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1章 異世界に来た

3話 人との出会い

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「ヘルメット……?間違いない、ヘルメットだ!!」
「えっ!?」

 日本語でヘルメットと連呼した鎧の女性。
 ヘルメットがこの世界にもあるのか?と思ったが、何故か少し驚いた様子……まさか。

「も、もしかして……日本の人っ!?」
「あぁそうだ!君もだろう?」
「……!は、はい!!」

 良かった、初めて出会った人が日本人だった!

「レイナの同郷の人ね?」
「そうだ、すまないが少し周りを見ておいてくれるか?」
「了解」

 2人が話す言語も日本語だった、良かった……ちゃんと言葉が通じる。

 ここに来た際は、どうにかしなきゃって気持ちで頭をフル回転させてきたが、ここに来て初めての安心感に緊張の糸が切れる。

「良かった……初めて人にっ、出会えたっ……」

 涙が溢れてくる、止まらない……
 それを見た鎧の女性は、上の鎧を外してこちらに近付いてきた。

「その様子だと、ここに来たばかりみたいだな。見た目的にまだ10代か……?よく生き延びた、頑張ったな」

 鎧の女性が、優しく私を抱き締めて背中をさすってくれる。

「ゔっ、ひっぐ……うわぁぁぁぁ!!」
「よしよし」

 もう1人の獣耳と尻尾が生えている人が周囲の警戒をしてくれているので、鎧姿だった女性に暫く胸を借りる事となった。
 ひとしきり泣いて、数分程で落ち着きを取り戻した。

「ぐずっ、すみません……」
「気にするな、1人で不安だっただろうからな……取り敢えず自己紹介しておくよ。私はレイナ、君と同じ日本人で向こうでは城本玲奈という名前だった。今は冒険者ギルドに所属しているよ、君の名前は?」
「わ、私は美園香織です」
「カオリと言うのか、よろしくな」
「は、はい!よろしくお願いします!」

 落ち着いた私からゆっくり離れ、鎧を再度装着したレイナ。
 そして入れ替わるように獣耳尻尾の冒険者がこちらにくる。

「私はソル、レイナとは違ってこの世界で生まれ育った狼人族よ、よろしくね」
「美園香織です!よ、よろしくお願いします!」

 改めて異世界に来たんだなって、ソルの獣耳と尻尾をみて思う。
 少しだけでも良いからもふもふしたいかも、凄く気持ちよさそう。

「カオリ、歩けるか?」
「あ、はい!歩けます!」
「この辺りは魔物が多くて夜になると危険なんだ、この森を抜けるにも日没までには間に合わない、だから魔物の少ないエリアまで移動して野営する、いけるか?」
「や、野営……この森の中で、ですか?」

 スライムやオオカミのようなモンスター……いや、レイナ曰く魔物か?がいっぱい居る所で一夜過ごす、そう考えると少し怖くなって震えてしまう。
 震えている事に気付いたレイナが、私の手を握ってくれる。

「大丈夫だ、私達が守るよ」
「……はい」

 ソルを先頭に、野営場所を目指して森の中を歩き出した。

「あの放電、カオリがやったのか?」
「多分ですけど、そうだと思います」
「多分?」

 曖昧な返事に首を傾げるレイナ。

「私、雷の完全耐性と雷属性を持っているんですけど、何故か使う事が出来なくて……でも、オオカミに襲われた時に怖くなって叫んだらバチバチッと音がして、オオカミがあんな事に」
「咄嗟にしか使う事が出来なかったって事か!?こちらに来る際に、神から能力を授かって使い方説明を受けているはずじゃ!?」

 レイナが凄く驚いていた、何でかは分からないけど……有り得ないって言いたげな顔をしていた。

「……え?私、気付いたらこんな森の中にいたんですけど……」
「なっ!?き、記憶喪失とかは!?」
「いえ、日本に居た時の事も、目覚めた時の事も、ここに来るきっかけも全て覚えています。ですが、能力を授かるだとか、神に会ったとかは全く……」
「そんな、バカな」

 信じられないと言わんばかりの驚愕の顔をしているレイナ。
 能力を授かる、やっぱり小説等でよく見た異世界転生でレイナはここに来たのだと伺えた。

「レイナさんは、神から能力を授かって来たんですか……?」

 私は逆にレイナの言葉が信じられなくて聞いてしまった。
 それを聞いたレイナはハッ!とてバツの悪そうな顔をする。
 レイナは能力を授かって来たのに、私は何もなしでここに来たのだから。

「あっ、す……すまない!転生に関する話が聞いていた事とは違ったみたいなんだ、本当に申し訳ない!!」
「い、いえ……レイナさんは悪くないです。多分ですけど、私は要らない子……なんです」

