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ルミナの挑戦
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今日は下界のとある屋敷に注目している。
屋敷は草原の街と漁村を繋ぐ街道の丁度中央辺りから南下した場所にある。
川と小さな森が近くにある立地条件の非常に良い場所で、家人や使用人等を含めると総勢三十人程が常に在住している大きな屋敷だ。
こういった屋敷は街の近くに幾つか点在している。
敵対生物がいるので危ないのではないかと思ったが、彼らの財を狙う人や当てにする人の方が厄介らしい。
そのため商売や事業で財を成した人は自然と街から一定距離を置く。
この屋敷もそういった事業によって成り立った家だ。
その事業というのが料理開発というもの。
ここには川や森以外にも自前の畑があり、全て料理研究のために使われている。
開発された料理のレシピは街から来た人が高く買い取って行く。
俺が作ったチョコレートのレシピも元を辿ると、ここで生み出されたものという。
そこで今日はこの屋敷を注目してみようという事で観察をしている。
観察を続けているとなかなか興味深い事が分かってくる。
まず、この家の創始者は勇者だった事がわかった。
勇者の持っていたアイテムはあらゆる料理を可能とする料理本。
こういう料理を作りたいと望むとその本にレシピや作り方が画像と書面で分かりやすく記載されるというものだ。
きっとこれを望んだ勇者は食に対して思い入れが強かったんだろうな。
もしくは食によって魔王を懐柔しようと考えたのかもしれない。
結果として屋敷を建てる程になったわけだが、その子孫もなかなか面白い事をしている。
基本的に勇者のアイテムは本人でしか完全に能力を引き出すことは出来ない。
しかし、オアシスの末裔のように一部だけ引き出す事ができる者がいる。
その引き出せる条件が血縁者という部分にこの家の者は気付いた。
そこでこの書を家宝とし、代々血縁者が使用して新たなレシピを生み出す研究をしている。
勇者がこの書で百のレシピを生み出せるとするならば、今の血縁者は十にも満たない量しかこの書から生み出せない。
だが、それで十分なのだ。
今この書は新たな料理を生み出す際のヒント帳としての役割をし、残りの大半は代々培ってきた技術や知識で新たなレシピを生み出している。
ふむ、この屋敷を維持していられるという事は相応の努力を怠っていないという事か。素晴らしい。
とりあえず悪いようには使われてないようだし、この勇者の料理本が朽ちないよう少し神力を補充しといてあげようかな。
「ソウ、ルミナテースから招待状が来ています」
「ん?招待状?」
「なんでも食べてもらいたい料理があるとかで」
「ほう」
と言う事はついに完成したという事かな。
「まったく。ソウを呼びつけるなとあれほど言っておいたはずなのに」
「まぁそう怒るなって。通信装置置かせてもらいに行こうと思っていたところだし、丁度いいじゃないか」
「仕方ありませんね。これで酷いものでも出したらただじゃ済みませんからね」
「ははは」
ま、大丈夫だろう。たぶん。
内心そう思いながらサチの転移に身を任せた。
農園に着くと従業員の子に促されレストランへ入る。
「いらっしゃいませ。ソウ様、サチナリアちゃん」
俺とサチは調理場が最もよく見える席に通され、座ると正装したルミナが丁寧に挨拶してきた。
いつも抱きついてきたり色々してくるルミナが何もしてこない事にサチも何か勘付き、少し緊張しているようだ。
「足を運んでくださりありがとうございます。本日は私が料理を振舞わせていただきます」
「うん。楽しみにしてる」
「ありがとうございます。それでは調理に移らせていただきます」
一礼をして調理場に移動し、着替えて調理に入る。補佐にはユキとリミが付くようだ。
「一体どうしたのでしょうか」
落ち着いてきたところでサチが疑問を口にする。
俺は大体の事を知っているから驚かないが、呼び出されて来てみればいつもと違う待遇を受ければそりゃ驚くわな。
「今日はルミナの挑戦の日なんだろう。付き合ってやってくれ」
