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41話 ソルトの受け入れ準備

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 ソルトを仲間に加えた俺達。
 武闘会まであと4日だが、ノイシュまでは2日あれば行けるとの事なので、今日は親睦を深める日にした。

「まずは自己紹介を。自分はソルト、砂狼族っす!武闘術と体術、脚撃術持ちで、スキルは身体強化と瞬歩を持ってるっす、そして砂狼族自慢のこの脚で足場の悪い所を駆けるのが得意っすね!皆さん、よろしくお願いしまっす!」

 元気よく自己紹介をしてくれるソルト、見た目で言えばカエデと似た狼系で、狼の耳にスラッとした尻尾がある。
 カエデと違う点と言えば耳付近の毛が多い、そしてカエデがふわっとした尻尾なのに対し、ソルトの尻尾はスラッとして毛の1本1本が太めの印象を受ける。
 砂狼族なので、恐らく砂場で活動するのに適した狼人族って事だろう。
 砂が多い場所で住む彼女の種族は、尻尾の毛が多いと砂が絡まりやすく砂場に適さないと容易に想像は出来る、なので尻尾がスラッとして毛の1本も太めで砂が絡まりにくくなっているのだろう。
  そして逆に耳の毛が多いのは、耳の穴に砂が入り込むのを防いでいるのだろう。
 そして何より注目したいのが、カエデ以上に発達した脚だ。
 自分でも自慢と言っていたが、足場の悪い所を駆ける種族なだけあって柔軟そうなのに逞しく見える、武術と脚撃術があるって事は蹴り攻撃が得意なのだろう。

「うん!よろしくねソルトちゃん!」
「ええ、よろしく」
「よろしくソルト、俺達の詳しい戦闘スキルとかは宿で話すとして、今日はソルトの身の回りの物を買いに行こうか、そして晩御飯は歓迎会だ!」
「やった!お肉食べよ!」
「カエデったらまたお肉?太るわよ?」
「今日は特別だからいいの!ソルトちゃんもお肉食べたいよね!?」
「えっ!?まぁ……そりゃ食べたいっすけど、奴隷なのに良いんすか?」
「すまんが、ここに来た以上は奴隷とは扱わないから覚悟する事だな、さぁ行くぞ!」
「は、はいっす!(やっぱり……2人の姿から予想はしてたっすけどご主人は凄い人っすね、今の2人の服装やさっき聞いた食事内容、そしてご主人から溢れ出す優しい雰囲気……ガルムさんから聞いてた通り2人が惹かれるのも分かるっすね……)」

 俺達はソルトの身の回りに必要な物を買い揃える為にお店を転々として買い揃えに行く、その道中ソルトと色々話をした。

「ご主人、ホント噂通りっすね」
「噂?」
「奴隷に命令や強要をしない、お金だって必要なら持たせる、衣食が奴隷とは思えないほど整ってる。言い出したらまだまだあるっすけど、この世界じゃそんな待遇珍しいっす、ほんとに流れ者なんすね……ご主人の世界には奴隷とか居たんすか?」
「俺の世界にも奴隷は一応いるが、奴隷に関する事は全て犯罪だ、持つ事すら許されない世界なんだよ」
「なるほどっす……ならこっちの世界で奴隷を持つ事に抵抗はなかったんすか?」

 確かにこっちの世界で俺の奴隷事情を聞けば不思議に思うだろうな、ましては前世でも奴隷はいい物ではないと知れば尚更だ。

「んーなんと言えばいいか……俺の元の世界には、今俺が居るこういう世界の事を異世界と呼んでるんだが、その異世界をテーマにした物語を文章や本にしている人がいるんだ」
「物語を本にする……?それって実際にあった出来事をっすか?」
「その場合もあるが、ほとんどは想像だ」
「想像で物語を作る……なんだか神みたいっすね」
「はは、そうかもな。その人の作った物語によっては奴隷は悪い待遇としてではなく、仲間や家族として迎え入れる物語を書く人もいるんだ」
「その影響っすか?」
「多少はあるかもな、ただ1番俺が思うのは……人は人だ、奴隷であろうと人なんだ。だから俺についてきてくれるカエデ、メイラン、ソルトは奴隷って立場であろうと、俺は人として……仲間として迎え入れると決めてるんだ」
「ご主人……」
「心配せずとも、後ろでわいわいしてる2人のように慣れてくるよ」

