それは構いませんが、ご主人様と2人の世話が……」

 ヴィーネがキッチンの方を見る、本当ならヴィーネが今頃昼食を準備し始めている頃なのだろう。

「それは私が受け継ぐわ、主様が今日の昼食を作ってくれるって言ってたから、ヴィーネはコウガさんの特訓に行っていいわよ」
「そうなのですね、かしこまりました。ならコウガ様の特訓に御付き合い致しましょう」
「ありがとうヴィーネ、よろしく頼む」
「はい、お任せ下さいませ」

 スカートを横に開いてお辞儀をしたヴィーネ、メイドさんも良いよね……家を持ったらカエデやソルトをメイドをしてもらうのも悪くないかもな……!

 俺はメイランとソルトの様子を見る為にドアを開けると、2人が同時にこちらを見た。

「コウガ様!」
「ご主人!」
「おう、2人共大丈夫か?」

 俺は中へ入って、ベッドの近くに置かれていた椅子に座って2人を見る、目立った怪我はなさそうか。

「はい、私は大丈夫です」
「自分も大丈夫っす、ごめんなさいご主人……突っ走って失敗したっす」
「私も……昨日と同じミスしてしまったわ……ごめんなさい」

 2人はベッドで身体を起こした状態のまま頭を下げた。

「謝らないでいいぞ、3対3なんて初めての経験だったからな……この経験とお手本を見せてくれたティナ、レイン、ツバキに感謝して、色々策を練ろう」

 俺はそう言って2人の傍に寄って頭を撫でると、2人の目から涙が流れる。

「ぐずっ……はいっす」
「はい、コウガ様」

 2人を落ち着かせてお昼まではゆっくりするように言ってから、ヴィーネとバフ魔法の特訓に入った。 
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