 またしても涙が溢れてくる。
 私、学生の頃は泣き虫だったけど、卒業してから泣かなくなって強くなったと思ってたんだけどなぁ……

「私は……きっと神にすら見放されて、こんな森の中に捨てられ……たんです……ゔっ」
「っ……」

 何か思う所があったのか、レイナが握りしめた拳が震えだし、空を見上げて叫んだ。

「おいミルム!!一体どうなっているんだ!!!あの時私に言ったのは嘘だったのか!?転生者の一部は、こうして処理するような真似をしていたのか!?お前達は!!!」

 凄まじい怒りと共に叫び声が森の中に響いた。
 すると、レイナの少し上くらいで急に光り出して人が現れた。

「レイナ!!」
「おいミルム!これはどういうことだ!?」
「あ、貴方が……ミルム様!?」

 ソルは、ミルムという神が姿を表したのを見て、信じられない顔をしていた。

「レイナ!落ち着いてよ!説明するから!!」
「落ち着いていられるか!!こんな若い子に死ねと言うのか!!!」
「だから!説明するから落ち着きなさいよ!!私達だって初めてのケースでパニックになってるのよ!」
「レ、レイナ!怒鳴ったって解決しないわよ!」
「くっ……」

 レイナはミルムとソルに抑えられ、説明を聞く事になった。
 レイナを落ち着かせた後、ソルに私の頭を抱き寄せられ、大丈夫大丈夫と背中をさすられながら落ち着かせてくれた。

「今から天界がどうなっていて、カオリが何でこうなってしまったのか、分かる範囲で説明するよ」

 このミルムの話によると。
 転生される魂は神と天使が住まう天界へと連れてこられ、担当の神様が1人付くみたい。
 ミルムもレイナにそう説明していたので、神とは会っていないという私の発言を受けて、ミルムが嘘をついたのか!?とレイナは勘違いしてしまったらしい。
 話を戻して、私は稲妻のようにビシャンという音をたてながら高速で天界を通過して、この世界〖ヴィクトヘルム〗へダイレクトに移動してしまったという。
 今までにこんな事は1度もなかったとミルムは語る。
 そして、これに気付いた天界は今大慌てしている……という状況らしい。
 本来であれば、今のミルムという神のように転生後の転生者と神託以外でコンタクトを取るのは禁忌とされており、普通は転生の際にサポートをしてその後は見守るのが仕事らしいんだけど……

「私がこうして禁忌を犯してまでレイナとこの子の前に現れたのも、罰せられて神で無くなる事も覚悟の上で来た……だって、私もレイナと同じ気持ちでカオリを助けたかったから」

 ミルムは私に近付いて、私の頬を優しく撫でた。

「ごめんなさい、折角の転生なのに辛い思いをさせた」
「ひっぐ……ぐずっ……」

 私は泣きながらもミルムの顔を見る、きっとぐしゃぐしゃな顔をしているはずだ。

「担当じゃないから、これも本当はダメなんだけど……もう私は罰せられて神ですら無くなる身。だから、貴方が安心してこの世界を生きて楽しめるように……特別に力を与えるよ」

 私の頬を触れているミルムの手から、温かい物が流れ込んでくる……
 身体の中にある何かが活性化している、そんな気がした。

「事情があって戦いに関する能力は付けられなかった、だから戦いとは別の有能スキルと腰に付けてる物入れを無限収納で時間停止付きの袋アイテムに変えたから、詳しくは後でステータスや持ち物を見て確認してみてほしい。
 後、その雷属性も貴方の使い方次第で、強い攻撃手段にも防御手段にも移動手段にもなるからしっかり自分の物にしてほしい、その為の力《魔力》もちゃんと付与してあげたから」
「ゔん、ありがどう……ぐずっ」

 ミルムがそっと私の頬を撫でた後、レイナの頭を手で撫でてから空へ浮いていく。

「すまない……ミルム、私のせいで神落ちさせてしまう事になるとは……」

 レイナは怒りに任せてミルムを呼び出してしまった結果、彼女が神でなくなってしまう事を悔やんでいた。

「良いよ、私も悔いはないから。レイナの担当になってずっと見守ってきたけど……心優しい子で、見ていて温かい気持ちになった、レイナの担当になれて良かったよ」
「ミルム……私の道は、間違っていなかっただろうか?」
「うん、神である私からしても文句ないよ」
「そうか……良かった」

 レイナは悲しい顔をしていた、転生の際にお世話になり見守ってくれていた存在が居なくなるという喪失感からかもしれない。
 ミルムへ手を伸ばすと、手を握ってくれる。

「レイナ、1つだけ頼んでいい?」
「あぁ、何でも言ってくれ」
「カオリは担当の居ないイレギュラー、そして6神である私はもうすぐ消える……出会う事はないと思うけど、レイナには私に代わる新しい神が付くはず。
 でも、この世界に存在できる神は6人、そして6神の担当人数は1人ずつという絶対的な決まりがあって、多分カオリには担当を付けられない。
 だから、私の代わりにレイナがカオリを見守り助けてあげて欲しい」
「分かった、カオリがこの世界で立派に生きていけるように、私が面倒をみよう」
「……頼むよ」

 レイナに自分の願いを託し、少しだけ力を分け与える。
 そして、握っていた手を離しすぅーっと空へ昇っていく。

「あっ……」
「行かなきゃ……さよなら。レイナ、カオリ……貴方達の転生生活に、幸あれ」

 ふわっと光が彼女を包むと、もうそこにはミルムの姿はなかった。

「ミルム!!!」

 手を伸ばし、消えていった神の名を呼んだ声は……もう、ミルムには届かない。
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