 俺とソルトが後ろを振り向くと、カエデとメイランがじゃれ合いながらも笑って話をしている、いつ見ても微笑ましいね。
 特にカエデ、出会った時こそは自分らしくではなく背伸びした口調や言動をしていたが、俺と旅をしてメイランと一緒に行動するようになってからだろうか、どんどん背伸びした言動や口調が減って年相応、いや……若干幼い気はするが無邪気に笑ったりが増えてきた。

「……自分もすぐこうなるんすね」
「なるとも、まぁこれからは魔物と戦うことが多くなる、だがそうでない時はこうしてみんなでわいわいして楽しくしていきたいんだ」
「分かったっす、2人とご主人の事を聞いて付いていきたいって言った事、やっぱり間違いじゃなかったっす!奴隷から解放される前だったっすけど、きっと解放されるまで待ってたら……もう自分の手が届かない所まで行って後悔してたかも知れないっす……勇気出してよかった!ご主人、よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしくなソルト」

 俺は優しくソルトの頭を撫でる、ソルトはびっくりしたのか耳がピンと伸びたが、すぐにふにゃっとなり撫でやすくなった。

「撫でられるなんて母親にされて以来っすね……」
「嫌か?」
「嫌だったら避けてるっすよ、だって奴隷に強要はしないんすよね?」
「もちろんだとも」
「なら察してくださいっす、恥ずかしいんすから……」
「あーー!!ソルトちゃん頭撫でられてる!」
「ふふ、この調子ならすぐコウガ様に染まりそうねソルト」
「もう既に染められてるっす……嬉しいっすけど」

 すぐに打ち解けてよかった、もしかしたら加護のお陰かもしれないが、ソルトは既に俺への信頼を寄せてくれてるみたいだ。
 わざわざ奴隷解放される前に奴隷のまま居ることを選んだくらいだ……最初に会った時の印象と、噂で聞く俺達3人がソルトにとって輝かしく見えたんだろうな……嬉しい限りだ。
 俺達についていくって言った事を後悔させないように、楽しい旅にして行きたいと思う。

「さぁ、服屋に着いたな」

 店舗に入ると、この前裏に連れて行ってくれた店員さんが居た。

「あ、この前のお客様!いらっしゃいませ!」
「今日はこの子の服を見に来たんです、見させていただきますね」
「是非是非どうぞ!」
「ご主人、ほんとに遠慮なく選んで良いんすか?」
「あぁ、予備含め上下4着と肌着や下着、その他必要な物があるなら買っていいぞ」
「……!ありがとうございまっす!」
「私達も似合うやつ選んであげるね!」
「着せ替え人形にしましょ、さぁ似合うのを探すわよ!」
「お、お手柔らかにっすぅぅぅぅ」

 ソルトはカエデとメイランに連れて行かれた、着せ替え人形て……頑張れソルト。

「お客様、今日もサービスしましょうか?」

 店員さんが胸ポケットをパカパカさせた、前回と同じ合図だな。
 銀貨10枚入れてサービスを受ける。

「太っ腹ですねお客様!ふふっ」
「その代わりいい物貰ってくからな?」
「もちろんですとも!今日も良いの仕入れてますよ!さぁこちらへ」

 店舗の奥に行くと、前と同じように装飾品や武器防具が仕分け中だった。

「今回も装飾品でサービスしますね、好きに選んでください」
「では早速」

 俺は装飾品の仕分けされた物を探っていく。

「さてさて、俺の注目しているミツキ・ミコシバの作品は今回あるかどうか……あった!」

『ダイアバングル』
 VIT中UP
 製作者、錬金術師ミツキ・ミコシバ

「うーん、ソルトは黄色のイメージが強いんだよな、別のが無いか探すか」

 更に探していくと黄色の様な色のアンクレットが出てきた、これもミツキ・ミコシバの作品みたいだ。

『琥珀のアンクレット』
 AGI中UP、脚撃術小UP

「お!これソルトのイメージと効果もピッタリだぞ!」
「おや、今回も錬金術師のミツキの作品ですね?」
「はい、これをお願いします」
「分かりました!これは銀貨28枚の所ですが、23枚にしましょう!どうですか!?」