「はぁ。挑戦ですか。ソウは何か知っているのですか?」
「少しな。前に相談されたから助言した程度で、今日何が出てくるかとかはさっぱりわからん」
「そうですか。・・・ちょっと不安です」
「ははは。補佐にあの二人が付いているから大丈夫だろう」
サチには笑って見せたが正直俺も少し不安だ。
何せ調理の技量は農園の子達の中でも下から数えた方が圧倒的に早いルミナだ。
一体何を出してくるのだろう。
「いただきます」
俺とサチの前に運ばれてきたのは透明でほんのり薄茶色になったスープだ。
サチがこれだけ?というような困惑した表情をしながら辺りを見回していたが、俺はそれにあえて何も言わず手を合わせてからスプーンを手にする。
それを見て慌ててサチも手を合わせてスプーンを手にした。
これは野菜を煮てエキスを抽出した野菜スープか。よく見ると細かく野菜がスープの中に残っているが、これはこれで美味い。
元々お茶を飲む習慣はあったからか、液体飲料の類の技術は高いようだ。
スープの皿が空になると次の品が運ばれてくる。
次はサラダか。
葉野菜の上には湯通ししてほぐした魚肉の実が乗っている。
その上に何か透明なソースが掛かっているな。なんだろう。
ふむ、リンゴの汁をベースに塩や細かくした胡椒を混ぜたものか。さっぱりしてて美味い。
お、メインが来た。
メインといえばやっぱり肉だよな。うんうん。出来立てで美味そうだ。
ん?おぉ、切ってみてわかったが、香草と肉が何層にも交互に重ねてあるのか。
ふんふん、なるほど。香草の方にだけ味付けがしてあって肉はそのままの味か。
あえて肉に味付けをせず香草に濃い目の味をする事で丁度いいバランスになってる。美味い。
最後に口直しのお茶とシャーベットが来る。
サチとしてはこれがメインなんだろうな。明らかに目の色が違う。
「これは・・・」
口にしたサチが唸る。
シャーベットは仙桃で作られていた。
しかも果汁を凍らせるのではなく、果肉をそのまま凍らせたかのような食感をしている。
それなのに口の中で溶けると果肉は残らず普通のアイスのように液体になる。
凍らせた果物を噛む楽しさと口の中で溶かすアイスの楽しさが両方入り混じったようなシャーベットだ。
これ美味いな。あとで作り方教えてもらおう。
食べ終え、お茶を飲み、一息ついたところでルミナがこちらに来る。
「いかがでしたでしょうか」
「うん。美味しかった。ごちそうさま」
「ありがとうございます。サチナリアちゃんはどうだった?」
「そうですね、一品ずつで見ると若干物足りなさを感じるのですが、全て食べ終えると不思議と満足感が得られました。ソウの入れ知恵はこれですか?」
「ははは、ご名答。だが、このコース料理という手法があることだけ教えて後は何も助言してないぞ」
「そうでしたか。では改めて。ルミナテース、美味しかったです。ご馳走様でした」
「本当!?よかったー!ユキちゃんリミちゃんやったわよー!」
サチの感想を聞いて二人のもとに飛んでいって抱きついている。
「これでサチも呼び方変えないとな」
「え?あぁ、そういえばそんな話していましたね。多分今回は変わらないと思いますよ」
「ん?なんでだ?」
「恐らくこの後の料理教室でわかると思います」
確かにこの後料理教室をする事になっている。
それでわかるとはどういうことだろうか。気になるな。
「では、残念ながら今まで通りルミナテースのままで」
「むー、残念ー」
料理教室が終わり、サチの一言でルミナが残念そうにする。
今回のルミナのコース料理は確かに良い出来だった。
しかしそれの大半はユキ達の助力のおかげであって、コース料理で出したものだけ上手くなっていただけだった。
その後の料理教室でサチがルミナにお題を出したところ、残念な結果に終わったので名前の件は持ち越しとなった。
一応レシピを見ながら作っては貰ったが、分量とかかなりずれてたからなぁ。
コース料理の練習の時もかなり苦労したとこっそりユキとリミが教えてくれたのでこれが本当の今の実力なんだろう。
「そう落ち込むなって。コース料理はちゃんとできたんだし、前より腕は上がってたぞ」
「本当ですか?」
「うん」
その様子を見てサチが何かを思案してからパネルを出して聞いてくる。
