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採掘師の秘密

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下界の北の領で商会による採掘活動が始まった。

手始めに向かったのは街から比較的近い廃坑。

廃坑と言っても人手不足で放棄していただけなので、採掘し終えている場所ではないようだ。

まず冒険者が先行して侵入。廃坑内の安全確保を行う。

このような洞窟には人の出入りがなくなると直ぐにねぐらにする生物が入り込む。

冒険者達はそういう生物から坑夫を守るのが仕事だ。

現場監督は元々この地で坑夫をしていたベテランの親父さん。最近信者になった人だ。

他にも坑夫の多くが信者になっている。

信者になった経緯は街を出る前に行商人の兄妹が行った儀式にある。

彼らは壷に棒を入れてそれに火をくべて祈るという儀式を行った。

この儀式は森の村の作法だ。

彼らはそれを直接は見ていないが、彼らの師である商人とその嫁は知っている。

それを口伝えに知り、実行したのだ。

この儀式を見たときなんともいえない不思議な感覚を感じた。

縁というのかそういう因果めいたものというものだろうか。

人との繋がりというのは本当はこういうものなのかもしれない。

兄妹が願った事は安全祈願と事業成就。ちゃんとこっちに届いたのも確認した。

そんな兄妹だが、行商人であるものの商会から客人として扱われているので採掘に参加する労働者達からすれば上の存在だ。

その上の人がこのような儀式をしたら倣うのが人の心。

見様見真似で祈るだけではあったが、それでも信者になるには十分な行為だった。

そんなわけで信者達の様子を見守りつつ今後は北の領の様子を観察できるようになった。

また、ここに来ている多くの人は月光族の港町から来ている人なので、定期的に港町に帰る事で視野範囲の持続更新に繋がると淡い期待もしていたりする。

なんであれ安全祈願をされた手前、ちゃんと見守らねばな。



「そういえばこっちにも採掘師がいるよな」

「えぇ」

「どういう人なんだ?」

「基本的に精霊石を探す人ですね。精霊とある程度意思疎通が出来るのも彼らのおかげなのですよ」

「そうなのか。身振り手振りの様子を見てなんとなくはわかるが正確にはわからんもんなぁ」

「えぇ、まぁ、はい」

サチが答えに困ったような感じで雑な相槌をする。

「なんだ?」

「いえ、その、普通ならパネルなどを利用して通訳するものなのですが、ソウがなんとなくでも理解できている事に改めて実は凄い事なのではないかと思いまして」

「そうなのか?水の精とか言葉も発してるぞ?」

「彼女達が一番人懐っこいですからね。我々の影響を受けて声を発するようになったらしいですよ」

「へー。じゃあそのうち風の精や地の精もそのうち水の精みたいになるかもしれないのか」

「可能性はあると思います。地の精はあのままの方がいい気もしますが」

「ははは。確かに」

あのキュッキュ言う姿は可愛いからな。

「あ、丁度今日は採掘師の方が在宅ですね。少し話を聞きに行って見ますか?」

「いいのか?そんな突然行っても」

「少々お待ちください。・・・条件付きで承諾が取れました」

「条件?」

「今の生活を害さないで欲しい、という内容です」

「ふむ。少し気になるな。何か協力出来る事があるかもしれないから行ってみよう」

「わかりました」



近くまで転移で移動してからさらに飛ぶこと少し。

家の裏手に大きな池のある島に到着した。

「まるで水の島のようなところだな」

「そうですね。基本的に島を所有する際に造島師の手が入りますが、この島はその造島師らしさが失われているように感じます」

ふむ、その辺りも先程の条件とやらと関係があるのだろうか。

家の前までたどり着き、戸を軽く叩く。

するとしばらくした後に戸がゆっくりと少しだけ開く。

「・・・」

「こんにちは、ナルテルトスさん」

「・・・どうも」

扉の隙間から会釈する男。なんか警戒されてるな。

「突然の訪問の承諾ありがとうございます。こちらが主神のソウです」

「よろしく」

「・・・どうも」

うーん、やっぱりなんか警戒されてるな。

どうやって接しようかと思っていたら家の中から声が聞こえてきた。

「ナルー?神様きたー?」

「あ、ちょっと」

「あ、神様きてるー。挨拶はこんにちはーでいいんだっけ?」

ナルテルトスの下から俺とサチを確認したその者は扉を開けて挨拶してきた。

「・・・水の精?」

「そだよー。あたしメルテーリオっていうの。よろしくね、神様」

家の中から俺達を歓迎してくれたのは水の精だった。

「・・・これは一体どういう事ですか?」

「・・・」

サチが訝しげな表情で聞くとナルテルトスは答えを考えているのか悩んでいるのか黙る。

「えっとね、あたしがナルんちに押しかけたの」

代わりにメルテーリオが答える。

「押しかけた?」

「うん。あ、えっとなんだっけ、たちばなしもなんだからあがってく?だっけ。家の中入る?そっちでお話しよ?」

「お邪魔してもいいのか?」