 なるほど、銀貨5枚チップで渡してまだ店舗に出てない1品物を貰うなら安いもんか……よし。

「買います!」
「ありがとうございます、では前のようにお包しますね」

 店員さんが戻って行ったので俺もソルトの元に戻ると、着せ替え人形の真っ最中だった。

「うぅ……自分そんなの似合わないと思うんすけど……」
「絶対似合うよ!戦闘向きじゃないとはいえ、普段用に持っとくべき!」
「そうね、それは私も賛成だわ。これでコウガ様をメロメロに……」
「俺を?なんだって?」
「「「!?」」」

 一斉に振り返る3人、みんな俺が戻って来てる事に気付かなかったようだ。

「あっあの、えっと……」
「い、いつから居たんすか……?」
「ん?普段用に持っとくべきくらいから聞いてたぞ」
「あっ」

 やばいと感じたのかメイランがスススーっと遠ざかろうとするので翼を掴む。

「ひゃい!?」

 ひゃいなんてメイランから出ていい声じゃない気がするが気にしない。

「俺を?メロメロに?だって?」
「あっ……そ、そうね……はい……」
「言っとくが、もうみんなにメロメロだから大丈夫だぞ、無理して攻めた服を選ぶより、本当に好きな服にしてくれたら良いんだ」
「「「……」」」

 俺の口からメロメロという言葉が発せられて硬直してしまった3人、沈黙を破ったのはソルトだった。

「ご、ご主人……自分にもメロメロなんすか……?」
「あぁ勿論だ、俺はな……すっごくもふもふが好きなんだ。前世には動物が沢山いてあれはあれで良かったが、今はカエデやソルトのようなもふもふな人がいるなんて夢のようなんだ。メイランはもふもふではないが人として好きだし、カエデも同様だ、ソルトはまだ一緒になったばかりでこれからソルトの色んな所を知っていくと思うが、すぐに好きになるだろう。実はカエデとソルトに会った瞬間気にはなってたんだぞ?」
「そ、そうなんすか?自分の事はこれから知っていってもらうから仕方ないとしても……狼としては気にしてくれてたと?」
「あぁ、今日にでも尻尾の手入れをしてやりたい気分だ!」
「し、尻尾の手入れっすか!?」
「ソルトちゃん!ご主人様の尻尾手入れは天に昇るくらい気持ちよくてめちゃくちゃ綺麗に整えてくれるんだよ!」

 カエデが目をキラキラさせてソルトの肩を掴んで力説している、同じ狼としてあの感覚を共有したいのだろう。

「な、なるほど……ならお願いするっすかね……?」
「良いのか?尻尾を触らせるのに抵抗あったりは……?」
「ご主人になら構わないっすよ?嫌では無いですし。尻尾って狼とすれば大事な物、だからこそ綺麗であれば綺麗な程狼として輝くんす。だから地域によって絶対に他人には触らせない所だったり、逆に手入れを身内でやり合って綺麗さで威厳を保つ所もあるっすね」
「なるほど……勉強になる」
「あの……コウガ様、そろそろ服を決めた方が良いと思うわ……」
「あっすまん。ソルト、そろそろ決めようか」
「は、はいっす!」

 そして服を4着決めて肌着下着を必要分購入、そして武器屋と防具屋で装備を整えた。
 道具屋で野宿用のアイテムをソルト分買い足し、そして人が多くなったので今あるテントと似たような物を1つと、全員で入れるような大きいテントも買い足しておいた。
 ソルトを受け入れる準備を整えて、お昼を近くにあったレストランで済ませて宿に戻る。

 次は俺達のスキルを詳しくソルトに話すとしよう。 
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