「ソウ、例のレシピ集をルミナテースに渡しても良いですか?」
「うん、いいぞ。俺一人じゃ手に余るしな」
「わかりました。ではルミナテース、パネルを」
「うん?わわ、凄い量の情報が」
「ソウの伝手で入手したものです。ここでは作れない物も多く含まれていますが、出来そうな物を選出して今後の料理に役立ててください」
サチがルミナに渡しているのは異世界の神達から貰った料理の情報だ。
この世界では圧倒的に調味料が足りないので作れるものは限られてくるとは思うが、それでも無いよりはいい。
それにユキ達と共有してくれれば俺には無い発想も生まれてくるかもしれないしな。
「ありがとう、サチナリアちゃん」
「い、一応料理の上達は見られましたし、何も返礼が無いのもよくないと思っただけです」
「うん、ありがとうー」
素直に感謝されるとサチは照れるんだよな。可愛い。
「あと、この通信装置を設置しておいてください」
「あら、懐かしい」
「知っているのですか?」
「ん?ちょっとねー。これを置いておけばいいのね」
「はい、緊急用としてですが、お願いします」
「了解ー」
こういうやり取りを見ると普通に友人関係のように見えるんだけどな。
帰宅して風呂に入りながらサチに質問してみる。
「そんなにルミナって呼ぶのに抵抗あるのか?」
「うーん、抵抗あるというか、なんというか、まだそう呼んではいけないという気がしまして」
「ほう」
「まだまだ農園関連は発展途上ですから。主神補佐官としてそう易々と認めるわけにはいかないのです」
「サチ個人としては?」
「う・・・。何か負けた気がするので、まだちょっと・・・」
「ははは、そうか。それじゃしょうがないな」
「いえ、違うのです。ソウ、聞いてください」
はいはい、波立てなくても聞くから。
「あのですね、ソウに遠く及ばない状態なのに認めるわけいかないではないですか。それに彼女は元警備隊なので何か身近な目標を設けておいた方がいいと思うのですよ」
「うんうん。サチは優しいな」
「ちがっ、そうではなくてですね!」
「うんうん」
その後もしばらくサチの言い訳、じゃない、認めない理由を聞かせてもらった。
屋敷は草原の街と漁村を繋ぐ街道の丁度中央辺りから南下した場所にある。
川と小さな森が近くにある立地条件の非常に良い場所で、家人や使用人等を含めると総勢三十人程が常に在住している大きな屋敷だ。
こういった屋敷は街の近くに幾つか点在している。
敵対生物がいるので危ないのではないかと思ったが、彼らの財を狙う人や当てにする人の方が厄介らしい。
そのため商売や事業で財を成した人は自然と街から一定距離を置く。
この屋敷もそういった事業によって成り立った家だ。
その事業というのが料理開発というもの。
ここには川や森以外にも自前の畑があり、全て料理研究のために使われている。
開発された料理のレシピは街から来た人が高く買い取って行く。
俺が作ったチョコレートのレシピも元を辿ると、ここで生み出されたものという。
そこで今日はこの屋敷を注目してみようという事で観察をしている。
観察を続けているとなかなか興味深い事が分かってくる。
まず、この家の創始者は勇者だった事がわかった。
勇者の持っていたアイテムはあらゆる料理を可能とする料理本。
こういう料理を作りたいと望むとその本にレシピや作り方が画像と書面で分かりやすく記載されるというものだ。
きっとこれを望んだ勇者は食に対して思い入れが強かったんだろうな。
もしくは食によって魔王を懐柔しようと考えたのかもしれない。
結果として屋敷を建てる程になったわけだが、その子孫もなかなか面白い事をしている。
基本的に勇者のアイテムは本人でしか完全に能力を引き出すことは出来ない。
しかし、オアシスの末裔のように一部だけ引き出す事ができる者がいる。
その引き出せる条件が血縁者という部分にこの家の者は気付いた。
そこでこの書を家宝とし、代々血縁者が使用して新たなレシピを生み出す研究をしている。
勇者がこの書で百のレシピを生み出せるとするならば、今の血縁者は十にも満たない量しかこの書から生み出せない。
だが、それで十分なのだ。