「・・・そうですね、少し変わった家ですが、どうぞお入りください」

「じゃあ折角なので・・・お、おぉ・・・」

歩みを進めて家に入ろうとすると足が止まる。

家の中が水浸しになっていた。

ナルテルトスはそんな膝上ほどの水位の中をザバザバと進んで行く。

サチは水面ギリギリの高さを浮いて入っていった。

「・・・よし。それじゃお邪魔します」

俺はナルテルトスに倣って足を水に浸けて入った。家の中の水とあって程よく冷たい。

「・・・え?」

その様子を見たナルテルトスが振り返って少し驚いた様子を見せている。

「と、飛ばないのですか?」

「ん?家人が歩いてるんだからそれに倣った方がいいだろう。サチは水が少し苦手だから許してくれ」

「すみません」

「い、いえ・・・」

サチは俺が水の中に入る事に対して一切何も言わなかった。

俺が水に足を入れた瞬間、あーやっぱりな、みたいな顔はしていたが。理解のある補佐官様だ。

家の中を見渡すと家具のほとんどが石で出来ている。

木じゃ浮いてしまうからな。椅子なんかも石だ。

そんな椅子が並んで話せそうなところまで移動し、腰掛ける。

「お茶でーす」

「おぉ。ありがとう」

座ると同時にメルテーリオがお茶を持ってきた。さすが水の精、素早い。

落ち着いたところでサチが話を切り出す。

「まさか水の精と住んでいるとは思いませんでした」

「・・・」

サチもそこまで知らなかったようで、このことについて聞きたいらしい。

「ナル。大丈夫」

「・・・わかりました」

メルテーリオに後押しされて少しずつ経緯を話してくれた。

採掘師の彼はある時大きな精霊石を見つけた。

彼のそれまでの経歴の中でかつて無い程見事な精霊石で、見惚れてしまい何度も足を運んで眺めていた。

するとある日、中から人と同じぐらいの水の精が出てきた。

元々人懐っこい事もあってか、その水の精と彼は度々会うようになった。

そしてある時彼は決断し、島と家を改造。精霊石ごと彼女を迎え入れる事にした。

「・・・それは」

「サチ」

「・・・すみません」

「続けてくれ」

「はい」

家に精霊石を運び込むとあっという間に家の中は今のような水浸しの状態になった。

しかしその事も彼は織り込み済みで、家の中も不便無くその水の精が生活できる状態にしてあった。

そしてその水の精は次第に彼の言葉を口にするようになり、話せるようになった。

彼女の希望で考えたメルテーリオという名前を名付け、人目には余り見せないように生活して来たらしい。

「それで今日、サチナリア様から連絡があってどうしようかとメルに相談したら、来て貰えと」

「うんうん」

「なるほど。どうして来て貰おうと思ったんだ?」

「えっとね、神様はいい人ってお友達から聞いてたから、きっとナルの力になってくれると思ったの!」

「お友達?」

「最近お引越しした子だよ。水の一杯ある島にいる」

「あぁ、あそこの子か」

「うんうん」

以前俺が召喚した水の島で出会った水の精の母の事だ。

そうか、なるほど。

「大体わかった。確か精霊石は精霊が入っている状態では持ち出し禁止にしてたんだよな?」

「そうです」

サチがさっき話の途中で指摘しようとして俺が止めたところがこれだ。

「ナルテルトス。一つだけ質問していいか?」

「・・・なんですか?」

「彼女の事どう思ってる?」

「・・・大切な人です。共に生きたい人です」

「メルテーリオは?」

「好き!!」

「・・・そうか。サチ」

「ではナルテルトスさんの家にある精霊石は水の精の承諾を得て引越ししたものと記録させていただきます」

それを聞いてナルテルトスの目が見開かれる。

「っ!!それって!」

「持ち出したんじゃなくて引越しならなんら問題ないだろ」

「あ、ありがとうございます!」

「えへへ、やったねナル!神様ありがとう!」

「どうしたしまして」

嬉しそうに手を繋いで喜ぶ二人に俺もサチもなんだか頬が緩む。

「さて、問題も解決した事だし、採掘師や精霊について色々と聞かせてくれよ。今日は来たのはその話が聞きたかったからだし」

「お任せください!」

最初に会った時の暗い感じは全く感じられなくなった。

その後、採掘師について話を聞いていたのだが。

「うちのメルはですね、凄いんですよ」

「もー、ナルってばー」

途中から惚気に変わってしまった。

ま、俺もサチもそういう話は嫌いじゃないから楽しそうに聞いたけどね。



「水の精と同棲かー」

布団の上で寝転がりながら今日の事を振り返る。

「仲睦まじかったですね」

「そうだな。アストとクリエのところとはまたちょっと違う初々しい感じがあったな」

「そうですね」

「俺達は他からどんな風に見られているんだろうなぁ」

「どうなのでしょうね」

「俺達もあんな感じにやる?」

「いえ。結構です。人前でするのは恥ずかしいです」

「ははは。俺もだ」

二人だけの時ならいいらしい。

今日はあの二人に当てられたし、たっぷりイチャつくとしよう。
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