今この書は新たな料理を生み出す際のヒント帳としての役割をし、残りの大半は代々培ってきた技術や知識で新たなレシピを生み出している。
ふむ、この屋敷を維持していられるという事は相応の努力を怠っていないという事か。素晴らしい。
とりあえず悪いようには使われてないようだし、この勇者の料理本が朽ちないよう少し神力を補充しといてあげようかな。
「ソウ、ルミナテースから招待状が来ています」
「ん?招待状?」
「なんでも食べてもらいたい料理があるとかで」
「ほう」
と言う事はついに完成したという事かな。
「まったく。ソウを呼びつけるなとあれほど言っておいたはずなのに」
「まぁそう怒るなって。通信装置置かせてもらいに行こうと思っていたところだし、丁度いいじゃないか」
「仕方ありませんね。これで酷いものでも出したらただじゃ済みませんからね」
「ははは」
ま、大丈夫だろう。たぶん。
内心そう思いながらサチの転移に身を任せた。
農園に着くと従業員の子に促されレストランへ入る。
「いらっしゃいませ。ソウ様、サチナリアちゃん」
俺とサチは調理場が最もよく見える席に通され、座ると正装したルミナが丁寧に挨拶してきた。
いつも抱きついてきたり色々してくるルミナが何もしてこない事にサチも何か勘付き、少し緊張しているようだ。
「足を運んでくださりありがとうございます。本日は私が料理を振舞わせていただきます」
「うん。楽しみにしてる」
「ありがとうございます。それでは調理に移らせていただきます」
一礼をして調理場に移動し、着替えて調理に入る。補佐にはユキとリミが付くようだ。
「一体どうしたのでしょうか」
落ち着いてきたところでサチが疑問を口にする。
俺は大体の事を知っているから驚かないが、呼び出されて来てみればいつもと違う待遇を受ければそりゃ驚くわな。
「今日はルミナの挑戦の日なんだろう。付き合ってやってくれ」
「はぁ。挑戦ですか。ソウは何か知っているのですか?」
「少しな。前に相談されたから助言した程度で、今日何が出てくるかとかはさっぱりわからん」
「そうですか。・・・ちょっと不安です」
「ははは。補佐にあの二人が付いているから大丈夫だろう」
サチには笑って見せたが正直俺も少し不安だ。
何せ調理の技量は農園の子達の中でも下から数えた方が圧倒的に早いルミナだ。
一体何を出してくるのだろう。
「いただきます」
俺とサチの前に運ばれてきたのは透明でほんのり薄茶色になったスープだ。
サチがこれだけ?というような困惑した表情をしながら辺りを見回していたが、俺はそれにあえて何も言わず手を合わせてからスプーンを手にする。
それを見て慌ててサチも手を合わせてスプーンを手にした。
これは野菜を煮てエキスを抽出した野菜スープか。よく見ると細かく野菜がスープの中に残っているが、これはこれで美味い。
元々お茶を飲む習慣はあったからか、液体飲料の類の技術は高いようだ。
スープの皿が空になると次の品が運ばれてくる。
次はサラダか。
葉野菜の上には湯通ししてほぐした魚肉の実が乗っている。
その上に何か透明なソースが掛かっているな。なんだろう。
ふむ、リンゴの汁をベースに塩や細かくした胡椒を混ぜたものか。さっぱりしてて美味い。
お、メインが来た。
メインといえばやっぱり肉だよな。うんうん。出来立てで美味そうだ。
ん?おぉ、切ってみてわかったが、香草と肉が何層にも交互に重ねてあるのか。
ふんふん、なるほど。香草の方にだけ味付けがしてあって肉はそのままの味か。
あえて肉に味付けをせず香草に濃い目の味をする事で丁度いいバランスになってる。美味い。
最後に口直しのお茶とシャーベットが来る。
サチとしてはこれがメインなんだろうな。明らかに目の色が違う。
「これは・・・」
口にしたサチが唸る。
シャーベットは仙桃で作られていた。
しかも果汁を凍らせるのではなく、果肉をそのまま凍らせたかのような食感をしている。
それなのに口の中で溶けると果肉は残らず普通のアイスのように液体になる。
凍らせた果物を噛む楽しさと口の中で溶かすアイスの楽しさが両方入り混じったようなシャーベットだ。
これ美味いな。あとで作り方教えてもらおう。
食べ終え、お茶を飲み、一息ついたところでルミナがこちらに来る。
「いかがでしたでしょうか」
「うん。美味しかった。ごちそうさま」
「ありがとうございます。サチナリアちゃんはどうだった?」
「そうですね、一品ずつで見ると若干物足りなさを感じるのですが、全て食べ終えると不思議と満足感が得られました。ソウの入れ知恵はこれですか?」
「ははは、ご名答。だが、このコース料理という手法があることだけ教えて後は何も助言してないぞ」
「そうでしたか。では改めて。ルミナテース、美味しかったです。ご馳走様でした」
「本当!?よかったー!ユキちゃんリミちゃんやったわよー!」
サチの感想を聞いて二人のもとに飛んでいって抱きついている。
「これでサチも呼び方変えないとな」
「え?あぁ、そういえばそんな話していましたね。多分今回は変わらないと思いますよ」
「ん?なんでだ?」
「恐らくこの後の料理教室でわかると思います」
確かにこの後料理教室をする事になっている。
それでわかるとはどういうことだろうか。気になるな。
「では、残念ながら今まで通りルミナテースのままで」
「むー、残念ー」
料理教室が終わり、サチの一言でルミナが残念そうにする。
今回のルミナのコース料理は確かに良い出来だった。
しかしそれの大半はユキ達の助力のおかげであって、コース料理で出したものだけ上手くなっていただけだった。
その後の料理教室でサチがルミナにお題を出したところ、残念な結果に終わったので名前の件は持ち越しとなった。
一応レシピを見ながら作っては貰ったが、分量とかかなりずれてたからなぁ。
コース料理の練習の時もかなり苦労したとこっそりユキとリミが教えてくれたのでこれが本当の今の実力なんだろう。
「そう落ち込むなって。コース料理はちゃんとできたんだし、前より腕は上がってたぞ」
「本当ですか?」
「うん」
その様子を見てサチが何かを思案してからパネルを出して聞いてくる。
「ソウ、例のレシピ集をルミナテースに渡しても良いですか?」
「うん、いいぞ。俺一人じゃ手に余るしな」
「わかりました。ではルミナテース、パネルを」
「うん?わわ、凄い量の情報が」
「ソウの伝手で入手したものです。ここでは作れない物も多く含まれていますが、出来そうな物を選出して今後の料理に役立ててください」
サチがルミナに渡しているのは異世界の神達から貰った料理の情報だ。
この世界では圧倒的に調味料が足りないので作れるものは限られてくるとは思うが、それでも無いよりはいい。
それにユキ達と共有してくれれば俺には無い発想も生まれてくるかもしれないしな。
「ありがとう、サチナリアちゃん」
「い、一応料理の上達は見られましたし、何も返礼が無いのもよくないと思っただけです」
「うん、ありがとうー」
素直に感謝されるとサチは照れるんだよな。可愛い。
「あと、この通信装置を設置しておいてください」
「あら、懐かしい」
「知っているのですか?」
「ん?ちょっとねー。これを置いておけばいいのね」
「はい、緊急用としてですが、お願いします」
「了解ー」
こういうやり取りを見ると普通に友人関係のように見えるんだけどな。
帰宅して風呂に入りながらサチに質問してみる。
「そんなにルミナって呼ぶのに抵抗あるのか?」
「うーん、抵抗あるというか、なんというか、まだそう呼んではいけないという気がしまして」
「ほう」
「まだまだ農園関連は発展途上ですから。主神補佐官としてそう易々と認めるわけにはいかないのです」
「サチ個人としては?」
「う・・・。何か負けた気がするので、まだちょっと・・・」
「ははは、そうか。それじゃしょうがないな」
「いえ、違うのです。ソウ、聞いてください」
はいはい、波立てなくても聞くから。
「あのですね、ソウに遠く及ばない状態なのに認めるわけいかないではないですか。それに彼女は元警備隊なので何か身近な目標を設けておいた方がいいと思うのですよ」
「うんうん。サチは優しいな」
「ちがっ、そうではなくてですね!」
「うんうん」
その後もしばらくサチの言い訳、じゃない、認めない理由を聞かせてもらった。
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